リアクション
○ ○ ○ アルカンシェルにはもう1箇所、エネルギーを貯蓄している場所がある。 動力炉を有する、機関室だ。 エネルギー室は主に管内で使用されるエネルギー、及び攻撃エネルギーが作られ、貯蓄されている場所であり、機関室ではアルカンシェルの動力、及び防衛エネルギーが作られ、貯蓄されいている。 動力にはブライドオブシリーズが使われていたが、現在は機晶エネルギーでアルカンシェルは動いていた。ただ、機晶エネルギーではあの強力なバリアーを張り続けることは不可能だった。 そのもう一つのエネルギー施設である、機関室にも機晶姫が迫っていた。 「付近にエアロックはなかったはずだが」 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は、HCに届いた連絡を見て、歯噛みする。 機晶姫侵入の知らせを受け、真っ先にここの防衛の為に下りてきたのだが、バリケードを築く時間はほとんどなかった。 「エネルギー室の……状況よりは、いいはず……ですぅ」 「先回りが出来たからね」 盲目の冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)は、パートナーの冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)の助けを得ながら、共に機関室の入口付近で迎撃態勢を取る。 「隔壁を下す場所が届きました」 エンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)は、銃型HCに届いた情報を、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)に見せながら、テレパシーでブリッジと交信をして状況を確認していく。 「鏖殺寺院もしつこい。どれだけ邪魔をしたいんだか……。エアロックは全て閉じきれていないようですし、人数が人数ですから、要塞内にもだいぶ侵入してくるでしょうね」 エンデのHCを見ながら、小夜子が呟く。 ここだけではない。 要塞内の別の場所で戦うであろう、御姉様――崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)や、友人達のことを小夜子は心配する。 「小夜子さん」 そんな小夜子に、エノン・アイゼン(えのん・あいぜん)が声をかける。 「言うまでもないですが、今は私達のやれる事をやりましょう」 「はい、そうですね。持ち場を守ることに専念します」 小夜子はそう言って、運んできた家財道具を置いてバリケードを築いていく。 「ここをやられたら、宇宙で遭難しちまうな」 それより少し前の通路に、リア・レオニス(りあ・れおにす)は、機関室の中から運んできたデスクで簡易壁を作っている。 「武器攻撃を防げるようなものではありませんが、視界の妨げにはなりますね」 レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)は、その壁の後ろに、伝統パビリオンの盾を構えて立つ。 (アイシャ……ここに来れない君の為にも成功させたい。俺達の国と国民と世界全体の為に……) シャンバラの女王のアイシャは、この場にはいない。 テレパシーさえも繋がらない。 (俺達は大丈夫だ。頑張ってる。今は敵の歓迎中ってところかな) だけれど、リアは手が空いた時にはすぐに、アイシャにテレパシーを送っていた。 いつ、彼女に届いてもいいように。 彼女が大切に想っている、仲間の無事を知らせることが出来るように。 例え返事がなくても、彼女は自分達を案じていてくれていること、見守っていてくれていることがリアには解る。 「来たようだぜ、リア!」 ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)が言い、レムテネルの後ろに下がる。 吹き抜けを飛び下り、機晶姫が姿を表した。 「リアも後ろに下がってください」 レムテネルはリアも自分の後ろに下がらせると、荒ぶる力で仲間の攻撃力を上昇させ、歴戦の防衛術を活かして防御態勢をとる。 「援護関連は任せておけぃ! 思いっきり戦ってこい」 背後からは、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)が仲間達に声をかけ、機関室の中を確認する。今のところ、動力に異常はない。 (敵、機晶姫接近。隔壁をお願いします) エンデが制御室に連絡を入れる。直後に隔壁が通路を塞ぐ。 しかし、数分とせず機晶姫が持つ爆弾により破られてしまう。 「危ないもの持ってんな! 通さないぜ」 リアは強化型光条兵器、ルミナスライフルで、機晶姫だけを攻撃対象とし、攻撃する。 「別の通路に誘導したいところだが……目的はまっすぐこっちってわけか」 ザインは脇道への誘導を考えたが、機関室へ向う通路を銃を乱射しながらまっすぐ強行的に敵は進んでくる。 「だが、通しはしない!」 ザインはルミナスライフルで弾幕援護。 その間に、盾と壁の陰から顔を出し、機晶姫の頭を的確に撃ち抜く。 強力な攻撃を頭部に受けた機晶姫が一体倒れた。 機晶キャノンを撃ち、飛びながら次の機晶姫達が接近してくる。 「敵機晶姫は、グレネードランチャーも使用してくるようです!」 エンデが今入った情報を皆に伝える。 「狭い通路でそんなものぶっぱなしたら……そうだよな、敵側は重要設備だけを壊す必要はない」 リアは歯噛みしながら、機晶姫を撃っていく。 次の瞬間に、そのグレネードランチャ―を機晶姫の1体が放ってきた。 デスクがはじけ飛び、レムテネルの盾に亀裂が入る。 「……っ」 更に、もう一体の機晶姫も、擲弾を浴びせてきた。 「レム、下がるぞ!」 カタクリズムを発動し、リアは次のデスクの後ろへと下がる。 「わかりました」 レムテネルは叫びを発動。 強力な念力と、凄まじい音に機晶姫達の動きが止まる。 間一髪、レムテネルが受けるはずだった擲弾は、キノコマンにより防がれた。 「足を撃っても飛ばれちまう。背は向けてくれないよな……っ!」 ザインは、接近する機晶姫の移動手段を奪おうとするが、飛行ユニットは背面についているらしく、足を討ち抜いただけでは移動を止めることは出来なかった。 「けど、頭は急所に違いないだろ? 狙ってくれって言っているようなものだ」 頭を向けて飛んでくる機晶姫に、光条兵器の攻撃を何度も浴びせて、撃ち落としていく。 「敵機晶姫以外は傷つけないものとしておいても、機晶姫がぶっ飛べば、周りを傷つけちまう。殴る方向にも注意しねぇとな!」 ラルクは真空派で、機晶姫の腹部あたりを殴って、後方へと飛ばす。 続いていた機晶姫も、一緒に倒れる。 「壁は頑丈に出来ているようだし、この際傷がつくくらいはやむを得ない!」 リアは倒れた機晶姫が起き上がるより早く、ライフルで体を撃ち抜いて倒す。 「通さないですぅ」 日奈々が、サンダーバードを召喚する。 光が飛び散り、敵機晶姫を打つ。 深いダメージを負った機晶姫達の動きが鈍っていく。 「身を潜めている機晶姫もいるようです。かなりの数の敵がこちらに向かっています」 光学迷彩で姿を隠しながら、殺気看破で周囲を探っているエノンがそう言う。 「倒れていても……完全に機能停止したわけではない機晶姫は危険です」 倒れている機晶姫からも害意を感じて。 エノンは強化光翼を広げ、ライド・オブ・ヴァルキリーで高速飛行。 敵に狙われる隙を作らず、急接近してシーリングランスで切り伏せる。 エノンの存在に気づき、敵が銃を向けてきた途端。仲間の方に高速飛行。小夜子の隣へと戻る。 機晶キャノンを機晶姫は一斉発射。 その後ろから、武器を覗かせ、人の形に近い1体の機晶姫が擲弾を放つ。 最後のデスクがはじけ飛び、バリケードの前に立つ者達に傷を負わせる。 「出ます。エンデさんお願いします」 小夜子が真空派で近づいてきた機晶姫を打ちながら言った。 「はい、行きます!」 エンデは風術を小夜子の背に放つ。 羅刹の武術を会得した小夜子は、素手で機晶姫に挑む。 エンデの起こした風で加速し、機晶姫に急接近。 「はあっ!」 その拳は機晶姫の顎を砕き、肘で次なる機晶姫の肩を砕く。 プロミネンストリックで空を飛び、飛び立つ機晶姫を殴り落し、軽身功で壁を走り、機晶姫の背面に降り立って腰を砕く。 機晶姫の間に降り立った小夜子には、銃弾は浴びせられない。 敵機晶姫に感情は殆どないようだが、仲間を撃つようなことはなかった。 「千百合ちゃん、行きますぅ」 日奈々はフェニックスに後方の敵を任せ、自分達に迫る機晶姫に氷術を放つ。 狙ったのは、足。 足を凍らされた機晶姫が転倒する。 「日奈々の傍には……ううん、全て守る!」 千百合は光翼型可翔機・飛式(宮殿用飛行翼)で加速すると、起き上がろうとしている機晶姫に接近し、ウルクの剣を突き立てた。 千百合は大切なパートナーであり、伴侶である日奈々を守るために戦っている。 だけれど、それだけではなくて、今は自分の後方にいる全ての人を、設備を……このアルカンシェルをそして、皆の帰りを待つ人々の心をも守るために、戦っている。 「千百合ちゃん、もう一体いきますぅ!」 日奈々は、続く機晶姫の武器を凍らせた。 「させないよ!」 武器を変えようとする機晶姫に、千百合はウルクの剣を一閃。腕を斬り落す。 「帰ろうね……!」 もう一閃して、機晶姫の胴体に深い損傷を与えた。 別の機晶姫の銃撃が、千百合に浴びせられる。 「戻ってください~っ」 日奈々の呼び声に答える前に、千百合はその機晶姫の胸を剣で貫いて。 「戻るよ、日奈々の元に」 それから、一旦バリケードの後ろへと退いた。 「どうやら、機晶姫はこことエネルギー室を狙っているようだ」 銃型HCに流れてくる情報をラルクが確認。 「アルカンシェルを止めることもそうだが、エネルギーを利用した爆発も起こせるかもしれねぇからな!」 闘神の書は、梟雄剣ヴァルザドーンを手に、自らも前に出る。 「斬らせてもらうぜぇ。斬られたくねぇヤツは宇宙に消えな」 機晶姫の攻撃を、剣で受けて自分と仲間をも庇い。 千百合や仲間達が負傷させた機晶姫に、剣を振り下ろす。 「多少は仕方ないが、周りを破壊しないように注意しろよ」 ラルクは闘神の書にそう声を掛けながら、敵の中に飛び込んで鳳凰の拳を叩き込んでいく。 爆弾を持っている機晶姫もいるようだが、捨て身の攻撃や自爆などはしてこない。 「それは、撃たせるわけにはいかねぇな!」 グレネードランチャーを構えた機晶姫を見つけ、ラルクは床を蹴って急接近。 その機晶姫はラルクへとグレネードランチャーを向ける。 「あぶねぇモン、向けんなって!」 ラルクは下方からグレネードランチャーを打ち、上方へと飛ばす。 「預けるぜ」 落ちてきたその武器をバリケード前へと弾く。 「これはまた、物騒な……。こっちからの攻撃では使えそうもないな」 ザインがグレネードランチャーを確認してそう言った。 「いや、壁を壊すほどの威力はなさそうだ。タイミングを合わせて……と行きたいが」 「ええ、 隔壁のタイミングと会わせましょう」 ラルクの言葉に、小夜子がそう言いながら、素早く動き敵を後方に飛ばし、直後にラルクの隣まで跳んでもどる。 「皆後方に下がれ」 リアがテレパシーで制御室と連絡をとり、機晶姫と自分達の間の隔壁をタイミングを合わせて下してもらうことに。 全員がバリケードまで戻り、遠距離攻撃で機晶姫を牽制する。 「3、2、1……今だ!」 リアは、1までカウントをし、0のタイミングで、機晶爆弾を投げる。 「絶対、機関室には入れさせない。ここで食い止める!」 ザインは敵のグレネードランチャーを発射。 「眠りなさい! はっ」 「ここはやらせるわけにはいかないんでな!」 小夜子とラルクは真空派を放った。 手前の機晶姫が後方へと飛ぶ。 「あなたたちが進む道はないですぅ~!」 日奈々はサンダーバード飛ばせ、道を阻んだ。 同時に、隔壁が勢いよく下りる。直後に、投げた爆弾、擲弾が爆発を起こす。 周囲が軽く揺れた。 「……でも、多分、すぐに突破してくるから」 千百合はヒーターシールドを構えて皆の前に出る。 「今のうちに回復を」 レムテネルはヒールで自分の傷を治し、千百合と共に盾を構えて立つ。 「ああ、敵は諦めちゃくれなそうだからな」 ラルクは錬気で、自分と仲間の精神力の回復を促す。 「早いですね……!」 小夜子は真空派を隔壁へと……その奥の機晶姫へと叩き付けながら言う。 機晶姫が仕掛けた爆弾により隔壁の一部に穴が開いた。 そして機晶キャノン、グレネードランチャーの攻撃が浴びせられ、隔壁は破壊される。 「また増えてるな……。けど、全てのエアロックを閉じたという報告も入ってる」 リアがルミナスライフルで攻撃をしながら言う。 制御室とのやりとりで得た情報によると、全てのエアロックが閉じられたそうだ。これ以上は侵入してこない……と思いたい。 倒した機晶姫と、崩れた壁により通路は狭まり、敵機晶姫はより進攻しにくくなる。 だが、グレネードランチャーの攻撃を一発見逃しただけで、擲弾が機関室に甚大なダメージを与え、アルカンシェルが制御不能に陥る可能性も否めないのだ。 身を盾にした油断が許されない状況が続く。 |
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