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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~2009年~
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第2章 眠りし女王 14

 薄暗い中を照らすべく、蓮華の横にランタンが置かれた。
「ありがとう、ホーク」
「なに、気にするな。それよりしっかり治療しろよ」
 軽快に言う青年――スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は、からかうような顔で笑った。
「も、もう……ホークってば……」
 長い間連れ合っているパートナーは、蓮華の気持ちについても気づいているのか。にやにやとしながらその場を後にする。
 それを朱に染まった顔で見送って、蓮華は鋭峰団長の応急処置に移った。傷跡を丁寧に消毒して、その逞しい腕に包帯を巻いていく。
 と――その途中、蓮華は彼にふと話し始めた。
「団長は……この日のことをご存知だったんですか?」
「いや、知らぬ。我にとっても、初めてのことだ」
 いくら過去に遡ったとはいえ、鋭峰にとっては“現在”だ。インテグラルがこうして過去に干渉してくるとは、予想すらしていなかった事態だった。
「そうですか……」
 蓮華はつぶやきながら、頭上を見上げた。
「団長……2009年の私は、今ごろきっと、この真上にいます」
「……それは……?」
「この作戦があったから、私や家族の命は救われたんです」
 蓮華は古い記憶を呼び起こす。
 あのとき、幼い自分と家族は東京にいた。そして謎の事件に巻き込まれてしまったのだ。そのことは詳しくは覚えていなかった。まるで記憶の一部がすっぽりと抜け落ちたように……ただ、誰かが助けてくれたということだけは、漠然と心に残っていた。
 この作戦を知ったとき、その記憶はようやく蘇った。今作戦があったからこそ、いまの自分と家族はいるのだ。
「私と家族の命を救って頂き……有難うございました。団長、私、だから教導団に入ったんです。団長に恩返しがしたくて。一生かかっても返しきれない恩が、私にはあるから」
「……そのような恩で自らの一生を捧げるなど、馬鹿げている」
 鋭峰は蓮華の言葉を一蹴した。思わず落ち込んだような顔を見せる蓮華に、しかし鋭峰は言葉を続けた。
「あれは作戦行動の一環に過ぎん。我にとっては、数あるものの一つの」
 そう言いながら、彼は蓮華の目をじっと見つめた。
「恩などという言葉で片付けるな。君は君の意思でそこにいる。違うか?」
「……そうです」
「なら、それでよい。それ以上は望むべくもない。我が君を助けたように、今度は不測の事態あれば、君が我を守ってくれ。これからも、よろしく頼むぞ――董蓮華」
「は、はいっ……」
 蓮華はこれ以上ないぐらいの笑みで力強く答えた。
 ようやく治療も終わり、鋭峰が立ち上がって彼女のもとを後にする。残された蓮華は、地面に降ろしていた小型リュックにそっと触れた。
 その中には――鋭峰団長と一緒に旅行したときの思い出のアルバムが入っている。
(団長……)
 いつか、この気持ちを言えたら――
 そんなことを思って、蓮華は出発準備をする皆に習って、リュックを背負った。