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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 同時刻 イルミンスールの森 北側方面
 
 長距離狙撃を終えたばかりの“ヴルカーン”bisを遠くから観察する者が二人。
 一人は年若い少女。
 迷彩塗装を施したイコン――グリフィズ・エクトゥスのコクピットに身を潜め、ただひたすらに狙撃のチャンスを窺う。
 名はローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)
 教導団が誇るスナイパーにして、かつて最初に確認された“ヴルカーン”タイプと戦い、これを撃破したイコンパイロットだ。
 そしてもう一人はその相棒。
 同じくかつて最初に確認された“ヴルカーン”タイプと戦い、これを撃破したイコンパイロット。
 ――フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)
 
 今、グリフィズ・エクトゥスはその機体を肩から下まで沈めている。
 また、水面に露出している部分には泥を塗ったり木の枝を貼り付けていた。
 電波・熱感知を無効化させる為の作戦だ。
 その上、機体の電源まで落としている。
 万に一つも探知されるわけにはいかない――すべてはその為の防護策だ。
 
 ローザの耳でインカムが観測手の声を鳴らす。
 既に四人の観測手をローザは待機させていた。
「Copy it――」
 通信に応答し、ローザは機体の電源を入れた。
 狙撃地点四か所に配置した観測手からの情報を基に、ローザマリアは操縦桿のトリガーに指をかける。
 既にモニターには“ヴルカーン”bisの姿が映し出されている。
 続いてローザマリアは画面に表示された十字線(レティクル)を“ヴルカーン”bisの背面に重ねた。
 狙うは一ヶ所――“ヴルカーン”bisに地上を走行させる為には邪魔な背中の推進装置。
 この狙撃は、彼女が立てた作戦のほんの第一段階に過ぎない。
 だが、この狙撃の成功なくしては第二、第三の段階はあり得ないのだ。

 まずは“ヴルカーン”bisに地上を走行させる。
 その為にはフライトユニットを破壊する必要があるのだった。
 そして、その時はやって来た――。
 
「Krajcar 3:16 says,I just whooped your Nuts!(クライツァール伝3章16節曰く――あんたのタマをブッ潰せってね!)」
 コクピットの中で言い放ち、ローザマリアはトリガーにかけた指に力を込めた。
 その瞬間、グリフィズ・エクトゥスが構えるウィッチクラフトライフルが魔力の弾丸を発射する。
 望遠映像でローザマリアが見守る中、モニターの中で魔力の弾丸は“ヴルカーン”bisの推進装置に命中した。

(この狙撃がメッセージになればBisは誘いに乗って来る筈)
 胸中に呟くローザマリア。
 グリフィズ・エクトゥスはイコンホースを改造したモジュール――ドーントレスと分離し、それを別の方向へと自動操縦で進ませる。
 これでいくらか“ヴルカーン”bisの熱感知センサーを攪乱できるかもしれない。
 並行してローザマリアはグリフィズ・エクトゥスをしゃがませた。
 そのまま彼女は機体を、森の中を木々よりも姿勢を低くして移動させる。