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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.2 対美女陰陽師軍団(1) 


 オクタゴンへ到着した彼らは、そこから頂点に設置されてある各台座にブライドオブシリーズを収めるため、ハルパー班とダーツ班に分かれていた。
「台座は、この道の先だな」
 晴明からダーツを任された唯斗は、集団の中を走りながらそう呟いた。隣には託らが並走しており、他の生徒たちは彼らを囲むようにして頂点を目指している。
 台座はまだ見えないが、外からオクタゴンの形状を見る限りでは、ここからそう遠くないように思われた。
「無事、着けるといいねぇ」
 託が唯斗の呟きに反応する。その直後だった。
「……!?」
 突如、生徒たちがぴたりと歩みを止めその場にうずくまった。が、それは全員ではない。一部の生徒たちは、その様子を不思議そうに見つめているだけだった。
「まさか……これが遠隔呪法なのかねぇ」
 託が周囲を見渡して言う。口にした本人にその影響は出ていないようだが、大勢の生徒の顔色が悪くなっているのは明らかだった。
「例の、蘆屋系美女陰陽師軍団、ってヤツか」
 結界を発動させながら唯斗が言う。オクタゴン内に張り巡らせようとした彼だったが、思っている以上に術者の力が強いのか、広範囲に張ることはできなかった。
「見えないところからとは……晴明の言ってた通り、手段を選ばないヤツらみたいだな」
 唯斗は辺りを見回すが、術者らしき人影は見当たらない。しかし前もって入手した陰陽師軍団の情報と味方の現状を見れば、遠隔呪法による攻撃であることは容易に想像できた。
 呪いにかかっているのがある程度名の知れた者たちだけというのも、呪法の特性ゆえのものだろう。
 周囲の生徒たちのケアが先か、術者の居場所を割り出すのが先か。唯斗や託は決断を迫られていた。
 が、そうしている間にも、被害は増す一方であった。

「すみません、オレは一旦離脱します」
 うずくまっていた内のひとり、リュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)は言うが早いか、バーストダッシュで集団から離れる。あっという間に彼の背中は小さくなっていった。一同が彼の走っていく方向を見ると、そこはトイレであった。
「え、トイレ……?」
 唯斗や託が思わず声をあげる。
 そう、彼らが苦しんでいたのは確かに遠隔呪法によるものだ。しかしその呪法がもたらす効力は、精神破壊や物理ダメージを与えるというものではない。
 単純に言えば、その呪いの正体は腹痛である。
「なんだ、腹痛か」と馬鹿にする者もいるだろう。しかしたかが腹痛、されど腹痛。その威力は、瞬くまに生徒たちの自由を奪い、脂汗を流させていた。恐ろしい呪いである。
 リュースは、そのあまりの激痛に耐え切れず、目にも留まらぬ速さでトイレへと駆け込んだのだ。不幸中の幸いだったのは、このオクタゴン内にトイレが設置されていたことだろう。
 そして同じく、トイレを我慢できない者がいた。
「ぐっ……は、腹がっ……!」
 下腹部を手で抑えながら呻くのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)。彼もまた、リュース同様激しい痛みに襲われていた。
「に、兄さん!?」
 パートナーの高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が慌てて背中を手でさするが、ハデスの顔は歪んだままだ。ここに来るまでは「ブライドオブシリーズは、世界征服のために我らがいただく!」などと宣言していた彼だったが、今のハデスは見る影もない。
「サ、サクヤよ! 今回の作戦の指揮はお前に任せたぞっ! 我ら悪の秘密結社、オリュンポスの脅威を思い知らせてくるのだっ!」
 トイレに駆け出したリュースを見て自分も後を追わずにはいられなくなったのだろう。ハデスはそんな捨て台詞めいたものとパートナーたちを残し、トイレに向かっていった。
「兄さん……」
 よろよろとトイレに向かうハデスの背中を、咲耶が心配そうに見つめる。悪の秘密結社が悪玉菌にやられている、ある意味レアな構図だった。

 さて、ここで問題が浮かび上がってくる。
 この場所にあるトイレは、何人まで入れるのだろうか?
 答えは、ふたりまでである。つまりそれは、既にリュースとハデスが個室に篭っている現状では、絶望的状況といえる。次にトイレに駆け込んだ者は、トイレの空きを待たなければいけないのだ。
 しかし、これはただの腹痛ではなく呪法によるものである。ということは、術者を倒さなければ腹痛はおそらく治らない。つまり、トイレはそれまで空かない。
 なんという恐ろしい呪いだろうか。こうなってくると、下手にトイレが設置されてあることがむしろ生殺しである。
 そしてここにきて、晴明が渡した札の意味を一同は理解していた。これはきっと、呪いを解くものではないと。では何か? 答えはひとつだ。
 ――そうか、これはオムツの代わりか。
 彼らは愕然とした。
 陰陽師もっと頑張れや、と憤りさえ感じた。しかしそんなことを言っていても、事態は好転しない。
「見えないとこから仕掛けてきてる、ってのが肝ね」
 この状況をどうにかしようと、そう口にしたのは雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だった。何か策があるのだろうか。そう期待の目を向ける周囲に、リナリエッタは告げる。
「遠くからこっちの体力を削ってくるって手段を選ぶってことは、タイマンに自信がないってことよ。たぶん」
 おそらくその推理は、外れてはいないだろう。リナリエッタはきょろきょろと辺りを見回すと、生徒たちに言ってのけた。
「とりあえず、そのチキン野郎の顔でも見てくるわ」
 そして、リナリエッタはゆっくりと足を動かした。駆け出さなかったのは、相手の居場所に確信が持てなかったからではない。彼女自身もまた、腹痛に襲われていたからだ。しかもあろうことかリナリエッタは、晴明から札をもらっていなかった。まさかの事態が起きたら危険だ。
「ちょっと待て、札は……」
 唯斗が彼女の背中に告げると、リナリエッタはくるりと振り向き、口元を緩ませて言った。
「いらない」
「いらないって、これがあるのとないのとじゃ……」
 リナリエッタが、ふっと笑った。
「ミューズはね、パンツ履かないものなのよ」
 ちょっと何言っているのかよく分からない。そして彼女の笑顔は、汗を浮かべながらの苦笑いだ。リナリエッタはそのまま集団から離れようとするが、「あ」と何かを思い出したように立ち止まると、パートナーの悪魔、アドラマリア・ジャバウォック(あどらまりあ・じゃばうぉっく)を召喚した。
 どこからともなく現れたジャバウォックは、素っ頓狂な声をあげた。
「へ!? な、なんですかここ!?」
 どうやら自宅でくつろいでいたらしいジャバウォックは、ちょっとしたパニック状態に陥っているようだ。そこに、リナリエッタが声をかける。
「何のために呼んだか、分かるでしょ?」
「え?」
「ほら、周り見て」
 ジャバウォックが言われるがまま、視線を動かす。辺りは腹痛に呻く生徒で溢れていた。
「く、苦しそうです……」
「でしょ?」
 何が「でしょ」なのか分からない様子のジャバウォック。すると彼女から、指示が飛んだ。
「私がイケメンの苦痛顔大好きなの知ってるでしょ? ほら、ビデオ回しなさいよビデオ!」
「そ、そんな……」
「何? 嫌なの?」
 ぐい、と顔を近づけられすごまれると、ジャバウォックは容易く折れた。
「わ、わかりました……」
「たぶん一番良いポジションは、あそこよ。ほら、さっさと行く!」
 リナリエッタが指差したのは、トイレだった。ジャバウォックは悲しそうな、それでいて申し訳なさそうな顔をしてビデオカメラを手にトイレへと歩いていった。それを見届けると、満足そうにリナリエッタも歩き出した。彼女の目的は言わずもがな、陰陽師たちとの接触である。



 どうせ陰陽師軍団は、頂点の方で待ち構えているに違いない。そう思ったリナリエッタは、真っ直ぐ通路を歩き続ける。まあ、ここに来るまで姿を見かけなかったのだからその考えは間違ってはいないだろう。
 ちなみにお腹の調子はかなり際どい状態である。あまり猶予はない。
「待て、単独行動は危ないぞ!」
「え?」
 ひとり歩いていたリナリエッタの背に声がかかった。そこには、永谷とそのパートナー、滋岳川人著 世要動静経(しげおかのかわひとちょ・せかいどうせいきょう)の姿があった。
「それに、相手の場所だって」
「大丈夫大丈夫、私ほらアレ、女神だから。ミューズだから」
「……?」
 彼女の言葉がよく理解できず、首を傾げる永谷。
 リナリエッタは大丈夫と言ってはいたものの、陰陽師を探し当てる確実な術がないのは事実だった。そこで役に立ったのが、世要動静経の持っていたインク入りの瓶だった。
「わらわは、陰陽術を学んでいる身として、目に見えぬものに気を配っているでござる」
 きっと、陰陽師たちは何かしらの術でその姿を見えないようにしているに違いない。だからこそ、遠隔呪法という手段を使ってきたのだろう。
 そう思った世要動静経は、近くに不穏な気配を感じると、その方向へおもむろにビンを投げつけた。
 ガシャン、と瓶が割れると同時、空中にインクが付着した。なんとも奇妙な現象である。否、これは世要動静経の目論見が成功したことを意味していた。
「ちょっと、いきなり何すんのよ! 真っ黒じゃない!」
 怒り声と共にシルエットをはっきりとさせたのは、美女陰陽師軍団のひとりだった。直後、仕方ないといった様子で他の陰陽師たちも続々と姿を見せ始める。
「……出てきたみたいね」
 リナリエッタはざっと見渡す。おおよそ40〜50人はいるだろうか。しかしリナリエッタが最初に着目したのはその人数ではなかった。彼女らの、スタイルである。
 ――たいしたことないじゃない。
 自分の豊満なそれと対比し、相手の方が幾分劣っていると判断したリナリエッタは、心の中でそう呟き、勝ち誇った。ただしお腹はぎゅるぎゅる音を立てている。その音で向こう側もリナリエッタの存在に気付いたらしい。影のひとつが口を開いた。
「よくここまで来れたね」
 声の主は、蘆屋系美女陰陽師軍団のひとり、マリコだった。その声色は、仕掛けた呪法に相応しい嗜虐心を孕んでいる。よく見れば周囲の陰陽師たちもニヤニヤと笑っており、充分すぎるほどサドであることが伺えた。
「何? 揃いも揃ってSなの?」
 リナリエッタが口にすると、マリコは歪な笑みを浮かべた。
「ま、あたしたち、人の苦しむ顔見るの大好きだからね。そういう意味じゃそうなんじゃない?」
 コツ、とヒールを響かせながらマリコが一歩前に進んだ。リナリエッタひとりではこの数の差を埋めることは不可能であり、しかも彼女は腹に痛みを抱えている。絶体絶命のはずのリナリエッタだったが、そんな中彼女の口から漏れたのは高らかな笑い声だった。
「ふっ、はははは! その程度でSを名乗るですってぇ?」
「……何笑ってんのよ。頭おかしくなったの?」
「あのね、本当のSってのはねぇ、Mの気持ちが分かって初めて名乗ってもいいモノなのよ」
 自信満々にそう言うと、リナリエッタは彼女らに向かって歩を進めた。腹痛は既に限界間近のはずだ。
「ねぇ、良いこと教えてあげる」
「……何よ」
 意味ありげに言うリナリエッタの言葉にマリコが反応すると、彼女は言葉を続けた。
「アイドルはアレしないって言うじゃなぁい。でもそれ、嘘なのよ。真に美しい女……そう、ミューズはむしろ宝石を出すのよ!」
 威勢良く言い放つと、リナリエッタはマリコらが話に耳を傾けている一瞬の隙を突き、悪疫のフラワシを出現させた。無論、彼女らにそれは見えない。しかしフラワシはそんなことなどお構いなしに、攻撃を仕掛ける。病原体の散布である。
「……え?」
「何、この感じ……」
 すぐに、陰陽師たちは異変に気付いた。その異変とは、下腹部に生じた違和感だ。
 そう、リナリエッタは、悪疫のフラワシをけしかけることで彼女らにも自分たちと同様の病を発症させていたのだ。
「……ナメた真似してくれるじゃない」
 マリコがキッとリナリエッタを睨みつける。当の本人はしたり顔で笑っていた。
「ほらほらぁ、あなたたちも苦しみなさぁい……本当に『美女』なら、宝石が出るんだからぁ。楽しみましょ?」
 この場合彼女の言う宝石が何を指しているのかは、あえて追求しないでおこう。ともかく、リナリエッタは陰陽師軍団たちとの我慢比べを始めた。
 が、これはそう長くは続かない。なにせ今リナリエッタは極度の腹痛と戦いながら対峙しているのだ。そのためフラワシを全力で発動できなかったのか、見るからに痛みの度合いはリナリエッタの方が上だった。
「ふ……蘆屋系ナメんじゃないってーの。ほら、さっさと漏らしちまいな。あんたの言う宝石をさ」
 今度は、マリコが勝ち誇ったように笑った。

「な、なんだこの状況は!?」
 リナリエッタと陰陽師軍団が我慢比べを始め数分が経った頃、ようやく生徒たちが現場に駆けつけた。一瞬戸惑いを覚えた彼らだったが、目の前の美女たちを見て、これが呪法の主だと理解すると臨戦態勢へと移った。
「洒落になってないな、この呪法は」
 晴明に話していた通り、マーリンが後方へと下がると同時、真言は銃を構えた。が、腹痛の影響か普段のようにすんなりと構えることができない。そこで真言は、呪法にかかっていなかったパートナーたちの名を呼んだ。
「隆寛さん! グラン!」
 呼ばれて、沢渡 隆寛(さわたり・りゅうかん)グラン・グリモア・アンブロジウス(ぐらんぐりもあ・あんぶろじうす)が矢面に立つ。
「はるあき殿のお手伝い、がんばる」
 グランが術によりその体を宙に浮かせると、両手に冷気を溜め始めた。同時に、隆寛が陰陽師たちに接近する。
「術を使うのであれば、そちらに集中しなければならないでしょう」
 遠隔呪法を使用している間術者はほぼノーガードになる。その隙を突く作戦だ。シーリングランスで術を封じるべく攻撃を仕掛けた彼だったが、思わぬ反撃が待っていた。
「そうくるのは想定内さ!」
 マリコを含めた数人の陰陽師が後方に下がると同時に、入れ替わりで何人かの美女が前に出てきて、一斉に魔術を放った。
「!」
 さすがにそれらすべての術を封じることはできず、隆寛は慌てて盾をかざす。どうやら彼女らは、遠隔呪法組と近接攻撃組に分かれ生徒たちを迎え撃つ算段らしい。陰陽師たちの放った魔力の塊が隆寛に襲いかかる。盾ごと隆寛を襲うかに思われたその攻撃はしかし、上空からの氷に防がれた。
「大丈夫?」
 それは、グランの放ったブリザードだった。美女軍団は攻撃を邪魔されたことに苛立ったのか、グランに悪態をつく。
「ちっ……何ふわふわしてんだい。鬱陶しいね」
 その一言を皮切りに、美女軍団のサディスティックな攻撃は勢いを増していった。
「ハルナ、もっとこいつらに激痛を味わわせてやりな!」
「オッケー、マリコも全力で呪いなよ。あんたらの下着、糞尿まみれにしてやるよ」
 彼女らがそう言ってより一層力を込めると、生徒たちの腹は歪な音を立てた。
 このままではまずい、一刻も早く彼女たちを倒さなければ。
 特に強くそう思ったのは、今現在トイレに篭っているリュースとハデスそれぞれのパートナー、陽風 紗紗(はるかぜ・さしゃ)龍 大地(りゅう・だいち)ロイ・ウィナー(ろい・うぃなー)、そして咲耶とアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)だった。いずれも、幸い呪法を逃れている。
「リュースが使えないし、ここは連携していくしかないね!」
 鬼神力で肉体を強化しつつ紗紗が言うと、大地とロイもそれに応えた。
「容赦しないぜ! おばさんたち、覚悟しろよ! 俺張り切ってるんだからさ!」
「大地、お前から見たらおばさんかもしれないが……」
 ロイが、ちらりと美女軍団を見る。大地の失言はばっちり聞こえていたようで、彼女らはこめかみをピクピクと言わせていた。
「今なんつった……?」
「直接その腹に蹴り入れて痛ませてやろうか?」
 顔を引きつらせながらそう言った美女軍団が、大地のところへ突撃してきた。鋭く放たれた平手打ちを、鳳凰の拳で撃ち落とす。それをフォローするようになぎ払いを仕掛ける紗紗だったが、美女軍団が後方から放った術に阻まれ連携は途切れた。
「うーん、やっぱりリュースがいないと辛いねー。ま、仕方ないんだけどさ」
 うまく攻撃を繋げられず、苦戦が続く展開を思い浮かべ紗紗が呟いた。今トイレで苦しんでいるであろうリュースと自分たちを比べて、ロイが言う。
「しかし、俺たちが呪法を逃れたのはやはり知名度の問題だったんだろうか」
「何言ってんだよロイ兄! 俺たちが普段シナ……」
「大地、それ以上は言うな。たとえ本当でも、言って良いことと悪いことがある」
 大地が危険なことを口走りそうになったのを、ロイが慌てて止めた。これはロイのファインプレーだが、戦闘の真っ只中で軽い内輪揉めを起こされたことが陰陽師たちの逆鱗に触れたようだった。
「シカトしてんじゃないよ!」
 マリコの大声ダイヤモンド……もとい、大声が響くと、OMJ48……いや、陰陽師たちは一斉に手を振りかざした。さらなる呪法の強化である。
「ぐ……っ」
「いててて……!」
 途端に呻き声が響き渡り、多くの生徒が尋常ではない汗を流しだした。
「これは……リュース……」
 トイレにいるであろう契約者の様態を案じているのだろう、ロイが小さく声に出した。そして契約者の身を案じていたのは、ハデスのパートナー、咲耶たちも同じだった。一秒でも早くハデスを、仲間を救うため、咲耶がマリコたちの前に立ち、高らかに声を上げた。
「男性たちを苦しめる悪の陰陽師軍団は、私たち正義の秘密結社オリュンポスがヒーローに代わってお仕置きです!」
 契約者であるハデスが普段名乗っているのは悪の秘密結社なはずだったが、彼がいぬ間にイメージアップでも計ろうと思ったのだろうか。咲耶は堂々と正義を名乗っていた。もしかしたら彼女は、前から本当はそうしたかったのかもしれない。
「さあ、アルテミスちゃん、カリバーンさん! 悪を成敗しましょう!」
 とはいえ、やや大げさなアクションでびしっとポーズを決めているところはハデス譲りであった。そしてもっと言うと、彼女には正義というよりは若干の私怨が混じっていた。
「……兄さんに手を出したからには、手加減しませんからね」
 小さく呟いたその言葉は誰に聞こえることもなかったが。咲耶がそれを言い終える前に、アルテミスとカリバーンは臨戦態勢に移っていた。
「呪いを使うような卑劣な輩は、この俺が許さん! さあ、正義の心を持った勇者よ、俺を使えっ!」
 剣へと自らの姿を変えることが出来るカリバーンは、その特性を思うさま活かし、アルテミスの剣となっていた。
「オリュンポスの騎士アルテミス、参ります!」
 それを装備したアルテミスが、大胆にも彼女たちに近づき勢いに任せ剣を振るおうとする。その剣先には、咲耶同様僅かに私怨が込められていた。
「わ、私だって、名のある騎士として認められたいんですっ!」
 どうやら彼女は、呪法の対象とならなかったことに微妙にプライドを傷つけられたらしかった。
「なによ、あんたそんなにお腹壊したいの? とんだ変態ね」
「い、いやっ、そういうのじゃなくて! 呪いは嫌ですけどっ!」
 マリコの挑発に心をほんの少し揺さぶられたアルテミスは、カリバーンの腹……というと意味が違ってきそうだが、剣の腹で相手を気絶さえようと一撃を放った。
 が、挑発に乗って前のめりだった彼女の行動はすぐに読まれ、陰陽師たちに容易く避けられた。
「ほらほらどうしたの? ひとりで踊っちゃって」
「こ……このっ……!」
 アルテミスが二度、三度とカリバーンを振るうが、陰陽師軍団の統率のとれた動きの前では虚しく空を切るだけだった。
「アルテミスちゃん、私もいきます!」
 咲耶がそこにデリンジャーで遠距離攻撃を仕掛け、合間に氷術を放つ。が、銃撃も魔法も、ことごとく陰陽師たちの術で相殺されてしまう。
「て、手強いですね……!」
 咲耶が息を乱しながら言う。マリコは上から見下ろすような顔で生徒たちに問いかけた。
「次は何がほしいのか、言ってごらん? 呪い? それとも蹴り?」