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夏の雅に薔薇を添えて

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夏の雅に薔薇を添えて

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第5章 遊所「馬場」





「楽しかったわ、ありがとう」
「お楽しみいただけたようで何より…ですわ」


リネンがお礼を言うのはウェルチ。
彼女とクリスティーの2人は、女装をしておもてなしをしていた。


「やっぱりフリューネとの空は最高ね」
「私も、こうしてただ楽しく飛び回れて…しかも相手があなたですもの。 これ以上ない空の時間だったわ」
「たまにはエネフやネーベルたち以外に乗ってみるのも楽しかったわね。 …でも、嫉妬されちゃうかな?」
「かもね」


リネンがくすりと笑うとそれにつられてフリューネも笑う。
言葉を交わす以上に、空で互いの呼吸を感じながら飛び回ったのは2人にとって最も心地よいものであった。


「でもああいうことは程々にして頂かないと、僕達としては困りますけどね〜」
「あははは…ごめんなさい」


冗談っぽくながらも怒るクリスティーの言葉にたじたじのリネン。
この馬場の出帳で連れてこられた飛行できる動物の中でも、最も大きいフライングポニーで、
薔薇学生のサポートなく飛び回って来たのだ。 それをマネしようとする人を止めるのは、彼らの仕事だった。


「それにしてもなんで女装してるのよ?」
「こういう方が親しみやすい女性とかもいるかと思ってね。 似合う?」


フリューネの疑問に答えるウェルチ。


「ふふ、悪くないんじゃない?」
「そうね。 う〜ん、フリューネも男装してみたら?」
「なんでそうなるのよ!?」
「だって似合いそうよ?」
「何よもう〜。 とにかく、乗せてくれてありがとう。 楽しかったわ」
「こちらこそ、おもてなしに協力してくれた事には感謝するよ。 また来てね」


ウェルチ達に別れを告げ、歩き出すリネンとフリューネ。


「さて、次はどこに行く? 中々学園交流以外で縁のない学校だし、もっと楽しみたいところよね」
「私もこの辺りはよく通るけど、薔薇の学舎にはあまり行かないわね…リネンはおススメとかあるの?」
「そうね〜…このまま馬場で楽しんでもいいけど、薔薇学の喫茶店って珈琲がすごいのよ。
 良かったらそっちの方も行ってみない?」
「ならそうしましょ。 あっ、それとリネン言えてなかったんだけど………」
「あっ、ちょっと待って」


何かを言いかけたフリューネだったが、リネンに電話がかかってきたため会話は途中で打ち切られる。


「えええっ!? 分かったわ、すぐ行く」
「どうしたの?」
「このイベントを狙って空賊が近づいてるみたい。 連絡が入ったからちょっと片づけてくるわ」
「なら私も!」
「ううん、フリューネはこのまま珈琲でも飲んで楽しんでてよ。 これくらい私ならすぐ終わるから、ねっ?」
「………ええ」


リネンは返事を聞き笑顔を見せると、走って行ってしまう。


「まだリネンに言ってないけど……しょうがないかしら」


そしてフリューネもまた馬場を後にする。





               ◇ ◇ ◇





「おらよっ! なめんな!」


観客の拍手と共に、暴れ馬の勢いも増していく。
見せアトラクションとして、ダニーがロデオを行っていた。


「≪薔薇学もすげぇもんだ。 まさかロデオの意味を分かって出番の時だけ
  気性を荒くさせる様に馬に調教済みとは…にしても相手が本気なんだ。 俺も負けれねぇな≫」


そうして片手をあげ名がもう片方の手には力を込めて手綱を握る。


「ロデオは調和なんていうがそうじゃねぇ。 こいつは勝負バカヤロウ!
 良い子のみんなはマネするなよー!!!」


そう言ってさらに激しさを増すロデオは、『雅』と言えるかといえば微妙だが、
観客の心はぐっとつかんでいた。 ダニーの言葉が届かないくらいに。


「うわー、すっご〜〜〜〜い!!! ねぇ小花! のるんちゃんもあれしたいな♪」


時見 のるん(ときみ・のるん)もその1人だ。
彼女に連れ添ってきた橙 小花(ちぇん・しゃおふぁ)は困り果て辺りを見回す。


そんな小花を見つけた一寿は声をかける。


「どうかされました?」
「ああ、すみません。 何か乗馬体験を出来るような場所はありませんでしょうか?」
「それならこっちですよ」


一寿がのるんと小花を連れて、体験乗馬のコーナーにやって来た。
そこではたくさんの薔薇学生が乗馬についてレクチャーしており、
その中でインストラクターとして担当についていたヴォルフラムに声をかける。

「こちらの方も乗馬体験をしたいそうなんだ、宜しく頼むよ」
「分かりました。 ではお嬢様、私ヴォルフラムが手ほどき致します」
「わわわ、シャオがお嬢様だんてそんな!? お嬢様はこちらにおられるのるん様の方でございます!」


普段されないお嬢様扱いに驚く小花。


「のるんちゃんでーす! 宜しくお願いしまぁ〜す!!!」
「そうでしたか、それでは元気なお嬢様にあうような馬を選んでまいります」
「のるんちゃん真っ白いお馬さんがいいー」
「かしこまりました」

そうして厩舎に入っていくヴォルフラムに一寿が声をかける。


「ランダムは今どうしてる?」
「今のところは私達だけで会場は回っていますし、まだ出番待ちですよ」
「そうか…じゃあここらで出番ってことで〜…」
「何故です?」
「さっきこっちに来る時話してたんだけど、あの女の子ダニーのショーを見てたみたいなんだ。
 それであんな風に乗ればカッコいいと思ってしまったかもしれないんだよね〜……。 
 ここで怪我をさせられないし、ランダムなら言う通り動くだろうから早めにレッスンしてしまってくれ」
「なるほど……分かりました」





               ◇ ◇ ◇





「お待たせいたしました」
「わーいお馬さーん!」
「……なんだか他のと見比べると、変わった感じのするお馬様ですね」
「あーっとそれはですねー、と、とにかくこの子は賢いですから、指示通りに動いてくれますよー。
 言う通りに走ったり跳んだりもしてくれますよ!」


一寿がフォローをする。 小花は若干疑問が残るようであったが
のるんはそんなこと全く気付いていない様子ではしゃぎまわっていた。


「では、始めましょう」
「うん、のるんちゃん学校でね、お馬さん乗ったことあるんだよ〜」


のるんは明倫館の授業で、乗馬をしたことがあった。
だが、その時は常に先生べったりで常歩をするのも精一杯だったのだ。
幼いのるんには、それでも十分自分が馬に乗れるという誤解を与えていた。


「そうなんですか。 では、私のお手伝いも必要ないかも知れませんね」


そうして馬(ランダム)にまたがるのるん。
勿論ランダム自体はしっかりと意識があるので、のるんが若干無理やりのっかろうとしても
うまく微調整する。 こうして上手く? 乗れた後、彼女はそのまま常歩に挑戦する。


「そうです、ゆっくりでいいんですよ。 馬は賢い生き物です。
 乗り手の心を読んできますからね、心を委ねて、無理矢理に操ろうとするでなく、自然に手綱を握って、さばいて下さい」
「これくらい簡単だよー!」
「≪うっ。 首、しまってる……≫」
「≪ゴメンよランダムー…ガマンだぞガマン≫」


のるんが手綱を勢いよく引くので、ランダムはかなり苦しい場面も多かったが、
無事に小さな円形スペースを一周することが出来た。


「良かったですよ、のるん様」
「ありがと小花! おにーさん! のるんちゃん駈歩してみたいなー」
「分かりました。 でも他のお客様もいらっしゃいますので、少しだけですよ?」
「うん!」


一寿や小花が不安げに見守る中、今度はスピードを出すことになったのるん。
彼女の要望で前方に小さな障害物も用意される。


「≪走ったり飛んだりは言わなきゃ良かったかなー、あはは……≫」
「≪のるん様、ケガなどされませんように≫」


そしてヴォルフラムから鞭を借り受けるのるん。


「のるんちゃん知ってるよ! 早く動いてほしい時はこうするんだよね?」


そういうと、のるんは馬に向かって思いっきり鞭を振り下ろす。


「んっ!」
「あれれ? 今変な声が……」
「あーあーあ! 気のせいですよ〜! でも、あ、あまり鞭使わなくてもいいです、ホントに賢い子ですから。 ホント!」


一寿やヴォルフラムが制止するも、のるんは楽しくなってしまったのかついつい鞭を振る。
のるんを乗せながら四足歩行で走って飛んでのランダムだったが、かなり辛そうな声が時々漏れてしまう。


「すっごーい! もっと早くならないのー?」


ペシペシ。


「の、のるん様! そんなに叩いては!?」


ペシペシ。


「一旦止まってください!」


ヴォルフラムの声に止まったのは、のるんではなくランダムであった。


「あれ? どうしたの?」


ヴォルフラムがのるんを降ろす。 するとランダムが口を開く。


「ヴォルフィ、一寿の言ってる事、分からない?」
「お馬さんがしゃべった!?」
「ランダム!」
「一寿、言いたいの分かる。 でも、正しい馬の扱い方を知らないのに、知ってるような気にさせたまま、
 間違った知識で、帰すのよくないと思う。 だから、きちんと教える」
「……確かに、このままにはしておけませんね」


結局、ランダムとヴォルフラムに怒られる結果となったのるんであった。