リアクション
「さあ、始まりました、俺強機動要塞戦。はたして、最強の機動要塞の称号を手にするのは、誰の機動要塞か。司会は、わたくしシャレード・ムーン、解説は、コア・ハーティオンと愉快な仲間たちでお送りいたします。さあ、記念すべき初戦は、マネキ・ング(まねき・んぐ)さんの生体要塞ル・リエー対、大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)さんの加賀の戦いとなります。解説の皆さん、この組み合わせ、どう御覧になりますか?」 双方の艦影をパネルで紹介しながら、シャレード・ムーンが訊ねた。 生体要塞ル・リエーは、その名のごとく通常のマ・メール・ロア型の機動要塞の上に、奇怪な軟体動物のような物が覆い被さった形状をしている。外部装甲板には、なぜか多数の巨大アワビが鱗のように貼りついており、実物は異様に磯臭い。その内部には、巨大なアワビ養殖場を有していると噂されている。各種大型砲と共に、奇怪な触腕を有しているのも特徴的だ。 ちなみに、本来のマ・メール・ロアは、エリュシオン帝国においてもかなり旧型の機動要塞に分類される。現在の機動要塞は、シルエットとしては逆円錐型のマ・メール・ロアと同型ではあるが、現在の地球の技術が多数流用され、格段に性能がアップしつつ量産性を高めたものである。これらを原型とし、コア部分を流用して外装部を大幅にカスタマイズした物が、現在の各種機動要塞の基本となっている。 完全に形状を変えてしまった機動要塞の最たる物が、加賀などの船舶型の機動要塞であった。 本来の機動要塞は、本拠地として、一定の場所に固定された後に拠点として司令部がおかれる。そこから、各種イコンなどに指示を与えたり、敵都市に鎮座して、威圧的に制圧するわけである。そのため、移動力はイコンなどと比べたらないに等しく、ほとんど動けないと言ってもいい。 そんな固定式の機動要塞のセオリーに反して、積極的に移動することを念頭に建造されているのが船舶型の機動要塞であった。 これは、地球的な概念がパラミタに持ち込まれたことも大きい。前線へのヴァラヌスの輸送と、浮遊砲台としての運用を基本としていたマ・メール・ロア型は、まさに要塞としての概念で運用されてきた。これに対して、地球でそれに当たる物は、空母などの機動艦隊である。空港や砲台そのものを移動させるという概念のなかった地球の者たちにとっては、巨大戦闘機や空母、戦艦などの方が理解しやすい形状であったのだと言える。 そのためか、一種、ブームのように戦艦型・空母型の機動要塞が増加している。同じく、地球の技術を積極的に取り入れたフリングホルニやスキッドブラッドのようなエリュシオン帝国の一部新型機動要塞も、船舶型を採用していた。もともとは大型飛空艇としてイコン用軽空母として開発されていった物ではあるが、大量のイコンを運用させるという要求から、だんだんと巨大化して機動要塞クラスになった物であった。 加賀は、大型の戦闘空母としてのシルエットを有している。広大な上甲板には、左右にそれぞれ飛行甲板を持ち、中央部には主砲台を多数装備している。 「き、きしょい〜。絶対気持ちの悪さで、戦艦の方が勝つわよ」 完全に見た目で、ラブ・リトルが答えた。 「うむ、見たところ、どう見てもル・リエーの方は、倒すべき怪物にしか見えん」 うんうんと、コア・ハーティオンもうなずいた。 「ええと、客観的に見ると、加賀はイコンを主体にするのか、砲撃を主体にするかで、大きく戦法が変わってくるわね。汎用性が高いとも言えるけれど、戦術を間違えたら逆効果でしょう。ル・リエーがどう出るか分からない以上、見た目で色物要塞と決めつけると痛い目に遭うかもしれないわ」 感情的なラブ・リトルとコア・ハーティオンに溜め息をつきながら、高天原鈿女がしっかりと解説した。 「そうですね。色物最強都市伝説も存在しますから。これは、最初から目の離せない戦いになるかもしれません。さあ、それでは、戦いを開始しましょう」 ★ ★ ★ 試合開始と共に、会場の立体スクリーンに映し出された雲海が波立った。 まさに、雲の海をかき分けて、加賀がその勇姿を現した。 「前方バリアを展開しつつ、イコン部隊を発進させます。現時点で、まだ敵影は発見できません」 センサーに注視しながら、天城 千歳(あまぎ・ちとせ)が大田川龍一に告げた。 加賀の艦首付近から、アンチビームファンが展開される。左右の飛行甲板には、高機動型プラヴァーの彗星とストークの雷光が現れて、発進態勢に入った。 「センサーに反応。敵要塞浮上します」 「イコン発進中止だ。攻撃態勢のまま、待機させろ。まだ敵の動きが不明だからな」 天城千歳の報告に、大田川龍一が素早く指示を出した。 「りょ、りーかいですわ」 あたふたと、天城千歳が機器の操作や、乗員への指示を出す。ブリッジ要員は彼女一人だけなので大忙しだ。 加賀のブリッジ前方の雲海が、激しく逆巻いた。奇怪な触腕が鎌首をもたげるように現れ、続いて生体要塞ル・リエーが、雲海の巨大生物のような容貌を現し始めた。 ★ ★ ★ 「ふふふふ……。我が最強要塞ル・リエーの力を思い知らせてくれる。要塞各砲台に命じる、一斉に攻撃を開始せよ!」 生体要塞ル・リエーの司令室に縁起物の置物のようにでんとおかれたマネキ・ングが、要塞内全域に響き渡る声で命令を発した。即座に、要塞各所に配置されていた要塞砲と荷電粒子砲が発射された。 ★ ★ ★ 「敵、攻撃来ます!」 「あわてるな。艦首を敵にむけ、被弾面積を抑えつつ、バリアで耐え抜け。彗星と雷光に伝達。敵要塞にむけて攻撃態勢。指示と共に、反撃せよ」 落ち着いて、大田川龍一が指示を出す。 とにかく撃てばそのうち当たるとばかりのル・リエーからの攻撃が、加賀に襲いかかった。被弾面積は前面が最も少ないとはいえ、標的としては充分に大きい。ビームと砲弾が、アンチビームファンに次々と命中していった。たが、その集中砲火にバリアがなんとか耐えきる。一斉攻撃がすべて着弾すると、リロードのためにわずかに間が空いた。 「今だ! ビームファンを移動。撃て!」 大田川龍一の命令で、甲板にいたイコン各機が発砲する。 バリア代わりに機動要塞の周りでうねうねと蠢いていた生体要塞ル・リエーの触腕が、直撃を受けて数本吹き飛んだ。 「敵に時間を与えるな。イコン各機、発進!」 加賀の飛行甲板から、彗星と雷光が一気に発進していく。 |
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