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断崖に潜む異端者達

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断崖に潜む異端者達

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▼二章 エレクトラの声


◆タシガン空峡・断崖の拠点空域◆

 森側の制圧部隊がうまく惹きつけているらしい。
 空峡側に存在する発着場と周囲の空域には、IRIS兵の姿それほど見受けられなかった。

「それはありがたいんだけどよ……こいつらは一体なんなんだ?」

 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は『22式マルチスラスター』の圧倒的な機動力を、
 『フライトレッグ』による制御で自分のものにして、高速で空を飛び回っている。

 そんな彼の眼前に広がるのは……飛行型モンスターの大群だった。

「グルルルル……」
「……発着場への攻撃は、こいつらを何とかしないと通りそうにないなぁ」

 実際、空峡側の制圧部隊はヤツらに阻まれて侵攻を止められていた。

「さて、どうすっか……」

 恭也は独り言のつもりで呟いたのだが、
 思いがけず近くを『小型飛空艇ヘリファルテ』で滞空していた、相沢 洋(あいざわ・ひろし)から通信が入った。

「敵がモンスターを使うという情報は無かったが、我々の目的は変わらないであります」

 続けて、『小型飛空艇オイレ』の乃木坂 みと(のぎさか・みと)とも通信が繋がる。

「恭也さま、まずは制空権の確保に協力して頂けるとありがたいですわ。
 これが遅れれば遅れるほど、敵飛行戦力を打ち上げさせてしまいますから」

 彼女は言葉だけでなく行動でも方針を示す。
 『火術』を呼び起こして、こちらに接近していた一匹のキメラに精密攻撃。
 それだけで撃墜とはいかなかったが、敵の飛行ルートを大きく狂わせ、隙を生み出す。

「ナイスですみと様。後は私が処理します。以上」

 フラフラと空域を彷徨うキメラに、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が『小型飛空艇ヴォルケーノ』のミサイルを撃ちまくった。
 容赦の無い狙いで、全弾頭が直撃する―――
 大気を震撼させる爆音と共に、キメラはその巨躯を爆散させて雲海へと掻き消えた。

「ヒュウ……やるねぇ嬢ちゃん」

 しかし、一匹ずつ排除するやり方では、この多勢と戦うには分が悪いかもしれない。
 ある程度まとめて殲滅していく必要がありそうだ。

「んじゃ、俺もちょっとばかり本気を見せるかな」

 恭也はすっと目を閉じて【ディメンションサイト】を発動。
 三次元的な空間、そこに分布する敵の軍勢を把握したうえで、推進翼全開―――!
 まるで弾丸のような速度でモンスターの大群に突っ込んだ。
 しかも、そのでたらめな機動力を維持したまま、『トイボックス』で白兵戦をこなしている。

「そらよ! 接近戦もできる弾幕シューティングゲー開始だ!」

 ガーゴイルに肉薄し、その爪攻撃を身体をひねり回避―――したままの勢いを利用して、大剣でブッタ斬る。
 遠方から放たれたマンティコアの炎弾は、崩れ落ちるガーゴイルの亡骸の裏に回ることでやり過ごし、
 お返しとばかりに機関銃で蜂の巣にして対戦車砲でトドメを刺す。

「……なかなかいい動きですね。以上」
「ちょっと随伴するには機動力差がありますね。洋さま、どうなさいますか?」

 みとの声が届く前から、洋は即時に作戦変更のプランをシミュレートしていた。
 そして自軍戦力を有効に用いれるように立て直す。

「各員、広域に散開! 後方支援! 背後を取ろうと回り込む敵戦力を阻止する!
 エリスは現地点を維持、使用兵器換装だ。光条砲撃で友軍の白兵戦を支援せよ!」
「命令を了承しました。友軍のみ攻撃目標から除外、光条砲撃行います。以上」

 洋の指示を受けて、教導の繰る制圧部隊も面制圧に乗り出す。
 少しずつだが確実に、その包囲網を狭めていく。

(さて、気になるのは発着場に確認されている対空砲……
 このままいくと射程距離に入ってしまいますが、その前に無効化しておきたいところ)

 と、そこに別命を受けて出払っていた相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)の『小型飛空艇アルバトロス』が戻ってくる。

「だめだじっちゃん。
 言われた通り上空に回り込んで『小型空中機雷』を投下してみたけど、
 敵陣にある対空砲まで、辿り着く前に迎撃されちゃったよ」
「ふむ、であれば仕方がない、貴様も囮役として白兵戦に参加せよ。
 対空砲の無効化には、司令室が用意してくれた別の手を使う。
 あと、またじっちゃんと呼んだな? これが終わったらげんこつを覚悟しておけ」
「別の手って、さっき入った通信のやつ〜?
 ってか、それより僕にとってはげんこつの方が重要な問題だったりする。
 ……囮役で活躍したら帳消しになったりしない?」
「……考えておく(嘘)」

 ちょっとは戦力が増すかもと考えて、とりあえず嘘をついておく洋。
 彼の狙い通りなのかはわからないが、

「はいはーい! 今日も楽しい空挺攻撃開始だねー」

 洋孝は『フューチャーアーティファクト』を乱射して、とにかく目立つ戦いを始めた。
 効率的に敵を撃ち倒していく恭也とは対照的な、敵を惹きつけるための動きだ。

「モンスターは簡単にエサに寄ってくれるので楽ですね。狙いが付けやすいです。以上」

 そうして洋孝に寄ってきた目標を、エリスは長距離光条砲撃でまとめて貫く。
 エサ呼ばわりされてしまった洋孝には悪いが、その戦い方は確かに効率的だった。
 ほとんど無差別砲撃(実際に洋孝を巻き込んでいる)で、光条兵器の特性を活かして敵だけに損害を与えていく。
 みとも【我は射す光の閃刃】で回り込んでくる敵勢を退け、役割を忠実にこなしていく。

 洋は頃合いだと見て、通信を別回線に切り替え、むこうとの連絡を取る。

「―――羅参謀長より話は聞いている。作戦への協力を感謝する」
「あたしらのシマに入り込んでた連中を放っておけないからね。
 軍が排除に乗り出してくれるようだから、こっちの事情で加勢するだけよ」

 応答したのは、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)―――
 義賊【『シャーウッドの森』空賊団】の団長だった。

 少し前、ヘリワードが羅参謀長に連絡を取って、突入作戦に合わせて介入する旨を申し出たのだ。
 回りくどい言い方なのは空賊団にも事情があるためで、要は協力して断崖の拠点を攻略しようということである。
 そして、羅はこれを了承し、各員に伝えたのである。

(まぁ、打算的な目的もあるといえばあるんだけどね。一石二鳥ってやつだわ)

 ヘリワードは誰にともなくほくそ笑む。
 上空には、いつからか空賊船が待機していて、今にも一斉砲撃を開始しそうな勢いだ。
 彼女はそこに搭乗していて、空賊達の指揮を行っている。

「いつでも援助攻勢を開始できる……と言いたいところだけど、まだ接近できないのよね。
 リネン、フェイミィ、そっちはどう?」

 呼びかけられて、リネン・エルフト(りねん・えるふと)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は現状を報告する。

「順調よ。モンスターを使っての対応は教導の部隊と戦うので精一杯みたいだし、
 敵は新たに出現したアイランド・イーリに注意を惹かれてるみたい」
「へっ、このシマにいる以上、オレ達のことを知らないはずはねぇからな。
 派手に釣られてくれてる内に、やることやっちまおうぜ」

 リネンとフェイミィは独立して動いている。
 空域戦闘が繰り広げられている位置からは目視できないほどの低空を、
 それぞれ『ペガサス“ネーベルグランツ”』と、『ペガサス“ナハトグランツ”』に搭乗して飛行中なのだ。

 フェイミィの言っていたやることというのは、敵の対空陣地を荒らすことである。
 リネンが【ホークアイ】で遠くから観察した限りでは、
 発着場周辺にミサイル・サイトのような物は設置されていなかった。
 大きな空賊船も、これだけ距離が離れていれば、対空砲撃を受けることはないだろう。
 だが、接近するとなると話は変わってくる。一時的にでも隙を作らなくてはならない。

「おっと、さすがに気づかれたかな」

 フェイミィの言う通り、ちょうど発着場を目前に捉えたところで、
 哨戒に当たっていたらしい敵兵が、なにやらこちらを見て叫び声をあげた。

「構わないわ。このまま前進して死角から乗り上げるわよ」

 リネンのかけ声で、発着場の真下にあたる壁際へと張りつく。
 敵が迎撃用の戦力を回してくる前に、一気に突入する!

「あそこね!」

 沿岸部に並べて配置されている対空機関砲―――あれを止めれば、勝利は確定的だ。

「念入りにやる必要はねぇよな。どっちみち後で焼き払っちまうんだからよ!」

 フェイミィは、敵兵の数が少ない内に全てを終わらせようと動く。
 ナハトグランツに搭乗したまま、【ライド・オブ・ヴァルキリー】によって瞬時に距離を詰める。
 集まりつつある敵兵達は無視して、ターゲットである対空機関砲だけを狙って、

「喰らいやがれ!」

 並外れた膂力で『天馬のバルディッシュ』をぶん回した。

 ゴッシャアアアアア!!

 金属と金属がぶつかったにしてはあまりに一方的な音をあげて、対空機関砲は次々と鉄塊へと変貌していく。

「あれで念入りじゃないって言うんだから驚きよね……」

 対空機能の無効化は、フェイミィに任せておけば大丈夫だろう。
 リネンは退路を確保しつつ、『女王騎士の銃』での正確な射撃で敵兵の足止めに専念する。
 やがて仕事を終えたフェイミィが合流すると、2人共に来たまんまのルートを離脱した。
 そして、リネンはヘリワードに通信を繋ぐ。

「リネンよりアイランド・イーリ、敵脅威無し。【ガンファイア・サポート】要請!」
「了解よ。弾道上で交戦中の友軍は気をつけて!」

 後は語るほどの事ではない。
 要請を受けた空賊団の旗艦が、接近して絨毯爆撃を行い、発着場を壊滅させた。
 後続が無くなったモンスターの軍勢は、
 間もなく恭也や洋をはじめとした教導の制圧部隊が殲滅を完了。

 こうして、現段階での制空権および発着場の確保に成功したのであった。