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終章2 「もうあの丘には帰らない」

 黄昏時。ゆる族ワークショップから2日後のことである。
 魔鎧探偵キオネ・ラクナゲンの事務所は薄暗く――電灯が1個切れているためだったりする――窓の外からは1階の『ぽかぽっか弁当』のタイムサービスを道行く人に宣伝する声が聞こえてくる。

「――つまり、着ぐるみ型魔鎧は存在しました。ですが、ヒエロ・ギネリアンのものではありませんでした。
 ちなみにその魔鎧は、空京警察がマークしている『コクビャク』という反社会集団に属するもので、逮捕されていきました。ので、連れてくるわけにはいきませんでした」

 キオネは、約束通りの刻限に現れた依頼主のウルテに椅子をすすめ、依頼の結果を説明していた。
「それがヒエロ作だという噂が立ったのは、ヒエロの作風に似せて造られたものだったからでしょう。
 ヒエロの作品に『サイレント・アモルファス』という魔鎧があります。
 別名を『百の形態を持つ魔鎧』といい、…まぁ百という数は誇張でしょうが、軽鎧からフルアーマータイプの重鎧まで様々に姿を変えます」
「『炎華氷玲シリーズ』の一体ですな」
 椅子を勧められたのに、ウルテは立ったままで話を聞いている。
「えぇ。今回の着ぐるみ型魔鎧はそのサイレント・アモルファスの、最も覆身面積の多い形態に形が酷似していました。
 もっともデザインは、ゆる族に似せるために、動物っぽくデフォルメはしていましたがね。
 炎華氷玲シリーズは概して発表後その情報は少ないですが、その中でサイレント・アモルファスは辛うじてこの形態が一番知られているようです。
 おそらく、スカシェン・キーディソンの作でしょう」
「スカシェン……?」
「あなたの主という方からこの名を聞いたことはありませんか?」
「? え、ええ……」
「あなたの主のような、著名な魔鎧職人の魔鎧をコレクションすることを趣味としている蒐集家を相手に、贋作を造って売りつける職人の一人です。
 おそらくヒエロの贋作にかけては当代一でしょう。一時期ヒエロの工房にいたこともあって、作風を大分把握しています」
 そこまで言って、キオネは急に口をつぐむと、静かな、しかし突き上げるような力を込めた視線を依頼人に向けた。

「――残念ですか?」

「えぇ、ヒエロ作の稀少な着ぐるみ型魔鎧などなかったと……我が主は残念がるでしょう」
「そうじゃないですよね」
「……? 何が、です?」

「分かりますよ。あなたが誰かに使えている人間だなんていうのも嘘だ。
 これでもいろんな人を見てきているんでね。『主』を持つ人間の物腰くらいは見ていてわかりますよ」
 キオネの口調はいつになく鋭かった。
「当然、稀少魔鎧コレクターの主なんて存在しない。
 本当のコレクターが、スカシェンの名も知らないなんてありえない。近年一番警戒する名前だ」


「あなたは最初から知っていたのではないですか? 
 あのワークショップには波乱があると――コクビャクという組織が潜んでいるということを」
 依頼主の眉が微かに動いた。だが、何も言わなかった。

「あなたの真の狙いは、ヒエロ作の魔鎧を探し出し、入手することじゃない。
 それならもっと他にやりようもあるはずだし、身分を偽って俺に依頼する必要もない。
 じゃあ何が目的なのか? ――情けない話だが、俺にはそれが分からない。
 調べる中で明らかになるだろう、コクビャクの活動を衆人の目に晒すことか?
 それとも俺が真贋を見極めそこなうことを期待して、ヒエロがコクビャクに加担しているという噂を流したかったのか!?」

 強くなる語勢を受けてもなお、依頼人は平然と立っていた。
 そして、キオネが口をつぐむと、おもむろに変わって口を開いた。
「それを答えろというのなら、まずこちらの問いに答えていただきましょうか」
「?」
「あなたは何故、まだその名を使っているのですか? キオネ・ラクナゲン」
「な……っ?」
「大昔のことだからもう、誰も覚えていないと……記録も残っていないとお考えなのか」

 キオネは愕然として、依頼人を凝視した。
 椅子に座りながらもマントを羽織ったままの依頼人は、口だけで不敵に笑った。

「私は知りたいのですよ。あなたはまだ、いつか彼女と共にあの丘に帰ってくるつもりがあるのかと」


 黄昏の闇の色が、部屋の中で深くなった。

「……答えては貰えないようですね、では」
「誰が」
「?」
「誰があの丘に、二度と帰るものか……!」

 キオネの握った拳の中には爪が突き刺さり、血の気を失いながら震えていた。

 マントの男が笑う。
「それは賢明な判断です。では。……あぁ、依頼料は追ってお送りさせていただきます」


 男の姿は掻き消える。
 どこかから送り込まれた3D幻像。それは椅子を勧めた時から、薄々見当がついていた。





「タイムセールでーす。幕の内弁当、この時間半額でセールしておりまーす……」
 窓の外から、綾遠 卯雪の声が聞こえてくる。
 キオネは部屋の中で、慄然として立ち尽くしていた。


担当マスターより

▼担当マスター

YAM

▼マスターコメント

参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
最後には何だか団子状態になってしまって、わちゃわちゃしてしまいましたね。読みにくいと思います。申し訳ありません。

何名かの方は予想していらしたようですが、はい、コクビャクを巡る物語の始まりです。
次回は、うちの魔道書NPCの方がこのテーマにアプローチすることになるかもしれません。
予定は未定ですが。
あ、今回出てきた弁当屋のバイト少女・綾遠 卯雪も、またどこかで出てくることになると思います。

一部の方々に称号を贈らせていただきます。ほとんどが今回のシナリオでの行動記録ですが、ご笑納下さい。
それでは、またお会いできれば幸いです。ありがとうございました。