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2025年、大晦日〜2026年、元旦


「普段は色んな場所に住んでるけど帰ってくるのは此処。此処が私達の帰るべき安息の地……アタラクシアなのよ!」
 ヒラニプラ郊外の山岳地帯近く、森の中ほど。ここに、地球人の契約者ルカルカ・ルー(るかるか・るー)を中心とした、パートナーにして共同体。彼女らの“アタラクシア”たる洋館が建っていた。
 家ではなく洋館というのは、それに相応しい広さ、部屋数を有していたからである。
 個室だけでも、七人――ルカルカと六人のパートナーたち――それぞれに複数の個室があり、共有スペースには書庫、台所、居間、トレーニング室などを備えていた。
 ルカルカ曰く、一種のコンドミニアムというか、「七世帯同居状態」らしい。
 そんな洋館にルカルカがダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に帰宅したのは、2025年12月31日の夕方のことだった。
 シャンバラ教導団の仕事納めと大掃除を終えて扉を開けたルカルカが、疲れたよぅと弱音を吐きながら靴から足を解放していると、夏侯 淵(かこう・えん)たちが出迎えてくれた。
「お帰り」
「ただいま。あ、もう帰ってたんだ」
 ルカルカは淵の後ろで腕組みをしているカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の姿を見つけて声をかけた。視線と声が自分の頭越し――頭上を飛び越えたことに淵はちょっと微妙な顔をしたが、40センチもの身長差があるのだから致し方ない。
「ああ、さっさと終わらせて酒と肴で除夜の鐘のテレビ中継を見ようと思ったからな」
「さっさと終わらせて?」
「そうだ」
 淵が笑う。よく見れば彼は服の上から割烹着を着て、手にハタキを持っていた。
「これから我が家の大掃除だから、そのようにな」
「うえーい」
 ルカルカはよろよろと、ダリルはいつものように疲れなど見せずに一旦着替えと荷物を置きに自室に戻る。
 しかし予め淵に言われた通り居間に集まった時には、ルカルカの気合はすっかり回復していた。
「と、いうわけで大掃除! 家具もずらして掃き掃除も拭き掃除も全部やるよ!」
 ……と、気合を入れたところで。
「あれ、ダリルは?」
 きょろきょろと辺りを見回したが、淵とカルキノスはいるのにダリルの姿だけがない。
「先に来てた? 掃除行っちゃった?」
「いや」
 仲間から返事を受けて、ルカルカは部屋の中を探し回った。程なくして、機械室でコンピュータに向き合っているダリルを発見して、ルカルカは扉から声をかける。
「大掃除だよ」
「そうだな」
「サボっちゃダメっ」
「だから掃除だよ」
 画面から目を離さないまま、くすりと笑うダリルに、ルカルカは部屋の中に踏み込んで腕を取った。
「コンピュータのデータ的なクリーンナップとかは後でいいじゃんっ(わーん)、ダリルも体を動かしてよっ(ぐいーっ)」
「教導本部で沢山動かしたじゃないか」
「仕事は仕事、家は家。それに、自分の部屋は自分でする事になってるけど、共同部分の家事は分担なのに普段掃除はニケに任せっきりだったでしょ?」
「……そうだな。たまには俺達が……というのもまあ、分からなくも無い」
「でしょ? さ、行こうよ!」
 ルカルカは、渋々と言った態ではあったが一応納得したらしいダリルを引っ張って居間に戻ると、皆と一緒に掃除を始めた。
 ダリルも乗り気ではないものの、長袖を腕まくりする。
「よし、カルキが怪力を生かして家具を動かす。淵は上から埃を落し、ルカは掃除機だ。俺がモップで仕上げる」
 ダリルの指示で、皆動き始める。


 やがて、掃除が一通り終わった頃にはすっかり時刻は夜になっていた。
 順番に風呂に入り――ダリルが上がった頃には、カルキノスが事前の宣言通り、ダイニングテーブルですっかり出来上がっていた。カルキノスは大晦日特番のテレビを流しながら、スルメを噛みつつマイペースに酒を飲んでいる。ダリルが向かいで付き合っていると、
「お待たせー。年越しそばだよー!」
 ルカルカが弾んだ声と一緒に、淵と二人で盆に載せたお蕎麦を持って来た。
 ダリルは洋間で側に晩酌は珍妙だなと思うが――これも、俺達が契約して以来、毎年やってきた光景だとしみじみする。
(地球のルカの実家に行ったときも似たような事をしたからなあ、何所に行っても俺達は変わらないのかもしれないな……)
 ――やがてテレビの中から鐘を突く音が聞こえ、年が明け。
「今年も宜しくね!」
 ルカルカが言えば、
「ああ」
 カルキノスが杯を掲げ淵が頷く。
「ああ、今年も宜しく頼む。ところで、初詣はどうするのだ?」
「ん? 空京神社は混んでそうだなあ……ゆっくりしてぇけどな」
 カルキノスの今の住居はザナドゥで、これは里帰りのようなものなのだ。
「一つくらいは初詣してもいいけどよ、去年のルカみたいに幾つも幾つも初詣するのは勘弁してくれよな」
「だって色々行きたかったんだもん」
 笑うカルキノスに、ぷう、と頬を膨らませるルカルカ。
「ま、朝になったらテレビ中継の混み具合みて決めようぜ。いまだと飲酒運転になっちまうしよ」
 言いながらもう一本ビールを開ける。その様子に、淵は自慢げにふふんと鼻を鳴らした。
「俺は初詣に行く気で、実は酒は飲んでおらぬ。酒は帰ったらオセチと一緒に楽しむつもりだ」
 ……じーっ。
 三人の目線が淵に集まる。
「な、なんだその俺を頼る目は……」
「じーっ」
「俺が運転して連れて行け? いや、それはよいが、カルキどうするのだ」
「転がしておいてくれ」
 カルキノスはあっさり答える。結局彼は初詣に行くのは止めにしたらしい。
「あ? ……って、御主それで良いのか?」
 カルキの身もふたもない言い方に淵は苦笑して、
「仕方有るまい、身支度整えて此処に集合な」
 結局、眠気とお酒と寒さには勝てなかったカルキノスは留守番することになった。
 暫くの後、洋装の余所行きに着替えた三人は、玄関の前に四人乗りのリムジンタイプの高速飛空艇・「ホーク」を付けて乗り込む。
 運転席に座った淵は大欠伸をするカルキノスに言い含めるように、
「カルキ、留守番頼んだぞ」
「任せとけ」
「オセチは食うなよ」
「早く帰って来いよ」
 肝心のオセチの返事がない。
(……あまり遅くなると食う気だなこれは)
 淵は目をこするカルキノスにもう一度言い含めようかとも思ったが、口にする前に彼が年賀状は任せておけと請け合ったのでタイミングを逸した。
「まぁいい――では、出発だ」
「留守を頼む」
「行ってきまーす!」
 淵、ダリル、ルカルカ。三者三様の仕草で手を振って、「ホーク」は新年の薄闇の中を、風を切り裂いて飛んでいった。