リアクション
「ひと〜つ、人の名、勝手に用い、 ○ ○ ○ 劇が終わり、観客が帰った後。 ホールの一画の楽屋としているスペースに、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が顔を出した。 ルカルカは、まだ王子の服を纏っている優子に近づいて、花束を差し出した。 「優子さん、アレナ、スタッフの皆さんお疲れ様でした! ふ、ふふふふふ」 見終わった後、長い間笑いが止まらず、今もまた皆の姿を見たら、笑いがこみあげてしまった。 「ありがとう。灸を据えるつもりだったが、私もとても楽しんでしまったよ」 「そうなんです。ブラヌさん達にお仕置きするはずだったのに、何故か優子さん、姫たちを斬ってました」 ドレス姿のまま優子の傍にいるアレナも、笑顔だった。 「アレナ、斬られたのになんだか嬉しそう」 「はい、優子さんとっても楽しそうだったので、嬉しかったです」 アレナは本当に嬉しそうだ。 「いやあまりにも舞台が混沌として収拾がつかなそうだったから、もうこれは殲滅するしかないかなと」 優子も笑いながら言う。 「全員をキスして起こすとか言いだしたら、その前に私が殲滅に回っていただろけど」 王妃の格好のまま、亜璃珠はすっきりした顔でメイクを直していた。 ともあれ、不健全な男子を除き、皆楽しんでいたようだ。 「あとこれ。皆さんで食べてください」 ルカルカは袋に入れて持ってきた、カップケーキをアレナに渡した。 「ありがとうございます。手作り、ですね」 「うん。ダリルに習いながら焼いたの。フォンダンショコラって言うんだって」 ルカルカがダリルに目を向けると、ダリルは首を縦に振り言う。 「チョコ好きのルカがツマミグイをしまくるもんで、材料が予定の倍必要になったよ」 ダリルはくすっと笑みを浮かべた。 「ツマミグイだけじゃなくて、美味しい食べ方の研究もしてたの」 ルカルカはそう主張する。 「ちょこっとだけチンして食べると、中のチョコがとろとろのじゅわーってなるの」 「それじゃ喫茶店の方で、温めてきますね。飲み物も貰ってきます! ありがとうございます」 アレナはもう一度お礼を言って、ルカルカとダリルに頭を下げた。 「っと、それなら俺も行こう。その格好じゃ作業し辛いだろうからな」 「はい」 ダリルはアレナと共に、ホールを出て喫茶店に茶を淹れに向かうことにした。 「君は頑張ってるよ」 歩きながら、ダリルがアレナに言うと、アレナは不思議そうな目をダリルに向けてきた。 同じ剣の花嫁として、アレナが優子に抱いている気持ちを、優子やルカルカよりもダリルは感じ取っていた。 武器として、剣としてだけではなく。 人としても優子はアレナを必要としている。 それを伝えたい、とは思ったが。 そう言う事を言葉で伝えるのは、ダリルは得意ではい。 (心の細かい部分はまだまだ苦手だ。かえってアレナを傷つけそうで怖……) そこまで考えて、ダリルは一人眉を寄せた。 (……怖い? この俺がか……) ふっと息をつき、軽く苦笑する。 (我ながらバカなことを考えるようになったものだ) 「ダリルさん?」 アレナはますます不思議そうに、ダリルを見ていた。 「いや、何でもない。ただ……そう、今日はお疲れ様」 「はい、ダリルさんもいつもお疲れ様です」 アレナはにっこり、ダリルに笑みを向けた。 お茶と温めたカップケーキを持って戻ってくると、優子は王子服のまま、着替えを終えた友人達に囲まれていた。 「お帰りー。アレナこっちこっち」 優子の隣を陣取っていたルカルカがアレナを呼んで場所を譲ろうとする。 「はい、優子さん、ルカルカさん」 アレナは近づいてケーキとお茶を配ると、優子の隣には座らず、優子を囲む輪のちょっと後ろに下がるのだった。 「隣で一緒に食べようよ」 振り向いてルカルカが誘うけれど、アレナは微笑みながら「ここがいいんです」と言う。 「ここでいいんじゃなくて、ここ『が』いいんだよな」 茶とケーキを配り終えたダリルが、アレナの隣に座った。 (アレナは優子さんに対しての、友人とか恋人としての独占欲はないみたい。楽しそうな優子さんの姿を見ていることが純粋に好きなのね……) ルカルカは少し不思議に感じるけれど、ダリルはルカルカよりそれを理解しているようで、黙って彼女の隣で茶を飲んでいる。 (種族が同じだから、ダリルの方がアレナのこと理解できるのかもね……でもでも) 「優子さん!」 ルカルカは優子に笑顔を向けて。 「折角素敵な王子服を纏ってるんだから、舞台で言えなかった王子の台詞、言って欲しいなっ」 と、台本を開いて優子に見せる。 「言って言って、まだドレス来てるアレナちゃん! 相手役お願い♪」 葵がアレナの背を押した。 「はは……照れるな」 優子は振り向き、手を伸ばしてアレナを引き寄せた。 「――なんて美しい方なんだ。 貴女ともっと早く出会えていたら、 私が、呪わせなどしなかったのに……」 アレナの頬に手を添えて優子がそう言うと。 アレナは驚いたような表情で瞬きを何度かして――「は、い」と返事をした。 「アレナちゃん、そこは目をつぶって王子のちゅーを待つところ! 返事しちゃダメだよ〜」 葵の言葉にはっとして赤くなるアレナ。 周囲から笑いが溢れる。 優子も笑いながらアレナの頭を軽く撫でて「お疲れ様」とささやき、彼女を開放した。 「お疲れ様。劇本当に楽しかったわ。リクエストにも答えてくれて、ありがとう、ありがとう〜っ!」 ルカルカは2人に軽くハグをして、心からの感謝の言葉を言った。 その後。アレナはダリルの隣に戻り、しばらくの間ぼーっとしていた。 |
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