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リアクション
召命 ―異世界からの来訪者―
「ていうかさっさと帰ろうぜ」
ロミスカに辿り着いた途端飛び出た瀬島 壮太(せじま・そうた)の第一声に、それから何度となく繰り返されているこの言葉に、そう言えばこいつはこの間から同じ様な台詞ばかりだなとアレクサンダル四世・ミロシェヴィッチ(あれくさんだるちぇとゔるてぃ・みろしぇゔぃっち)は思い出し、きっと壮太はぱんつを装備していないから不安なのだろうと弟分(*年上)の心情を推し量っていた。
「……そんなに不安に思うな。
壮太、お前は俺の弟。必ず守ってやるから――」
くしゃくしゃと髪ごと頭を撫でてくる手は頼もしいし、こうしてストレートに守ると言ってくるところもそれなりに格好いいと思っている。そもそも壮太にとってアレクは命の恩人で有り、何かがあったら助けてくれる存在として認識されているのだ。
アレクが居れば大丈夫。恐らく今回も何とかしてくれるだろうという揺るぎない安心を与えてくれるお兄ちゃん。
だがしかし――、だからこそ『それなりに格好良い兄貴分』がピンクのフリフリぱんつを頭にすっぽり被っているのは見ていられない。ぱんつが無いから不安に思っている等、大きな勘違いだ。正直まともな神経をしていたら、男が女子のぱんつを頭に被るなどやむを得ない事情があろうと絶対したくもないイカレた行為だ。
そして壮太にとって更に悪い事に、目を反らせばそこに、親友の東條 カガチ(とうじょう・かがち)が柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)のぱんつを被って立っているのだ。
「……恥ずかしくねえの? 被られてて」
壮太はなぎこにこっそり問いかける。
「ぱんつならここにあります!
すぐ遊びたかったから家から水着着てきたの。取られそうになったけど死守しました。
今日おろしたてだから汚くないよ!」
なぎこがそう言って潔くパートナーのカガチに差し出しだぱんつは、先日友人との買い物で購入したばかりの――中央部分を飾るピンクやパープルのカラフルな小花柄のプリントが華やかな印象を与えているクリーム色のものだった。アクセントが効いた濃いピンクのリボンは、少女で有りながら長い時を生きるなぎこらしい可愛い中にも遊び心あるデザインだ。
「……他の人のぱんつ被られるよりはまし」
どこか引っかかる様な微妙な笑顔を浮かべてなぎこは答えていた。
そこから少し離れたところで、カガチは一度脱いだなぎこのぱんつをまじまじと見つめている。
「パラミアンでアルバイトしたら遊びにきてたなぎさんが襲われて、追いかけたら変態に反撃したなぎさんと一緒に水に落ちて……
……からの記憶が無い。俺なんでここでなぎさんのぱんつ持ってるの?」
「お前水ガブガブ飲んでたからな」
「え? 何俺人工呼吸とかされちゃった?」
「…………俺が」
突然戸惑った様子で目を反らしたアレクに、カガチは顔面を蒼白にする。真顔でダブルピースしながら「嘘です★」の一言の後にカガチが超速で抜きかけた柄を上から抑えて、アレクは状況を説明する。その間カガチの表情が不穏なものになっていくのに、アレクは真面目な気持ちで問いかけた。
「お前、まさかなぎさんが渡してくれたぱんつを被りたく無いとでも言うのか!?」
「……まあ必要なら仕方ねえしなあって、それよりなぎさんこんなぱんつ持ってたっけ?」
「ああ、そういうの俺にも覚えあるな。この間妹のチェストに知らないぱんつが――」
「ん? 俺家事担当してるから大体把握してるってだけなんだけど、あんたも妹のぱんつ洗ったりしてんの?」
「……否、妹が俺のぱんつ洗ってるな。待ってカガチ、これよく考えたら」
「まあいっか。そろそろ被っておかねえとな」
話を終えた大の男が真顔で(合法)ロリぱんつを被るという光景をダブルで見ている壮太の心は、長時間それに耐えられそうになかった。
それは山葉 加夜(やまは・かや)も同じらしく、彼女は文字通り頭を抱え俯くしか無い。
(勿論アレクさんの事は信頼してますよ……ええ、とても……信頼、してます……よ……)
頭の中でアレクに言い訳するように繰り返しながら、加夜は心に誓うのだった。
帰ったらこの事はアレクの妹、ジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)には内緒にしようと。
*
コロッセオの中心。闘技場の陽炎が立ち昇るほど熱気孕む光景を眺めて、常時ビキニの水着に身を包んでいるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はドン引きしていた。
「いや、ま、ね。盛り上がりたい気持ちはわかるんだけど、ちょっと変態過ぎない?」
全裸のまま肩からマントを提げる男達の様相に、大事な部分を保護する目的のはずのぱんつがなぜ頭上にフィットしているのか、理解できずにいた。
否、理解というよりも「そもそもなんで被ったらパワーアップするのよ。あれは――」とぱんつを被るという行為の変態性について小一時間咎めたくなる。
水着を着ているとはいえ公然と美しい裸体を晒す羞恥の無いセレンフィリティでも、さすがにぱんつを被るというのは、無し、らしい。
不審が拭えないパートナーに同じく空京のスパ施設『パラミアン』から共に迷い込んできたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は一団体を発見した。
「セレン」
くいくいと腕を引っ張られてセレアナの言われた先を見たセレンフィリティは知っている顔を見つける。
「クロフォード!」
駆けつけると、子供達の名前をひとりひとり呼び宥めてそれぞれ言うことを聞くようにと念を押していた破名・クロフォードは二人に顔を向けた。
「あれ? ねぇ、どうしたの? 大丈夫?」
以前会った時と様子が違う。問われた破名は近くの子の頭を軽く撫でた。
「大丈夫? これが大丈夫と言えるか? この裸の男共にぱんつを頭に被るという行い。
況してそれを煽る者と見世物と見物する者、これがこの景色が子供達の目にどう映るか想像できないとは、まさか言わないだろうな?」
静かな声音で淡々と語るのをみるにこの状況に怒りを覚えているという事がとても分り易く伝わった。
孤児院を運営していると聞いた。男の周りにいる子供達はまさしくその院の子供達なのだろう。はるばる荒野から遠出して行き着いた場所が此処ならば、確かに怒りを覚えないわけがない。全くもって教育上宜しくないのは同意見だ。
「ふーん。保護者なのね」
「ああ」
「ねぇ、何か手がありそうね。ほら子供達に色々指示出してたみたいだし、動くんでしょ?」
会場を煽る皇帝アッシュの手の内で踊りたくないし、早くこんな場所からおさらばしたかったセレンフィリティは、策があるのなら手伝うわと協力を申し出たのだった。
*
「? えぇと……? この世界は一体如何な……」
所在なげに動かしていた目玉が驚愕で真ん丸に固まると、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は「ふえっ!?」と情けない悲鳴を上げた。この世界に飛んでからというもの、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が甲斐甲斐しく彼女の視界から隠してきた戦士達の姿――つまり全裸にマントにぱんつ――だったが、いざコロッセオに入ってしまうとそこは戦士達で溢れかえっており、ベルクのガードも遂に限界を迎えたらしい。そうして『ロミスカ』のぱんつ戦士を目の中に入れてしまった所為で、何時もは忍者として恐ろしさすら感じさせる時すらあるフレンディスは、崩れ落ちるような声でベルクとアレクに問いかける。
「ますたぁ……あれっくすさぁん……。あ、あの殿方達……何故故(ゆえ)に皆様揃って裸体に外套なのですか!?」
「ぱんつを頭に被る理由は既に判明しているが、何故裸マントなのかは不明だな。
まあ……その方がカッコいいからじゃないか?」
気の無い調子で言いながらそういうコミックを読んだ事があると付け足すアレクに、フレンディスは蒼白の顔を両手で覆い、恋人のベルクに縋った。
「ふえぇ、む、無理……私、無理ですー!!」
そんな状態のフレンディスから視線を反らして、アレクは忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)に向かって両腕を叩く。
「Hey,Come on!」ご主人二号の呼びかけに対し、忠実なハイテク忍犬はぴょんぴょんと跳ねる様に彼の周りを回り始めた。
「Easy,Easy.Lie down.」
命令に従って伏せをしたポチの助を「Yes.Good.」と撫で褒め抱き上げると、アレクは定位置である頭の上にポチの助を乗せる。与えられたコマンドを流暢にこなすその姿はもう――ただの犬だった。
ポチの助の方も獣人形態にならない限り、人間らしい羞恥心や何かを感じないようで、
「ふふん♪ 普段から格好良い僕ですがぱんつ被った姿は嘸かし愛くるしい事でしょう!」
などと言いながらアレクの頭のピンクのぱんつにすっぽりと収まってしまう。
しかし件のぱんつの持ち主は小柄な体形の豊美ちゃんだ。如何にスラヴ系らしく小顔のアレクとは言え、ポチの助が入ってしまえばぱんつのゴムが伸びてしまうのは必至だった。
「アレクさん、それだとゴムが伸びて、落ちてきてしまいませんか?」
そして、豊美ちゃんが心配したのは、『ぱんつのゴムが伸びる事で、戦っている最中にぱんつが落ちてアレクが弱体化してしまわないか』という点だった。もう既に豊美ちゃんはアレクが自分のぱんつを被っている事実を受け入れている。アレクならこの事態を切り抜けてくれる、そう信じているから。
「ああ、モフ――ポチの助はココに居るのが慣れてるし、むしろポチの助がここで居る事で豊美ちゃんのぱんつをロミスカの戦士から守ってくれるだろう。
安心してくれ、貴女との約束は必ず果たす」
そう言いながらアレクはしかし気づいている。豊美ちゃんに洗って返すと約束した時は女性用のぱんつは確か手洗いしなければならないんだったかと、その事ばかり考えて居たのだが、いざこんな風に頭に被って汚してしまい、しかもゴムが伸びてしまったものをただそのまま返す訳にはいかないだろうと。
確かバレンタインやクリスマスシーズンに男達がパートナーに買い求める人気のブランド下着があった筈だ。パラミタに帰ったらその手に詳しい部下の女達にメールを送ろうと、アレクは文面について考え出していた。
そんな風にぱんつで一喜一憂するものたちを横目にレティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は彼等の感情が理解出来ないでいた。
『されど下着』とはいえ、彼女からすれば『たかが下着』。以前露天風呂を利用した際に撮影されたにも関わらず一切気にしなかった剛胆な彼女が、『たかが下着』で喜んだり泣いたりという繊細な感情を分かる筈も無い。
レティシアの脳内をいつも締めているのは『戦い』ともう一つの事柄――。
「しかし下着か……サクラ履いておらぬか?」
質問している相手の『サクラちゃん』が人間だったら。
ベルクはそう思っていた。だってレティシアの聞いている相手は猫型獣人ニャンルーなのだから――。
「猫のぱんつを被っても意味あんのかな……。ま、いいや」
言って歩き出したアレクの肩を掴んで、ベルクは高速で首を振る。
「いやおいこらまて。これ絶対駄目だろ!? ポチやレティシアは放置でいいが……フレイがヤバい」
「うん? 見れば分かるよ」
「分かるよじゃなくて……。どうすんだよ! どうすんだよコレ!!」
妙に興奮した様子のベルクに、アレクは彼の気持ちを察してみる。考えるに――彼もきっとフレンディスのぱんつを被りたい! 否、正直断然中身の方が良いな! なんて思っているのだろう。だがそんな発言を彼女の前でした日にはだ、自分に対しても怯えられ逃走しかねない。とか……そんな所だろう。
「Oh...Poor thing!(嗚呼、不憫な奴!)」
少しの余裕も無さそうなベルクの後ろからフレンディスの手を引いて連れ出すと、アレクはポーチから何かを取り出して彼女の手に置いた。
「サングラス……でしょうか」
「色と輪郭がはっきりしなければ気休めくらいにはなるだろ。かなり度が強いし片方だけだから、気分が悪くなったら外せよ」
「はい」
おずおずと借りたサングラスをかけて、フレンディスはハッとする。眼鏡がコレと言う事は、持ち主のアレクは右目が殆ど見えていないのではないかと気がついたのだ。狼狽した様子で見上げると、アレクは何時もの平坦な声で「どっかで大人しくしとけ」と告げた。
そうしてフレンディスの元から去って行ったアレクの目に、国頭 武尊(くにがみ・たける)の姿が映った。
というか、彼の被るぱんつが映ったのだ。
「それは!!」
もの凄い勢いで駆け寄り、武尊の頭部を確認する。
ライトブルーのチェック模様、中央を飾る小さなリボン。――まごう事無き愛しい愛しい妹ジゼルのぱんつであった。
ギラギラと輝いている非対称の色に、武尊の肩が跳ねる。
パラミアンでのぱんつ窃盗事件を小耳に挟み、現場を訪れたところで事件に巻き込まれた彼は、即この世界に適応した。理由は説明するまでも無いだろう。
(コレはアレだ。大量のぱんつを合法的に確保出来るチャンスって事だ!)
そんな経緯で、武尊は早速自前のぱんつを頭に装備したのである。
それがジゼルのぱんつだった。それだけだ。だが兄の目に、妹のぱんつを被った男はどう映るだろう。心臓をバクバク言わせていた武尊の肩を、アレクが指が肉どころか骨に食い込む様な力で掴む。
「――いい匂いだろ」
「……え」
「ジゼルのぱんつ。いい匂いだろ」
「あ、お、おう。なんかフローラルな香りがするな?」
「だよな。そうだよな。ふふ……ふふふ……」
武尊の正しい回答に、お兄ちゃんはご機嫌な様子でその場を去って行った。
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