リアクション
◆ 「いらっしゃいませ。二名様ですね? ご案内致します」 接客担当のエースが、空京たいむちゃんの服装とうさ耳をつけて出迎えた。店内にはわたげうさぎが放し飼いにされており、奥にはうさぎと自由に触れあえるようなスペースが設けられている。 「それにしても人が多いな……。それだけ皆祭りが好きなのか」 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はコーヒーをすすりながら、相手を求めてるっつーことなのかもしれねぇな……と呟いた。このカフェでも、店内にころころと転がっている白い毛玉――わたげうさぎをもふもふしているカップルの姿が散見される。 「大変賑やかですが、随分とその……男女が多いのですね?」 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がぽやっとした表情で、わたげうさぎたちを眺めながら訊ねた。 「っと、フレイにはまだ祭りの説明してなかったな。この卯月祭っつーのは、婚活に使われてるみてぇだぞ」 「婚、か……?!」 この祭りの意味を知った瞬間、フレイがピシッと固まった。 「きっと、結婚に向けてお互いの意思を確認するちょうど良い機会なんだろうな。こうしたイベントは距離を縮めるのに格好の機会だから――って、おい?」 「結婚……」 ぷしゅー、と頭から蒸気を吹き上げる勢いで赤面するフレイ。耳と尻尾をへたらせて、もはや耳と尻尾まで真っ赤になりそうな勢いである。 「マ、マスター、そんな、早いですよ……」 「早い、って言われるだろうな、とは思ってたよ。でも、フレイ、18だろ? 日本じゃ、女の人は16で結婚できるんだ」 「16で……」 フレイは結婚、ということを再度意識したのか、また頬をぼっと赤らめた。 「ああ。未成年でも、親の同意があれば結婚ができるようになっているんだ。だから、今の俺たちでも――」 「親――!?」 ベルクの口から「親」という単語が出た途端、今度は一気にフレイの顔が青ざめた。フレイにとって、里に居る母親は畏怖の対象だ。「優秀な成績で明倫館を卒業すれば自由にしていい」という約束が、フレイの心を支配していた。 「なあ、フレイ。――その、俺と一緒にいてくれるか? これからもずっと……」 「……親の許可……」 ベルクの言葉は耳に届いているのだろうが、フレイは混乱してしまっており、最早受け答えが出来る状態ではない。 僅かにこくんと頷いてはいるのだが、さてどうしたものか――、とベルクが頭を抱えた瞬間、 「コーヒーのお替わりはいかがですか?」 と、エースが二人のテーブルに立ち寄った。ベルクが二杯目のコーヒーを受け取ると、 「それから、お二人にサービスです。ごゆっくりどうぞ」 と言って、エースはウサギの砂糖菓子が乗った小さなハート形のケーキを差し出した。 「か、可愛くて美味しそうですね」 可愛いケーキを見てほんの少し心が落ち着いたのか、フレイは目を輝かせてケーキを見つめた。 「マスター! これ、美味しいです!」 垂れていた耳をピンと立たせ、尻尾をぶんぶんと振るフレイ。 「……なあ、フレイ」 そんなフレイを見て、ベルクはもう一度真剣な眼差しを向ける。 「恋人じゃなくて、家族としても、俺と一緒にいてくれないか……?」 「はい。美味しいです……!」 フレイにベルクの真意が伝わっているのかどうか。これからもベルクの苦労は絶えないようである。 |
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