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君を待ってる~封印の巫女~(第2回/全4回)

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君を待ってる~封印の巫女~(第2回/全4回)

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第4章 図書館襲撃(図書館)

 連日茹だるような暑さが続く蒼空学園。
 けれど、ここ図書館は空調も万全、過ごしやすさからたくさんの生徒が訪れていた。
「これも面白かったです。他に何かお勧めはありますか?」
 その中。熱心に図書館通い続行中のライ・アインロッド(らい・あいんろっど)は、カウンターの女性に本を返却しながら問うた。
「そうですね。次はこれなんかどうですか? 冒険小説なのですが、読みやすいですし、胸がわくわくするんです」
「なら、それにします」
 司書の柳川さつき先生から本を受け取りつつ、ライの頬は自然と緩んだ。
 静かな口調ながら、黒ブチの眼鏡の奥の瞳がキラキラしているさつき先生。
 本当に本が好きなんだな、と感じられて。
 そんなさつき先生に、
「年間読書量が500冊以下の人とはお付き合いしません」
 と言われたのは記憶に新しい。そして、ライは律儀にそれを実践しているのだ。
「うわぁ、この絵本面白いなぁ」
 そんなライに付き合うヨツハ・イーリゥ(よつは・いーりぅ)は、専ら絵本がお気に入りだ。
「そうでしょ? この、猫ちゃんとウサちゃんの会話がもう良いんですよねぇ」
「ボクはね、この場面が好きだねぇ」
 さつき先生とヨツハの微笑ましいやり取り。
 この僅か数分後に訪れる騒ぎを、この時のライは知る由も無かった。
「キアって、何なんだろうな」
「井上陸斗くんのパートナーの? 剣の花嫁でございましょう?」
「うん、そうなんだけど……」
 何やら史書を繰っていた甲斐 英虎(かい・ひでとら)は、植物図鑑を見ていた甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)に曖昧に微笑んだ。
「何かちょっと、引っかかるんだ」
「……それは好みのタイプという事でしょうか?」
「いや?、違うけど」
「……そう、でございますか」
「ちょっと調べてみたんだけど、ツァンダには時折天災が起こってるんだ。それ、もしかして今回みたいな封印のほころびじゃないかな、って」
「ありえるかもしれませんが……でも、封印は結局解かれなかったと?」
「推測でしかないけど。で、その度によく似た剣の花嫁らしき人物が目撃されている……これってただの偶然だと思うか?」
「それは何とも……」
「機会があったら井上にでも聞いてみよう」
 心持ち不安そうになったユキノの頭を、英虎は一度撫でた。
「新しい魔術書を入荷したと聞いたから、早速図書館に行くのじゃ! レイも来るのじゃ!」
「何で俺まで……仕方ねぇな、一緒に行ってやるよ」
 セシリア・ファフレータ(せしりあ・ふぁふれーた)はその日、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)を伴い図書館を訪れていた。
「で、何だよ。背ぇ伸ばす魔術書でも探してるのか」
 まだ幼く小さな魔女をからかうレイディスだったが、そこはセシリアである。
 反撃は直ぐにきた。
「そうじゃな、そんな魔法があればレイにかけてあげたのにのう?」
 ピクっ、レイディスのこめかみに怒りマークが浮かんだ。
 レイディスも15歳の男の子にしては小柄な方である。もう少し身長があれば、女の子と間違われる事もないかも、とは密かな希望だったりして。
「……ふーん、そいつはありがてぇな。でも”また”詠唱スペルミスって、自分が縮むような事にならなきゃいいな?」
「またってなんじゃまたって! 私がスペルミスッた事なんてあるかえ!?」
「その反応見てっ限り、俺の見てないトコで失敗してんだな? 大ッ魔女のセシリアさ〜ん」
 ふっふ〜ん、な感じで反撃したきたレイディス。セシリアの頬が朱に染まった。
「な、なっ……そんなわけあるわけないじゃろう! わざとらしく言うなじゃ、お主こそSPなくてソニックブレードもロクに使えぬ癖に!!」
「う゛。SPはしょうがねぇだろ……」
 グサッ。痛い所を突かれたレイディスの前、どうやら目当ての本を見つけたらしいセシリアが「よい、しょ……んー……」と背伸びしていた。
「……手が届いてねぇぞ、ミニマム」
「うるさい、代わりに取るぐらいの器量はないのかえ! そんなんだから女の子とか言われるのじゃー!!」
「へいへい……どの本なんだ…って、だっ…誰が女の子だ、てめぇっ!?  俺はれっきとした男だってのぉ!!!」
「えー? でも男の子の割りには線が細くないかえ、レイちゃん?」
「る、るっせぇ!? どんだけ食っても鍛えても体格良くならねぇんだよっ!! セシーこそちゃんと食ってんのかよ。好き嫌いしてたら一生ちびっ子のままだぜっ!」
「この私に好き嫌いなんてあるわけがないじゃろう! 私はこれから成長期なのじゃよ、レイとは違って希望に溢れてるのじゃ!!
「へぇー。でも、甘い物ばっか食って横に成長するんじゃねぇぞ。縦に伸びねぇと意味が無ぇからなっ! あーっはっはっはっ!」
 図書館では静かにしましょう、そんなお約束は既に二人の頭からはキレイサッパリ飛んでしまっている。
 というか静かな図書館で声を荒げてケンカするお二人さん、注目の的ですが……やはり気づいた様子は全然なかった。
「むがー!!? いくらレイでも言っていい事と悪い事があるぞえ! 甘いものは別腹だっていう名言を知らないのかなのじゃ!」
「何処の白銀の鉄の塊だよっ! ………ん、何かさっきから暑くねぇか?」
 ふと、レイディスは気づいた。周囲からの視線は絶対零度だったが、それはそれとして、暑かった。
 空調の効いている筈の図書館だと、いうのに。
「む? そういえば確かに……わ、わわわ!? なんじゃこれ!?」
 そして、セシリアはその原因を見つけた。
 いつの間にか自分達の直ぐ側に、見上げる程大きなサラマンダーが居る事に。
「危ねぇっ!」
「!?」
 レイディスの警告、咄嗟に床にしゃがんだセシリアの頭の上を、炎が軌跡を描いていった。
「ミニマムで良かったな、おい」
「むぅ……とはいえ、さっきの話は保留じゃ! 今はこいつをどうにかするぞえ!」
「おう!」
 レイディスを前衛にセシリアを後衛に、二人は戦闘態勢に入った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ」
「うわぁ逃げろっ!?」
 そんな突然の襲撃に、静かな(一部例外はあったが)図書館に悲鳴が響き渡る。
 それと共に、あちらこちらで小さなサラマンダーが姿を現し。
「どうしてこんな所にモンスターが?」
「先ほどまで気配はなかったのじゃが……不思議じゃのぅ」
 OL姿のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は偶然図書館に居合わせ、この奇妙な事態に遭遇した。
「とにかく、非戦闘員を避難させませんと。何だかマズい気がします」
「同感じゃな」
 手早く打ち合わせをし、ガートルードとシルヴェスターはそれぞれ得物を手に、避難ルートの確保に向かった。
「皆さん、落ち着いて下さぁ〜い」
 【癒しの歌い手】の二つ名を持つメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は、咄嗟に歌を口ずさんでいた。
 よく通る優しく澄んだ歌声が、生徒達の心を優しく慰撫する。
「落ち着いて行動すれば、怪我も無く助かりますよ。慌てず騒がずゆっくりと落ち着いた気持ちで行動しましょう」
 メイベルの呼びかけ、さつき先生は目で礼を述べると、凛と声を張った。
「防火壁を使って生徒達を避難させます。戦える人は迎撃を!」
「柳川先生、私達がサラマンダーの注意を引きつけるから、その間に……」
「リネンとの楽しい勉強の時間を邪魔するとはふてぶてしい輩ですわね。全力で排除させてもらいますわ」
 図書館を訪れていたリネン・エルフト(りねん・えるふと)ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)の手を、さつき先生はきゅっと握った。
「ありがとう。でも、決して無茶はしないで。危ないと思ったら直ぐに退却しなさい」
 その温もりに戸惑いながら、リネンはコクリと頷き。
「……ユーベル」
「準備はOKですわ」
 ユーベルの胸の谷間から引き抜かれるそれは、両手持ちの大剣。
「周囲のザコを一掃するわ」
 光条兵器は使用者の指定したものだけを斬る事が出来る。
 リネンは斬る対象をサラマンダーに限定し、ひゅんっ磨かれた床を蹴った。
「……先ずは、一体」
 動きを大きく、サラマンダー達の注意を引き付けながら、リネンは大剣を振るった。
「相変わらずリネンは無茶をしますわね」
 ヴェロニカ・ヴィリオーネ(べろにか・びりおーね)は微笑みながら、一度目を閉じスキルを……ディフェンスシフトを使った。
 リネンやガートルード、戦う者達を守る為に。
「暑くてみんなが薄着になるのは喜ばしいですが、本に被害を及ぼすのはNGでしてよ?」
 サラマンダーが吐いた炎をナイトシールドで受け止めながら、ヴェロニカもまた自らランスを手にしたのだった。
「僕達も避難を手伝おう」
「はい。それから、リネンさんやヴェロニカさんの支援を」
 メイベルはパートナーのセシリア・ライト(せしりあ・らいと)と頷き合った。

「化け物は食い止めてますから大丈夫ですー。落ち着いて、前の人が進んだら後について進んでくださーい」
 避難誘導を率先したのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)だった。パートナーであるクナイ・アヤシ(くない・あやし)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)も一緒だ。
「初めての共同作業だな」
 ふっと妖しく笑んだソーマに、すかさずクナイの蹴りが飛ぶ。
 ソーマにとって北都は救ってくれた恩人であり、守りたい大事な存在だった。
 だがその北都に既にパートナーが……クナイがいたのは、実に面白くない事だった。
 かくしてソーマとクナイは北都を間に、事あるごとに火花を散らせる仲となった。
「冗談は後にして、俺も避難誘導手伝うぜ」
 だが流石にソーマも北都の邪魔をするのは本意ではなく。表情を引き締めて真面目に避難誘導を試みる。
「足が震えて立てない?……俺に任せな」
 チュッ♪、首筋に唇を押し当てる。吸精幻夜、血を吸われた少女はどこか頼りなげな足取りながらも自力で避難の列に進む。
 ……ていうか、真面目?
「要はここから追い出せばいいんだろ?」
 見目よろしい女の子をチョイスするのは……やはり好みの問題だ。
「まぁ俺としてはもっとこう、ボンキュッボンな方がいいが……あ、北都は別な」
「うるさいですよ、その下品な口を今すぐ閉じないと、後で酷いですよ」
 そう言うクナイは、やはり怯える三つ編みの真面目そうな図書委員ちゃんをお姫様抱っこだ。
「すかしてんじゃねぇぞ」
「大丈夫ですか? 噛み付きませんから、怯えなくても大丈夫ですよ」
「はっはいぃぃぃっ」
 安心させるよう、にっこり微笑まれた少女は顔を紅潮させた。
(「うん、こっちはサラマンダーの気配はないね」)
 避難壁を利用しつつ、列を作らせ一定の速度で誘導する北都。
 禁猟区を張り、敵の接近を確認しながらのそれは、見た目よりずっと神経を使うし、しんどい。
 けれど、北都がそれを表情や態度に出す事はなかった。
「こんな時こそ冷静に、笑顔で対処するのが執事の務めですから」
 あくまで穏やかに冷静に、北都は生徒達を避難させた。

「不安や怒りを喰うのか……なら」
 剣を構えた英虎から直後、一切の感情が消えた。
 感情もなく言葉もなく、ただ無言で攻撃を加えていく。
 サラマンダーはなすすべもなく、それはまるで一方的な虐殺。
「トラ、それ以上は駄目でございます!」
 気づいたユキノは叫び、ほとんど体当たりするように飛びつき……抱きしめた。
 これ以上あんな状態を続けていたら英虎が壊れてしまう……そう恐怖したから。
「……ユキノ?」
 抱きしめられた温かさに、我に返る。
 それはもう、いつもの英虎でユキノは心の底から安堵し。
「お帰り、なさい」
 そう、微笑んだ。
「ここじゃ俺の魔法は不利だ……本を焼いちまうわけにはいかないしな」
 本好きの藤ノ森 夕緋(ふじのもり・ゆうひ)としては、それは絶対に避けたい事だった。
「セルマ、頼みがあるんだ」
 だから、パートナーであるセルマ・アーヴィング(せるま・あーう゛ぃんぐ)を真剣に見つめ、頭を下げた。
「図書館を守る為に、セルマの力を貸して欲しい」
「頭なんて下げないでよ」
 そんな夕緋に、セルマは慌てて言い。
「夕緋が守りたいものは私だって守りたいもの……それに」
 澄み切った青い瞳をサラマンダーに向けた。
「サラマンダーがどう感じているのかは分からないけど、不快感や怒りとかの負の感情を溜めていくのは……苦しいよね」
 少なくとも自分なら苦しい、と思うのだ。
「もしそうなら、止めてあげたい……夕緋から頼まれるなんて珍しいし、私、頑張ってみるね」
 だから、セルマはランスを手にした。リネンやセシリア達の邪魔にならないように、避難する生徒達やサラマンダーを助ける、為に。
「とりあえず本を避難させましょう。炎以外にも戦っている皆さんが派手にやりすぎないか心配ですからね」
 その最中、ライは冷静に本棚へと歩み寄った。
「年間500冊以上読む前に図書館がなくなってしまえば元も子もないですからね」
 既に絶版になっているものや古い歴史書など貴重なものを中心に、本の避難を始める。
「ヨツハ」
「ガッテン承知だよ!」
 背中のバックパックに設置された二本の大型アーム。
「えっさほらさ、ほいさっさ。とぉ」
 ヨツハはそれを使い、とりあえず目に付いた本をどんどんと運ぶ。
「あっ、この絵可愛い……大丈夫、みんな守ってあげるからねぇ」
「本も大事ですが、あなた達の安全の方が大事です。早く避難なさい」
 そんなライ達に、さつきは毅然と指示した。
 少しだけ顔が青ざめているのは、やはり不安だからだろう。
「大丈夫です、本の避難は念のためです。図書館が焼かれる事はありませんよ……皆がそんな事、許すわけないじゃないですか」
 そんなさつきの不安を少しでも取り除いてやりたいと、ライはにっこり笑ってみせた。
 あながち強がりでなく、信頼と共に。

「や、やっと着いた……」
 蒼空学園の受付。
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)のパートナーであるリア・リム(りあ・りむ)は、思わず涙ぐんでいた。
「他校の学び舎ではどんな学生が過ごしているのか見聞を広めるため、他校の図書室の本読んでみたいのです」
 そんな風にルイが言い出したのが悲劇の始まりだった。
 それならと共に蒼空学園の図書館を目指したのだが、リアは知らなかったのだ。
 ルイの方向音痴が、どんなにひっどいものなのかを。
 果たして此処に辿り着くまでにどんなに迷いまくったか……涙なしには語れない。
「にしても暑いな」
「大変です! 目的の図書館はたった今、サラマンダーの襲撃を受けている最中という事です!」
「何ぃ?!」
「これでは本が借りられません!」
「いや、問題はそこではないだろう」
「なので急いで退治しなければ!」
 すぐさま駆け出そうとしたルイの服の裾をリアは掴んだ。
「……待て。今、僕が図書館までの道を覚える」
 自分が目的地まで連れて行かなければ!、使命感に燃えるリアはルイの手を引いて駆け出した。