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リリー・ペラドンナの戦い

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リリー・ペラドンナの戦い

リアクション

 契約者たちの安堵は束の間だった。
 突然の拍手が契約者たちの表情を引き締める。
彼らは振り返った。そこには黒いレインコートの男がいた。
すっぽりと被ったフードの中には骸骨メイクを施した顔が浮かんでいて契約者たちをじっと見つめていた。
「レーゲン!」
 リリーは目を見開き声を上げた。
「やるじゃねえか、契約者。まさかお前たちが勝つとは思っていなかったぜ。まさか……まさかな、ふふふ」
 レーゲンは静かに笑いながら契約者たちの元へ近づいてくる。
「にしても嫌な天気だな。一雨振ってこなけりゃいいんだが……おっと!」
 目の前に煌く刃に驚いてレーゲンは素早く両手を挙げた。
彼の視線の先のセレンは【希望の光】を突きつけながらじっと睨み付けている。
「何か用かしら。護衛もつけずたった一人なんてにいい度胸してるわ」
「リリー知ってるのこの人?」
 ルカルカはリリーに訊いた。
「ええ、彼はレーゲン・ブリッツ。ドグマ教のナンバー2よ」
「ナンバー2!?」
「何だよそう睨むな。安心しろ。俺はお前たちと戦いにきたわけじゃない。プレゼントを渡しに来たんだ」
 レーゲンは【希望の光】の切っ先をつまんでと下げると、レインコートを開く。
内側には大小さまざまの知恵の輪がびっしりと括り付けられていた。
その中の1つを取り外し、ルカルカへ投げた。
「これは…・・・鍵?」
 確かにルカルカの手の中のそれは鍵に見える。
「ゴワンは地下に閉じ込められている」
 レーゲンは独り言のように呟いた。
「あの馬鹿力を閉じめている牢屋だ。魔法だろうが物理だろうが破壊することはできねえ。だが、この鍵なら簡単にカチャリだ」
「何が言いたいの?ルカルカたちにゴワンをた、」
「へっくし!」
 唐突にくしゃみをして鼻をすすった。
「……ルカルカたちにゴワンを助けろってこと?」
 一体何をするつもりだろう。レーゲンは両手を胸元に構えてを集中し始めた。
「トリニティ……」
 そして、
「ブラストォー!!」
 声を上げると契約者たちへ手のひらを向けた。
契約者たちは咄嗟に攻撃をガードするが、防御は無意味だった。契約者たちは全員目に見えない攻撃を受けてしまった。
――しかし、全員が無傷だ。ダメージは0だ。
 不思議そうな顔をしている契約者たち。その姿を見たレーゲンは「はっはっはっは!」と声を出して笑った。
 掛け声と手の動作だった。【トリニティブラスト】は出なかった。


 突如、レーゲンが影に染まった。彼の頭上に現れたのは、黒い翼の生えたペステだった。
頭の金色の炎、手には体長と同等の長さの槍。
大きな骨のカギヅメがレーゲンの両肩を掴むと、翼を羽ばたかせ、灰色の空へと上昇していく。
「風邪をぶり返すわけにはいかないんでな!一旦おさらばさせてもらうぜ。お前らとはまた会うだろう。そのとき正々堂々と戦ってやる!」
 翼から放たれる風圧で契約者たちはたじろぐが、なんとか体勢を取り直したセレアナが飛んでいくペステに銃を向けた。
「逃がさない!」
 銃口が火を噴き、放たれた【絶望の旋律】がペステへ飛んでいく。しかし、握りしめた槍で銃弾を切り払い、遠くへと飛び立っていった。
「……なるほど。雑魚とは違うみたいね」
「私も見たことがないタイプのペステだわ」
 リリーがペステが消え去った上空を見つめながら呟いた。
「うーん」
 不思議そうな声で唯斗が唸った。
「どうしたの?唯斗さん」
 クレアが訊ねる。
「いや。不思議だと思ったんです。先ほどの男……レーゲン・ブリッツから魔力を感じませんでした。
【トリニティブラスト】は放たなかったのではなく、放てなかったのでしょう」 
リリーは「パチパチパチ」と言いながら短く拍手をした。
「そう。ご名答よ。レーゲンに特別な力はないのよん。生まれつき魔法を使うことができないし、体も弱い。
――正直ぶっちゃけちゃうとドグマ教の下級戦士のほうが格段に強いわね」
「……信じられません。奴が組織の2番手だなんて。それとあの髑髏のメイクには何か意味があるのですか?」
「さあ?単なる趣味なのかそれとも何か意味があるのか分からないわ。そういえば昔からあのメイクだわねぇ。
実は私もレーゲンの素顔は見たことないのよぉ。……いえ私どころか組織の誰一人としてレーゲン素顔は見たことはない
……あ、違うわ。確かウェスペルだけは知っているって聞いたわ。そういえば、ウェスペルはやたらレーゲンを慕ってたわね」
「待たせたな。鍵の分析が完了した」
 ダリルが契約者たちに言った。
「おーさっすが仕事が早いじゃん。それでどうだった?」
 ルカルカが訊くとダリルの表情が曇った。
「特に仕掛けはなかった。こいつはただの鍵だ」
「本当に?」
「ああ。特別な魔法が掛かってるわけでもないし、怪しい仕掛けがあるわけでもない。
この妙な形状は知恵の輪を改造して作ったんだろう。でも何かこれといって意味はなさそうだな」
「ただの鍵……うーん、それはそれで怪しいなぁ」
 美和が不思議そうに言った。
「でもここで考えても埒があかない。敵はこの先にいるんだ。進むしかない!」
 コハクが力強く言うと契約者たちは頷いた。
「レーゲンとウェスペルさえ抑えてしまえばドグマ教もお終でしょうねぇ。活動拠点はもはやここだしぃ。
ゴワンも組織に愛想が尽きてるみたいだしぃ。よし。そうときまったらゴワンを助けなきゃ!いっ!」
駆け出そうとしたリリーだったがその場に崩れてしまった。ルカルカは慌ててリリーの体を支える。
「いたたた。ウェスペルの奴……まったく無茶してくれたわねぇ」
「駄目だよリリー。ボロボロなんだよ体。あとはルカルカたちに任せて!そいうわけで優里。リリーを頼むわ。一旦撤退して体を休めて」
「分かったわ。悔しいけど私とリリーは一旦イルミンスールへ戻る。その間に他の契約者たちに応援を送っておくわ」
「悔しいけど無理は禁物……ってとこね。気をつけてちょうだい。基地内には多くのペステたちがいる。それにウェスペルとレーゲンも」
「大丈夫、私たちは負けないわ!行こう、みんな決着をつけに!」
 クレアがみんなに渇を入れた。そして契約者たちはウェスペルたちが待ち構える神殿へと走り出した。
 ――もうじき雨が降るだろう。曇り空は一層暗くなった。


担当マスターより

▼担当マスター

藤松 明

▼マスターコメント

 皆さんのおかげでリリーを助けることに成功しました。
しかし、まだ戦いは続きます。ドグマ教の神殿にはレーゲンとウェスペルが待ち構えています。
次回をご期待下さい。

▼マスター個別コメント