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そんな、一日。~二月、某日。~

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そんな、一日。~二月、某日。~

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13


 佐野 悠里(さの・ゆうり)が、窓の外をじっと見ている。
 身動きもせず窓に張り付く彼女に、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)は問いかけた。
「どうかしましたかぁ?」
 悠里は振り返らずに答える。
「雪、すっかり溶けたなあって」
 悠里の隣に並び、ルーシェリアも窓の外を見た。庭先がうっすらと雪に化粧されている。
 昨日は場所によっては大雪となったそうだが、うちの近くではこんなものだ。それも、春先の暖かい空気でじわじわと溶け始めている。
「まだ二月なのにね」
「もう二月、ともとれますよぉ」
「そうすると、春が近い感じになるね」
「ええ」
 事実、今日は本当に暖かい。昨日までは寒かったのに、嘘みたいだ。
 こんな日に家に閉じこもっているなんて勿体無い。ルーシェリアは窓から離れた。どうしたの、と悠里が顔をこちらに向けた。
「お母さん、出かけるの?」
 ルーシェリアが上着を羽織ったのを見て、悠里が問いかける。
「暖かくなって雪もなくなってきたですし、ね」
「悠里も行く! 行くからちょっと待ってて!」
 ぱたぱたと、悠里が窓を離れて走る。部屋に駆けていったと思えば、すぐに上着を掴んで戻ってきた。
「お待たせ! 行こうっ」
「ちゃんと着なきゃ駄目ですよ〜。薄着すぎると風邪を引きます」
「はぁい」
 きちんと上着を着るように促し、外へ出た。
 太陽の陽射しが暖かい。
「本当に、春みたいですねぇ」
「ね。ぽかぽかしてる」
 そういえば、あの日もこんなうららかな陽気だっただろうか。ルーシェリアは、記憶を呼び起こした。
 ああそうだ。春の日のことだった。
「お母さんがお父さんと付き合うきっかけになった出来事があったのも、春のことなんですよぅ」
「そうなの?」
「はい〜。なんだか懐かしい感じがしますねぇ……」
 春は、出会いの季節だ。自分と彼がそうであったように。
「悠里ちゃんにもそういう出会いがあるかもですねぇ?」
「えっ、さすがに気が早いでしょ」
「そうですかぁ?」
「そうですー。悠里にはまだそんなつもりはないんだからっ」
「それは残念ですねぇ」
 早く娘のいい人を見たい、と思うのは全ての親の共通事項らしい。
 この子は良い子だから、きっといい出会いと素敵な未来があるに違いない。
「その日が楽しみですねぇ」
「……ていうか、お母さん。なんか言うこと、おばさんみたい」
 ぼそりと悠里が言ったのは、女性にとって地雷の言葉だ。
「……おばさん?」
「い、いや、なんでもない。なんでもないよ。何も言ってない」
「ですよねぇ?」
「です。ですです、はい」
 にっこりと笑みを浮かべると、悠里はがくがくと頭を前後に振った。頷いているらしいが、そんな大きな動作では首が疲れてしまうだろう。
 ふっと笑うのをやめて、道の先を見た。
 誰かの家の庭で、梅が蕾を開こうとしていた。