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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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【ニルヴァーナへの道】月軌道上での攻防!

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第六章 アルカンシェルの危機

 浮遊要塞アルカンシェル内部では、攻防戦が続く中、急ピッチで修理が進められていた。
「ほとんど吹っ飛んじゃってるけど、この新たな設備で活路が開ければいいな」
 夏侯 淵(かこう・えん)は、設備投資により、エネルギー室に長距離ミサイルの設置を急いでいた。
 施工管理技士を3人雇って連れてきており、修理作業員と共に作業に当たらせている。
「こっちが終わったらバリアーの強化といきたいところだ」
 カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)も、同じく施工管理技士を3人連れ、設備投資でバリアーの強化を試みようとしていたが、バリアーのエネルギーは管轄機関室で、動力にも関わってくる等、作動には幾つかの問題もあるため、ミサイルの方を優先し、作業を進めている。
「バリアーは発生装置のいくつかは無事のはずだ。エネルギーをエネルギー室からの供給に変えれば、もっと活用できると思うが……そう簡単にはいきそうもない、か」
 作業を取り仕切っているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、図面を見ながら眉を寄せていく。
「根を詰め過ぎないでね」
 そこに、小さな女の子が3人に近づいてきた。
 作業員達の世話をしてくれているコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)だ。
「着替えと濡れタオル、ここにおいておくね」
 台車で運んできた段ボールを一つ床に置き、それからポットと、紙コップ、茶菓子をその隣に置いた。
「休憩の時にどうぞ」
 無理はしないでと言いたいところだけれど、戦闘が始まった以上、そうも言っていられないから。
 せめて、少し休む間には温まるものと、疲れがとれるような甘い物、チョコレートや蜂蜜を使ったスイーツを摂ってもらおうと、作業員たちに配って回っていた。
「ありがと! いただくな」
 淵がコレットに笑顔を見せる。
 コレットはこくりと頷いて、汚れ物を回収すると次の作業場所へと向かって行った。

 ジーッ、バチバチ……。
 アルカンシェルの外では、パワードスーツを着込んだ契約者が修理に当たっていた。
 戦いが始まってからは、作業員は全て内部に戻されたが彼だけは別だった。
「何が『君にしかできない仕事がある』……だ。ゼスタのやろ〜!!」
 修理を行っているのは、変熊 仮面(へんくま・かめん)。勿論パワードスーツの下は全裸だ。
「ったく……俺様のせいじゃないだろ、爆発したのは。静かに着陸しないからだ!」
 ぶつぶつ文句を言いながらも、仕事はきちんとこなしている変熊である。
「あ〜あ、こんなゴツイ鎧着てたら俺様の美貌台無し……人様に見せられない……」
 むしろ、着ているからこそ見せられる姿だというのに。
 自分の姿にがっかりした変熊は光学迷彩で姿を隠していた。
「……?」
 そんな時。
 外壁に張り付いた影に気付く。
「あ、あれ? もしかして!?」
 その影達は、開いていたエアロックから中へと入っていく。
「て、敵襲だー! 誰か中にいれてー! にゃんくま! へーるぷ! へーるぷ!」
 しかし呼べど叫べど、にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)は来ない。
 イコンを整備してもらうため、格納庫に行っていたから。

「作業を中断し、集まってください!」
 最初に侵入者に気付いたのは作業員のサポートに当たっていた天城 一輝(あまぎ・いっき)とパートナー達だった。
 すぐに銃型HCで連絡を入れ、作業員の警護に当たる。
「侵入されたか。だが、俺達は大丈夫だ。どんな状況下であっても、作業を続ける」
「悪いが、食い止めてくれ。万が一突破されても、このミサイル装置と連れてきた作業員くらいは自分達で護るさ」
「長距離ミサイル設置には、まだ時間がかかるが、何が何でも間に合わせるぞ」
「ああ!」
 ダリルと、淵はそう言い、作業を進めていく。
「恐らく狙いはこっちじゃねぇ。誘導頼むぜ」
 言いながら、カルキノスは真空波で、内部に入り込んだ機晶姫を攻撃して、吹き飛ばす。
「わかった。一般の作業員を誘導させてもらう。ここは任せた」
 一輝は契約者ではない作業員達に居住区方面の階段室へいくように指示を出す。
 このエネルギー室には広さがあるため、一輝は用意しておいた小型飛空艇に乗って敵の進攻を阻んでいく。
「エアロックから入ってきていますわ。どうして……!」
 ローザ・セントレス(ろーざ・せんとれす)も小型飛空艇に乗り、エアロック付近にいた作業員を避難させながら、緑竜殺しを振り回し、侵入してきた機晶姫を近づけさせない。
「こっちだ。荷物はいい。身の安全を第一に」
 その間に、ユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が作業員達を奥の階段室へと誘導する。
「いれてぇ〜、いれてぇ……くれなきゃ、入るしかない!!」
 変熊がエアロックから中へ飛び込んでくる。
 一瞬銃を向けた一輝だが、作業員らしいと気づくと、護るべく接近。
「外にいたのは、おまえだけか?」
「そうだ……」
 その言葉を聞き一輝はエアロックを手動で閉じた。
 そして変熊を背に庇い、先に入り込んだ機晶姫達に銃を撃つ。
「た、助かった……」
「エアロックが解放していたが、理由わかるか?」
「!? ……お、俺様じゃないよ! にゃんくまちゃんと閉めたよね?」
 一輝の問いに、変熊はその辺にいるはずのにゃんくまに問いかけるが、にゃんくまはまだ戻ってきていなかった。
(まるで俺様が招きいれたみたいじゃないか!? 犯人捕まえないとまた俺様が疑われる……)
 そう考えた変熊は邪魔なパワードスーツを脱ぎ捨てて全裸になると、颯爽と機晶姫を追っていった。
「……なんだ?」
 不可解な行動に一輝は一瞬戸惑うが、あらかじめ、『修理作業員に変態が1名混ざっているがあまり気にしないように』と連絡を受けていた為、それ以上気にすることなく、普通の作業員達の護衛を続けることに。

『何者かにより、エアロックが解除されていた。既にロックは行ったが、外部から機晶姫が多数侵入したと思われる。戦える者はエアロック方面、及び重要設備の防衛を頼む』
 放送とHCの通信で、連絡が入る。
「エアロック……複数あるな。ここには近づけないか」
 一輝は送られてきたデータで、エアロックの場所を確認する。
「エアロックから離れていて、修理が必要な場所といいますと……優先度は低いですが、食糧庫方面くらいですわね」
 ローザが作業員を誘導しながら、言う。
「一旦そちらに退き、避難しながら出来ることをしてもらおう」
「はい」
 一輝とローザは、機晶姫を退けながら、エネルギー室で作業に当たっていた作業員達を階段室へと導き、倉庫へと向かうように指示を出す。
「既に別のエアロックからも敵が侵入している。急げ」
 プッロはスピアを手に、防御に努めながら作業員達を倉庫へと急がせる。
 階段から通路に出た途端。
 一体の機晶姫がこちらに気づき、機晶キャノンで攻撃をしかけてくる。
「隠れろ!」
 作業員達に指示を出しながら、プッロはヴァーチャーシールドで自分と後方にいる者を守る。
「こちらに向かってくる様子はない。走り抜けろ」
 遠距離攻撃を仕掛けてはくるが、こちらに向かってくる様子はなかった。
 プッロも追うことはせず守りに専念。
 作業員達が倉庫まで避難した後も、その場で護衛に努める。

「大丈夫、こっちにはこないから。早く修理再開できるといいね!」
 作業員達と一緒に避難したコレットは、持っていたお菓子を作業員達に分けて、至れり尽くせり、ナーシングで、落ち着かせ皆の疲れをとっていく。
 作業員達は持ってきた部品の組み立てや修理をしながら、待つ。
 更なる修理が必要になることは、皆理解している。
「連絡があるまで、外に出たらだめなんだって。ちょっと辛抱しようね」
 疲れ顔の作業員にコレットはアリスキッスをした。
 修理が必要な箇所はまた増えるだろう。だからこそ、彼らは守らなければいけない大切な存在だ。

『エレベーター類は止めないでほしい、隔壁で侵入を制限できるか?』
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は侵入を知ってすぐ、指揮官の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に籠手型HC連絡を入れて、エネルギー室へ向った。
 エレベーター、リフトは、敵が使用する可能性は極めて低いと考えた。敵が避けて通るのなら、こちらの人員配置に使うことが出来る。
 また、敵が近づくのであれば、エレベーターで爆弾だけ上げるなどという使い方も出来るだろう。
 手短に説明をしながら、クレアは階段を駆け上る。
 放送で、敵は明確な目標地点を持っているようであり、隔壁は爆弾で破壊して進んでいるという知らせが入る。
「エネルギー室はその一つだろうな」
 クレアは階段室のドアを開け、エネルギー室の階へと飛び込んだ。
 既に、エアロックから入り込んだ機晶姫が、隔壁を爆破し計器に向かっているところだった。
「まだ数は少ない。止めます!」
 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が盾を構え、計器のある部屋の前に走り込む。
「爆弾持ってるのか。自爆とかしないだろーな」
 エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)は強化型光条兵器のラスターハンドガンで、機晶姫を攻撃。
 機晶姫以外は撃たないものとしてあるため、被害を気にせず乱射していく。
「んーと、指揮している人はいなそうですよね。あらかじめ、狙う場所を命じられてきたのかな?」
 パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)はドアの後ろに隠れながら時々顔を出して観察。
「排除スル」
 敵機晶姫は、機晶キャノンで攻撃をしてくる。言葉に感情は感じられない。
「感情は与えられていないようだな。エイミー、近づけさせるな。パティ、エネルギー制御室に入るぞ」
「おう!」
「はい〜」
 まず、エイミーが飛び出して、銃を撃ち自分の方に注意を向け。
 クレアとパティがハンスに続き、計器のある部屋へと走る。ハンスが盾で2人を庇い、2人は部屋へと入り込む。
 クレアはすぐに内線を使い、制御室に連絡を入れる。
「集まってきやがったな」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)とパートナーが、別の階段から現れ真空派を放つ。
 見えていないコアだけを破壊などは出来ないが、この攻撃もアルカンシェルを傷つけず、敵に大きなダメージを与えられる攻撃だ。
 直後にゴッドスピードで仲間と自分の素早さを上げ、黒麒麟(プロミネンストリック)で駆け回る。
 攻撃は常に真空派だ。
「こっちに沢山向かってるみたいよ。守らなきゃね!」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、彗星のアクレットで皆の素早さを上げた後、エネルギー制御室前を守るハンスの傍に駆け付ける。
「そのようですね。エアロックは既に閉じたようですから、後は入り込んだ敵を止めるだけです」
 ハンスは盾と槍を構えて皆の前に立ち、ライゼはその後ろから、我は射す光の閃刃で、機晶姫を攻撃。
「うん、ここは攻撃させないよー!」
「フィールドを張ります」
 夜霧 朔(よぎり・さく)も、ハンスの傍に近づき、雷撃フィールドを周辺に張る。
「雷属性の攻撃で、回線をショートさせることできるかな?」
「構造的に無理ですが、攻撃は普通に有効のはずです」
 ライゼの問いに、戦闘兵器型機晶姫の朔がそう答え、炎熱、雷電、氷結属性を持つ、ミニたいむちゃんタワーでビーム攻撃。関節部分、装甲の弱い部分を狙う。
「垂、行くぞ」
 朝霧 栞(あさぎり・しおり)は、駆け回る垂に合図をした後、ブリザードを発動。
「はあっ!」
 攻撃により損傷し、更に凍結により動きが弱まった機晶姫の腹に、垂は真空派を叩き込む。
 腹部が激しく損傷し、機晶姫が一体崩れ落ちた。
「まてー! 大人しくしろ」
 エアロック方面から、不審者……ではなく、変熊が飛び込んできた。
 腹部を破壊されてもなお、攻撃をしようとする機晶姫に飛びついてロープ、は持っていなかったので、唯一身に着けていたマントで機晶姫を縛り上げた。
「師匠ー! イコンで迎えに行こうとしたら、止められたにゃー!」
 変熊のパートナー、にゃんくまが駆け付け、変熊を助けてマントの端を蝶々結び。
「にゃんくま、どうして助けに来てくれなかった!? そのせいで風邪引きそうだ、へっくしょーーーん!」
 捕えた機晶姫はとっても冷たかった。ブリザードを受けた後だったから。
「オウンゴールの危険性がるからって、エネルギー抜かれたにゃ」
 とか説明しながら、にゃんくまはがくがく震えている変熊と共に、機晶姫をすみっこの方へと引っ張った。
「もしもしー。もしもーし。ニンゲンノコトバワカリマスカ!?」
 何故か片言で変熊は機晶姫に尋ねる。
「我等ハ、ブラッディ・ディバイン。敵、排除、エネルギー室爆破」
 そんな言葉を繰り返しているだけで、やはり機晶姫には意思能力がないようだった。
「身体壊れちゃったしね。爆弾や武器を外した後でブリッジに運……こらにゃんくま!」
「この糞ガキゃ〜! 何がブラッディ・ディバインだにゃ。ネーミングが気取っててムカつくんだよ。お前らなんか『神の鼻血団』か『もけけ団』で十分だにゃー!」
 げしげし、にゃんくまは機晶姫を踏みつけて、顔に『神の鼻血団』、身体に『もけけ団参上!』とマジックで落書き落書き。
 そして見るも無残な姿で、機晶姫はブリッジに届けられた。

「……すっごく怪しい人がいたけど、ロイヤルガードなんだよね?」
「そうと聞いています」
 ライゼの問いに、朔が答える。
「ここには、僕達教導団所属者だけだけれど……一応注意しておかないとね」
 ライゼは殺気看破で警戒をしている。
 機晶姫だけではなくて、アルカンシェルの中に裏切り者が紛れている可能性も考えて。
 だけれど、エネルギー室の中には修理に当たっている人物も含め、今は知り合いの教導団員しかいない。
「爆破箇所に機晶姫の残骸がないってことは、自爆ではなく、普通に爆弾を仕掛けてるってことだよな。まず狙うべきは、武器を持ち、爆薬を仕掛ける――腕か!」
 エイミーが機晶姫の腕を狙う。
「ハンスさん、大丈夫ですかぁ?」
「大丈夫です」
 一人、盾を構えてガードしているハンスを、パティが歴戦の回復術で治療する。
「皆さん、頑張って守りましょうねぇ」
「ありがとー!」
「助かります」
 パティは、掠り傷を負っているライゼと朔のことも回復した。
 朔はシャープシューターとスナイプで、機晶姫の関節を狙う。
「仲間を信じて大丈夫だ。護るぞ!」
 体勢を崩した機晶姫に、垂が真空派を放ち、腕ごと武器を飛ばす。
「敵がぞろぞろ近づいてきてる。だが、前で踏ん張ってる奴らがいるようだな」
 栞のディテクトエビルに次々と反応がある。
 しかし、エネルギー室の前で対処に当たっている者達がいるようで、他の階層からの侵入者はほとんどなくなった。
「こっちに集中してよさそうだな。おっと、行かせないぞ」
 武器を失った機晶姫が飛んで、エネルギー制御室へ向かおうとする。
 瞬時に、栞が奈落の鉄鎖で落とす。
「お前達に恨みは無いけどさ……生まれ変わったら、戦いの無い生活を送れる事を祈ってるぜ……」
 垂の真空派が、機晶姫の頭部を破壊した。