First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
■七夕祭り・1
天の川が美しい夜空の下、七夕祭りの参加者の多くは七夕定番の笹飾りや短冊に願い事を書いたりして楽しんでいた。実は用意されている催しは笹を飾る事だけではない。
祭りが始まり随分時間が過ぎると花火が打ち上げられ、さらにそれから少しして騒ぎ事が好きな双子がキャンプファイヤーを開催する予定である。ちなみに花火は双子が担当しようとしたが惨事になると危惧した他の参加者が担当する事となった。
「これが新婚旅行の代わりだね、内緒だけど。七夕というのが素敵だね(知った顔の人もいて結婚の事知っている人もいるけど口外しないようにして貰っているし、大丈夫ね)」
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は嬉しそうに隣のアデリーヌに話し掛けた。七夕というのは織り姫と彦星の恋物語。実は二人結婚したばかりなのだが現役アイドルのため誰にも話していない。
「そうですわね。恋物語がテーマの七夕に参加なんて」
アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)も口元に微笑みを湛え、嬉しそう。
「それにしては賑やか過ぎるけど」
さゆみは悪戯っぽく賑やかな祭りの様子にクスリすると
「ですわね」
アデリーヌも笑みで返した。
「まずは笹飾りと短冊に願い事しなきゃね」
「七夕ですものね」
さゆみとアデリーヌは七夕定番のイベントに参加しに行き、同じく参加する者と一緒に笹飾り作製を楽しんだ。
「……やっぱり、七夕祭りだけあって浴衣の人が多いわね」
浴衣姿の水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)はあちこちで祭りを楽しむ浴衣の参加者を眺め歩いていた。
「……そうね(お揃いの浴衣を着ているはずなのにどうしてこうも印象が違うのかしら)」
ゆかりとお揃いの浴衣を纏うマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)は頷きながらちらりと隣のゆかりを盗み見た。同じ着物でもゆかりは黒髪のしっとり清楚な印象の浴衣美人、マリエッタはふわりとした華の妖精のような可愛らしさが前面に出ている。美人と可愛いで十分二人共魅力的だが。
そんな時、
「早速、笹飾りを作ったり短冊に願い事を書きに行きましょう」
ゆかりが浜辺のあちこちに設置された笹に気付き、誘った。
「……願い事……そうね」
ゆかりの誘いに我に返ったマリエッタは笹に飾られた短冊を見るや何事かを思いつき、力強く賛成した。
笹の前。
「まずは笹飾りからね」
「定番に輪っかや星とかを作るのね」
ゆかりとマリエッタが願い事を書く前に笹飾り作製に入る。
その時
「天の川を見立てた網飾りやちょうちんに……七夕だから織り姫と彦星のイラストもどう?」
「ふきながしや星綴りにひし形綴りにわっかもどうです?」
同じく笹飾りを作ろうとしていたさゆみとアデリーヌが加わった。
「いいわね。折角の七夕だし」
「手伝うわ。分担して作りましょう」
ゆかりとマリエッタは即賛成した。
「えぇ」
さゆみもまた楽しそうに言った。
「早速作りましょう」
いつの間にかアデリーヌが飾り用の用紙を大量に用意して来た。
そして製作に入った。
「あの双子がこの祭りの主催者というのが……キャンプファイヤーをするって聞いたから歌おうと思うけど邪魔されそうな気がして」
「キャンプファイヤーに歌って賑やかね。あの双子あちこちで悪戯をしでかすわね。間違い無く」
さゆみとゆかりは知り合いである双子のヒスミ・ロズフェル(ひすみ・ろずふぇる)とキスミ・ロズフェル(きすみ・ろずふぇる)について話ながら笹飾りを作り始めた。
ようやく大量の笹飾りが完成。
その中でも
「……アディ、凄い、流すのもったいない」
アデリーヌの出来が素晴らしくさゆみは嬉しそうに手を叩いた。
「……そうかしら」
褒められたアデリーヌは恥ずかしそうに頬を染めていた。さゆみも元々細かい物を作るのは好きだがアデリーヌは凝り性なので飾り物一つ作るにも手は抜かず美しい物を作り上げたのだ。繊細な人柄をしのばせるなものを。
「……確かに流すのがもったいないわね」
「とても綺麗よ」
ゆかりとマリエッタも褒める。
「ありがとうございます」
皆に褒められたアデリーヌは嬉しそうに礼を言った。
それからそれぞれ短冊に願い事を書き始めた。
「笹飾りも出来た所だし。さあ、私はどんな願いにしようかしら(今は色々と大変な状況みたいだし……だからこそ……パラミタと地球の絆がこれからも途切れないように……これかしらね)」
短冊を手に何を書こうかと考えた末、ゆかりはある願いを記した。
一方、
「……願い事(まずは……カーリーみたいな美人になりますように!)」
マリエッタは先程ゆかりを盗み見た時に感じた事を短冊に書き込んだ。
それで終わりと思いきや
「次に……」
新たな短冊に“カーリーみたいに料理がうまく作れるようになりますように!”や“中学生体型から卒業してスク水以外の水着が着れるようになりますように!”など煩悩に満ちた願い事を次々と書いていた。
そこに
「マリー、書けた……って」
マリエッタの案配を訊ねようとしたゆかりは親の敵のように鬼気迫る様子に言葉が止まり、マリエッタが書いた短冊を数枚手に取った。
そして
「……来年こそは胸が大きくなりますように! パラミタサマージャンボ宝くじが当たりますように! って凄いわね」
煩悩に満ちた願い事を読み上げた。
「……カーリー、もう書けたの?」
マリエッタはゆかりに気付いた。
「えぇ、マリーは……まだ掛かりそうね」
ゆかりは頷きながら熱心なマリエッタに苦笑しながら案配を訊ねた。
「えぇ。あれもしたいしこれも欲しいしそれも見たいしで……煩悩が多すぎてたまらないわ!」
答えながらもマリエッタは手を止めずに思いつく限りの煩悩を次々と短冊に書きまくるのだった。呆れそうなくらいにわくわくと夢や憧れを並べ立てる。
「……そう(願いを叶える神様もどれだけ願いするんだって呆れているかもしれないわね)」
ゆかりは呆れながらマリエッタが書き終わるのを待った。
しばらくして書き上がり無事に笹に飾った。それから二人は食べ歩きをしたりキャンプファイヤーを楽しんだりと気ままに七夕を楽しんだ。
もちろん、
「……どこでも星は綺麗ね」
「そうね。海にも映り込んでとても綺麗ね」
ゆかりとマリエッタも七夕祭りらしく星を楽しむ事も忘れない。
「……地球とパラミタで見る星座の形は違うわね。星にはそれぞれ伝承があって、あれは……」
『博識』を有するゆかりは星々を指さしながら星座の違いや星の伝承話を語ると
「そうなのね」
ゆかりが指し示した星座に目を向け、マリエッタは楽しそうに耳を傾けた。
そうやって七夕祭りを楽しんでいる内に次第に夜明けを迎え、笹流しが行われた。
「……想像した以上に綺麗。まるで願い事が天に昇っている感じ(一生忘れる事は出来ないわね)」
「……本当にそうなればいいけど……本当に綺麗(一生忘れられないわね、この光景)」
ゆかりとマリエッタは短冊や笹飾りの紙が海水に触れて光の粒子となり空に還る幻想的な光景を食い入るように見つめていた。
笹飾りを完成させた後
「まずは皆がハッピーになりますようにとサマーライブが成功しますようにだね」
さゆみはさらさらと願い事を書き、
「これで大成功ですわね」
アデリーヌは書き上げた短冊を楽しそうに読み上げた。
それから二人はそれぞれ自分の一番の願い事を書き始めた。
「……(やっぱり願い事といったらこれしかないわね)」
さゆみはちらりと最愛の人の横顔を盗み見し、幸せが自分の側にいる事を実感しつつ一番の願いを書く。
「……(書く願い事はただ一つ……さゆみと一緒に過ごせる時間がどんなに短くとも……有限であるからこそ逆に永遠に繋がる事が出来る……だからこそわたくしはさゆみと一緒に生きる事を選んだのですもの)」
アデリーヌはじっと短冊を見つめ考える。永遠に等しい命を持つ吸血鬼の自分と人間であるさゆみとのあまりにもかけ離れた寿命を。それでも別れずに共に生きる事を選んだのはこうして幸せを感じるから。溢れるさゆみへの想いを込めて願い事を書いた。
書き上がると
「……アディとこれからもずっと一緒にいられますように」
さゆみは書いた願いを読み上げ
「……わたくしもですわ」
アデリーヌは“いつまでも変わらぬ愛をふたりで……”と書かれた短冊を見せた。二人は改めて変わらぬ愛を確かめ誓い合った。
互いに顔を見合わせ
「アディ」
「さゆみ」
微笑んだ。大切な人と想いが一緒。互いに思い思われている事がとても嬉しい。
そして二人は笹に隣り合わせに短冊を括り付けてから
「アディ、屋台を見に行こう。キャンプファイヤーまで時間あるから」
「えぇ、折角の七夕祭りですもの。楽しまないと損ですわね」
さゆみはアデリーヌは時間まで屋台を食べたり飲んだり楽しむ事に。
First |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last