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狙われた乙女~別荘編~(第1回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第1回/全3回)

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○   ○   ○


 翌朝は快晴だった。
 別荘周辺はひっそりと静まり返っている。
 不良達の中にも、ヒールの魔法が使える者がおり、別荘の中では今も休み休み治療が行なわれていた。
 2階の小火も氷術や消火剤で鎮火し、殺虫剤の類いは全て外に投げ捨て、一応の平静を取り戻していた。
 しかし……。
 見回りをしていた不良少年は異様なものを発見してしまった。
 唖然とするも、リーダー格の少年に窓から報告をする。
「兄貴、いや総統! 穴ん中に変な肉の塊が落ちてんだけど……」
「とりあえず、引きずり出せ。百合園側の者なら見せしめに木に吊るしとけ」
「はあ……」
 こんなことで体力を使いたくはない、報告せずに埋めてしまうべきだったかとと思いながらも、不良は仲間と共にその肉の塊――涙に濡れた裸体の変熊仮面(へんくま・かめん)を引きずり出したのだった。

 裸体のまま縛られて、水をぶっかけられて目を覚ました変熊仮面は切々と事情を話した。
「俺だって、百合園だけは……百合園女学院だけは自重していたというのに!
 数日前、ヴァイシャリーを騒がす怪盗舞士の存在を知った変熊仮面は、今までにない激しい怒りを露にした。
「ぐぬぅぅっ。許せんっ! キャラがかぶっておるのだ!」
 ……と。
 派手な格好も!
 美しき肉体をさらしているところも!
 仮面を有しているところさえ!!
 キャラが被っている、被っているというのに!
 奴の方だけきゃーきゃー騒がれているのだ。
 いや、自分もきゃーきゃー騒がれはするのだが、何故か人気に繋がらない。
 捕まえに追ってくるのも、男ばかりだ! 白百合団には相手にされたこともない!
 涙ながらに変熊仮面は語る。
 百合園の乙女に肉体を披露し、怪盗舞士に変態行為をなすりつける為この建物を死守したいと。そんな強い意志が、ひしひしと不良達に伝わってくる!
 が。
「…………」
 不良達は全く同情は出来なかった。しかし、このやりとりにおいて彼が百合園女にとって自分達より忌まれる存在であることが、大いに理解できた。不要になったら捨てればいいやと、不良達は彼をとりあえず受け入れることにした。

 別荘の中では朝食の準備が行なわれていた。
 ただ、百合園との戦いに備え、不良達は小遣いをせびりに家に帰ることも、カツアゲをしている時間もなかったため、別荘の中に食材はあまり残されていなかった。
「なるほど。でもこのあたりは自然が溢れていますから、底を突いても調達できますよ。お望みなら採りに行ってきますが、念の為周辺の罠について教えてはいただけませんか?」
 エル・ウィンド(える・うぃんど)が爽やかな笑顔で不良に問う。彼の隣には不安気な顔のホワイト・カラー(ほわいと・からー)がいる。
 数時間前。準備を整え、集落を出発した彼等は、金持ちの旅人を装って見張りの不良と接触しこの別荘に連れてこられた。
 弁当を提供することでホワイトの料理の腕は見せてある。
「まだ完成してねぇよ。穴を掘って水を流す予定だった。2階の窓には幾つかネットを張ってある。ボウガンなんかの仕掛けもする予定だが……ま、本格的な仕掛けは今からやるんで楽しみにしてな」
 ドンと不良はエルの背を叩き、勝手口から外へ出す。
「自由にさせるつもりはねぇ。女の方は預かっておく。人数分の食材で美味い食事を作ってもらおうじゃねぇの」
「……ええ、任せておいて下さい。ホワイト、ちょっと行ってくるな」
「エル……」
 不安気な声を上げるエルをおいて、ホワイトは周辺で食材を集めて回ることになった。

 数十分後、戻ったエルが調達した食材を使い、ホワイト、それから捕らえられていたもののうち、協力を申し出た晃月蒼(あきつき・あお)も朝食の準備を手伝っていた。
 但し、不良に監視されているため、滅多なことは出来ない。
 エルの調達したものは昆虫が多かったが、不良達は普段からそういったものも食料として食しているらしく、食材に関して何も言われることはなかった。
「イルミン流の特殊な調理方法を施した料理だ」
 と、エルは出来上がったものを、不良達に披露する。
「お、美味しいですよ〜」
 そう言いながらも、蒼はつい目を逸らしてしまう。
 ホワイトは泣き出しそうであった。
 今朝の朝食のメニューはこうである。

 ・硬くなったパン
 ・ゴキブリとネギのサラダ
 ・ミミズのカラメルソース
 ・ハエのプディング

 さあさあと、笑顔で爽やかに勧めると、不良の大半がその料理に手をつけた。
 エルは心のなかでほくそ笑む。かき混ぜる振りをして、料理にアレを大量に入れてある。
 ――だが、その結果を見る前に、事態が急転する。
「来たぞ、援軍だ」
 にやりと……しかし、少しだけ顔を強張らせて、見張りの少年が窓の外から顔を出した。
 不良達は一斉に窓の外を見る。
 大きく開かれた窓の外に見えるのは、不良達より少し年上の女性達。
 派手な格好、派手な化粧。
 鈍器や鋭利な武器を携えた元パラ実、現役パラ実の水商売で働いている女達だった。
「手紙での連絡の通り、加勢に参りました」
 100を超える仲間を引き連れたガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、静かに言った。
「よろしくたのむのう。ま、仲良ようしましょう」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)はくすりと微笑み、中に目を向ける。
「お、おう頼むぜ」
 それまでリーダー的存在であったブラヌ・ラスダーが、軽く震えながら握手を求める。
 ガートルードが握手を交わした途端、女性達が激声を上げる。
「ヤキ入れるぞ!」
「百合園メス豚どもめー!」
「調教だ、オラ!」
 逃亡を試みようと思ったエルだが、どうやら逃げるのは困難なようだ――。