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リアクション
「おうおう、やばいじゃん! やばいじゃん!?」
冗談抜きでやばそうなのに、何故か楽しそうなクラウン ファストナハト。その横でサイコロ ヘッド(さいころ・へっど)も興奮していた。
「う……ゥ、イィッ……イッ、一緒に、に……アソッ、アァ、あそぼうぜぇえええ!」
それに呼ばれたわけではないだろうが、排気音を轟かせて坂道を飛ぶように駆け上ってきたスパイクバイクがミツエ達の前で急ブレーキをかけて停まった。
銀色の瞳を鋭く光らせて笑むヴェルチェ・クライウォルフ。
ヴェルチェは軽い口調で挨拶を口にした。
「はぁい。手紙は届いたかしら?」
「手紙? もらってないわよ」
周りを見れば、これかなとヒラリと封書をふるナガン ウェルロッド。
「あっ、あたしの宛ての手紙を勝手に……このピエロはっ。ちょっと、こっちにちょうだい」
ナガンから手紙を奪い取ったミツエは、さらに封が開いていることにこめかみを震わせたが、中身を読むと冷たいため息をもらした。鼻で笑ったと言うべきか。
ミツエはヴェルチェに向き直ると、ふんぞり返って言い放った。
「あたしに個人的に喧嘩してる暇はないの。そんなことより考えなくちゃならないことが山ほどあるのよ。悪いけど他をあたってちょうだい」
「ふぅん……ようするに、あたしに勝つ自信がないってわけね。いいのよそれでも。その代わり、ミツエちゃんは弱虫だって言いふらすから」
「どうぞご自由に。あたしが欲しいのは天下だもの。武力の名声じゃないわ」
それが欲しいならお見合いの時にあのようなことは言っていない。
挑発に乗ってこないミツエにややムッとするヴェルチェの後ろで、控えていたクリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)は、胸の前で手を組んではらはらしながら事の成り行きを見守っていた。
ミツエが戦いに応じなくても、周りの者達が殺到してくればヴェルチェもただではすまないだろうからだ。
その時、ミツエを気にしながらも戦況を見つめていたイレブンが叫んだ。
「総番長が倒されましたぞ!」
ミツエの顔がパッと輝く。
「誰が倒したの!?」
「あいつを狙う」
低くそう言ったラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が目で指したのは、明らかに他とは違う不良だった。おそらく番長だろう。
「周りのはオレに任せな」
すぐにそう言ってくれる頼もしいアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)。
「私のことも忘れてもらっては困りますよ」
と、角を生やしたやたら強そうな外見のわりに丁寧な口調のオウガ・クローディス(おうが・くろーでぃす)もランスを握り直してアインに続いた。
そして、射撃を得意とするラルクの邪魔にならないよう、また助けになるような前方に位置を取った。
魔法で援護をするつもりでいるアインは後方に。
獲物を狙うラルクの視線に気づいたのか、番長が鋭い視線を向けてきた。
ラルクには目標がある。そのために魏軍に加わったし、まずは功績を上げて曹操に認められなければならない。
「踏み台になってもらうぜ」
番長を守るようにずらりと立ち塞がった不良達へ、容赦なくスプレーショットを放った。
「やんちゃなガキの戯れか」
軽く笑い、アシッドミストをかけるアイン。
じわじわと溶けていく特攻服に、不良達は驚きの声を上げる。
しかし。
「うろたえるな! 向こうはたった三人だろ! ちょっとヘンな手品を使ってくるだけじゃねぇか!」
番長の一喝に不良達はたちまち冷静さを取り戻してしまった。
そして彼はアインとオウガのためにかたまりを二つ作り、数人を連れてラルクにあたるよう指示した。
手品と馬鹿にされてアインはややご立腹だ。酸の濃度が少し強くなったかもしれない。
オウガがラルクに囁いた。
「私の後ろから、しっかりボスを狙ってくださいね」
ラルクは接近戦もいけるが、今はオウガの厚意を素直に受けておいた。
それは結果的に早く番長を倒すことに繋がった。
アインの火術が一瞬視界を覆い、オウガのランスと不良達の鉄パイプの交差する隙間、ここだ、と本能的に判断した箇所へ向けてラルクはアーミーショットガンのトリガーを引いた。
銃声の後、大の字に倒れていく番長。
「よっしゃ! 討ち取ったぜ!」
高らかに宣言したラルクに、
「よくやった!」
と、どこからともなく馬を駆ってきた曹操が声を上げた。
「そいつは総番長だ。大手柄だな」
「ま、まだ……喜ぶのは、早いぜ……」
だが、そこに倒れたままの番長の掠れた声が割り込んだ。震える手が特攻服の内ポケットを探る。そこから出てきたのはリモコンらしきもの。
「へへっ……これで、終わりだ……」
カチリ、とスイッチが押された。
いったい何が終わりなのかと疑問を感じた時、このバトルランドの至るところに設置されていたコンクリート武者達の目がギラリと光り、音を立てて動き出した。
このバトルランドは関が原の合戦を再現していて、地形の他に侍や武将のコンクリート模型が主要な箇所に設置されている臨場感あふれる場所である。
そのコンクリート模型が動くなど、誰が思うだろうか。
コンクリート武者の振り下ろした刀をランスで受け止めたオウガが小さくうめく。
「当たったら死にますね」
とんでもないものを起動させてくれた。
「それと本陣が危険だ。行くぞ!」
曹操は短く告げて馬首を返した。
全日本番長連合に勝手についてきていた朱 黎明(しゅ・れいめい)は、ここに着くとすぐに双眼鏡を使ったりして地形を頭に叩き込んだ。
彼の狙いは横山ミツエだ。
狙撃に最も適した地を探した黎明は、そこを見つけるとすぐに移動を開始する。誰にも気づかれないように。
そして、狙撃に最も適した時を待つ。
やがて剣の花嫁がミツエから奪われ、彼女らの勢力が押され始めると黎明はいよいよチャンスが近づいてきたことを感じた。スナイパーライフルをいつでも撃てるように準備する。
こちらの総番長が討ち取られたことがミツエに知らされた時、陣内に大きな隙ができた。
黎明はその隙を逃さずトリガーを引く。
ミツエの頬を掠めていく弾丸。
狙い通りだ。
黎明は素早く手近な岩に登ると、大声でミツエに名乗りを上げた。
「我が名は朱 黎明! おぬしの天下三合の計に穴を穿つ者だ! 覚えておけぃ!」
ハッと黎明の方を向いたミツエは、悔しそうにしながら頬の傷に触れた。
と、ここまでは黎明の思い描いた通りだったのだが。
彼を押し退けて朱 全忠(しゅ・ぜんちゅう)も叫んだ。
「おぬしなどコー○ーと呼んでやるのだ! 紂王、董卓に次いで魔王と恐れられる我輩の力見せつけてやるのだ!」
ミツエの後ろの方にいた董卓が、いきなり呼ばれてきょとんとしていたが、全忠の目には入っていなかった。
直後、全忠は黎明に蹴り落とされる。
そんな二人を呪い殺しそうな目で睨みつけていたミツエのところに、またもやスパイクバイクが突っ込んでくる。
しかし今回の相手は停まる気はないらしい。
ギョッとしたミツエは慌てて飛び退くと、ようやくバイクの乗り主藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はブレーキをかけた。
「惜しかったですね」
涼しげに言ってのける優梨子にミツエはきつい目を向ける。
彼女を守るようにイリーナや劉備達が立った。
ふと優梨子は口元に指をあてて考えるように呟いた。
「これならこちらについても良かったかもしれませんね。負け戦ほどおもしろいものはありませんから」
「あんた何しに来たのよ」
剣呑なミツエの声に、優梨子は上品な微笑みを見せる。
「もちろんミツエさんの首をいただきに参ったのですよ」
そしてもう一度、ランスを突き出してバイクで突進しようとした時、音量を最大にしておいた携帯が鳴った。必○仕○人のテーマ曲に一瞬ミツエがこける。
再挑戦を邪魔された形になった優梨子は少し残念そうに携帯をポケットから取り出す。相手は宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)だ。
彼からの連絡は一つ。
「そこは危ねぇからさっさと逃げろ」
本陣が危ういことに気づいた孫権らや曹操らが、番長連合を蹴散らす勢いで引き返してきているというのだ。
そう言ってくれた蕪之進は、光学迷彩でどこかに隠れているに違いない。
本当に残念なことになってしまった、とため息をつく優梨子。
「今日はほんの挨拶がてら……あなたも、早くここを離れた方がいいですよ」
ヴェルチェにそう言い残すと、優梨子は未練の欠片も見せずに来た道を戻っていった。途中で後ろを守ってくれていた亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)に声をかけていくのを忘れずに。
ヴェルチェ達もいなくなったここで、ミツエは地団太踏んで悔しがった。
負けたことを察したからだ。
いくら孫権や曹操達が敵の数を減らしながら戻ってきたとしても、まだまだ大勢いる敵勢を迎え撃つだけの力は残っていないだろうし、ここには他の戦力も剣の花嫁もない。何よりコンクリート武者達が面倒臭い。固すぎる。
「もうどうにもならないわ。でもこのままじゃ終わらないわよ! みんな、お土産買ってさっさと帰るわよ!」
ミツエはそう言うなり素早く荷物をまとめにかかった。
そうして戦場に出ていた者達が戻ってきた時には、すぐ後ろに敵勢が迫っており、打ち払いながらの撤退となった。
「ここでちゃんと働かないとアイナさんに殺されてしまいます!」
敵による攻撃よりも味方からの鼓舞という名の攻撃に怯えたソルラン・エースロード(そるらん・えーすろーど)は、カルスノウトを握ると自分を捕まえようと伸ばされた手をそれで払った。
「触るんじゃねぇ! ぶっ飛ばすぞ!」
「もうぶっ飛んでる」
静かに風祭 隼人が言い、少しでも番長連合の足を止めるため光条兵器である銃剣で足元を狙い撃ちした。
彼らの活躍もあり、ミツエ達はどうにかバトルランドから去ったのだった。
卍卍卍
全日本番長連合の制覇に失敗したミツエは、悔しさをぶつけるようにお土産を買いあさった。
そして帰りの新幹線で。
生徒会より来たメールにミツエは愕然とする。
A級四天王の地位剥奪
失敗したのだから仕方がないが、悔しくないわけがない。
ミツエの腸は怒りと屈辱に再び煮えくり返る。
画面を睨みつけたまま、続く文面を読んだ。
そこには、現在十万を超えるパラ実勢がキマク家の要請を受けてヒラニプラ方面へ進軍中であることが書かれてあった。
ミツエは今回の生徒会からの無茶な要求の真意に気づいた。
生徒会が本気で日本の番長連合を潰す気なら、もっと簡単にすむようミツエに人員を割いたはずだ。けれど、五十人で何とかしろと言ってきたのは、パラミタ各地に散るパラ実生を結集させるためだったのではないだろうか。
さらにあわよくば日本の番長軍団も味方に引き入れてしまおうと考えたのではないだろうか。
「馬鹿にすんじゃないわよ……!」
生徒会にいいように駒にされたことにミツエは新たな怒りを覚えた。
四天王どもめ、と瞳に炎が宿る。
握り締める携帯がミシミシと悲鳴を上げた。
それでも空京に着いた頃には、気持ちを落ち着けてどうやって四天王どもを出し抜いてやるかを考えていた。
そのはずだったのだが。
新幹線を降りたミツエを出迎えたのは、ホームを埋め尽くすほどの不良達。
一番前にいる奴が、
「俺達も三国軍に混ぜろ!」
と、唾を飛ばして叫んでいる。
怒りも吹き飛び、きょとんとするミツエの横にいた曹操の携帯が不意に鳴った。
メールの内容を確認した曹操が、らしくなく吹き出したのでその画面を覗き込んでみれば。
ミツエの顔は瞬時にして憤怒の形相となったのだった。
いったい何が書かれていたのか、何故不良達がこんなにあふれているのか。
第二回に続く!
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担当マスターより
▼担当マスター
冷泉みのり
▼マスターコメント
大変お待たせいたしました。『横山ミツエの演義 Part1 第一回』をお届けします。公開予定日に間に合わず、申し訳ありませんでした。
これでパラ実の修学旅行は無事終わりました。お疲れ様でした。
各都道府県の番長を倒しに各地へ赴いた方には、称号を贈りました。ご確認くださいませ。
第二回のシナリオガイドは10月23日(金)を予定しております。
次も皆様のパワフルなアクションにお目にかかれるよう、お待ちしております。
今回はご参加いただきありがとうございました。