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リアクション
同日 同時刻 エッシェンバッハ派 秘密格納庫
「――と、いうことよ。どうかしら?」
格納庫の一角。
シュバルツタイプのパイロットたちがいつもの場所。
そこでコンテナの一つに腰かけていた天貴 彩羽(あまむち・あやは)。
彼女は立ちあがるなり、小型のデジタルビデオカメラをコンテナに置いた。
自分に教えてもいい事を語る録画データ欲しい。
彩羽は全パイロットが集まったこの機に、皆に向けてそう言ったのだ。
「我儘だってことはわかってるわ。でも、共に闘う人の事を知りたいのよ。エッシェンバッハ派の一人にしてもらえた者としてね」
パイロットたちを見つめながら、彩羽はなおも告げる。
「私は学生・契約者が利用されている支配体制を打倒して、学生が学生らしく生きれる国が目標。あなたたちも私とそう遠くない目標の為に戦ってると信じてるわ」
彩羽が言い終えると、真っ先に口を開いたのは来里人だ。
「いいだろう」
ただそれだけ言うと、来里人は愛機へと歩いていく。
残る面々も次々に頷き、愛機へと向かう。
最後に残った“蛇”は漆黒のパイロットスーツのポケットからガムを取り出し、それを口に放り込む。
ふと彩羽の視線に気付く“蛇”――法二。
「ほらよ」
彼は以前と同様、もう一つガムを取り出すと、彩羽のパイロットスーツのポケットに入れる。
「ありがと」
微笑を返す彩羽。
そこでふと彩羽は、かねてより気になっていたことを問いかけた。
「法二、あなたって意外とファンシーな趣味なのね」
「あン?」
「これよ、これ。あなたなら味も見た目もハードなガムが好きそうなものだけど」
ポケットに入れてもらったガムを取り出して掲げながら彩羽は問う。
法二からもらったガム。
それはブロック状で、複数枚が一つに包装されている板ガムとは違い、一個のみが包装されているだけだ。
ラベルにはアニメキャラクターの絵がプリントされ、味もかなり甘いし、食感もかなり柔らかい。
見るからに駄菓子然としたガムなのだ。
確かに、集中力向上や眠気覚ましなどの為、何かに臨む際にガムを噛むことは珍しいことではない。
だが、硬派な法二にしては些か、というよりかなり意外な趣味だ。
端的に言えば、硬派なイメージとは裏腹に子供っぽい趣味なのだ。
「ああ、ソレか」
ガムの包装紙をくしゃりと握りつぶしながら、法二は彩羽に語り始める。
「――ゲン担ぎだよ」
「験担ぎ?」
「このガムは当たりくじつきでよ。当たりがでると同じガムをもう一個タダでもらえるっつーシステムなんだよ」
初めて聞いた風な素振りを見せ、彩羽は純粋に驚いていた。
「もしかして知らなかったのかよ?」
驚きのあまりあんぐりと口を開け、危うくガムをこぼしそうになった“蛇”は慌てて口を閉じる。
「え、ええ……。家にあったお菓子にはこういったのはなかったし。駄菓子屋に買い物に行くようなこともあまりなかったし……」
「ハッ! さすが名家のお嬢サマは違ェな」
冗談めかして笑う法二。
「やめてよ。それで、当たりくじがあるガムなんだったわね?」
「ああ。つっても、殆ど当たりなんて入ってねェんだけどョ。ま、儲けの為のシステムなんだからそうに決まってらァ。ガキは知る由もねェ、大人の事情ってヤツだァな」
「あら。それがわかってるのにそのガムを買うの?」
「だからだよ」
「え?」
「ゲン担ぎっつったろ? “カノーネ”で出る前は、当たりくじじゃねェのを口に放り込んどくことにしてんだョ」
「?」
「イコンに詳しいテメェには改めて言うまでもねェがよォ。いかにグリューヴルムヒェンシリーズ、しかもシュバルツタイプがハンパなく頑丈で、ちょっとやそっともらってもビクともしねェからって、オレの“カノーネ”はそれ以上に火薬庫だからな」
そこで彩羽は法二が何を言わんとしているのか理解する。
一気に得心がいったようだ。
「――なるほど」
「そういうこった」
犬歯を剥き出す独特の笑みを見せると、法二はガムの包装紙をくしゃりと丸める。
そのまま格納庫の隅にあるゴミ箱に向け、包装紙を適当に放る法二。
法二は放った包装紙の行方を見届けることもせず、踵を返して機体に向けて歩き出す。
彼の背後で包装紙はゴミ箱の淵へと当たり、床へと転がった。
それを見た彩羽はクスリと笑うと、包装紙をつまみ上げる。
「案外、可愛い所もあるのね」
何の気なしに包装紙を開く彩羽。
そして彼女は絶句した。
「――!」
――殆ど当たりなんて入ってねェんだけどョ。
法二はそう言った。
現に、彩羽も法二が当たりくじのガムを出したのは見た事がない。
毎回包装紙の中身を見ている法二が未だにこの験担ぎを続けているあたり、きっと本当に出たことがないのだろう。
だが、法二が中身をろくに見もせずに放ったこの包装紙。
その中で、包装紙と一緒に丸められた薄い紙。
それにははっきりと『あたり』の三文字が書かれていた――。
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