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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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   二〇

 オーソンは砕けた黒い石を指先で磨り潰した。サラサラと砂のようになった石が地面に落ちる。
(ユリンめ……リプレスを奪われたか……)
 まさかユリンが負けたとは、オーソンは思ってもいない。
「……オルカムイ」
 房姫が呟く。
「確か、葦原島の古い言葉で『梟』を意味するはず……なるほど、その人物が、この洞窟を作ったお人なのですね」
(ほう、随分と物知りだな)
 今はカタル自身たちとて、使うことのない言葉だ。イカシは、自分たちの一族にその人物の名を付けたのだろう。
 同人誌 静かな秘め事が慌てて「魔道書ですから」と説明する。
「オルカムイとは、一体何者なのです? そなたとどのような関係があるのです?」
(オルカムイは我が同志にして敵。一度は、目的が一致したので手を組んだがな)
「それは、葦原島に迫るものに関係があるのですね? あれは一体、何なのです? そなたは、一体何をするつもりなのです?」
(質問が好きな魔道書だな。知識欲に免じて教えてやろう)
 房姫の態度を単に欲と思ったのか、オーソンは笑った。
(あれは意思も意志もなく漂うもの。かつて、一つの小さな大陸を破壊し、一人のソウルアベレイターを産み出した。餌がなければ、ただ漂うのみ。五千年前、アモン・ケマテラが蘇ろうとしたとき、私が邪魔をしたのは時期尚早だったからだ。餌として、まだ満ちていなかったのでな……)
 その一点において、五千年前のオーソンとオルカムイは手を組み、漁火と敵対した。今は逆だ。ミシャグジは十分に成長した。もはや待つ理由はない。故に、今度は漁火と手を組んだ。
「それはもしや、ニルヴァーナに潜み、パラミタ大陸の崩壊を狙っているものと同じ……?」
 オーソンはまた笑った。見下した笑い方だった。
(全く違う。葦原島を狙っている“もの”は、ただ本能を満たそうとしているだけの単純なものだ。その際に大陸の破壊が起こるかもしれん。だが、ニルヴァーナ大陸の裏よりパラミタを崩壊させようとしているのは、もう少し複雑な存在だ)
「一体、なぜそんなことをするのです? そなたはそれで、何を得るつもりなのです?」
(得るもの? 世界をあるべき姿に正すだけだ!)
 オーソンが両手を広げた。ずしん、洞窟が大きく揺れた。
「これは……!?」
 細かい地響きが続き、壁の土がぱらぱらと社の上に落ちる。
「いけません――!」
 房姫が息を飲み、静かな秘め事は社に向かって叫んだ。
「逃げてくださいまし!」
 ややあって、ルカルカ・ルー、ダリル・ガイザック、カルキノス・シュトロエンデ、夏侯 淵が飛び出してくる。カルキノスと淵は、グラキエス・エンドロアを両側から支えていた。
 そして五人が外へ出た瞬間、社の上に大量の土砂が降り注いだ。
「オーソン!!」
 ルカルカとダリルが、オーソンへと殴り掛かる。武器は社に置いて来たから、素手だ。更に【カタストロフィ】で力を使い果たし、スピードもパワーも地上の一般人と左程変わらない。
 それでも残る力の全てをオーソンへとぶつけた。
 瞬間、――二つの拳がオーソンへと触れたその瞬間、そこはただの空間となっていた。
「え――?」
 手応えはあった。柔らかいローブが拳を撫でた。だが、それだけだった。
 地面には、石の砕けたサークレットが一つ残されていた。


 辺りの草をまき散らし、レッサーフォトンドラゴンがゆっくりと降りてくる。鳥たちは何事かと騒ぎながら、慌てて逃げ出していた。
「遅いぞ!!」
 強盗 ヘルは、セルマ・アリスに怒鳴った。
「申し訳ありません」
 謝ったのは、ドラゴンから飛び降りたカタルだ。
「いや、おまえはいいんだ。おまえは」
 ヘルは慌てて手を振った。
「どうやらオーソンは、どこか直通の道を作っていたらしい」
と、レン・オズワルドは言った。
 洞窟から仲間が戻ってきたとき、彼らが味方であるという確証がなかったため、レンはアブソリュート・ゼロをすぐには解かなかった。しかし、一向にオーソンたちが現れないこと、後続の剣の花嫁、機晶姫や黒装束たちが現れないことから、ようやく彼らを通し、話を聞いたのだった。
「それにさっき、彼女たちも元に戻ったようです」
 ザカコ・グーメルが、捕えた剣の花嫁たちを指差した。全員、まだぼうっとしている。怪我人も多いが、幸い死者は出ていない。
「ただ一つ気になるのは、つい今しがた、洞窟が揺れたことだ……そう大きくないが、外は何もない。中で何かあったのかもしれない」
「気を付けます。ありがとうございます」
 カタルは三人に頭を下げ、セルマと共に洞窟へ足を踏み入れた。


 オーソンが姿を消し、味方をしていた者たちも剣の花嫁、機晶姫が解放されたと同時に、逃げ出したらしい。地下三階の社祠は破壊されており、どこへ逃げたか突き止めるのは不可能なようだった。
 カタルが着くと、房姫は変身を解いた。
「積もる話もありましょうが」
と、彼女はマントの後ろに隠していた「風靡」を取り出した。
「早速、儀式を行いますよ」
「よろしくお願いします」
 カタルは上半身を脱ぎ、社――だった場所――に程近いところに座った。
 房姫は目を閉じ、そしておもむろに、彼の背に刃を突き立てた――。