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リアクション
第6章 VSサラマンダー(学園内部)
「なんなのこの暑さはーっ!」
今日も今日とて暑さの続く蒼空学園。
九条院 京(くじょういん・みやこ)の怒声が、憎たらしくなるぐらいスッキリした青空に響き渡った。
「ちょっと唯、あんたどうにかできないの?」
「と言われても、無理……おや?」
京のパートナー文月 唯(ふみづき・ゆい)の視界を横切ったのは、サラマンダーの群れ。
「京、あれ……」
「んっふっふ……そう、あれがこの暑さの元凶だったのだわ!」
暑いのイヤ〜ん、な京は目をキラリンと光らせた。てか目、据わってます!
「ちょっ、京それはダメ!」
「目には目を、火には火をって言うじゃない!」
放った火術。
「って、君はバカですか!」
走りこんできた影野 陽太(かげの・ようた)が堪らず、突っ込んだ。
「火に火を注いでも、火が大きくなるだけでしょうが!」
「え〜?」
「そうでもないようですわ。あれは純粋なサラマンダーに非ず……自然に反する生き物のようですわね」
陽太のパートナーであるエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、京の攻撃の成果を見やり告げた。
地面についた焦げ目の跡。食らったと思しきサラマンダーの姿は無かった。
邪悪な炎が正しき炎に浄化されたように。
「ほら、見なさいよ」
「まぁ氷術の方が効果が高いとは思いますけど」
何せこの暑さですし、エリシアの指摘にちょっと頬を膨らませる京。
「いやほら京、とりあえず落ち着いて……でないとサラマンダーが」
京と出会ってからすっかり苦労人気質になってるっぽい唯が言う通り、近くのサラマンダーが少し大きくなったようだ。
「成る程。でも、魔法が効果ありという事は……」
陽太はエリシアと京に、持参したスープを差し出した。
ただのスープではない、ギャザリングヘクスを使用した魔力増強用のスープである。
「ありがと……うん、味は中々」
「それを飲んだら、本格的にサラマンダー退治です。これ以上、蒼空学園を蹂躙されるわけにはいきませんから」
「OKですわ。キャパシティの許す限り何発でもお見舞いして、サラマンダーの沈静化を図りますわ」
「京だって負けてられないのだわ」
「あの京、勝負じゃないから」
眼鏡の奥の目を心配そうに細める唯。
しかしある程度覚悟していたように、この後俄然やる気を出した京に、学園中を引っ張りまわされる事になるのであった。
「今日もあっついねぇ。ね、アイスおごってあげよっか」
「って自分が食べたいだけだろ。仕方ねぇ、付き合ってやるよ」
ここの所の暑さにもめげた様子のない倉田 由香(くらた・ゆか)とルーク・クライド(るーく・くらいど)は、突然起こった悲鳴に振り返った。
「何!?」
「おっおい、由香!」
すかさず駆け出す由香、慌てて後を追ったルーク。
悲鳴の主の元に辿り着いた二人が見たのは、炎をまとう生き物……サラマンダーだった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁぁ!」
悲鳴と共に、グンと成長する炎。
「みんな、落ち着いて! 大丈夫大丈夫、怖がらなきゃこんなの全然たいしたことないよ。ちっちゃいうちにみんなで倒しちゃおうよ、ね!」
気づいた由香は敢えて楽観的に言うと、リターニングダガーを振るった。
捉えた瞬間、ふっと吹き消されるようにサラマンダーは消滅した。
「ねっ、言った通り……って、でか!」
と、そこに一回りも二回りも大きなサラマンダーが立ち塞がった。
「まったく、この間のプールの水蛇といい、なんだってこんな妙なことばっか起こるんだよ……」
由香の隣に立ちながら、ルークはぼやいた。
何と言っても由香は、何か事が起こると真っ先に飛び込んで行ってしまうのだから。
まぁ、何があっても最終的には由香だけは守るつもりでいるのだが。
「しょーがねーから、由香はオレが守ってやるぜ!」
「るーくん、気をつけて! いっくよ〜!」
決意を元気な声にかき消されながらも、ルークは成長したサラマンダーに【氷術】を放った。
動きの鈍ったサラマンダー。そこに由香が肉薄する。
ドラゴンアーツで高めた身体能力のままに、リターニングダガーを振るう。
それはあやまたず急所……心臓とも核ともつかぬ部分を貫き。
「ねっ、大丈夫でしょ?」
不安顔の生徒たちににっこりと笑ってみせる。
「……大丈夫でしょ、じゃないだろ」
数本、焦げた前髪。
「こんなの全然平気だよ」
気にするルークに、由香はやはり笑って見せた。
そして、呟く。
「悪意に悪意で対抗したってダメなんだよ」
戦いながらずっと感じていた。サラマンダーは熱くて熱くて、なのにどこか空虚で寒々しい、と。
「まずは負の意思の原因が知りたい。最終的にはそれが解決して、みんなで幸せになれるといいよね」
それは願い。
偽らざる、由香の本心だった。
「くっ! 折角久々の和食が食べられると思っておったのに! これでは学校をサボってまでやってきた意味がないではないか!」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)は心の底から悔しそうなパートナー悠久ノ カナタ(とわの・かなた)に、「同感」と頷いた。
流れるような銀の髪の魔女カナタ。しかし、和服に身を包んだ彼女は日本生まれ、日本育ちのジャパニーズウィッチなのである。
ケイと共にイルミンスール魔法学校に通う事に不服はない。ただ唯一不満があるとすれば、学食のメニューなのである。そう、西洋の流れを汲むイルミンスールでは、やはり和食の頻度は低いようにカナタには思えるのだ。
それは日本人であるケイも同じ。
という事でやって来ました蒼空学園! お昼時の学食!
ここでなら美味しい和食が食べられるはず!……な所でこの暑さとこの騒ぎである。
「なんとしてもこの騒動を治めねば……!」
と誓ったとしても無理はない。
「でもこのサラマンダー、倒すのって何か……可哀相な気がする」
目の前にちょろちょろ姿を見せたサラマンダーをつくづく観察し、ケイは唸った。
「あっでも、このサラマンダー、変な感じがするぞ」
「ふむ。捻じ曲げられた魔力の気配がするのぅ」
「じゃあ、それを浄化してやれば……」
「やってみるが良い」
頷き、ケイは火術でもって温かな灯火を作った。
小さなサラマンダーが一匹、ちょこちょこと近づいて来た。
「傷つけたくない、出来れば……」
灯火の温かな炎に触れたサラマンダーは、穢れを祓われるかのように気持ちよさげに目を細め……ふっと炎に溶けた。
「炎の質としてはまだまだだが……及第点といった所だな」
「他のサラマンダーも同じように浄化できないかな?」
全ては無理でもせめて、目の付く所にいる者達は救えないだろうか?
例えそれが命なきものだとしても。
「ならば、為すがが良い。あくなき探求心と強き意志と……それが偉大なるウィザードへの第一歩なのだよ」
カナタは弟子でありパートナーに、満足そうに微笑をもらした。
「やれやれ、いつもの事ながらこの学校は騒がしいねぇ」
目の前をとっとこ横切るサラマンダーを目にして、神城 乾(かみしろ・けん)はその赤い瞳を細めた。
「まっ、丁度退屈してたし、いいか」
無駄の無い動きでアサルトカービンを抜き、発砲する。
パンっ。
乾いた音を立ててヒットした途端、目標は風船のように弾け飛んだ。
「歯ごたえがなくてちょっとつまらんか」
軽口を叩きつつ、別のターゲットにロックオンし、引き金を引く。
標的にロックオン、ヒット。
標的にロックオン、ヒット。
淡々とそれを繰り返す。
「……っつ?!」
何度それを繰り返しただろう?
左手に走った熱……痛みに乾は顔をしかめた。
気づかぬうちに、接近を許したらしい。
「って、いきなりビックリするじゃねぇか! 火傷したっつーの!」
思わずキレてしまった瞬間、
「……あ」
自分の迂闊さに気づいた。
我が意を得たり、とばかりにサラマンダーが巨大化したからだ。
「うあっ、ヤバ……」
「このうつけ者! 下がるのじゃ……サラス!」
「うん! ソニックブレード!」
割って入った御厨 縁(みくりや・えにし)の指示に従い、サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)の一撃がサラマンダーを捉える。
「すごい熱量だけど……サラスには効かないよ!」
吹き付けてくる熱波さえ切り裂くように、サラスは魔法剣を振り下ろした。
音速さえ超える一撃はそして、サラマンダーを真っ二つに叩き切った。
「払いたまえ清めたまえ〜」
地面に残った煤に念のためお祓いをしてから、縁は乾を睨んだ。
「助かったよ」
「戦いの最中に気を抜くとは、何事じゃ! 兄者とは偉い違いじゃな」
尊敬する支倉遥とそう年齢は変わらないのに……もっと酷い怪我になっていた可能性だってあるのだ。
「命を粗末にするでないぞ」
言い置き、他のサラマンダーはと頭を巡らせた縁は、背後を振り仰いだ。
「……何で付いてくるのじゃ」
「いや、面白そう……いやいや、協力した方が効率が良いだろ」
改造巫女服をまとったちびっ子、なんて滅多にお目にかかれないし。
「じゃが……」
「そうだね。サラマンダーがどれくらいいるか分からないし、協力し合った方が断然お得だよ」
「むぅ……なら、まぁ付いてくるのを許してやっても良いぞ」
「はははっ、じゃあよろしく頼む」
ツンとそっぽを向きつつ頬をちょっと赤くした縁に、乾は楽しそうに銃を構え直した。
「俺、あのサラマンダーと戦えるとは思っていなかったぜ!!!」
サラマンダーの群れを前に、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は嬉しそうにニッと笑った。
「サラマンダーの暑さより俺の熱い闘争心を見せてやる!!!!」
身につけていた服や鎧を脱ぐ。
上半身裸になった岩造は、グレートソードで5体のサラマンダーをまとめてぶった斬った。
「貴様等、手応えが無さすぎだぜ!!!」
あまりにあっさりとした手応え。怒鳴る岩造に、サラマンダーのまとう炎が強さと大きさを増した。
「そうでなくちゃ!!! 熱く、熱く、熱く、燃えるぜ!!!!」
血がたぎり、全身が燃えるように熱い。
その熱ささえ原動力と変換し、岩造は次々と襲いかかってくるサラマンダーを蹴散らしていった。
「暑い、暑い、暑い!!!」
どんどん、岩造の熱さと共に暑くなっていく空気に、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)は悲鳴を上げていた。
軍の厳しい訓練や厳しい規則には耐える事が出来る。
だが、この異様な暑さには正直バテ気味だった。
それでも、パートナーである岩造がこの激しい暑さに耐えながら戦っているから。
一生懸命に戦っているのなら、自分がギブアップするわけにはいかなかった。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!」
暑さを我慢しながら、フェイトは必死で剣を振るい続けた。
「サラマンダーの暑さでこの鬼の岩造ごとく歩兵科所属少尉の岩造が簡単にはくたばってたまるかってんだよぉ!!!」
対照的に、岩造のボルテージは益々高まっていく。
ここまできたら最後まで戦わなくちゃ、漢じゃないだろ?
「感じるぜ、この熱さ、この熱さは最高の気分だぜ!!!!」
岩造は最後まで諦めず、この辺りのサラマンダーを全て、蹴散らしていった。
「皆、落ち着くんだ! 冷静になりさえすれば、怖い相手じゃない!」
高月 芳樹(たかつき・よしき)はアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)と共に、パニックになっているだろう生徒達を落ち着かせつつ、サラマンダーを退治していた。
「大きくなったら厄介だし、小さいうちに潰しておきたいのだけど……」
芳樹やアメリアがサラマンダーを退治するのを見て、勇気付けられた生徒達もいた。
励まされ共に戦おうと武器を手にした者もいた。
けれど、やはり不安と恐慌に陥る者達も多かった。
「どうした?」
「いえ……何か微かな香り……気配がしたような気がして」
ふと足を止めたアメリア、芳樹は背後のサラマンダーを氷術で消し去りつつ、眉を潜めた。
「アメリア?」
「ふと、昔を思い出しただけ……古い、記憶を……」
曇った表情からそれが辛いものなのだと察し、芳樹はアメリアの手を一度強く引いた。
「そうか。でも、今はアメリアは一人じゃないだろ? サラマンダーを倒して楽しい学園生活を満喫する……そうだろ?」
「……ええ、そうね」
ふっと笑みを取り戻すアメリアに、芳樹もホッとした。
「もう一頑張り、いけるか?」
「勿論。私は芳樹を守るヴァルキリーだもの」
「時間が経てば経つほど、厄介になるようだな」
村雨 焔(むらさめ・ほむら)は、大物を狙い狩っていた。邪魔する小さなサラマンダーは、頑丈な金属を仕込んだ戦闘用のブーツで踏み退治。
「にしても本当、暑い〜。このサラマンダー達をやっつけたら、涼しくなるんだよね?」
「まぁおそらくは」
パタパタと手で仰いでいたアリシア・ノース(ありしあ・のーす)はふと、焔を見た。
漆黒の外套をまといつつ、その顔は涼しげなままだ。
「しんとーめっきゃくすれば、ってやつなのかなぁ?」
「そんな事より、新手だ」
行く手を阻むサラマンダー。成長したそれらは、外皮の固さも炎の温度も、小さなものとは全く違っていて厄介だった。
「いいよ、焔。ここでなら、私……」
恥らうアリシア、焔はサラマンダーとパートナーとを見比べた後、意を決する。
「……ぁ」
開いた胸元、伸ばす腕、小さな吐息と共にアリシアの胸元から刀が取り出される。
と共に敗れる服に、瞳を潤ませたアリシアは恥ずかしそうに胸元を押さえ、パートナーを……誰よりも大切な人を見つめた。
漆喰……自分の光条兵器を託すに値する相手。
そして、漆喰を手にした焔は……無敵だ。
振るわれる刀。外殻を無視して突き刺された切っ先は内臓に易々と届き。
内部で紫電が爆ぜる。
「鵡阮流焔式剣術『紫龍雷衝』」
「うわぁやっぱ焔ってサイコー!」
喜び一杯、胸を隠すのも忘れ、もろ手を挙げて抱きつこうとするアリシアを、焔は片手一本、無言で止めた。
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