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リアクション
一章 機甲虫は何を望む
暗い雨が降っていた。
空は灰色の雲に覆われ、地上のアルト・ロニアでは暗鬱たる様相を醸していた。
相次ぐ機甲虫の襲撃とサイクラノーシュの出現により、アルト・ロニアは今やゴーストタウンとなっていた。住民の多くはこの街から出て、ヒラニプラやヴァイシャリーに逃れていた。この場に残った者は年老いた者や行く当ての無い者、そして、アルト・ロニアからどうしても離れたくない者だけだった。
「この街も随分と変わっちゃったわね」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、初めてこの街を訪れた時のことを思い出した。
この街を訪れた2人はホテルでイチャイチャした後、機甲虫の襲撃に遭い……その後も、色々とあったものだ。
多少の紆余曲折はあったが、2人は今、この街でサタディ・サタディ(さたでぃ・さたでぃ)を捜索している。
「街中をさまようのはきっとワケありなんだろうけど……それを聞くのは後のことね」
「機甲虫・隠密型が街中に潜んでいる可能性もあるわ、気を付けていきましょ」
あらゆるレーダーを無効化できる機甲虫・隠密型と言えど、自分自身が発する熱を完全に消せはしないはずだ。セレンフィリティは籠手型HC弐式・Pのサーモグラフィ機能を使って辺りの熱源を確認しながら、歩を進める。
曇天より雨が滴る中、2人は廃墟の中で焚き火をしている老人を見つけた。一人黙々と火をくべる老人に近寄り、サタディの行方を尋ねる。
「この辺りで機晶姫は見なかった? 真っ白い服を着て、赤い眼をした子よ」
老人は鋭い目付きで2人を見返すと、重い口を開いた。
「……その機晶姫なら、あっちに行った」
「どんな様子だった? 出来れば、詳しく教えてくれないかしら」
「あの白い機晶姫は、雨宿りできる場所を探しているようだった……それ以上は知らん」
「ありがとう。協力に感謝するわ」
2人は礼を告げると、老人が指差す方角に向かった。
老人が指差した方角には、確か孤児院があったはずだ。アルト・ロニア復興の際に契約者のイコンによって作られた孤児院……あそこにサタディがいるというのだろうか。
「待って。何かいるわ」
雨水が流れる道路を足早に進む中、セレンフィリティが警告を発する。ほんの一瞬だけ、籠手型HC弐式・Pの画面に赤い点が映り、直後に青い点に変化した。
機甲虫・隠密型だ。こちらのサーモグラフィを察知して熱を隠蔽したのだろうが、もはや契約者にその手は通じなかった。
セレンフィリティが【神の目】を使い、潜む敵を炙り出す。合計3体。【神の目】の強烈な光によって暴かれた機甲虫・隠密型が、眩しさのあまり後退する。
即座にセレンフィリティが【ゴッドスピード】を発動し、反応速度を高める。続けてセレアナが融合機晶石【バーニングレッド】を使う。融合機晶石の力で電流を纏わせた銃弾を放ち、機甲虫・隠密型1体を感電させる。
1体の機甲虫・隠密型が突進してきた。セレンフィリティが両手の剣から【迅雷斬】を振るい、隠密型の体当たりを斬り払う。
最後の1体は――2体が戦闘している間に逃走していた。
死角から不意を打つかと思いきや、逃げ出すとは。敵の奇妙な行動に、2人は顔を見合わせた。
「変ね。どうして逃げるのかしら」
「敵の罠かもしれないわ。警戒して進みましょ」
機甲虫・隠密型がいつ襲いかかってくるか、どこで罠を張っているのかは分からない。
辺りを警戒しつつ、2人は慎重に歩を進めていった。
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は廃墟で物色していた。
「この置物は高そうであります」
吹雪は、サタディを捜索するという名目で火事場泥棒……もといアルト・ロニアで調査をしていた。なんだかお高そうな壺をリュックにしまい地下シェルターに向かおうとしたその時、背後から呼び止める声があった。
「ちょっと、そこで何をしているの?」
振り返ると、そこにはリネン・エルフト(りねん・えるふと)とフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が立っていた。
――なんということだろう! 丁度同じタイミングで、リネンらは火事場泥棒がいないか街中を見回っていたのだ!
「火事場泥棒は良くないな」
しかも、バッチリと火事場泥棒の現場を見られていたらしい。
2人から向けられる疑惑の視線に対し、吹雪は自信満々に答えた。
「これは盗品ではなく、戦利品であります!」
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