イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

学生たちの休日18

リアクション公開中!

学生たちの休日18

リアクション

    ★    ★    ★

「それで、伯爵の企画って言うのは、人気なのか?」
「さあ、そうは見えないが、まあいいんじゃないのかな?」
 オプシディアンの問いに、ジェイドが興味なさそうに答えました。
「まあ、先の傭兵代も入ったことですし、いいじゃないですか。ところで、エメラルドはどこへ行ったのですか?」
アクアマリンを引きずって、どこかへ行ったようですが」
 やれやれと、アラバスタールビーに答えました。
「相変わらず仲がいいねえ」
 それはどうかなと、オプシディアンが肩をすくめました。
「また、面白い話を仕入れてきてくれるといいんですがねえ」
 ルビーが、微笑みながら言いました。

    ★    ★    ★

「まだ、イケルであります」
 アトラスの傷跡近くの山奥にポツンとおかれた伊勢の艦橋の中で、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がつぶやきました。
 とはいえ、そこにあるのは艦橋だけです。伊勢の船体は、雲海の底にバラバラになって沈んでいます。
 先の戦闘後に、エステル・シャンフロウ(えすてる・しゃんふろう)らの温情によって、フリングホルニでここまで運んでもらったのでした。
 デュランドール・ロンバスは、放置しておけばいいという考えでしたが、一応の戦果は上げましたし、何よりも伊勢を敵にぶつけたので、ちょっと申し訳ないとでも思ったのでしょう。フレロビ・マイトナーニルス・マイトナーの乗るヴァラヌス・フライヤーでフリングホルニ底部に繋留して、グレン・ドミトリーの指揮の下に輸送が行われたのでした。
 もちろん、輸送が終わったら、フリングホルニはさっさと帰国しています。
「今度こそ必ずやリア充を! 街を! 火の海に!」
 葛城吹雪は、また何やら悪巧みをしているようでした。
「そのために、犠牲になってもらうであります。なあに、新しく建造する日向の心になってもらうだけであります。ふふふふふふふ……」
「何をする、放せ、放さんか〜」
 手術台の上に縛られている鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)を見下ろして、葛城吹雪が言いました。
「我をどうするつもりだ!」
「電脳を取り出して、日向のメインコンピュータに移植するだけであります。機晶制御ユニットと、何ら変わりないでありますよ」
 ただ、一生そこからでられないがなと、葛城吹雪が心の中でつけ加えました。
「それでは、手術開始でありま……うぼあっ!」
「話はすべて聞かせてもらったあ!」
 間一髪、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が葛城吹雪を蹴り倒しました。手には、何やら謎ファイルが握りしめられています。
 時間は少し戻ります。伊勢の修理費捻出のために、コルセア・レキシントンは伝票類と戦っていました。
「何よ、このバカ高い傭兵代って……」
 コルセア・レキシントンが頭をかかえます。
 やっぱり、ここは直接文句を言いに行くしかありません。
 艦長室に怒鳴り込むと、葛城吹雪の姿はそこにはありませんでした。代わりに床に落ちていたのは、一冊のファイルです。そこには、伊勢型二番艦日向の建造計画と、量産された伊勢タイプの艦艇を使った八八艦隊建造計画が記されていました。しかも、鋼鉄二十二号をコンピュータユニットに使うとまで書いてあります。
「いったい、いくらかかると思ってるのよ、あの馬鹿たれは!」
 艦長室を飛び出したコルセア・レキシントンは、鋼鉄二十二号が囚われているだろう作業室へと飛び込んできたというわけです。
「さあて、どうしてあげようかしら」
 鋼鉄二十二号を助け出すと、倒れている葛城吹雪を見下ろして、コルセア・レキシントンが言いました。
「メインコンピュータユニット」
 ボソリと、鋼鉄二十二号がつぶやきました。でも、多分予算がありません。
「さあてと……」
 コルセア・レキシントンと鋼鉄二十二号が葛城吹雪に手をのばそうとしたときでした。微かに、何か山が崩れ落ちてくるような音が聞こえてきました……。

    ★    ★    ★

「さて、ここなら、誰にも迷惑はかからないわよね」
 シャンバラ大荒野の一画で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は周囲を見回して言いました。少し離れた所にアトラスの傷跡が見える他は、これといって人影のようなものもありません。ここであれば、ちょっとした腕試しにはもってこいです。
「さあ、じゃあ、今日は、みんなの到達した真の姿を見せてもらうわよ」
 ルカルカ・ルーが、それぞれの神髄を究めたと言ってきたパートナーたちを見回しました。その言葉に、一同が自信ありげにうなずきます。
「それじゃ、まずは私から始めましょう」
 そう言って、魔鎧のニケ・グラウコーピス(にけ・ぐらうこーぴす)が進み出ました。
「私は貴女を守る鎧、貴女の翼、貴女を支える命の伊吹……」
 そっと胸元に両手をあてたニケ・グラウコーピスの身体が虹色の光につつまれていきました。その輝きの中、蒼い鳥の羽が乱舞して、ニケ・グラウコーピスの姿を周囲の視界から隠します。一陣の風が吹くと、ルカルカ・ルーの前に、白銀の翼持つ黄金の鎧が現れました。二人の間に、ゆっくりと無数の蒼い羽根吹雪が舞い散ります。
「私を纏いしは……」
「私……」
 ニケ・グラウコーピスの言葉にルカルカ・ルーが答えます。舞い散る蒼い羽根を吹き散らして、魔鎧がルカルカ・ルーの身体をつつみ込みました。
「じゃ、今度はアコね。私の名は?」
 装着した魔鎧の調子を、手をにぎにぎして確かめているルカルカ・ルーに、ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)が聞きました。
「ええっと……」
「もう! さっき教えたでしょ」
 しょうがないなあと、ルカ・アコーディングがルカルカ・ルーの耳許に唇をよせてささやきました。
「そうそう、エルダー・アポカリプス!」
 ルカルカ・ルーがルカ・アコーディングの真名を口にしました。そのとたん、ルカ・アコーディングが背中の翼飾りごと広げた両手を大きく振って身体の前であわせました。まるで本を閉じるように、その姿が本来の魔導書のものとなり、するすると小さくなってルカルカ・ルーの胸元に隠されたペンダントに、光と共に吸い込まれていきました。同時に、ルカルカ・ルーの頭上に現れた三色の魔方陣が、回転しながらスーッと足許へと下りていきました。そこで三つの魔方陣が一つとなり、一気に広がって大地に色鮮やかな輝く魔方陣を刻みました。
 ルカルカ・ルーが、膨大な魔力と知識をその身に感じます。
「最後は俺だな。受け取れ!」
 コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が大きくジャンプして叫びました。
 伸身したその姿が、斧槍の姿に変化します。そのまま落下してきたハルバードが、音をたてて大地に突き刺さりました。その切っ先から、斬撃の氣圧が周囲へと広がっていきます。
『これからは、星脈の精髄と呼んでくれ』
 コード・イレブンナインが言いました。
「了解」
 軽く答えると、ルカルカ・ルーが片手でコード・イレブンナインを取りあげました。見た目とは違い、ほとんど重さを感じません。なのに、振り下ろすと、重い一撃の手応えを感じます。
『さてと、さっそく私たちを試してもらうわよ。イメージは分かってるわね』
 ニケ・グラウコーピスに、ルカルカ・ルーがうなずきました。
 言葉にされなくとも、それぞれの使い方がイメージとして浮かんできます。ルカ・アコーディングの力で一瞬にして高空へと登ると、ルカルカ・ルーはコード・イレブンナインを大きく振り上げました。ルカルカ・ルーの真下の大地に巨大な魔方陣が浮かびあがり、七色の光をコード・イレブンナインにむかって放ちます。その膨大なエネルギーを一点に集中させて、ルカルカ・ルーが前方へと放ちました。
 遥か遠くにある山腹に直撃し、軽い山崩れが起きます。下に何かあったら、今ごろは生き埋めです。
『やり過ぎ』
『あーあ』
『俺のせいじゃないぞ』
『えー、だって……』
 試しただけだよと、ルカルカ・ルーがパートナーたちに弁明します。
 これ以上環境破壊してはまずいので、いったん攻撃態勢を解除して反省会という名のお茶会です。
「なんだか疲れちゃった……」
「お疲れ様」
 張り切りすぎたルカルカ・ルーの身体を揉みほぐしながら、ニケ・グラウコーピスが言いました。側では、ルカ・アコーディングがルカルカ・ルーたちなどお構いなしに、ドンドンとお茶の準備をしていきます。
 その陰で、さっきの攻撃で何かが下敷きになったらしいとの報告を、調査に出した調律機晶兵たちから受けたコード・イレブンナインが密かに頭をかかえていました。