リアクション
葦原島の休日 葦原島の山奥。そこはまさに、人跡未踏とも呼べる原生林が広がる地域でもありました。 それゆえに、わざわざそういう場所を好んで修行をしに来る者もいます。特に、奥義と呼べる物を極めようとする者たちは、人目をはばかる傾向にありした。 「というより、未完成であがいてるとこを見られたくないものなあ……」 原生林の一部が開かれた場所に立って、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がつぶやきました。 おそらくは、同じように修行をしに来た者たちによって環境破壊――修行場所が切り開かれたのでしょう。 現在の紫月唯斗の命題は、一撃の威力の強化です。 普段の戦い方が高速戦闘を基準としたものですので、結果的にヒットアンドアウエイになりやすいことにがあります。それはそれでいいのですが、手数で勝負すると言うことは戦闘時間の増大を意味するので、クリティカルな攻撃ができなければ相手にも対応するための余裕を与えかねないのでした。 「とりあえず、大技でいくかな……」 手頃な大岩を見つけると、紫月唯斗は金剛鬼神功を放ちました。練りあげられた闘気の塊が、大岩を粉砕します。 確かに威力は大きいです。ですが、本来は対イコン用の技です。逆に大きすぎる威力が、対人用としてはネックになります。もしも、周囲に味方がいれば、確実に巻き込んでしまうでしょう。 「決め手とするには、限定的すぎるな……」 それに、ある程度の汎用性がなければ、簡単に手の内を読まれてしまいます。 小回りが利くようにと、今度は爆炎掌を試してみます。 確かに、使い勝手はいいのですが、やはり一撃は弱くなります。しかも、連続して使うには、やはり限界がありそうです。最大で16発が限度でしょう。実際には、他のスキルとの兼ね合いもあるので、さらに少なくなるはずです。 「手数で勝負するには、敵を圧倒するしかない。だが、圧倒できる敵であれば、手数は必要ない。やはり、ここぞという必殺技がなければ。うーむ……」 先ほど破壊した岩の上で、頭だけで倒立して座禅を組みながら、紫月唯斗は考え込みました。 「だめだ、分からん……」 コロンと、岩の上から転がるようにして大地に立ちます。実際、ヘタな考え休みに似たりというところでしょうか。 「こう、敵の急所みたいな所へ、ボンと一発……」 そうぶつぶつつぶやきながら、爆炎掌のグローブを填めた手で、近くの大木にもたれかかりました。そのとたん、大木がその中心から炎を噴き上げて爆散します。 「えっ?」 自分でも驚いて、紫月唯斗が木っ端微塵になった大木と自分の手を交互に見くらべました。 「なんだ、やればできるじゃないか。よっしゃあ、もう一度!」 今度は気合いを込めて、別の大木を殴ってみました。爆炎掌から炎がわきあがり、殴られた大木が炎につつまれます。けれども、これは、先ほどとは違って、通常の威力です。 「なんでだ? さっきは、ちょっと触れただけで、凄いことになったのに!?」 わけが分からないと、紫月唯斗が頭をかかえました。 「ちょっと触れただけ? 俺は、何に触れたんだ?」 ふと、思いついて、紫月唯斗がない知恵を絞ってみました。 そう、無心で何かに触れたのです。では、何に触れたのでしょう? 「わかんねー」 紫月唯斗が頭をかかえました。 おそらくは、よけいなことを何も思わなかったために、かえって相手の本質のみが見えたのかもしれません。 「きっと、急所か何かが見えたんだよな。よし」 急所、急所と念じながら、紫月唯斗が拳を繰り出しました。それすらも邪念であることに、まだ気づいてはいません。 やがて、日が暮れてきましたが、答えはいっこうに出ませんでした。答えを求めることもまた、紫月唯斗の場合は邪念です。いったい、どれだけ、邪なのでしょうか。 とにかく、何も考えないで攻撃すれば、それが必殺の『我が一撃』になると紫月唯斗が結論づけたのは、それから数日後のことでした。 ★ ★ ★ 「私塾でございますか?」 アマオト・アオイの言葉に、散楽の翁がうなずきました。 「無事にお前たちも揃い、ひとまずはやることがなくなった。そこで、今後は後進を育てようと思う」 コウジン・メレの救出も叶い、今後は次代の散楽の翁を育てて名を譲ろうと言うのです。 「隠居でございますか?」 タイオン・ムネメが、クスリと笑いました。 「わーい、隠居です」 意味が分かっているのか、シンロン・エウテルペが喜びます。 「で、お前たちには、その準備をしてほしい」 微笑みながら、散楽の翁が十二天翔たちに言いました。 「開塾の手配ですね」 リクゴウ・カリオペがメモをとります。 「それは、面白そうですね。興味深いです」 ショワン・ポリュムニアが興味津々で、軽く眼鏡をあげました。 「どんな人が集まるのかなあ」 テンコ・タレイアが期待半分、不安半分に言います。 「きっと、変わった人たちが集まりますよお」 タイモ・クレイオが興味を示します。 「よし、びっしびっしきたえるぞう」 テンク・ウラニアも乗り気です。 「では、さっそく各都市に募集をかけませんと」 タンサ・メルポメネが、チュチュエ・テルプシコラとパイフ・エラトと共に募集の手配をしに行きました。 ★ ★ ★ 『ニルヴァーナ行き、定時航路、まもなく開きます。ヴィムクティ回廊に侵入予定の艦船は、指定位置で待機してください』 ゴアドー島の空間港にアナウンスが響きました。 ゲートリングがゆっくりと回転を始め、各パーツが分離して広がっていきます。 巨大機動要塞が増えたことと、輸送量の増加によって、ゲートの拡大は急務でした。 幸いにも、ニルヴァーナで発見された空間港の遺跡から得られたデータにより、ゲートの機能の拡張が実現したのです。もともと、ゲートブロックがいくつかのパーツに分かれていたのは、ゲート自体が構造物として巨大すぎたためと思われていました。けれども、それ以上に亜空間口を必要によって拡大するための機能だったようです。 分離したゲートの各パーツは、それぞれをエネルギーフィールドで接続することによって、一時的にではありますが、空間の裂け目を拡大することが可能だったわけです。これによって、現存する機動要塞クラスであれば、よほどの巨大浮遊島クラスでなければゲートを通過してニルヴァーナと行き来することが可能となりました。 「新婚旅行とは、お気楽極楽ですわね」 マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)とホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)を見送りに来ていたお嬢様が、ゲートに吸い込まれていくシャトルを見つめながら言いました。 「いいじゃないか、結婚したんだから、当然だろう?」 何が気に入らないんだと、キーマ・プレシャスが訊ねます。 「だって、玉の輿で持参金ががっぽりと思っていましたのに、入り婿になると言うのですよ、まったく!」 あてが外れたと、お嬢様がぷんすかします。 なんでも、ホレーショ・プレシャス・ネルソンになるのだと言います。これでは、財産をしゃぶりにくいではないですか。 「やれやれ」 キーマ・プレシャスが振り返ると、執事君とメイドちゃんも肩をすくめるばかりでした。 |
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