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リアクション
秋のお茶会は、中庭の見える一室で行われていた。
彼らが会場に到着した時、既に白百合会と主だった面々は準備を終えて来客を待ち構えているところだった。
ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)が美貌を保つのはともかく、桜井 静香(さくらい・しずか)の容色が全く衰えず、どころか未だに美少女なのにはあの御神楽 環菜(みかぐら・かんな)ですら驚く――というか、驚いたと後に夫・御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に語った。
今日、御神楽夫妻は、5歳になった娘・陽菜と、陽太のパートナーエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)と共にお茶会に招待されていた。
仕事である鉄道事業関係でなら度々訪れていたが、こうしてのんびりするのは久しぶりだ。
ラズィーヤと静香に丁寧に挨拶をすると、五人は奥まった窓の近くの席を案内された。
「陽菜ちゃん、前にあなたも来たことあるのよ。覚えてるかしら?」
歩きながら母親の環菜が優しく聞くと、陽菜は答えた。
「おぼえてないよ」
「……そうよね、まだ小さかったものね。一歳じゃ覚えてないわよね」
「一歳って赤ちゃん?」
「そうよ、陽菜も昔は赤ちゃんだったのよ」
「赤ちゃん見たい、ねぇママ、赤ちゃんおうちにいないの?」
両手を伸ばして環菜の両手を引っ張りつつ、背伸びして見上げてくる陽菜。環菜はそうねと誤魔化すと、陽太と顔を見合わせて二人困ったように照れるように笑った。
ラズィーヤは席まで彼女たちを案内しながら、扇子の後ろで微笑む。
「……すっかりお母さんが板についてますわね。どうかしら、せっかくですし野球チームが作れるくらい?」
「もう、ラズィーヤさんったら、お客さんに失礼だよ!」
静香が何故か顔を赤くして諌める。静香も自身のことがあって結婚だの出産だのはセンシティブな話題らしい。
「ふふふ、でも大きくなりましたのね。子供は成長が早いですわ」
「そうだね」
以前会ったときにはまだ歩くのも危なっかしくて、お喋りを始めて上手になってきて……と赤ちゃんぽかった陽菜も、今では余所行きのパンプスの足でしっかりお行儀よく歩いている。
席に座れば両手をそろえて膝に乗せる陽菜。金髪のセミロングがとても似合っており、とても可愛らしい。
外では礼儀作法もわきまえ、ほぼ何でも水準以上にこなしている。その反面、家ではかなりの甘えんぼさんなのだが、そこも可愛い。……つい、陽太は親馬鹿の顔になる。そして、
「陽太、曲がってるわよ」
環菜の手が伸びてきて、ネクタイを直してくれる。……つい、照れて、愛妻家の顔になってしまう。
要するに今も御神楽陽太はとても幸せなのだった。
「……陽太?」
「あ、いえ。……ええと。こほん」
陽太は軽く咳払いをすると、一家の主らしく背筋を正す。
そして白百合会の関係者だろうか、スタッフの女子生徒たちが淹れてくれるお茶やお菓子を会話と楽しみながら、彼は父親らしいところを見せた。
「百合園女学院生徒のマナーの良さには感心します。来年から陽菜は蒼空学園に通いますが、いつか体験入学的にお世話になっても良いかもしれませんね。もちろん、本人が望めば、ですが」
「ええ、陽菜さんならいつでも歓迎しますわ」
ラズィーヤが笑顔で頷き、静香はお行儀よくジュースを飲んでいる陽菜に笑いかける。
「陽菜ちゃんはとってもお利口さんだね」
「ありがとうございます!」
緊張しているのか少し気合が入った答えに、静香は自然と笑みがこぼれる。陽太もそれを嬉しく思うが、
「ちなみに、陽太は家では陽菜にデレデレなパパですわよ。当然、環菜にデレデレな夫でもありますけれど」
「陽菜ちゃんは、来年からわたしたちと同じ蒼空学園の生徒になるんだね!」
「もしかしたら陽太よりしっかり者になるかもね?」
ノーンがニコニコと、エリシアが口を挟んで、環菜が悪戯っぽく言って。陽太は慌てたようにまた咳をした。
エリシアもノーンも、またちっとも変っていなかった。
魔女のエリシアも精霊のノーンも容姿に変化はないのは勿論のことだが、いい関係のまま続いているようだった。
「陽菜ちゃん、このお料理とっても美味しいね!」
「はい、ノーンお姉様」
「レシピを教えてもらってお家でもつくってみよーかな?」
新雪みたいな野菜のムースをぱくぱく口に運ぶノーンだったが、通りかかった特徴的な光翼の守護天使を見つけて声をかける。
「守護天使さんもこんにちは! 最近は何をしてるの?」
守護天使は振り向いてぴたっと止まると、ノーンに近寄って今は故郷とヴァイシャリーの繋がりの強化を……などなど話し始める。
「――もう、ノーン、陽菜が見てますわよ。……陽菜、あの守護天使さんはね、お知り合いで……」
エリシアは彼と出会った時のことや冒険の軽い部分を陽菜に語って聞かせる。
「そうなんですか、エリシアお姉様」
陽菜はまだ五歳だ。陽太がシャンバラに来てからの冒険はまだ知らないことだらけ。
懐かしい人を会場に見出しながら、陽太と環菜は赤い眼で興味深そうに見つめてくる娘に微笑みかける。
「いつか聞かせてあげますよ」
「ええ、少しずつね。とっても長い物語だから」
パラミタに来た日のこと、最愛の人に出会った時のこと、パートナーのこと、幾多の冒険と出会った人たち。
かけがえのない日々を。
いつか陽菜にも待っている、未来の話を。
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