リアクション
○ ○ ○ 「あれ? 聡くんなんでそんなボロボロなんですか……?」 山葉 涼司(やまは・りょうじ)と共に訪れた山葉 加夜(やまは・かや)は、受付けにいた聡の姿に首を傾げた。 「あ! 競技者として出たのですか」 「うんまあ、そんなとこ……ははははは」 「頑張ってるんですね」 加夜はどこか遠い目をしている聡を歴戦の回復術で癒してあげた。 「せっかくですから、涼司くんと聡くんで対決しませんか?」 加夜の言葉に「え?」と、涼司と聡が顔を合せる。 「プレイヤーとしてです。けれど聡くんはポロ……を期待しているみたいですので、競技者の方がいいですか?」 にこっと加夜は聡に笑顔を向けた。 「い、いや……涼司の前でキミにそーゆー技をしかけたら、面倒なことになりそうだし」 「そうゆう技ってどんな技だよ」 涼司が聡の言葉に苦笑する。 「私も競技者はやりません。プレイヤーさんのお役に立てませんから。でも、プレイヤーはやってみたいかな? 普通の格闘ゲームも弱いので自信はないですけれど……」 「それじゃ、俺と聡でやってみるか」 「はい」 涼司の言葉に頷いて、加夜はまず2人のプレイを見ることにした。 「よし、聡、コントローラー貸せ。俺がお前を操る」 「え? 俺もしかして競技者? まあいいけど、相手は女の子でよろ〜」 「また変なこと考えてますね、聡くん。対戦が終わった後に、ポロ…ではなく、ボロボロにされちゃいますよ」 「うっ……はいはい。おい、涼司! そーゆー技使う時は、偶然を装えよ!」 そんな指示を出してから、聡はリングに向かっていった。 「プレイヤーが君なら考えたけどね」 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)に誘われて訪れたルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は、競技には出なかった。 「無理にとは言わないよ。普通の競技じゃないしね」 競技者としてエントリーしたヴィナの操り主は、企画者の一人のティリア・イリアーノだった。 武器は棒だ。 対戦相手は、涼司が操る聡だ。こちらは素手だった。 「始め!」 イングリットの合図と共に、聡が地を蹴った。 「大衆の面前で、恥をかかせてあげる」 ティリアは、ヴィナを操り聡に突きを放つ。 「おおっと、棒対素手ってこっちが不利なんじゃ?」 涼司の指令で体をひねって避けながら、聡は冷や汗をかく。 「あなたの度重なる行いのせいで、女の子が寄りつかなくなっちゃったじゃないの! ここはあなたのポロリで起死回生を狙うしか」 「ま、まて、俺のポロリで客が集まるわけが……おわっ!」 肩を強打されて、聡は倒れかかるが踏みとどまる。 「くっそ……」 聡というか涼司は繰り出される棒を腕で受け、ステップで躱し、回り込んでヴィナを狙おうとする。 「まあそれは冗談だけれど、今後はずっと競技者の方をやってもらうわよ――神速、発動!」 「了解、お嬢さん」 ヴィナはティリアのコマンドを受けて、神速を発動。 「!?」 棒を捨てて聡の懐に入り込み、彼を突き飛ばして倒した。 「勝者、ヴィナ!」 イングリットがヴィナの腕を上げて、会場が歓声と拍手で沸いた。 「やるな、あのスピードじゃコマンド入力は間に合わない」 涼司は苦笑して負けを認める。 「なるほど……先を読まないと駄目なのですね」 ふむふむと加夜は頷いてゲームを理解していった。 「何か参考になった?」 ルドルフが戻ってきたヴィナにタオルを差し出した。 「ありがとう、ルドルフさん」 タオルで汗を拭って、着替えてヴィナは一息ついた。 「少しはなったかな……。やってみたいと思ったのは、童心に帰りたいというのもあったんだけどね」 ベンチに座って、ルドルフと並んで競技を眺めながら、ヴィナはルドルフに相談事を話し出す。 「いまだ本妻に俺は一度も攻撃を当てられなくてね、うん、どのようにして戦うべきか、迷ってるんだ。今回のような意表を突いた攻撃も面白そうだけれど、本妻には効くかな?」 いつも攻撃が全部読まれて、受け止められ、一歩も動かずに強烈な攻撃を繰り出され、叩き込まれて、KOというパターンだった。 「ほらみてよ」 ヴィナは袖をまくって、腕を見せる。 彼の腕は痣や切り傷だらけだった。 「俺、本妻に攻撃叩き込まれない代わりにこんなになってるんだよ、どのようにすべきだと思う?」 「美しくないな……」 ルドルフのそんな言葉に、ヴィナはうううっと苦しげな表情になる。 「俺、彼女を尊敬しているので、尊敬している分、彼女の期待に応えたいというかだね……こんなの相談出来るの、ルドルフさんしかいないんだよおおおおおおお」 泣き出しそうな彼の顔と、言葉に、ルドルフは思わず声をあげて笑った。 「笑いごとじゃないんだよ、俺にとっては。ルドルフさん」 「それは僕より、もう一人の奥さんに相談しては」 「そ、それは無理。相談したら、多分、俺は精神的な死を迎えるから……っ。つーかチクられて終わり。俺を殺さないで」 そんな彼の言葉に、ルドルフは可笑しそうに笑う。 「で、僕なら告げ口しないとでも?」 「ルドルフさんは彼女とあまり面識ないし……って、話すつもりじゃ」 冷や汗を浮かべながら、ヴィナがルドルフを見る。 「まずは本音でぶつかってみないとな。夫婦なんだし。直接彼女に強さの秘密を聞いてみては? キミが聞けないというのなら、手助けしようか」 「や、やめて……ルドルフさぁーん」 悲壮な顔になるヴィナに、ルドルフは再び笑みを見せて。 「僕から君の伴侶に知らせることはないよ。読まれるということは、それだけ相手は君のことを理解しているってことじゃないかな? 君も基礎能力をあげつつ、彼女を理解していけば、パターンもつかめてくるだろ」 「そ、そうかな」 「それよりまず、攻撃を物ともしない強靭な肉体を作り上げることを、優先した方がいいかもしれないね」 ヴィナの爛れた腕を見ながら、ルドルフは言った。 「そうだね」 と、ヴィナも自分の腕を見ながらため息をつくのだった。 ルドルフに美しくないと言われたことも、ちょっとショックだったので。 どうにかせねば! とより強く思うのだった。 「涼司くんも聡くんもお疲れ様です」 加夜は飲み物を買ってきて、2人に渡した。 「次はイングリットさんが競技してくれるようです。聡くんもう一度出てくれます?」 「うーん……」 聡はリングの上のイングリットを眺めた後、首を左右に振った。 「また同じ目に遭いそうな気がする……。真面目に競技しているだけなのに、俺、何でこんな目に遭うんだー」 「だから自業自得だってば」 加夜と涼司は顔を合せて笑った。 次の試合では、イングリットを操る加夜と、ティリアを操る涼司が対戦し、涼司が勝利した。 競技者を交換してやってみたけれど、加夜は涼司には勝てなかった。 「むむ……涼司くんとは家で格闘ゲームで対決したいです。次は負けませんよ?」 「ふふ、コンピューターゲームでも負けないぜ」 「それじゃ、俺は審判やってやるぜ」 聡がそう言うと、加夜と涼司は少し意地悪気に言う。 「お色気要素ないですよ?」 「脱衣系じゃないぞ」 聡は罰が悪そうにちょっと赤くなって、そういうゲームは『自宅で楽しむからいいの!』と答えた。 |
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