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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

リアクション

 
 同時刻 イルミンスール魔法学校 校長室
 
「大ババ様、ご無事で何よりです!」
「うむ。ザカコ達のおかけじゃ。大儀であったぞ」
 校長室へと入り、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の姿を見るなりザカコは駆けだした。
 玄白と結和による処置のおかげで回復したザカコ。
 彼は意識を取り戻すなり、まだ本調子ではない身体をおしての元へと駆けつけていた。
 しかし、未だダメージの残る身体。
 駆け寄ろうとするも途中でよろけ、あわや転倒という所でザカコは結和に支えられる。
「まだ意識が戻ったばかりなんですよ。それに、そもそも病み上がりなんですから無茶しないでください」
 結和に窘められるザカコ。
 それを見て安堵したように微笑みながら、アーデルハイトは自らザカコへと歩み寄る。
 
「おまえこそ無事で何よりじゃ。改めて申すぞ――大儀であった」
 ザカコに労いの言葉をかけるアーデルハイト。
 そのまま彼女は結和に向き直る。
「結和、おまえも実に大儀であった。あの艦――迅竜に乗艦してからのおまえの活躍、イルミンスールの者として鼻が高いぞ」
 
 続いてアーデルハイトは、ザカコと結和の後ろに控える者達へと歩み寄った。
 ザカコや結和の仲間達、彼等と同じくイルミンスールの学生である歌菜や遠近。
 そして、教師であるシャレン達だ。
 
「歌菜、羽純、遠近、ユーリカ、イグナ、アルティア、シャレン、鬼麿――」
 アーデルハイトは歌菜達の前に立つと、居住まいを正す。
「――よくぞこの学校を守り抜いてくれた。礼を申すぞ」
 イルミンスールを守る為、果敢にも立ち向かった学生達。
 その一人一人をしっかりと見据え、アーデルハイトは労いの言葉をかける。
 
 厳かな空気のまま、しばし訪れる沈黙。
 そんな中、ザカコが口火を切った。
 
「大ババ様、実は……」
 するとアーデルハイトは柔らかく微笑んだ。
「わかっておる。行きたいというのだろう? あの艦とともに」
 ザカコの気持ちを察し、問いかけるアーデルハイト。
 一方のザカコは神妙な面持ちで頷くだけだ。
 
「行ってこい」
 再びザカコへと歩み寄ると、アーデルハイトは彼の背を叩く。
「大ババ様……」
 まだ躊躇いの色が表情に見え隠れするザカコ。
 彼を安心させるように、アーデルハイトは再び柔らかく微笑んでみせる。
「この事態に際してな、修行なり研究なりでシャンバラ中に散っておった古参の学生共を呼び戻すよう便りを出しておいた。もうじき集結し終えることじゃろう。いずれも経験を積んだ練達の者ぞ。ゆえに、この学校も大丈夫じゃ。それよりも――」
 
 そこで一旦の間を置くと、アーデルハイトはザカコから目を移す。
 結和、歌菜、遠近、シャレンの順に見つめると、アーデルハイトはゆっくりと告げる。
 
「――今はイルミンスールだけではなく九校連。ひいてはシャンバラ全体の護りが先じゃ。それに、もはや我等イルミンスールの者も無関係とは言っておられん状況じゃしな。更に言えば、一度助けられた以上、我等としても戦力を出さんわけにもいくまい」
 
 もう一度、ザカコから順繰りに学生達を見渡すアーデルハイト。

「なにもザカコだけではない。他の者もあの艦に乗って構わんぞ。その為に、かの者を呼んである――」
 
 そう告げるアーデルハイト。
 するとタイミング良く校長室のドアが開く。
 
「高速飛空戦艦迅竜艦長ルカルカ・ルー大尉。ご要請に応じ、参上致しました」
 入室するなり、アーデルハイトに最敬礼するルカルカ。
 
「うむ。此度の助太刀、誠に感謝じゃ。改めて礼を申すぞ」
 最敬礼の姿勢を崩さず、ルカルカは答えた。
「九校連共通の敵から人々を守る為の迅竜。そして私はその艦長。ともに当然の責務を果たしたまでです」
 
 答礼するように深く、ゆっくりと頷くアーデルハイト。
 
「見上げたものじゃ。ならば艦長、この者達を頼む」
 アーデルハイトはザカコ達を目で示す。
「了解しました」
 ルカルカが答えるのを待ち、アーデルハイトは更に続ける。
「それと、この者達も同行させたい。よいかのう? ――入るのじゃ」
 ドアの向こうに向けてアーデルハイトが声をかけた。
 ややあって、少年や少女のものと思しき返事が幾つか聞こえてくる。
 
 入ってきたのはやはり合計十人の少年少女達だった。
 イルミンスール魔法学校の制服を着ているあたり、ザカコや結和と同じ身分なのだろう。
 
「君達はさっきの」
 彼等が何者であるか、ザカコはいち早く気付いたようだった。
 それに応じ、少年の一人が姿勢を正して頭を下げる。
 
「ありがとうございました! 俺達が助かったのも……先輩が助けに来てくれたおかげです!」
 次いで残りの少年少女達も頭を下げる。
 今度は少女の一人が口を開いた。
 
「だから……わたし達も連れていってください。先輩の……お役に立ちたいんです」
 少女は一生懸命に頼み込む。
 
 その様子を傍で見つめ、ルカルカはアーデルハイトに問いかけた。
「彼等は?」
「うむ。防衛に出ておったアルマイン隊の面々じゃ。既に古参の学生達を呼び戻しておるでな。ここの防備は何とかなろう。ゆえに、かの者達も同行させ、経験を積ませてやってはくれないか。何より、かの者達が自らの意思で行きたいと申しておる」
 アーデルハイトの頼みに、ルカルカは最敬礼で答えた。
 
「迅竜艦長、ルカルカ・ルー。謹んでお受け致します」
「礼を申すぞ。そうそう――」
 ふと思い出したようにアーデルハイトは言う。
「教導団の艦たる迅竜。そこに我等イルミンスールの者も正式な形で乗り込むことになった以上、何と呼べばよいかのう? 教導団の部隊という名前でもわからなくはないが、やはり呼び名は大切じゃ」
 しばし考えた後、ルカルカは答えた。
「――“迅竜機甲師団”。これより私達はそう名乗りましょう」
 少しの間を置き、ルカルカは更に続けた。
「どこの学校地域の危機であろうと……私ルカルカ・ルー、そして迅竜という艦に集ったクルー達が護りに行くことに変わりはありません。そして、迅竜はこれより攻めに転じます。襲われるのを待つだけでなく積極的に護る戦いへと。だからこそ迅竜という船は教導団だけではなく、シャンバラ全体の守護艦であってほしい」
 そこまで語り、ルカルカは高らかに宣言する。
「ゆえに“迅竜機甲師団”。教導団としてではなく、迅竜という勢力の有する機甲師団として私達は戦います」