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“蛍”シリーズ【第七話】、【第八話】、【第九話】、【第十話】

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リアクション

 同時刻 イルミンスール魔法学校

 ゼクスとなるパイロットの駆る金色の“ツァオベラー”。
 そしてそれが率いる銀色の機体。
 彼等に襲われたイルミンスール魔法学校はピンチに陥っていた。

 残ったのはわずかなアルマイン隊と、漆黒の“ツァオベラー”を改修した機体。
 ――シュバルツ・グリューヴルムヒェン“ツァオベラー・ザルバイ”。
 そして、二機の戦闘機だ。
 
 先の決戦で、大破した念竜と彩竜。
 無事だったパーツで何とか修理できたものの、できあがったのは二機の戦闘機だった。
 
「皆様の避難は大丈夫でしょうか?」
 歌菜が呟くと、タイミング良く清 時尭(せい・ときあき)から通信が入る。
 
『避難誘導は問題ない。引き続き任せてください』
 
 まりあ達を死なせまいと、自ら彩竜への搭乗を申し出たウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)
 彼らもまた、彩竜を改修した戦闘機に乗っていた。
 
『ずっと気になっていたんです。アカーシ博士が言っていたこと』
 歌菜はそう切り出す。
『念竜と彩竜を作った博士は、超能力者や魔法使いを、常人の脅威となる存在だって怖れていたんだって。でも、もしかすると本当はそうじゃないんじゃないかって』
 歌菜は静かに語り続ける。
『きっと博士は、そうした人々とごく普通の人々が仲良く暮らせる世界を望んでいたんじゃないか――そう、アカーシ博士は言っていました。だから、ようやくわかったんです』
 
 その言葉だけで事情を理解したのか、ウォーレンは既に得心した様子で応える。
『わかった。ならばもう一度試してみよう』
『はい。合体をお願いします』
 
 歌菜の言葉に合わせ、二機は動き出す。
 そして、二機は空中で変形したのちに合体。
 一機のイコンとなる。
 
 合体を終えた直後、イコンのカメラアイが緑色の光を発する。
 念竜と彩竜の力を受け継ぐ機体――心竜がここに起動したのだ。
『やっぱり……! 思った通りです!』
『……本当に動いた! だが、どうして……?』
 問いかけるウォーレン。
 それに歌菜が答える。
『この機体には作った博士の願いが込められているなら、魔法や超能力を使えると人と、そうでない人が一緒に乗った時。きっと動くようにできているはず。そう思ったんです。直感ですけどね』
『なるほど。だから能力者のみを乗せたテスト時には動かなかったのか』
 
 すると通信が割り込む。
 
『話は済んだ?』
 通信の相手はゼクスだ。
 
『ええ。もちろん』
 応対する歌菜。
 直後、信じられない出来事が起こった。
 
 金色と銀色の機体が放った攻撃。
 その標的であるアルマイン隊の前に不可視の障壁がことごとく出現したのだ。
 そればかりか、金色と銀色の機体が張った筈の不可視の障壁が消え、アルマイン隊の通常攻撃が直撃しているのだ。
 
『なるほど。常人への超能力の付与。ならびに超能力の無効化ですか。確かに垣根を取り払う能力としてはまさにその通りですね』
 冷静に分析するシン。
 
 一方、危機に陥ったゼクスは恐慌状態に陥りながら、あるものを取り出した。
 スミスから渡されたメモリーカード。
 危機に陥ったら使用するようにと渡されていたそれを、コクピットのスロットに挿入する。
 
 直後、彼の心に凄まじい恐怖心、そして怒りと憎しみがなだれ込んだ。
 まさかそれが渇竜に搭載されていたT-5システムだとはついぞ知らないまま、ゼクスは理性を失った。
 
 理性を失い、暴走した彼の超能力は辺り一面を見境なく蹂躙していく。
 もはや災害のように荒れ狂う彼の超能力を前に、イルミンスールの防衛隊はなすすべも無い。
 
 迂闊に近付けない状況の中。
 無我夢中になった歌菜に応えるように、心竜は暖かな光の力場を放つ。
 その力場はやがて辺り一面を包み込んだ。
 
 暖かな光に包まれた精神世界で、歌菜はゼクスを見つけた。
 膝を抱えて泣いている彼にそっと歩み寄ると、歌菜はその肩を抱いてやる。
 そっと肩を叩きながら、歌菜は優しく言葉をかける。
 
「大丈夫。大丈夫だから」
 
 そのおかげかゼクスの暴走は収まり、そのまま彼はふらふらとした足取りの金色の機体で撤退していく。
 光の力場のおかげか、銀色の機体も同様に撤退していった。
 
 無事、イルミンスールは守られた。
 だが――
 
『歌菜! 歌菜ッ! 大丈夫かっ!』
 歌菜は意識を失っていた。
 それもそのはず。
 ゼクスを救う為、歌菜はT-5システムの負の感情をすべて自分の心に受け入れてしまったのだ。
 
 意識不明となった歌菜。
 彼女が目を覚ます様子は、ない。