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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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   一六

 社の中で、ルカルカ・ルー、ダリル・ガイザック、カルキノス・シュトロエンデ、夏侯 淵、グラキエス・エンドロアの五人は車座になっていた。
【カタストロフィ】を発動させると、床がずしんと鳴り、次第に熱を持ってくるのが分かった。
「これは……どういう仕組みなんだ……?」
 グラキエスは誰ともなしに呟いたが、無論、答えられる者はいない。
 ルカルカは隣のダリルにそっと囁いた。
「行かなくて良かったの……?」
 ユリンの持つリプレスは「置き換わる」「入れ替わる」「後任になる」を意味する。しかし、ITの分野では古くなったり破損したシステム等を、新しくしたり、別のものに置き換えることを言う。また、上書きモードをリプレースモードとも言う。
 オーソンがどれほどの意味を込めて名付けたか分からないが、ダリルは後者と受け取った。技術者である彼はそれを解析し、己の手で対抗装置を作りたいと考えているはずだった。――剣の花嫁である故にこそ。
「俺は……シャンバラの剣だ」
 その一言で、ルカルカは全てを承知した。個よりも国を優先させる――それはルカルカたち軍人たちにも通じる、剣の誇り、鋼鉄の意志。
「大勢の民がおるのだ。奴らの思い通りにさせてなるものか。俺たちがな!」
 淵がにやりと笑った。その顔に脂汗が流れている。淵だけではない、全員が次第に己の体を重く感じ始めていた。
「やむを得ん……みんな、装備を外そう」
「えっ? 危険じゃない?」
「彼の」と、ダリルはグラキエスを見た。「仲間が外にいる。俺たちはそれを信じよう。カタルが来るまでに俺たちが倒れたら、意味がない」
「ありがとう」
 グラキエスは微笑んだ。
「うんうん、お前はそうやって偉そうに仕切ってるのが一番だ」
 カルキノスが笑いながら、武器を全部外していく。
「酷い言いぐさだな」
「ダリルの判断だから信じておるのだよ、こいつも素直でないからな」
 淵の言葉に、カルキノスは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
 だが、そうやって談笑していられたのは、ここまでだった。
 ミシャグジの生命エネルギーが五人に流れ込み、体内を通ってまた戻っていく。
「なるほど……普通の【カタストロフィ】とは、違うわけだな……」
 歯を食いしばり、グラキエスが言った。
 社自体にそういう仕掛けがあるのだろう。体を通すことで、生命エネルギーの「質」を変えているらしかった。
 しかし、自分のものではないエネルギーを受け入れるだけで、
「こんなに大変だなんて……」
 ルカルカはかぶりを振った。頭痛、眩暈、吐き気、指先が痺れ、座っていることすら辛い。カタルはこれを耐えたのか、と全員が同じことを考えた。
「あいつ、チビのくせにやるじゃねぇか……」
「俺も負けておれん……」
 カルキノスも淵も、減らず口を叩くが、顔色は悪い。
「お前は大丈夫か?」
 ダリルは向かい側に座るグラキエスに尋ねた。
「少し……まずいな」
【禁じられた言葉】で大幅に魔力を引き上げたものの、このままではそれも尽きるだろう。カタルが来るまでは――と思っていたが、連絡はまだない。
「少し……離れる」
 狭い中、グラキエスは可能な限り四人から離れ、壁に身を預けた。
 ――やれることをやろう。
 両の掌を床につけ、目を閉じ、息を整える。そしてカッと両目を見開いたとき、グラキエスの体から大量の魔力が発散された。
「これは……!? よせ、そんなことをすれば、後が大変だぞ!」
 ダリルの忠告は聞こえていた。だが、後のことなど考えている余裕はない。魔力解放により、先程までより大量の生命エネルギーがグラキエスの体内に取り込まれた。指先へ、脳へ、隅々まで行き渡り、循環し、そして戻っていく。同時に、体中の血液が沸き始めるのが分かった。
 ――持って、五分。
 グラキエスは賭けることにした。


 五人が【カタストロフィ】を始めてすぐ、社の異変にオーソンが気づいた。
(……オルカムイめ、やはり仕組んでいたか)
 三道 六黒が、のしりのしりと社へ向かう。
「行かせるわけにはいかん」
 アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)が、その前に立ちはだかった。
 六黒はじろり、と二人を睨みつける。実はこの六黒は、虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)に憑依されている。波旬は、六黒よりオーソンの代わりに戦うよう、命令されていた。波旬としては、むしろオーソンやアールキングの最期に興味があるのだが、仕方がない。今はその命令を聞いておくことにした。
 ウルディカは六黒(波旬)目掛け「黒曜石の銃」を撃った。波旬の【神速】【龍鱗化】【羅刹の武術】【肉体の完成】で基礎能力を向上させている六黒(波旬)は、【行動予測】で察知し、体を傾けるだけでそれを避けた。
 その瞬間、アウレウスはダッシュローラーを使い、【ランスバレスト】で突撃した。しかし、「彗星のアンクレット」や「黒檀の砂時計」で更にスピードを上げている六黒(波旬)は難なく躱し、「梟雄剣ヴァルザドーン」をアウレウスの肩に振り下ろした。【龍鱗化】していなければ、その一撃で骨が砕けたろう。
 ウルディカはアウレウスが沈むその一瞬を狙い、【サイドワインダー】で六黒を狙った。
 左右から挟み込まれ、六黒(波旬)は一発を腕で叩き落としたが、もう一発を脇腹に食らった。ほんの一瞬、動きが止まる。
 アウレウスが息を大きく吸った。「スピアドラゴン」を強く握り締め、六黒(波旬)の肩、腕、胸、腹、脚などを撃つ。【ソードプレイ】の激しい攻撃に、六黒(波旬)も受けるのが精いっぱいだ。しかしアウレウスも、致命傷を与えることが出来ない。
「アルゲンテウス!!」
 ウルディカの声に、アウレウスは迷うことなく六黒(波旬)から距離を取った。彼が何をする気なのか、不思議なことに一言で理解できた。
 六黒(波旬)がするすると間合いを詰めるのを、ウルディカは【弾幕掩護】で遮った。六黒(波旬)の足が止まり、アウレウスは背後に回ると再び【ランスバレスト】を放つ。確実な一撃――そのはずだった。
 六黒(波旬)の背に、「大帝の目」がついていた。ぎろり、とそれがアウレウスを睨む。
「しまっ――」
 六黒(波旬)は待ち構えていたように体を捻ると、【スタンクラッシュ】を叩き込む。アウレウスの鎧に皹が入り、胸部が砕け散った。
 地面に沈むアウレウスを見、ウルディカは呆然とした。完璧なタイミングのはずだった。
 そしてその時、社で異変が起きたことを彼は悟った。魔力解放――いっそ、禍々しいとすら呼べるその状態を、敵のいない社でグラキエスが自ら引き起こしたことは明白だった。
 なぜ、と思う。なぜエンドロアは、危険を冒すのか。己が死ぬかもしれぬのに。
 答える者はいない。ウルディカに出来ることといえば、このまま六黒(波旬)と戦い続けるか、逃げ出すか。
「ありえない、な」
 後者は決して。
 ならば戦うのみ。
 ウルディカは再び、「黒曜石の銃」を強く握り締めた。