First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
「無謀な要塞だ。接近して来るよ」
アンサラーの艦橋で、その男はくすくすと笑った。
「武装も無い状態のくせにね。指揮官は誰やら」
肩を竦めた後、指示を出す。
「主砲発射」
「主砲発射します」
「こういうことには、華が無いとね。ばんばん撃ってやりなさい」
敵の注意を引き付ける為なら、多少無謀なことすらする。
前進するアルカンシェルに、アンサラーからビーム砲が発射された。
「敵戦艦から砲撃! 三連射撃、被弾します!」
アルカンシェル艦橋で、オペレーターが叫ぶ。
「バリアを展開!」
神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の指示が飛び、アルカンシェル前方に、バリアが張られた。
至近で弾けた攻撃の反動が、振動として返って来る。
「撃ってきやがった!」
湊川亮一は、敵艦の主砲発射に、思わずアルカンシェルを振り返った。
「ブリッジ! 大丈夫ですかっ!」
梓が通信を入れる。
「バリアを展開し、被害を最小限に食い止めたそうです。
敵艦には、何機かのイコンが対処に向かいました」
「良かった、バリアが生きていたのか」
そうか、と亮一はほっとする。
「その連中、戦艦まで到達できるのか?」
報告によれば、クルキアータが後衛に控えている。
戦艦に到達する迄に遭う機晶姫の妨害も少なくないはずだ。
「まあ、他人を心配しても仕方がないか。こっちはこっちだな」
派手に弾幕展開しているので、そろそろ残弾の心配をしかけたところに、梓が言った。
「エネルギーが残量30%を切りました。
帰還する間のことを計算しますと、一旦補給に戻った方がいいかと思います」
「よし、戻ろう」
後退した亮一機の向こうを、再び、アンサラーの主砲が追い越し、アルカンシェルが被弾している。
「くそっ……」
何も出来ない歯痒さを、きっと他の仲間達も感じているのだろう。
「防ぎましたか」
御凪真人も、アルカンシェルの無事に安堵した。
「さすがに、エネルギーシールドとビームシールドの二枚展開でも、敵艦からの砲撃は防げぬの」
白き詩篇が、エネルギー量の計算をしながら悔しそうに言う。
「イコンの砲撃ならば防ぎますが。さすがに戦艦の主砲では」
無理ですね、と、真人も眉をひそめる。
敵の攻撃をみすみす見送らなくてはならないのは、歯がゆい。
「副砲ならば何とかなりそうじゃが、こちらも相当のエネルギーを消費するぞ」
「防げるものは防いで行きましょう。
アルカンシェルの負担を少しでも減らさなければ」
「了解した」
敵機の中にクルキアータがいると知ってから、狭霧 和眞(さぎり・かずま)の狙う相手は、最初からそれだった。
和眞は何度か、あの機体と戦ったことがある。
その性能は身を以って知っている。
看過できない相手だと思っていた。
「さあ、行くぞトルニトス! 俺達の力、見せてやるっス!」
パートナーのヴァルキリー、ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)が索敵を開始する。
クルキアータは後衛にいる、とアルカンシェルからの情報だが。
「クルキアータは、敵艦の前から動いていないみたいです。
戦況が不利にでもならない限り、向こうから出て来ることはないかもしれません」
「だったらこっちから行くっスよ!」
和眞は言った。
「えっ、でも」
敵艦までは、激戦区を突っ切って行かなければならない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずっスよ!」
『C−1、どうした?』
2機のクルキアータは、アンサラーの防衛配備を動いていない。
戦域をまっすぐ突っ切って来ようとする和眞のトニトルス・テンペスタスに気付いて注目した。
『元気なのがいるぜ。
すげえ無謀に正面から突っ込んでくる。アレ、絶対俺達目当てだぜ』
『はっは、モテモテだな、俺達。
ま、モテモテなのは俺達じゃなくてこの機体か』
『若いなー。がむしゃらで結構なことだぜ。
まあ、そこそこいい腕をしているようだが?』
『よし、ひとつ現実を見せてやるか』
『おいおい、行く気か、C−2?』
『鏖殺寺院は所詮やられ役の雑魚組織とか思われるのも癪だしな。
クルキアータを任された、俺達の実力を見せてやる』
『やれやれ、若いな、こっちも』
激戦区の中で、和眞達のイコンは容易には前に進めなかった。
最初は速力で振り切っていたが、それだけで乗り切れる状況ではなかった。
武装コンテナを装備する機晶姫達は、単体でなら、和眞ほどの実力であれば、油断さえしなければそれほどの脅威ではない。だが、数が多すぎるのだ。
「くそっ……!」
「ショットガン、弾切れです。
あっ! 右後方からイコンが来ます!」
「何っ!?」
鋼竜が、ガトリングガンを撃ちながら近付いて来る。
「応戦するッス! レーザーバルカンは?」
「いつでも使えます!」
鋼竜の弾幕を躱しながら、隙を見て飛び込む、と見せ掛けて、ワイヤークローを射出する。
上手く引っ掛かったと確認し、思い切り引っ張る。
鋼竜は踏ん張ったが、それでも構わないのだ。
向こうの引っ張りを利用して、こっちが一気に接近する。
引っ張ったことで、向こうの体勢には隙も出来ている。
和眞機は鋼竜にサーベルを突き立てた。
「まず一機!」
「兄さん! クルキアータが一機、前に出てきますっ!」
「えっ!?」
後衛にいたクルキアータが出てくる。しかも、自分のいる方に向かっていた。
和眞機はバルカンを撃ったが、ことごとく躱される。
「早いっス」
クルキアータは、装備しているアサルトライフルは構えず、持っていたランスを、和眞機に向けた。
バルカンを撃つ間合いではなくなった、と判断した和眞は、ビームサーベルで応戦しようとしたが、クルキアータは、一瞬のフェイントを仕掛けると、一気にランスを突き刺す。
「きゃっ!」
「うわっ!!」
ズシンと衝撃が来た。
ルーチェが慌てて計器を確認する。
「機体中破。戦闘は……無理です」
「くそっ!」
「大丈夫か!?」
後から追いついた金色のシパーヒーが、和眞機を護るように割り込む。
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)のエンペリオス・リオだ。
クルキアータは、意外にもあっさり身を引き、撤退して行く。
「……? どうしたのでしょう?」
ヴァルのパートナー、ヴァルキリーのキリカ・キリルク(きりか・きりるく)が不審げに見送る。こちらも、深追いはしない。
「遊ばれたな」
ヴァルは、味方の援護、士気を上げるために、鼓舞の歌や戦慄の歌、補給の歌等での支援行動をしていたが、単騎で突っ込んで行く和眞のイコンを見て、無茶だと追って来たのだった。
援護は、間に合わなかったが。
「とにかく、一旦撤退だ。
無茶をして……。自分の命を投げ出して勝っても、それを勝利とは言わないぞ」
「死ぬ気なんてないッスよ」
「気持ちはそうだろうがな」
「アルカンシェルへ帰還します。クラッカー撒きます」
キリカの言葉に、ヴァルは了解、と返し、和眞機をしっかりと抱える。
クラッカーをばら撒き、同時に二体は、バーストダッシュでその場を離脱した。
目的は陽動であり、円盤への攻撃を逸らすことにある。
「……だが、少しは色気を出しても構うまい」
アウークァを駆る白砂司は、そう思っていた。
「後ろで控えてるってことは、やっぱり、クルキアータが隊長機なんじゃないですかね」
パートナーの獣人、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)が言う言葉に頷く。
「だが、敵が幾つかの小隊で編成されいてるとして、それが2つだけとは思えない。
クルキアータの他にも隊長機があるのか……?」
「何だか向こうの出方は、総当りっぽくて、小隊に分かれてるとかどうなんだって気もしますけどね」
サクラコが首を傾げる。
「その上前線の主力は機晶姫ですよ。
ひとつ命令をインプットしたら、ひたすらそれに従って行動してる感じがしますね。
ここは少し、中へ斬りこみましょうか?」
「そうだな」
敵の選り好みをしている場合ではないが、首級の一つでも取りたいところだ、と司は思う。
隊長格を落とせれば、敵の指示系統などに混乱を来たせるのでないだろうか、とも。
黒曜槍を持って、機晶姫達を薙ぎ払って行く。
「司君! イコンですよっ」
サクラコが叫んだ。
見れば、向かって来るのはシュバルツ・フリーゲだ。
「あれもいたか! だが、恐るるに足りん!」
オリジナルのシュバルツ・フリーゲは、第一世代最強とも謳われるが、汎用機の性能はそれに大きく劣る。
油断さえしなければ、今の自分達が負ける相手ではない、と司は確信する。
「来るぞ!」
シュバルツ・フリーゲは、司機を標的と定めたようだ。
機関銃を撃ちながら接近してくる。
「迎え撃つ!」
この機体には、遠距離用の武器はない。
引き付けて、接近戦に持ち込むのが狙いだ。
槍投げの要領で、司機は黒曜槍を投げ付ける。
それを躱しつつ、シュバルツ・フリーゲは一気に突進して来た。
クローが投げ付けられ、司機の肩に喰いつくが、構わずに司も、そのままシュバルツ・フリーゲの懐に飛び込む。
接触するほどの接近が、狙いだ。
機神掌の一撃が、シュバルツ・フリーゲの頭を吹き飛ばす。
「畳み掛ける!」
「はいっ!」
後退した敵機体に尚も喰らいつき、とどめの一撃を放った。
久我内 椋(くがうち・りょう)は、ブラッディ・ディバインの一員としてこの戦闘に加わっていた。
彼は、ブライド・オブ・ハルパーをその手にしたいと狙っている。
その為に、この宙域での戦闘を長引かせ、時間を稼ぐ為に、機晶姫30人を従えて、アルカンシェルの攻撃に加わったのだ。
椋自身も、パートナーの英霊、モードレット・ロットドラゴン(もーどれっと・ろっとどらごん)と共にジランダに乗っている。
「なかなかいい景色じゃないか」
暗く、冷たい宇宙を見渡して、モードレットは機嫌良く言った。
「さて、今回の目的は、勝利ではなく足止めか。
ならば暫く、契約者どもと戯れといくか」
「機晶姫を三つの部隊にわけましょう。
1つはアルカンシェルへの攻撃、残りと我々は、各個契約者達の行動阻害です」
「了解だ。せいぜい暴れてやろう」
椋の言葉に同意し、2人はフォレストドラゴンを駆って戦場に繰り出す。
だが、戦闘が始まってすぐに、椋は自分の作戦ミスに気がついた。
「……失敗しましたね」
「椋?」
目標を誤った。
戦闘を長引かせるだけでは駄目だった。
月面基地での作戦に関して時間を稼ぐなら、攻撃は、月基地へ向かう円盤に対して行うべきだった。
ブライドシリーズを乗せた円盤は、護衛のイコンと共に、アルカンシェルを先行して月基地に向かってしまっている。
円盤が月に到着しても、戦闘は続く。だがそれでは駄目なのだ。
「円盤を追います。間に合えばいいのですが」
アルカンシェルを攻撃している機晶姫は、もう遅いのでそのまま残す。
残る機晶姫を率いて、椋達は円盤の後を追ったが、遅れを取ったことで、効果的な足止めを仕掛けることはできなかったのだった。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last