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断崖に潜む異端者達

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断崖に潜む異端者達

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▼三章 拠点内の攻防


◆断崖の拠点内部・森側出入り口◆

 第三の出入り口である搬入口からの奇襲作戦が始まったと、
 先ほどセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)から伝達があった。
 しばらくの間戦力が落ち、苦戦していた森側制圧部隊だったが、
 現在は奇襲により敵が崩れた一瞬を突いて、ここぞとばかりに押し込んでいた。

「怯むな! 前へ出ろ! 敵軍は後方より奇襲を受け、混乱している!」

 夏侯 惇(かこう・とん)はこの機を逃さぬよう、大声で隊全体を鼓舞する。
 自身も正面突破の先鋒となって、肉薄しての【轟雷閃】で敵を感電させ、無力化していく。

 共に行動していたカル・カルカー(かる・かるかー)はというと、【奈落の鉄鎖】と【サイコキネシス】の併用で、
 敵軍の兵器を少しでも足止めすべく、回り込んで行動していた。

妙な兵器が出てきても不思議じゃない……そう聞いてたけど、本当にこんなのが出てくるなんて」

 その妙な兵器というのは、圧倒的なエネルギー出力を持つ、ゴーレムだった。
 空峡側で出てきたモンスター達と、同じ原理で動いているのだろうか?
 こいつがいたせいで、森側の制圧部隊は手をこまねいていたのである。
 と、ゴーレムが胸部の粒子砲に、再びエネルギーをチャージし始める。

「やばい、またアレがくる……撃たせる前に倒そう! ジョンさん! ドリルさん!」

 この粒子砲で、教導の制圧部隊はかなりの損害を被っていた。
 また撃たせてしまったら、せっかく築いた優位を押し戻されてしまう。

「わかりました」
「任せろ!」

 後詰めとして戦っていたジョン・オーク(じょん・おーく)ドリル・ホール(どりる・ほーる)が、カルの救援要請に応える。
 2人は手にしていた『レバーアクションライフル』、『機関銃』をそれぞれ捨て、
 『軍用バイク』に跨がると、そのアクセルを全開にまで振り絞る。

 グォオォォォォン!!

 建物内ということもあってド派手なエンジン音を反響させながら、
 左右よりエネルギーチャージ中のゴーレムに神風特攻を仕掛ける!
 もちろん、2人ともそのままぶつかって玉砕するつもりはない。

「「たぁっ!」」

 ウィリー走行の要領で前輪を浮かせてから、2人はほぼ同時に搭乗席から飛び降りる。
 ゴーレムの正面を捉えていた『軍用バイク』はその勢いのままに突き進み、
 2台とも胸部の砲身に深々と突き刺さった。
 そして―――

「「トドメです(だぜ)!!」」

 中空を舞いながら、突き刺した箇所を目がけて【火術】を発動する。
 燃料に引火した『軍用バイク』は、その瞬間爆弾と化して木っ端微塵に吹き飛んだ。
 いかに強固な装甲を持つゴーレムでも、内部からの衝撃には弱い。
 粒子砲を放たせる隙を与えず、カル達は3人がかりでゴーレムの撃破に成功したのであった。





◆断崖の拠点内部・物資保管庫◆

 こちらは奇襲作戦を仕掛けた、搬入口からの侵入組である。
 リフトの降下地点は倉庫のような場所で、なんと全くのノーマークだった。
 お陰で楽々忍び込めたわけだが、全てが上手くいっているわけではない。

「このリフトは搬入専用の一方通行らしいな……
 複数の台座がエスカレーターのように動いて、上りは壁の中を通っているようだ」

 レン・オズワルド(れん・おずわるど)が言う通り、リフトは下りのものしか見当たらない。
 しかも、複数の台座が連続的に回転しているので、たとえ飛べたとしても地上へ戻る隙は無かった。
 搬入口より降りた時点で、完全に孤立するわけである。

「それだけじゃないわ。
 ある程度予想はできてたけど、あらゆる通信機能が使えなくなってる」

 董 蓮華(ただす・れんげ)は携帯電話で、スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)との通話を試みたが無駄だったようだ。
 地下に潜ったから圏外になっている、というのもあるが、
 パートナー間のテレパシー能力にもノイズが走っている。

「近くにIRIS兵がいると見るべきだな。
 ……ずっと疑問に思ってたんだが、エレクトラはこのジャミングの中でも通信ができるのかね?」

 スティンガーの疑問はもっともだ。
 おそらく全周波数帯が妨害の対象に取られているうえ、念波まで遮る。
 ここまで穴が無いジャミングを展開すれば、普通は自分達の首もしめてしまうだろう。

「でも、今のところ敵の動きは統率が取れてるわ。何らかの手段で連絡を取り合っているはずよ」

 と、そんな事を話している内に、倉庫内に全ての潜入部隊員が到着した。
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は周囲に目配せして、準備が整ったことを確認すると、

「オレが扉を破って先に仕掛ける。後は頼むぜ」

 そう言って【光条兵器】を形成し、長い通路へと繰り出した。
 すると、扉から出てくるのを待ち構えていたのか、既に倉庫の周りをIRIS兵達が取り囲んでいた。

「チッ、いつから気づいてやがった」

 いつからと聞かれれば、蓮華が通信可能かどうかを試した時からである。
 まだ判明していない事だが、IRIS兵達が展開するジャミングには、
 引っかかった波を逆探知して位置を特定する能力があるのだ。

「撃てぇぇぇ!!」

 敵兵達は手をかざして無数の光刃を解き放つ―――!
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の報告にあった攻撃だった。おそらく、彼らもIRIS。
 武尊は【先制攻撃】を仕掛けようと目論んでいたが、咄嗟に戦い方を変更。
 【アブソリュート・ゼロ】の氷壁で、敵の初撃をやり過ごす事に専念する。

「その壁、使わせてもらうぞ」

 こちら側の1人目の後続はレンだ。
 レンは【ショックウェーブ】をおもむろに放ち、光刃を受け止めた氷壁をそのまま敵陣に吹き飛ばす!
 向かいの壁と合わせて押し潰す算段だったのだが、

「させん!」

 IRIS兵の1人が凄まじい熱量を持つ盾のようなモノを前方に形成し、氷壁を防いだ。
 イコンの装甲に匹敵する強度の氷壁なのだが、その性質上熱には弱い。
 軽い水蒸気爆発を起こして、お互いに形成したものを相殺した状態になる。

「蓮華!」
「わかったわ!」

 間髪入れずに、今度は扉の影から蓮華が躍り出た。
 拳聖の素早さを活かし、瞬時に接近する【雷霆の拳】を叩き込む。

「ぐうぁ!」

 まるで雷光のような一撃に、反応できなかったIRIS兵は倒れかかる。
 が、それだけでは終わらない。

「はあぁぁっ!!」

 蓮華は殴り込んだ体勢から【則天去私】へと繋ぎ、続けざまの乱舞で一帯を薙ぎ払う!
 複数名の無力化が確認できたが、敵はもっと奥まで展開している。

「伏せろ、蓮華!」

 あらかじめ示し合わせておいたのだろう。
 蓮華は驚くほどスムーズに姿勢を低く保ち、弾道が確保されたその瞬間。
 スティンガーの持つ【二丁拳銃】2対の『女王騎士の銃』より、正確無比な【五月雨打ち】が実施される!
 長い通路を通り抜け、蓮華の頭上を通過する形で銃撃の嵐が駆け巡り―――
 通路奥で油断していたIRIS兵達を一蹴した。

「よし、これで森側出入り口付近まで隊を動かせるな。
 急いで制圧を成功させて、本隊に合流しよう」

 レンは敵の自爆を相当警戒しているようだ。
 常に先へと急かしているが、そうでなくても奇襲作戦はスピードが重要である。
 もうここで留まっている理由も何も無いので、一同は彼の言う通り、進行を開始した。





◆断崖の拠点内部・森側出入り口◆

「はい。……はい、通信も内部から可能になりました。
 えぇ、ではまた何か進展があれば、連絡をお願いします」

 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はそう言って羅 英照(ろー・いんざお)との通信を終えると、
 今度は森側制圧部隊の各員に通信を繋ぎ、羅より受けた指令を伝達する。

「森側制圧部隊は待機だそうです。深入りしないよう、出入り口を固めてください」

 搬入口から敵の裏を取る奇襲作戦は大成功を収め、
 現在、森側出入り口の周囲は教導団の制圧部隊が完全封鎖していた。
 このうえ更に出入り口を固めるだけというのは些か理解しがたいが、参謀長のことだから何かの思惑があるに違いない。
 教導の制圧部隊は特に疑問を口にせず、言われた通りに封鎖をより強固なものにする。

「ふぅ……それにしても、居心地が良いとは言えない場所ですね……」

 ゆかりは、少し外の空気を吸いたいなと思った。
 制圧後のこの場所には捕虜となったIRIS兵達もそこそこいるが、
 激しい戦闘の中で犠牲になった者も多数存在する。まだ放置されている亡骸も少なくない。
 それは、規模は違えど教導団側とて例外ではなかった。

「カーリー、言われた通り被害報告は終わらせといたわよ」

 ゆかりの事をそう呼び、戻ってきたのはマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)だった。
 彼女は基本的にゆかりの調査助手として動いている。

「ありがとうマリー。エレクトラの兵士への尋問の方は済みましたか?」
「ある程度の情報は聞き出せたと思う。
 けど、組織の活動目的とか最終目標とか、根っこの部分は一筋縄じゃいかなさそうだったわ」
「えぇ、少しでも聞き出せたなら上々です。
 わかったことだけでも資料としてまとめて、情報科や技術科に提出しましょう」

 前線に出ない立ち位置のため、森側制圧部隊の連絡役も担うゆかりだが、
 本来の目的はそういった情報の収集だった。
 なお、マリーが捕虜より獲得した情報は以下の通りである。

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1.組織構造:本拠地の幹部達が全てを取り仕切っているため、自分達は指示通りに動いているだけ。目的については聞き出せず。

2.構成員:幹部達は過去にIRIS計画というプロジェクトを担っていたチームのメンバーらしい。
      その下で動く人間の数は、現在進行形で増え続けているため、わからないと言う。
      増員の手段は組織に加わる代償として、独自技術であるIRIS化を施すというもの。主に途上国の地球人がターゲット。
      IRIS化を受けた地球人は、契約していなくてもパラミタでの活動が可能となる。また、一定の超能力のようなものが使用可能となる。

3.断崖の拠点について:ここがどういう目的で設置されているのか聞き出せず。中で何が行われていたのかも聞き出せず。
            この拠点については何も聞き出せず。


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「こんなところね。
 それにしても……回収可能な物的証拠は、激しい戦闘の影響でほとんど残っていませんね……」


 ゆかりは溜め息をつく。
 発着場ほどではないのだが、わりと見渡す限り焼け野原である。
 残っているのはゴーレムの残骸くらいだろうか。

「ちょっとミスってたら外の樹に燃え移って、大惨事になってたかもしれないわね」
「えぇ。なんにせよ、これ以上の情報は出入り口付近では得られなさそうです。
 一度外に出て、新しい指示があるまで資料の作成でもしましょうか」
「ゴーレムの残骸は?」
「ちょっと運び出せそうにないので、今は置いておきましょう。
 残骸がここにあるという情報だけ伝えれば大丈夫です」

 こうして2人は一時現場を離れ、しばらく各科に回すための資料作成に没頭するのであった。