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リアクション
いつの間にか、フィッツと詩穂が居た舞台は下がったか何かで消えており、代わりに巨大な寸胴が三つ置いてある舞台へと変わっていた。
新しい舞台には、深澄 桜華(みすみ・おうか)とネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)、舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)に神崎 優(かんざき・ゆう)や神崎 零(かんざき・れい)、神代 聖夜(かみしろ・せいや)、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が立っていた。
「新しい料理人達は大勢ですねー。最初は……深澄さんですね。貴方は何の料理を作ったんですか?」
「わしが作ったのはシチューじゃ。持ち込みの材料は、スッポンエキスとマムシの生き血とナニカの肝。後、秘密の隠し味を入れておるのじゃ」
そう言うと、桜華はシチュー皿にシチューを並々と注ぎ始めた。
「シチューですか。見た目は普通においしそう……ですね」
「わしは味が怖いし、寸胴も一つしか借りられなかったのでな。皆一緒に実験台になっておくれ」
それぞれに置かれたシチューは、クリームシチューのような見た目だ。
「……味が怖い隠し味ってなんだろう」
三月がスープスプーンでシチューをすくってまじまじと見つめる。
「おおっと、杜守選手、口を付けるのは他の料理が出揃ってからでお願いいたします」
「ごめんなさい」
三月は、松崎に注意され持っていたスープスプーンから手を離した。
「お次は……」
どちらからインタビューしようか、松崎が迷っていると、ネージュが元気よく手を上げた。
「はいはい! あたしのチームは、マイナちゃんと一緒にカレーを作りました」
「げっ! 俺達もカレーだ。ここで被るとは……」
ネージュの言葉に、聖夜が一瞬嫌な顔をした。
「どうやら、ネージュチームと神崎チームは同じカレーを作って来た。とのことです。これはどちらに軍配が上がるのか楽しみですね!」
テーブルに置かれた二つのカレーは、二つ共に見た目は普通のカレーである。
「パラミタブートアップジョロキア濃縮エキスから抽出した純カプサイシンと、スコヴィルを誇るZHR(ざんすか・ヘヴィ・ラリアット)種を5キログラム分、それとナラクオオハバネロを石臼で挽いたペーストと混ぜて香草類とともにベースのカレーへドバっと入れたのが隠し味なのですぅ〜」
なんだかよく判らないが、聞くからに辛そうな香辛料の羅列を聞いて、ごくり。と三月の喉が鳴った。
「なんだか全身が火だるまになりそうなイメージがありますね。さて、二番目のカレーを作った神崎さん、あなたは何か隠し味のような物は入れましたか?」
松崎から急に振られて、優は視線を逸らした。
「えっと……ですね。それが……」
優の代わりに解説をし始めた零は、直前に起きた事件を説明し始めた。
最初はアッシュ達と偽アッシュ用に分けてカレーを作っていたのだが、舞台に上がる直前に未来と言う子がやって来て、分けていたカレーを二つに混ぜてしまったとの事だった。
「あたしの事言ってるー」
あはは。と笑いながら当事者の未来は言った。
「なんで二つを混ぜたの?」
「だって、偽アッシュじゃない、チャンピオン・アッシュと他の人の出す料理が別々って不公平じゃない。せっかくの大食い料理なんだし、一緒の料理を出さないと」
未来の言葉に咲耶は「……そうね」と言っただけだった。
「私も止めたのですが、少し遅かったのです」
刹那が肩を落としながらも悔しそうに言う。
「そ……それは大変でしたね。それではカレーをお出しください」
松崎からのフォローは何もなかった。
優達は手分けをしてカレーを盛りつけると、テーブルへと置いて行った。
「スープ……とカレーですが、各自のテーブルに出揃ったようです」
「では……シチューから」
三月は、先ほど手に取っていたスープスプーンを手に取るとシチューを一口飲んだ。
「………?」
眉をひそめながらシチューを食べて行く。と、ぽたりと小さな赤い水滴がシチュー皿の淵へと落ちる。
あれ? と思いながら、ハンカチを取り出し鼻を拭く。ハンカチが血で染まり始めたのを見て三月は顔を上げ、周りを見渡した。
皆鼻血を出しながら、シチューを食べていたのだ。
「あー、皆精力が効きすぎたようじゃの……」
「三月ちゃん、海くん大丈夫?」
九人の様子にのんびりと感想を言った桜華に対して、杜守 柚(ともり・ゆず)が三月と海に【歴戦の回復術】を掛けようと二人に近づいたのだが……
「な……これは」
そう海が呟いた瞬間、七人の上半身の服が包装紙のようにバラバラに破れ、ムキムキの肉体が露わになったのである。
ボディービルダーのようになった三月と海を見て、柚は悲鳴を上げながらテントへと戻って行った。
「おお。隠し味が効いたようじゃの」
どうやら、同時に内臓も強力に変化したようで、七人の食べるスピードが格段に上がる。
「隠し味とは?」
「それはルイの出汁を使ったのじゃ。だからわしは味見が出来ない。と最初に言ったじゃろう」
「それで……そのルイさんと言う人は、今日は会場には?」
松崎の言葉に、桜華は首を傾げる。
「はぁ……たまにはいいですね。熱湯我慢」
ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、学園内の空き地でドラム缶で造られた五右衛門風呂に入りながら、青空を見つめていた。
偽アッシュは、カレー二種をすでに食べきったようで、シチューへと手を伸ばそうとしていた。だが、その手はシチュー皿では無く先ほどのくっついたスパゲティへと延びる。
取っておいたスパゲティの皿を引き寄せると、偽アッシュはシチューの皿に迷いなく山になったスパゲティを突っ込ませたのだ。
「!?」
それを見た、アッシュとマイトは食べ掛けになっていたスパゲティをシチューでは無く神崎達が作ったカレーへと入れて食べ始めた。
偽アッシュはシチュースパゲティ、アッシュとマイトはカレースパゲティを食べきったのである。
唐突にスプーンが床に落ちる音が聞こえると、何かが倒れる音が続き会場が一瞬にして静まり返る。
ハーティオンが突然アッシュの方を向き、ニコッと笑った後椅子ごと後ろへと倒れ、それと同時にべアードも「ぱたり……」という効果音を出しながら倒れたのだ。
「おおっと!! ここで初めてのリタイア者が出ました。ええっとハーティオンさん遺書はありますでしょうか?」
松崎は、倒れたハーティオンに向けてマイクを近づけた。
「アッシ『ェ』……残念だが、私はここで脱落する。私達の屍を越えて行くのだ!!」
「ガンバレ マケタラ ミミモトデ 『ロリコンドモメ』トイウ ノロイヲ カケルゾ!」
「どうやら、遺書は持参して居ないようです。残念ですね」
ハーティオンを除いた七名で試合は続いて行くのだった。
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