リアクション
1回戦第2試合 フリングホルニ・クリムゾン VS シュヴァルツガイスト 「さあ、続いての第2試合は、天貴 彩羽(あまむち・あやは)のレンタルしたフリングホルニ級と、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)さんのシュヴァルツガイストの戦いです」 シャレード・ムーンに紹介されて、二つの機動要塞がスクリーンに映し出される。 天貴彩羽の借りたフリングホルニは、全体をクリムゾンレッドに塗った戦闘的なカラーリングだ。カタパルト部分と、船腹には黄色い雷光のマーキングがされている。 艦載機は、重イコン型のヤークト・ヴァラヌス・ストライカーを中心として構成され、艤装の少ないフリングホルニの移動砲台として多数を配置している。 対するシュバルツガイストは、基本形態はマ・メール・ロア型の逆円錐型だが、独立した各ブロックが幾何学的に移動変形できるようになっており、それにより密集した球体形態や、長方体状の戦艦形態、最大に拡散したマトリクス状態などの各形態を取ることができるようになっている。要は、玩具のブロックのような、ちょっと四角四角したドット絵のような見た目をしている。 非常時には各ブロックを切り離すことも可能だが、当然それは要塞の弱体化を示すものでもあるので、この状態に追い込まれれば先細りになることは否めない。 「こちらは、どう御覧になりますか?」 「おや、シュバルツガイストは、この前の戦いで回廊の中で爆沈したと聞くが……」 いつ直ったのだと、コア・ハーティオンが首をかしげた。 「新規に2号要塞は発注済みとのことです。今回は、データでの先行お披露目だとか」 「相変わらず、ごてごてとして、よく分からない形ですわ。まるで、『火理矢道』(びりやどう)という陣形に似てますわね。古代王朝で、最終決戦において用いられたというこの陣形は、一部が爆発すると、次々に誘爆していって玉が弾けるように……」 「ええっと……」 突然何かを言いだしたラブ・リトルに、シャレード・ムーンが困惑する。もちろん、そんな戦法はラブ・リトルが、「今考えた」ものであるのは間違いがない。 「シュバルツガイストは、以前善戦したと聞きますし、活躍を期待したいところですが、今回もまた爆散するのではないかという期待もあります」 高天原鈿女の解説は身も蓋もない。 「はたして、今回も爆発の花を咲かすのでしょうか。試合開始です」 ★ ★ ★ 「ひゃっほーい。今日は思いっきりいけるぞ。レーザーマシンガン、一斉発射だあ!」 射程内にフリングホルニが入ってくるなり、すでに絶好調で調子に乗った新風燕馬が各砲台に命令を下した。 普段であれば、シュバルツガイストの指令官はサツキ・シャルフリヒター(さつき・しゃるふりひたー)なのだが、今日だけはいつもと役割を交換している。 同タイプの新型機動要塞は、すでにあるパートナーを通じて手配済みなのだが、いかんせん、その要塞を手配した者が者なので、いまいち怖くて動かす気になれないでいた。その点、スペックだけのシミュレーションデータであれば、変なトラップなどは仕掛けられようはずもないので、今日だけはのびのびと戦闘ができると張り切っているわけである。 ★ ★ ★ 「サポートシステム起動よ。コンピュータ、前面にフィールドバリアを集中。敵攻撃を防ぎつつ、ヤークト・ヴァラヌス・ストライカーの配備を急ぎなさい。中央一番機のフィールドカタパルトキャノンの装填を最優先に」 『こばー』 一人で完全制御できるようにと機晶支援AIをインストールしたフリングホルニのメインコンピュータが、天貴彩羽に答える。 「こ、こば!? まさか、今回の無人機とかのAIって……」 ちょっと、天貴彩羽が引きつった。その通り、今回の各種機器のコントロールAIは、すべて小ババ様型のモブAIである。 「パターン解析終了。仕留めさせてもらうわ。フィールドバリア、カタパルトキャノンモードにチェンジ。一番機、攻撃開始よ!」 天貴彩羽の指示で、甲板中央で手持ち式の要塞砲を構えたヤークト・ヴァラヌス・ストライカーが発射態勢に入った。その射線上に、フィールドカタパルトが加速コイルを形成する。次の瞬間、反撃がシュバルツガイストにむかって放たれた。 ★ ★ ★ 「何!? すべて避けられたあ? 砲手、何やってるの。弾幕密度が薄いよ!」 フリングホルニの前面で、フィールドの位相変換によって曲げられた空間に沿ってレーザーの軌跡が曲げられるのを見て、新風燕馬が叫んだ。 『こばー、こばー』 ちゃんと撃っていると言わんばかりに、砲台から小ババ様AIの文句を言う声が返ってくる。 「な、なんで、小ババ様が乗っているんだ?」 こちらも、予期せぬAIのタイプに思いっきり戸惑う。 深く考える間もあらばこそ、激しい衝撃がシュバルツガイストを襲った。敵からの攻撃が命中したのだ。 『何をやっているの、反撃しなさい!』 じれったいとばかりに、格納庫にいるサツキ・シャルフリヒターが司令室の新風燕馬に通信を入れて怒鳴った。 「分かった。要塞砲を準備するまで、イコンで敵を攪乱してくれ」 ダメージコントロールを行いつつ、新風燕馬がサツキ・シャルフリヒターに頼んだ。 即座に、新風燕馬が主砲の発射準備に移行する。 『主砲発射モードヘ移行』 ちゃっかりとプリセットしてあったサツキ・シャルフリヒターの声で、発射シークエンスが実行されていく。 『エネルギーライン、全段直結』 おもわず、本人に内緒でセットしておいてよかったと新風燕馬は思った。そうでなければ、小ババ様AIで、こばーこばー言うだけであったかもしれない。 「イコンで攻撃……。棺桶入りですか……」 そうつぶやくと、サツキ・シャルフリヒターがブラウヴィント・ブリッツを見つめた。どうにも、新風燕馬によって撃墜癖のついてしまっているイコンである。ちょっとだけ、嫌な予感がする。だが、まあ、そのときは、また新風燕馬がお姫様だっこで助けに来てくれるかもしれない。 「サツキ・シャルフリヒター、ブラウヴィント・ブリッツ、出ます!」 変な期待を胸にだきつつ、サツキ・シャルフリヒターはブラウヴィント・ブリッツで出撃した。 「これ以上、要塞を傷つかせるものですか」 今度は爆沈させはしないと、サツキ・シャルフリヒターがミサイルを発射しつつ、フリングホルニ側面から一気に接近しようとした。 フィールドカタパルトを展開しているフリングホルニはバリアを張れないため、容易に甲板をミサイルで破壊できるとほくそ笑んだサツキ・シャルフリヒターであった。だが、フリングホルニ舷側のシールド状の装甲板が、ミサイルの接近に合わせて移動して船体を防御する。命中はするものの、分厚いシールドの装甲を抜くことはできず、爆炎が舷側表面に広がるだけであった。 |
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