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パーティは準備も楽しい
午後四時の開催を目指し、クリスマスパーティスタッフはもっと前の時間に集合して準備を始めていた。
種もみの塔の前に各テーブルを配置する目印をつけた時、カンゾーを呼ぶがした。
「人手は足りてるか?」
大所帯を率いた酒杜 陽一(さかもり・よういち)が手を振っていた。
大所帯と言っても人間ばかりではない。犬が多いがペンギンも見える。何より目立っているのは金色の巨大な一角兎アルミラージだ。契約の泉から連れてきたのだ。
派手な一行をぽかんと見ているカンゾーに陽一が連れについて説明しようとした時、彼を押しのけて酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が口を開いた。
「カンゾーくん、改造科と協力して作ったツリーってどこ?」
「もうじき来るはずだ」
「確かレーザーが出るのよね。それってまさか、レーザー砲に改造したカンゾーくんの息子を……」
「いや、俺のじゃなくてそっちの酒杜のやつだ」
美由子はハッと息を飲んで陽一を見た。
陽一は「違う!」と強く否定した。
「やだ、冗談よ」
「そうだぜ、クリスマスジョークってやつだ」
そんな種類のジョークなんて聞いたことない、と呆れる陽一。
「人手の話だったな。猫井がもうじきテーブルと椅子を運んでくるから、そいつを配置する奴らがいると助かるな」
「それなら任せてくれ」
陽一は鳥取県から連れてきた若者達を紹介した。
猫井 又吉(ねこい・またきち)はすぐに到着した。
数台の軽トラックが停まり、先頭の車両から又吉が降りてくる。
「待たせたな。いい感じのテーブルクロスも手に入ったぜ。発注先のオアシスに刺繍の得意な女達がいてな」
又吉は、以前の種もみ会館建設時のように寂れたオアシスに依頼したのだ。
「ご苦労さん。配置の目印はつけといた。さっそく運ぼう──何だあれ?」
ふと、空から何かが接近してきているのが見えた。
大きな角のある鹿のような獣、軽やかな鈴の音、ソリ、赤い衣装を着た……。
「サンタクロース……!?」
目を丸くするカンゾーの前に、トナカイとソリが滑り下りてきた。
「ああ、そうだった。この子に助っ人頼んだんだ。クリスマスパーティにはやっぱりサンタだろ」
ソリから降りてきたのは、ミニスカサンタ服のかわいい女の子だった。
見惚れるカンゾーの前で彼女はちょこんとお辞儀をすると、お絵かきボードにサイコキネシスでスラスラとペンを動かし自己紹介文を書き込んだ。
『D級四天王のKT。ケーティと呼んでくださいですのん。
今日は旧知の又吉さんと種もみの総長さんから、人手が足りないから手伝ってと頼まれたので、こちらに伺ったんですのん』
「そうか、そりゃ助かるぜ。ありがとな。それで、総長は後から来るのか?」
『総長さんは、どうしても外せない用事ができてしまいましたのん』
「そうか、残念だが仕方ねぇな。忙しい総長に、今度うまい酒でも持ってってやるか。それともぱんつのほうがいいのか?」
悩み始めるカンゾーに、ケーティは話を続けた。
『いろいろといたらないところもありますけど、よろしくお願いしますのん。
そうそう、ちょっと訳ありで声が出せないので、筆談で許してほしいですのん』
「かまわねぇよ。今夜はよろしくな」
挨拶が終わると、ケーティはソリからシャンパンとプレゼント袋を下ろした。
『カンゾーさんに渡すように頼まれたですのん』
「総長……!」
カンゾーは感謝をこめてそれらを受け取った。
二人のやりとりを横目に又吉は鳥取県の若者達と作業を進めていた。
「かわいい女の子がいると、やっぱいいよなー」
と、嬉しそうだ。
(そのかわいい女の子が桃幻水飲んだ国頭 武尊(くにがみ・たける)だなんて、口が裂けても言えねぇな)
うっかり口を滑らせないようにと改めて気を引き締めていると、
「又吉さーん、この簡易ベッドは何スかー?」
と、軽トラックのほうから声をかけられた。
「そいつは移住者と観光客のためのモンだ。パーティが夜中に終わったとして、そんな時間に荒野を歩かせるわけにいかねぇだろ」
又吉は簡易ベッドを種もみ会館に運ぶように言った。
「カンゾー、テーブルのことなんだけど」
と、陽一が呼びかける。
「男女混合の席も作らないか? キャバクラ喫茶の出張店舗を出したいんだよ。それに、中には混合組もいるかもしれないだろ」
「言われてみりゃそうだな」
カンゾーは頷くと、又吉にテーブルを数組回してくれないか聞いてみた。
すると、了解の返事が来たので、陽一の指示のもとキャバクラ喫茶ゐずみのホスト達が設置に取り掛かった。
働くホスト達にエールを送っている美由子が、突然後ろからど突かれた。
「だ、誰!?」
ヌッと目の前に現れたのはアルミラージだ。
巨体の影が美由子を覆う。
「おい、ここに来てパーティを手伝ったらアレをくれるんだろ? 先に一個くれよ」
「ああ、キンタ……金の卵ね。ダメよ、先払いはなし。そもそも一個しかないもの。お楽しみは後にとっておいたら?」
「一個しかねぇだと!? 百個くらいあると思ってたのに!」
金の卵はアルミラージの好物の一つだ。
期待が外れて機嫌を悪くしたアルミラージを、美由子はおざなりになだめる。
「金の卵の他にも、おいしいものにありつけるかもしれないわよ。ほら、いい匂いがしてきたでしょ」
食欲をそそる香りは、種もみ会館の隣の飲食店『強飯店シード』から漂ってきている。
アルミラージは鼻をひくつかせて、うっとりと目を細くした。
強飯店の厨房では、弁天屋 菊(べんてんや・きく)とジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)がパーティ料理のために腕をふるっていた。
指揮をとっているのは菊で、ジークリンデはバイトとして雇われていた。
当初、菊は校長をバイトとして呼ぶのは失礼だろうかと迷ったのだが、思い切って話を持ちかけてみればあっさり承諾してくれたのだ。
そうなると次に菊が気になるのは、ジークリンデの料理の腕前だ。
いろいろなバイトの経験があることは知っていたが、飲食店の厨房での経験があるのかはわからなかった。
「ま、杞憂だったね」
「何が?」
湯気の立つ大きな鍋をゆっくりかき混ぜている菊がこぼした呟きに、ジークリンデが顔をあげる。
たくさんのたまねぎを切っていたため、ごついゴーグルをつけて包丁を握っている姿はちょっとした不審者だ。
「校長がどれくらい包丁を使えるかわかんなかったけど、思ってた以上だったな、とね」
「喫茶店で簡単な調理くらいはやったわね。本格的なのはできないわ」
「それはあたしの仕事だ」
そこに、{SNM9998820#熾月 瑛菜}が顔を出した。
「こんちはー。お肉持ってきたんだけど、運んでいいかな」
「勇者の肉だっけ? どれくらいあるんだい?」
「木箱にいっぱい」
菊は鍋をジークリンデに預け、瑛菜に付いて外に出た。
一メートル四方程の木箱から、鋭い鉤爪のついた足が飛び出ていた。
菊は箱の中を覗き込む。
「……小型の恐竜?」
「そ。こいつ凄いんだよ。この体で巨獣を倒すこともあるんだって。それで、荒野のある部族がその力を得ようとして食べるんだってさ」
「儀式的な?」
「そうなんだけど、彼らが言うには本当に力がわいてくるそうだよ。身体的なものとして発揮されたり、心のほうに作用したり」
「へぇ。どこにいるって?」
「それは言えない。教えてくれた部族との約束なんだ。ごめんね」
「ま、いいさ。それじゃ、食えるようにしますかね!」
菊は腕まくりをして気合を入れた。
いよいよクリスマスパーティが始まろうという頃。
天使の衣装に着替えた遠野 歌菜(とおの・かな)は、執事テイストな天使姿になった夫に見惚れてしまっていた。
「羽純くん、似合うな〜」
「歌菜も似合ってる」
月崎 羽純(つきざき・はすみ)はやさしく微笑むと、歌菜の頬を指先で撫でた。
照れる歌菜の背後からチョウコがヌッと現れ、うらやましそうに言った。
「いいなー、イケメンな旦那……」
「わぁっ! チョウコさん……! びっくりしたぁ」
「アタシだって、イケメン捕まえてやる! 仲良くなって、それで……」
「う、うん、がんばって! ところで、何か話があって来たんじゃないの?」
「あ、そうだった。ジークリンデさんが、料理のほうはできたって言ってきたんだ。今ならちょっと味見できるんじゃないかな」
「味見……えへへ。メニューも見ておきたいしね。羽純くん、行こう」
自然と手を取り合って厨房へ向かう二人を、チョウコは憧れの眼差しで見送った。
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