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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】憑かれし者の末路(第1回/全2回)

リアクション

「ん〜、んっ、ここです! ここですよっ!!」
 厳島 春華(いつくしま・はるか)の声に雹針 氷苺(ひょうじん・ひめ)が「よくやったぞ」と急ぎ寄った。
 春華の『トレジャーセンス』がそれを感知した。ザナドゥに築いた橋頭堡から伸びる橋造物、その強度の弱い足場の一点を見つけ出した。
「よし、『破壊工作』はわらわが施す。退いておれ」
「はいですぅ」
 2人が位置を変えた時、背後から声と共に銃口が向けられる音がした。
「そこまでだ」
 セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が2人に『機関銃』を向けていた。2人は手をあげてゆっくりと振り向く。
「そこで何をしている」
「見ての通りだ、何もしてはおらんよ」
「何もしていないのなら、逆に不自然だ」
 ここでは橋頭堡を補強するもの、そして魔族の侵攻に備えるべく警護にあたる者しか居ないはずだ。何もせず居ることが既に不自然の極み。
「確か『樹の警護』という名目で本部に申請がされていたはずだが?」
「そ、そうですぅ! 敵はいつ攻めてくるか分からないですぅ、だからこうして樹の警備を―――」
「ならばなぜ『破壊工作』という言葉が出てくる。爆弾を使って建物を破壊する技術のことだろう?」
「そうした細工が施されていないかを調べておった所なのじゃ」
「ふっ。『施すのはわらわ』なんじゃないのか?」
「くっ」
 バレている。動き出しは銃口に制されたが、「動くな!」と叫んだのは『銃口を向けられている氷苺』だった。
「動くでないぞ、既に仕掛けた爆弾を今すぐ爆発させるぞぃ」
「なに」
「ここだけではないのじゃよ、爆弾を仕掛けたのは。もっとも、ここだけは仕掛ける前に見つかってしまったがのう」
 警護チームのメンバーか、気付けばセリオスの背後に北カナンの軍兵が集まっており、2人に銃口を向けている。正直『他にも爆弾を仕掛けた』というのはハッタリだったが、氷苺は余裕たっぷりな口調で春華に電話するよう伝えた。相手は2人のパートナーである木本 和輝(きもと・ともき)にである。
「いったい何が目的だ。なぜここを壊そうとする」
「取り引きのためじゃよ。壊すかどうかは返答次第じゃ」
「取り引き?」
「そうじゃ、無能な女神に侵攻を止めさせる為の取り引きじゃ」
「女神? イナンナか?!!」
 セリオスは慌ててクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)へ電話をかけた。


「我が国の世界樹で行われた方法だ」
「なるほど、試してみる価値はありそうね」
 ザナドゥへの入り口、世界樹セフィロトを前にクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)イナンナに言った。
 樹に直接自分たちの魔法力を注入して樹を強化する方法。実際に世界樹イルミンスールにも使われた手法である、同じ世界樹であるセフィロトにだって効果がある可能性は十分にある。
「先ほど橋頭堡側から戻ってきたのだが、向こうの警備は一応整えてきた、が、数で攻め込まれれば突破される恐れはある」
「兵が空いているなら送り込むべきでしょうね。樹の補強や警備など、人手は多いに越したことはない」
 言っているクローラ自身も分かっている。敵は先の戦いのように世界樹クリフォトの力を使って神出鬼没に現れる可能性だってある。兵を一カ所に集めることは思っている以上に大きなリスクを伴う。
「あなたは何と言って兵士たちを戦場に送り出しているのですか?」
 言ったエミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)は女神の前で頭を下げた。
「失礼しました。しかしどうしても、わたくしはあなたの意をお聞きしたい。この戦いの終わりはどこにあるとお思いなのですか?」
「戦いの終わり、ですか」
 熟考しているというよりは言葉を選んでいるように見えた。イナンナが次の言葉を発するより前にクローラの携帯が鳴り、そしてほぼ同時にイナンナに声をかける者がいた。
「その話、俺たちも是非聞きたいな」
 木本 和輝(きもと・ともき)、そしてその後ろには『デジタルビデオカメラ』をかまえた水引 立夏(みずひき・りっか)の姿があった。
「ちょうどあなたに取材したいと思っていたんだ、テーマはそこの彼女と同じ『なぜ、ザナドゥに侵攻するのか』」
「わたくしたちと同じとは言い難いですわ」
「まぁまぁそう言わずに」
何っ! 爆弾が?!!
 クローラはどうにか声を抑えた。電話の声はパートナーのセリオス、橋頭堡の警備をしていたところ怪しげな2人組を発見、今はその者たちをこちらの兵で取り囲んではいるものの、その者たちは既に複数の爆弾を仕掛けたと供述、さらにはイナンナと取り引きをすると言っていると。
取り引きだと?!!
「「えぇ、『イナンナに侵攻を止めさせる』と言っています」」
侵攻を、止めさせる?
 似たような事を言った者がいたような……。そう巡らせた時、和輝の「俺たちは『ザナドゥへの侵攻はいつ終わるのか、止める気はあるのか』を聞きたいだけなんで」という声が聞こえた―――
「あぁこれ、携帯電話なんですけどね、レコーダー代わりに使いますのでお気になさらずに」
「なっ! …………待て、」
「(シーーーーーーッ)」
「!!!」
 口元で立てた指一本で和輝クローラの動きを制した。さっきの発言、そして携帯電話。間違いない! 奴は爆弾を仕掛けた2人組の仲間だ!
 電話はおそらく通話状態。そうしておけばイナンナの回答はそのまま即座に伝える事ができる。
「くそっ」
 和輝の笑みが全てを物語っていた。『静かにイナンナの答えを聞こうぜ』と。
「『戦いの終わりはどこにあるのか』こちかから答えれば良いかしら」
「えぇ、お願いします」
 クローラの視界に和輝が居るということは逆もまた然り、これでは下手に動くことすらできない。
 気付けばイナンナの回答に頼るしかない状況になってしまっていた。
「終わりは『ザナドゥ勢力の撤退』と『地上への恒久的な不侵を約束させること』、これらが叶った時かしら」
「恒久的な、不侵?」
 返して訊くコンラート・シュタイン(こんらーと・しゅたいん)に女神は続けた。
「えぇ。二度とカナンの地へ侵入しないこと、これが約束されなければ終わりとは言えません」
「約束……ですか。私には奴らとそんな約束を交わせるとは思えませんが」
「いえ、我々は約束せねばなりません。この国の全ての民と」
 ………………なるほど。
「では、5000年前の封印についてはどのようにお考えですか?」
「どのように、とは?」
「失礼ながら私にはとても中途半端だったと思えてなりません。ザナドゥへ魔族を封印するという方法で戦いを収束させた結果、カナンは1000年に一度の災厄という形で魔族の脅威に晒される事となった。そして今回も。なぜそのような方法を採られたのでしょう」
「当時はそれが最善の策であると判断したからです」
「えぇえぇそうでしょうね」
 静観していた和輝がここで喰いついた。
「しかし今回は積極的にザナドゥへ侵攻をしている、つまり『ザナドゥの魔族を皆殺しにする』おつもりだと考えてよろしいんですね?」
「そんなつもりはありません」
「そうでしょうか、先の戦いでは『魔族を撤退させるべくザナドゥに兵を送った』これは理解できます。しかし今回は違う、明らかにこちらからザナドゥに侵入し内情を探ろうとしている」
「敵を知るためです、侵攻ではありません―――」
「いいや侵攻だ! 相手の国に許可なく入り勝手に軍を動かし建物まで建てている、これを侵攻と呼ばずして何と言う!!」
 思わず声を荒げた和輝だったが、女神は冷静だった。
「相手方は明らかにこちらに敵意を持っています、近いうちに間違いなく侵攻してくるでしょう。その時になって動き出しては遅いのです、それでは全ての民は守れない」
「そうなる前に全滅させてしまえば良いってんだろ? それを侵攻というんだ!」
 女神はコンラートに瞳を向けると「民族絶滅を回避する方法の一つが、ザナドゥへの封印です」と告げた。先程の補足という意味合いだったのかもしれない。
「それではこの戦いの終わらせ方も、封印、とお考えなのですか?」
「それを探っているのです、そのための調査です。おそらく5000年前と同じ手は通用しないでしょう、封印という手段なら別の方法を考える必要があります、しかしそのためには敵の現状を知ることが不可欠です」
 侵攻の意は無い、彼女ははっきりとそう言った。和輝の表情が固まる中、イナンナは次のようにも言いました。
「それに今回はアーデを助ける必要があります」
「アーデ?」
 つい口にしてしまいました、とイナンナは苦笑いを浮かべた。姉であるアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の呼称。自分も責任ある立場に居る以上、公の場などではそう呼ばないように心掛けているようですが、またしてもついうっかりそう呼んでしまったそうだ。
「姉を取り戻すためにも、姉の真意を確かめるにも、まずは情報が必要です。私事と言われればそれまでですが、それはパイモンの侵攻を止める事にも直結すると私は思っております」
 姉を思う想い。民を思う想い。侵攻の意志は無いという彼女の主張を、和輝はこれ以上揺さぶれなかった。
もういいだろう
 耳元でクローラが言った。
「お仲間の2人は先程、取り押さえたそうだ。樹を爆破される事も覚悟の上で取り押さえたそうだが、爆発は起こらなかった、どうやらハッタリだったようだな」
「そうか。捕まっちまったか」
 観念したように和輝は息を吐いた。「もう少し様子を見ることにするよ」と呟いて狂気を押し殺した。樹や周辺の建築物を爆破する事で侵攻を止めさせようとする彼らの策はここに終わったようである。
 エミリアたちの問いにもイナンナは真摯に答えた。これが全てではないにしても、これもまた一つの真実、一つの答えがここに語られたのだった。