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【原色の海】アスクレピオスの蛇(第3回/全4回)

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【原色の海】アスクレピオスの蛇(第3回/全4回)

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 さて甲板の上では、残骸の島の周囲における攪乱と砲撃と同時に、監視が行われていた。ひときわ高いマストに絡まっているあの“ウロボロスの抜け殻”――闇龍と同質と思われる海蛇の動向の監視である。
 彼だか彼女だかは、自分の眼下(目が目として機能していればの話だが)で行われている一連の出来事に対して興味を示していなかったのか、しばらくの間全く動きを見せなかった。
 しかし島が空中機雷に衝突し、連続して煙を上げると、その鎌首をもたげた。
 ルカルカはこれを見逃さず――というより、待っているように見えた――立ち上がると、カリスマウィングをその背中に展開した。
「私の出番ね」
 両手に握りしめた冥府の鎌に、融合機晶石【ライトニングイエロー】を取り込んだ上で“雷術”で帯電させる。
 彼女は既に自身を強化するアミュレットと腕輪を身に着けており、彼女が体得した“超加速”で、空へと舞い上がった。
 小型飛空艇など軽く引き離すほどの速度で空を一直線に飛ぶと、海蛇の喉元に光の刃――“我は射す光の閃刃”を放った。
 敵、と認識したのだろう。海蛇の頭部らしきものが彼女を見定める。と、思ったかと思うと、彼女は鎌の切っ先を頭部に突き立てた。
「私の前に立つなんて、御馬鹿さん」
(ふるい落とされないよう、突き立てて、雷術を直接脳髄に叩き込み、龍の喉をかっ捌く!)
 ルカルカは両手に思いきり力を込める――が。
 手ごたえはない。
 いや、あった。突き立てると同時に放った雷術は海蛇の霧のような黒の中に放たれ、だが、突き立てられなかった。
 ルカルカは体を横に回転させると勢いのまま喉を掻っ捌いた――が、それは黒い霧を一瞬切り裂いたようなものだった。掻っ捌いたように見えたが、それは一部だけだった。
 闇龍と同じようなその龍に実体はなく、そして、脳髄も頭部というような――そう、脳や神経があるわけではない。
 勢いを付けすぎて体制を立て直そうとしたところに、蛇の顎が開けられ、飲まれる。
「……っ!」
 瘴気対策はしてきたが、濃厚なそれは、ルカルカに息苦しさを感じさせる。視界が真っ黒に染まる。


 ――ルカルカが飲まれるのを見て、だが、この時島に降り立っていた彼女たちは怖気付かなかった。
「闇龍もどきで……封印か撃破か、ですか」
 むしろ、楽しそうですらあった。
「滅ぼしましょう。いつか誰かが……ってのを否定するわけじゃないですけど『今』『やる』為に、動こうとすることは必要でしょう? そう、『私が私で在る為に』」
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、不敵な笑みを浮かべる。
 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)が彼女を否定することなどない。恭しい一礼を捧げる。
「マイロードの選んだ道が全て。過程結果含めて全て正しいのですわ」
「未来の為に、確かに死んでも惜しくない動機だな、付き合うぞ。……それで、策はあるのか?」
 ここまで来ておいて、とも思ったが、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が疑問を呈すると、アルコリアは平然と言った。
「策? 今までの積み重ねと、骨すら拾われなく成ろうともという覚悟ですよ。後者があれば死のその瞬間まで笑ってられます」
「それは策とは言わん……。だが、悪くない」
 シーマが彼女なりの覚悟を決め、アルコリアを“潜在解放”する。
 と。この二人のパートナーとも全く違って、ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)はいつも通り、きゃははと笑っていた。
「楽しいな苦しいな。これだけ、無謀な状況が多いなら彼の者は英雄となっていたか?
 持っている力の総量など関係ないさ。クラス全員から虐められてる者を庇おうとするのも、少ない人数で群がる契約者に立ち向かうのも、『今も』変わりはしない。
 蟷螂の斧が車輪を砕けるかが重要なのだ……きゃはは☆ 絶望的な敵でありますよーに」
「アレと同じというなら……」
 アルコリアの瞳が島を見渡す。
「不平等だとか、貧困だとか、不幸だとか……そんなものよりは随分倒しやすそうじゃないですか。では、参りますね」
 アルコリアは、走った。続いてナコト、シーマ、ラズン。
 そのアルコリアに、背後からラズンと、ナコトがアドバイスする。
「きゃはは、次の角を右に曲がるんだよ」
 ナコトの“ディメンションサイト”による空間把握が霧を通して地形を正確に把握しようとし、ナコトの内に書かれた知識が島の中央の方角を指示した。
 彼女たちは突進したので、当然のようにアンデッドたちが気付いて寄ってくる。
「マイロード、ここはお任せを」
 ナコトはそれを召喚したサンダーバードと共に、寄る敵を呼び出した“炎の聖霊”の術で焼いていった。
 量が多いか、とアルコリアが思い“フールパペット”で操ろうとしたが、より強い力が働いているのだろうか、効果がないようだった。
「アルは下がっていろ。運命を、切り開く……馬鹿馬鹿しくて付き合い甲斐が、実にある!」
 シーマが不満げなアルコリアとナコトより前に出て、剣を構えてアンデッドの群れに突っ込んだ。
 やがて、海蛇の身体からルカルカが飛び出した時、彼女たちは正面にそれを迎えた。ナコトがすかさず“叡智の聖霊”で自身の魔力を強化すると、
「マイロード、攻撃のチャンスを作りますわ…!」
 蛇の顔がこちらを向いたか、と思った時、“天の炎”を海蛇の足元(と表現して)に、周囲の亡者もろとも落とした。
「魔力尽きるまで、何度でも!」
「ナコちゃん、ありがとう」
 アルコリアは“絶対闇黒領域”で闇になると、たった一人蛇の足元にダイブした。
 光条兵器に自身の力を込めて、
「光で、満たすっ!」
(叩き込む!何度でも!)
「ビット射出、スリーマンセルで防衛に当たる」
 アルコリアに追いすがる亡者に、シーマと、彼女の“ジュニアメーカー”が生み出した二人の分身が立ちふさがり、防壁となった。