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君を待ってる~封印の巫女~(第2回/全4回)

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君を待ってる~封印の巫女~(第2回/全4回)

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第5章 揺れる花壇(花壇)

 皆で花や苗を植えた花壇。
 思いを込められたそれは封印を補強し、災厄をとりあえず封じ込めた。
 しかし、今。
「にゃぁ〜、ヒナが変なのにゃ?、誰か……誰かた〜す〜け〜て〜」
 聞こえて来た、パムの悲鳴。
「また花壇でトラブルか…」
 黒脛巾にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)は溜め息まじりにもらすと、携帯でもってパートナーであるリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)を呼び出した。
「よっ! 早速だけど、雛子ちゃんを保健室に連れて行ってくれないか」
「いいけど、本人嫌がってない?」
「ん〜、まぁ色々あって、雛子ちゃん自身の為にもそれが一番良いんだな、これが」
「オッケー。……雛子ちゃん、はじめまして〜」
「放しなさい、この猫もどき!」
「あら、ちょっと可哀相なアホな子なのね」
「にゃにゃ〜! ヒナはそんなんじゃにゃい……にゃぐぅ〜」
「あ……要治療者が増えたわね」
 リリィは暴れる雛子にふみっ、と踏まれバタンキュ〜なパムを見下ろした。
「これで邪魔者はいなくなりました」
「ストップ、そこまでです」
 ドカっ。
 これ幸いと花を踏みつけようとした雛子を樹月 刀真(きづき・とうま)は止めた。
 剣の平で殴る、といういささか乱暴な方法でだったが。
「ちょっと刀真!、女の子相手に……」
「花壇を荒らさせるわけにはいかないでしょう?」
「それはそうだけど……御柱以外は目に入ってないんだから」
 刀真のパートナーである漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は溜め息まじりだ。
 現在の刀真の優先順位は、御柱=花壇>その他である事を月夜は察していた。そして、雛子はその他に分類されているので……花壇=御柱に敵対行動をとる雛子に対しても容赦が無いのだ。
「あ〜ぁ、可哀相に……あっ、ちょっとたんこぶ出来てるわよ」
「あちゃあ……陸斗が怒るんじゃないか?」
「まぁまぁ、これで保健室に運べるわよ」
 てか怒られるのはもしかして俺?、とか軽く額を抑えるにゃん丸を励ますように言い、リリィは雛子を「よいしょっ」と抱え上げた。
 華奢だし腕力もないが、幸い雛子はリリィよりミニマム。何とか運べるようで。
「そこの猫はどうしようか?」
「あっじゃあ、私が運ぶわ。ちょっと調べ物もあるし」
「それでさ、虫刺されの治し方が判ったら連絡たのむよぉ」
「了解」
 リリィ達を見送るにゃん丸。
「雛子さんが花を抜くなんて……」
「はい。普段の雛子さんからは考えられない事です」
 その耳に、駆けつけた荒巻 さけ(あらまき・さけ)日野 晶(ひの・あきら)の沈痛な嘆きが届いた。
 二人が傷ましげに視線を落とした先。
 千切られた花……雛子によって手折られた花がある。
 だからこそ、さけも晶も胸を痛める。
 雛子がどんなに一生懸命花を植えていたか、知っているから。
 そして、断言できる。
 あれは雛子が望んでやった事ではない、と。
「あの虫になにか秘密があるに違いないですわ。退治しなくては!」
「はい」
 きっ、さけと晶はそう言い交わし、顔を上げた。
「今の雛子さんは虫に刺されておかしくなってしまわれてるけど、正気に戻った時にお花が全滅してたらきっと悲しみますわ」
「うん。そうだよね」
 白波 理沙(しらなみ・りさ)もまた、パートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)の言葉に確りと頷いた。
「わたくし達も、雛子さんが悲しまないように頑張りますわね」
「うんうん、その意気その意気。……しっかし敵も、よく飽きないよなぁ」
 やる気を出す女の子達に笑んだにゃん丸のそれは、すぐに苦いものに変わった。
 サラマンダーの出現と同時に、花壇に虫の攻撃……規模は違うが、陽動の仕方が前回と一緒に思えてならない。
 単純、と捉える事も出来るが、何はともあれ。
「今回ではっきりした事は……敵は知能を有し、明らかに意図を持って攻撃してくる。直接攻撃できず、操れるのは知能が低い虫、動物」
 とはいえ、数や規模によっては充分脅威だが。
「ま、サラマンダー退治はセイバー様に任せてと……地道に害虫駆除といきますか! 雛子ちゃんが帰ってきて悲しまないようにねぇ」
 そして、にゃん丸は力強く声を上げた。
「さあ! 【花壇防衛班】の再結成だ!!」
 タッタッタタタっっっっっっ……きゅいぃぃぃん!
「鈴虫翔子、只今参上ー。話は全て聞かせてもらった!」
 タイミングを計ったかのように滑り込んだのは、鈴虫 翔子(すずむし・しょうこ)だった。
 全力疾走で花壇まで駆けて来たのだ、その息は弾み頬は上気している。
 走ってきたから、というより、やる気に満ちているから、といった雰囲気だ。
「翔子、一人で飛ばしすぎないで下さい」
 言いつつ後を追ってきたのは八神 ミコト(やがみ・みこと)だ。
 僅かに息を切らしつつ、こちらは両手に水鉄砲や誘虫ランプなどを抱えている。
「このまま封印が解けたらマズいですよね」
 その隣には、本郷 翔(ほんごう・かける)とパートナーであるソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)の姿があった。翔は、にゃん丸の求めに応じた一人だった。
 虫対策として、雨合羽着用の上、スプレー式殺虫剤も装備している。
 更に、花壇の前には蚊取り線香を配置した。
「とはいえ、どのくらい効果があるかは不明ですが」
 虫は蚊に似ているが、先ず色が違う。微妙に黒光りする赤黒いフォルム。
 細く突き出た口も、蚊のそれより鋭角的なようだった。
「ですが今は、私ができることを全力でやりましょう」
 いずれ、封印が解けても大丈夫なような体制づくりが必要だろう。だが、今は。
 その時の為にも、ここを死守しなければならなかった。
「それと、もし誰かが虫に刺されたら……」
「分かってるって! その時は女の子ちゃん優先でドンと任せとけ」
 雛子の症状を見る限り、虫に刺されて性格が変わったのであるならば、毒などの作用によるものと翔は推測していた。
 呪いみたいなものかもしれないが、それでも毒に近い形態であるからには、魔法……ソールの使えるキュアポイズンには反応するのではないか?、と。
「……頼みますよ、本当に」
 既に懇願に近い要請に、ソールは「OKOK♪」と気軽に請け負い……とりあえず一発入れられていた。
「まだ中央の方は被害がないようですね」
「手伝います」
 刀真は翔に申し出、共に花壇に目の細かい網を被せていく。

「この花壇から夜な夜な、妙な声が聞こえる、か」
 封印を守らねば、と馳せ参じた橘 恭司(たちばな・きょうじ)は、花壇を注意深く観察していた。
 燦々と輝く太陽。ミンミンと煩いセミの声。
 そこにはいつもの、ありきたりの光景がある。
「……いや、蝉はおかしいでしょう」
 ここの所の蒼空学園の暑さで、復活したらしい。
「とにかく、異常は異常として、とにかく虫を何とかしないと……この暑さと虫も何か関係あるのでしょうし」
「はい、じっとしていて下さいね」
「わぷっ」
 シュッ。小気味いい音と共に吹き付けられた。
 見ると、虫除けスプレーを手にしたパートナー、フィアナ・アルバート(ふぃあな・あるばーと)がニコニコと立っていた。
「これで大丈夫です」
 ポニーテールにした艶やかな黒髪を揺らしながら、フィアナ。
 翔が見て取ったように、それがどのくらい効果があるのか恭司には分からない。
 けれど、そんなフィアナの心遣いは嬉しく。
「ありがとう。フィアナもくれぐれも無理はしないように」
 礼を口にする恭司に、フィアナは嬉しそうに嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、そろそろ始めますか」
 そうして、恭司は光条兵器を構えた。これなら、花を傷つけず、虫だけを駆除できるから。
 同じく、光条忍刀を手にしたにゃん丸。
「好きな物だけ切れる光条兵器ってのは便利だが……最後まで気力が持つかな?」
「それでも、やるしかありませんよ」
「まっ、そういう事だよね……よし、始めよう!」
 合図に従い、翔やさけ達が花壇に散っていく。
「ちょっとマヌケな俺たちも御柱さんの誠意に操られようかねぇ」



「ったく、折角植えたもんを簡単に散らされたらたまったもんじゃないな」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)は言いつつ、手早く身支度を整えた。全身を確実にカバーするコートやズボンを着、仕上げとばかりにヘルメットを被る。
「珍しくやる気ですね、いい傾向です」
 パートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は、そんな静麻に満足げだ。
 面倒くさがり屋な静麻がやる気を出してくれるのが嬉しいようだ。
「殺虫剤より、地道にやった方が良さそうだな」
「ウチの植物についた虫は割り箸で挟んでビニール袋にポイっと入れてたわ。あまり花に殺虫剤かけたくないからね」
 同じく、厚手の手袋を装備した理沙も、割り箸を手に虫を一匹ずつ摘まんでいた。
 見た目はちょっとアレだが、虫の動き自体はそう速くない……まぁローグであり、動体視力にも動きにも自信がある理沙かせしてみれば、だが。
 そんな理沙に、チェルシーはコトリと小首を傾げた。
「あらあら、理沙さん……お花を育てたりしていたのですねぇ」
「ちょっと……それ、どういう意味で……」
 詰め寄る理沙。その目がちょびっと剣呑な光を放っているのに気づいたチェルシーは視線をあさっての方向にさ迷わせ。
「あぁ〜、そうですねぇ〜。箸で挟んでおっておくだけなら後でこの虫の事を調べられるかもしれませんねぇ。では1匹サンプルとして虫かごに入れて研究施設に送っておきますわ」
 言いつつ、そそくさとその場を離れた。
「……逃げたわね」
 むぅ、頬を膨らませながら、それでも理沙はその手を止めなかった。
 一匹ずつ一匹ずつ、確実に確保していった。
「ご苦労さん」
 自らも虫を捕獲した静麻は、労いつつ理沙から袋を受け取った。
 花壇からほどよく離れた場所。
「静麻?」
「あぁ別に変な事はしないさ」
 取り出したライター、レイナに言ってから、おもむろに虫を焼却する。
 虫は拍子抜けするほど呆気なく、灰になる。
「というより、これって……」
 困惑気味のレイナに、静麻も口元を引き締めた。
 試しに一匹、注意深く潰してみる。
 微かな抵抗の後、虫はパチンと砕けた……一拍遅れて、黒い煤のような凝った闇のような煙が風に散り。
「本郷が言ってたな。普通の虫じゃないと……ビンゴだな、こりゃ」
 とりあえず他の虫達に目立った反応・反抗はない、確認しつつ静麻の表情は険しさを保っていた。
「何が起こってもおかしくない……気を引き締めていかないと、な」


「鈴虫が虫駆除とか変なのー」
 長袖長ズボン、網で顔を覆う帽子も着用、とこちらも完全武装な翔子は、ハエタタキでもって虫を叩き潰していた。
「何か変な手応えー……ミコトっちどうかした?」
「……いえ」
 全力で走り回り虫を退治している翔子とは対照的に、ミコトは駆除しつつ虫の発生を観察していた。
 虫は外縁に多く群がっていた。
「何ていうか少しずつ内側に侵入していっているような気がします」
「ふぅ〜ん……って、それってヤバいじゃん」
 二人の視線は自然と中央の花と、傍らでぐったりとしている御柱へと向けられた。
「辿り着かれるとメッチャマズそう……頑張らなくちゃ!」
 気合MAX! 翔子は水鉄砲とハエタタキを手に、花々の間をぬうようにして、虫へと敢然と戦いを挑んでいった。



「どうです?」
「毒、でしょうかねぇ」
 自信なげに答える保健医の風間先生に、リリィは整った顔に少し険を乗せた。
「保健の先生ならもっとパシッと断定して下さいよ」
「といわれましても……あまり馴染みのない類のものですし」
「あっでも毒なら、キュアポイゾンで治療できますよね?」
「……おお! そうですね、効果はあると思います」
 とりあえずやってみて下さい、と勧められたリリィは意識を集中してキュアポイゾンを試みた。
 すると。
 気絶していても苦悶の表情を浮かべていた雛子、その表情がすぅっと和らいだ。
「ん〜……毒は消えたようですね」
「良かったぁ」
 ホッと安堵の息をもらし、リリィは勢い良く立ち上がった。
「よし、早速にゃん丸に知らせなくちゃ!」