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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~

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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~
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リアクション

「ひと〜つ、人の名、勝手に用い、
 ふた〜つ、不純な荒事三昧
 みぃ〜つ、奇怪な悪世の闇を払ってくれよう!」

 次の瞬間、鬼女の面を被り、王子の衣装を纏った者が、刀を手に飛び込んできた。
「私が貴様らを眠りから解いてやろうッ!」
 あっ、と思った時には、モヒカン達は斬り(殴り)倒されていた。
「何だ?」
 驚く黒雪の前で、王妃亜璃珠が首を左右に振る。
「あーだめ、スイッチ入っちゃったみたいだから。姫達皆殺し決定ね」
 王妃亜璃珠がそう言った直後。
「全員痛みで目を覚ませー!」
 鬼と化した王子が、剣を振るい立っている者全てに飛び掛かった。
「たいちょ、アレナちゃんだけはキスで……きゃーっ」
「まって、優……あっ!」
「ちょっと、あなた総ちょ……っ」
 そうして、王子はバッタバッタ姫達を斬り倒し、強引に目覚めさせるのだった。

「………………………………」
 観客席で、ヘルは唖然としていた。頭がついていかない展開だった。
 黒雪が呼雪であることに、勿論ヘルは気付いている。
「く、くく……」
 そして次の瞬間、放心から覚めて笑い出す。
「な、なにやってんの! 僕も混ぜて欲しかったなぁ」
 ヘルは笑いながら自分の太腿をバンバン叩く。
「桃雪瀬蓮姫が不甲斐なくて、台本通りにはいかなかたけれど、大傑作だったね! パッフェル!!」
 その隣で、円が盛大な拍手を送っている。
「聞いていた話、と……全然違って……面白、かった」
 共に訪れていたパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)も円と一緒に拍手を送る。
「でしょ、そうでしょう! ねぇ、パッフェル。人助けをした後って、気持ちがいいね!」
 円の顔は清々しい笑顔に満ち溢れていた。
 パッフェルもうんと強く頷いてくれた。
 そう、円とパッフェルは新たな領域に踏み出したのだ。
 そして、未だ舞台にいる若葉分校生と愉快な仲間達も。
 彼らは未開の地、新たな一つの芸術を生み出したのだ!
 円は自然と涙していた。
「パッフェル、感動したね。人は頑張れると、此処まですばらしいものが作れるんだ」
「円、悲しい……?」
「違うよ、これは感動の涙なんだ。人は感動でも涙を流すんだよ、パッフェル」
 涙をぬぐいつつ、円は舞台を見つめる。

「その呪われし着衣から、貴様を開放してみせる! はあッ!」
「ふぎゃっ」
「無駄です。桃雪姫とは仮の姿、百合園女学院第666台副団長、パワード・雪子とは私のことです! とおッ!」
「ぐひゃっ」
 舞台では、王子と桃雪――変装を解き、すっぴんのパワードスーツ姿となった、雪子の激しい戦いが続いていた。
 2人の足下に転がっているブラヌは、2人に蹴られ踏まれまくっている。

「見習わなきゃいけないね。ボク達も、未来に向かって、まっすぐに進んでいく心、彼のような、愚直な頑張りは習わなきゃいけない、僕達の未来のために……」
 円がパッフェルの手に自分の手をそっと重ねた――。

 こうして舞台『桃優子侍と7人の姫達』は大団円のうちに終了したのだった。

○     ○     ○


 劇が終わり、観客が帰った後。
 ホールの一画の楽屋としているスペースに、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が顔を出した。
 ルカルカは、まだ王子の服を纏っている優子に近づいて、花束を差し出した。
「優子さん、アレナ、スタッフの皆さんお疲れ様でした! ふ、ふふふふふ」
 見終わった後、長い間笑いが止まらず、今もまた皆の姿を見たら、笑いがこみあげてしまった。
「ありがとう。灸を据えるつもりだったが、私もとても楽しんでしまったよ」
「そうなんです。ブラヌさん達にお仕置きするはずだったのに、何故か優子さん、姫たちを斬ってました」
 ドレス姿のまま優子の傍にいるアレナも、笑顔だった。
「アレナ、斬られたのになんだか嬉しそう」
「はい、優子さんとっても楽しそうだったので、嬉しかったです」
 アレナは本当に嬉しそうだ。
「いやあまりにも舞台が混沌として収拾がつかなそうだったから、もうこれは殲滅するしかないかなと」
 優子も笑いながら言う。
「全員をキスして起こすとか言いだしたら、その前に私が殲滅に回っていただろけど」
 王妃の格好のまま、亜璃珠はすっきりした顔でメイクを直していた。
 ともあれ、不健全な男子を除き、皆楽しんでいたようだ。
「あとこれ。皆さんで食べてください」
 ルカルカは袋に入れて持ってきた、カップケーキをアレナに渡した。
「ありがとうございます。手作り、ですね」
「うん。ダリルに習いながら焼いたの。フォンダンショコラって言うんだって」
 ルカルカがダリルに目を向けると、ダリルは首を縦に振り言う。
「チョコ好きのルカがツマミグイをしまくるもんで、材料が予定の倍必要になったよ」
 ダリルはくすっと笑みを浮かべた。
「ツマミグイだけじゃなくて、美味しい食べ方の研究もしてたの」
 ルカルカはそう主張する。
「ちょこっとだけチンして食べると、中のチョコがとろとろのじゅわーってなるの」
「それじゃ喫茶店の方で、温めてきますね。飲み物も貰ってきます! ありがとうございます」
 アレナはもう一度お礼を言って、ルカルカとダリルに頭を下げた。
「っと、それなら俺も行こう。その格好じゃ作業し辛いだろうからな」
「はい」
 ダリルはアレナと共に、ホールを出て喫茶店に茶を淹れに向かうことにした。

「君は頑張ってるよ」
 歩きながら、ダリルがアレナに言うと、アレナは不思議そうな目をダリルに向けてきた。
 同じ剣の花嫁として、アレナが優子に抱いている気持ちを、優子やルカルカよりもダリルは感じ取っていた。
 武器として、剣としてだけではなく。
 人としても優子はアレナを必要としている。
 それを伝えたい、とは思ったが。
 そう言う事を言葉で伝えるのは、ダリルは得意ではい。
(心の細かい部分はまだまだ苦手だ。かえってアレナを傷つけそうで怖……)
 そこまで考えて、ダリルは一人眉を寄せた。
(……怖い? この俺がか……)
 ふっと息をつき、軽く苦笑する。
(我ながらバカなことを考えるようになったものだ)
「ダリルさん?」
 アレナはますます不思議そうに、ダリルを見ていた。
「いや、何でもない。ただ……そう、今日はお疲れ様」
「はい、ダリルさんもいつもお疲れ様です」
 アレナはにっこり、ダリルに笑みを向けた。

 お茶と温めたカップケーキを持って戻ってくると、優子は王子服のまま、着替えを終えた友人達に囲まれていた。
「お帰りー。アレナこっちこっち」
 優子の隣を陣取っていたルカルカがアレナを呼んで場所を譲ろうとする。
「はい、優子さん、ルカルカさん」
 アレナは近づいてケーキとお茶を配ると、優子の隣には座らず、優子を囲む輪のちょっと後ろに下がるのだった。
「隣で一緒に食べようよ」
 振り向いてルカルカが誘うけれど、アレナは微笑みながら「ここがいいんです」と言う。
「ここでいいんじゃなくて、ここ『が』いいんだよな」
 茶とケーキを配り終えたダリルが、アレナの隣に座った。
(アレナは優子さんに対しての、友人とか恋人としての独占欲はないみたい。楽しそうな優子さんの姿を見ていることが純粋に好きなのね……)
 ルカルカは少し不思議に感じるけれど、ダリルはルカルカよりそれを理解しているようで、黙って彼女の隣で茶を飲んでいる。
(種族が同じだから、ダリルの方がアレナのこと理解できるのかもね……でもでも)
「優子さん!」
 ルカルカは優子に笑顔を向けて。
「折角素敵な王子服を纏ってるんだから、舞台で言えなかった王子の台詞、言って欲しいなっ」
 と、台本を開いて優子に見せる。
「言って言って、まだドレス来てるアレナちゃん! 相手役お願い♪」
 葵がアレナの背を押した。
「はは……照れるな」
 優子は振り向き、手を伸ばしてアレナを引き寄せた。

「――なんて美しい方なんだ。
 貴女ともっと早く出会えていたら、
 私が、呪わせなどしなかったのに……」

 アレナの頬に手を添えて優子がそう言うと。
 アレナは驚いたような表情で瞬きを何度かして――「は、い」と返事をした。
「アレナちゃん、そこは目をつぶって王子のちゅーを待つところ! 返事しちゃダメだよ〜」
 葵の言葉にはっとして赤くなるアレナ。
 周囲から笑いが溢れる。
 優子も笑いながらアレナの頭を軽く撫でて「お疲れ様」とささやき、彼女を開放した。
「お疲れ様。劇本当に楽しかったわ。リクエストにも答えてくれて、ありがとう、ありがとう〜っ!」
 ルカルカは2人に軽くハグをして、心からの感謝の言葉を言った。
 その後。アレナはダリルの隣に戻り、しばらくの間ぼーっとしていた。