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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション

 勇敢にも真っ先に飛び込んだ、留美ラムールは、カレンジュレール上に覆い被さった状態で倒れており、黎達により救出されていた。
「人工呼吸を、人工呼吸を……青い、唇に、わたくしの……人工、こきゅ……」
「留美、人助けじゃぞ……わし、は、し、んぞう、マッサージを……」
 朦朧としながらもなにやら呟いている。全ては未遂のまま終わった。
「毒に倒れても尚、友を救おうとするその心意気。なんと素晴しい」
 黎は感動を覚えながら、パートナー達と治療を行なっていく。
「うう……ん」
「大丈夫ですか?! ようやく、ようやく気付かれたのですね!」
 今度こそ目を覚ましたテクノを、はがくがくと揺する。
「鏖殺寺院の施設は? どう進むのですか? バイオテロ計画はどこまで進んでいるのでしょぉぉぉぉう!?」
 拷問の如くテクノを揺する姿を目にしたガートナは……。
「アレは目の錯覚でしょうな」
 冷や汗を流しながら目を逸らして、自分自身は意識の戻らない人々の治療を続ける。
「……っ。バイオテロ……寺院のバイオテロ兵器、だったのかっ」
 はっきりと意識を取り戻したテクノは、飛び上がるように立ち上がる。
「微妙な治療だったが、ありがとよ。俺はさっさとトンズラするぜ! あばよ!!」
 それだけ言うとダッシュで駆けていってしまう。何も情報をよこさずに、何一つ情報を残さずに!
「恩知らずがーーーーっ。だいじょうぶですかーーーーー!」
 と叫びながらも、幸は次のターゲットの介抱を始める。
「その方は、救護用のテントにお運びした方が……」
「いいんです。ここで手当てしますから! 下手に動かした方が危険です。ええ、毒ガス攻撃とはそういうものなのです」
 ベアトリーチェの言葉に耳を貸そうとせず、幸はその場の介抱を強行する。
「電話鳴ってる、電話鳴ってるよぉ」
 半泣き顔で、駆けてきたのはトメだった。
 パートナーであるカレンの携帯の着信音が微かに響いているのだ。
「カレンさん、ジュレールさん、大丈夫ですかー!」
 続いて、ソアと、雪国ベア(ゆきぐに・べあ)ジンギスも駆けつけて、倒れた2人の介抱を始める。
「んん……この大河の向こうに……素晴らしい世界が……むにゃむにゃ」
「お、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、逝っちゃやだーっ!」
「きゃーっ、カレンさん、しっかりして下さいーっ!」
 カレンの寝言を聞き、トメは必死にカレンを揺すり、ソアは精神力が尽きるまで、カレンとジュレールにヒールをかけ続けた。
「スルメもいいけど、チョコバーも美味しいでしょ☆」
 ルカルカは運び出したウォーレンの口に、大量に持って来たチョコバーを突っ込んだ。
「ふぐ……ううっ」
 ウォーレンが咳き込みながら、目を覚ます。
「うまい、あまい……うーん」
 口の中の物を噛み砕きながら、周囲を見回すと、心配気にわくわく楽しそうな皆の目が。
 ごくりと口の中の物を飲み込むと、ウォーレンはにこっと笑った。
「あぁ。なんかいろいろ、目が覚めたぜ☆ ありがと」
 途端、ウォーレンはその場に居た者達に、抱きついて回る。
「ありがとー、ありがとう、みんな!」
「何やってんだ、お前は」
 不機嫌そうな声に振り向けば、パートナーのジュノの姿がある。
「ジュノもありがとー。俺を助けに来てくれて」
 ジュノはひらりと身をかわし、ウォーレンの両手は空を掴む。
「は? クライスさん達を助けに来たに決まってるじゃないですか、バカですか? バカですね」
 そのクライスも黎の介抱により目を開けたところだった。
「あれ? ジュノは他の奴にヒールしねぇの?」
 途端、ぺしんとウォーレンはジュノに叩かれる。
「ははっ……っと? 最初に聞いた声の持ち主がいねぇな」
 礼を言おうと見回すが、瓜生 コウ(うりゅう・こう)の姿がなかった。
「お姉ちゃーん、よかったよぉ」
「んー、よしよし」
 意識を取り戻したカレンは、泣きじゃくるトメの頭を撫でながらボーッとする頭を左右に振るのだった。
「地下にバイオテロの研究施設があるという話を耳にしまして……お2人はもしかして、それを探り、阻止するために地下に向かわれたのですか?」
 ソアが純粋な眼差しで、カレンとジュレールを見つめる。
「……そう、だった。勿論そうよ!」
 カレンはトメを抱きしめながら立ち上がった。
「居なくなった人達は、鏖殺寺院に捕らえられたのかもしれない。行方不明の人達を助けださなきゃ! 人命が失われる様な事があれば、その時点でボク達の敗北だから!」
「毒ガス攻撃はもう始まっているようだな。しかし、且つ強力なバイオテロの兵器が奥に山の様にあるだろう。それらを破壊するか、白日の下に晒す事で鏖殺寺院の陰謀を阻止するのだ」
「なんですと!」
 ジュレールの言葉に、幸が介抱していた人を突き飛ばし、飛び寄った。
「乗り込もう皆で!」
「うむ」
 カレンが地下への階段を指し示し、ジュレールが頷く。
「い、行きましょう」
 ソアも覚悟を決めた。
「研究室はどこからいけるんです?」
 幸はもう階段を下りはじめている。
「皆待って!」
 クライスの声が飛んだ。
「……ルカルカさん、藍澤。出来るだけ僕を回復して」
 目を覚ましたクライスは真剣な表情で地下に目を向けていた。
「どうした?」
 問いかけながら、黎はフィルラントにクライスを癒すよう目を向ける。
「鏖殺寺院がここを拠点としていることは皆も知っているよね。地下に秘宝があるらしいってことも。そして、秘宝に近付いた途端、僕達は無差別攻撃を受けたッ。しかし、見てくれ、一緒に避難したはずのメンバーのうち、2人いない。最初に入り、僕達を招いた瓜生コウと、ミクル・フレイバディは、僕が意識を失った時には消えていたんだ! これはつまりあの2人は鏖殺寺院の手先ということだ!」
「あ? そういえば、もう一人、百合の制服の子もいない?!」
 ウォーレンも記憶を辿ってみるが、気を失う直前に確かに彼女達の姿を見てはいない。
「……これは騎士として、鏖殺寺院の野望を食い止めないとね」
 フィルラントとルカルカからの治療を受けて、クライスはすくりと立ち上がる。
「なるほど、奴等が今回一番の強敵、か……。面白い。相手にとって不足なし、だな」
 ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)は根拠もなにもないが、面白そうなのでとりあえずその話に乗った。
「そうよ、悪を滅ぼすのよ、騎士として!」
 不快感に呻いていたサフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)も、立ち上がるとクライスを精一杯応援し出す。
「彼女達と戦うと言うなら……是非もない。私はそれに従うまでだ」
 万全ではないローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)も体を起こした。
「ええっと、クライス……?」
「罪無き人の命がゴミのように扱われる前に何とかしないと! 行くよ!」
 ウォーレンが止める間もなく、ガス抜き中の地下へクライスはパートナー達を伴い真っ先に駆け込んだ!
 途端。
「ちょっと待て、ここは危なぁぁぁぁぃ」

ドンガラガラガッシャーーーーーン!

 大声に続く、爆音とともに天井が崩れ落ち、積み上げられていた瓦礫と人が地下へと落てくる。
「ああっ」
「のわっ、初島」
「きゃ、なにっ!」
「ふごっ」
「うぐっ」
「ぐはっ」
「うげっ」
「うーっ!」
 ……クライス、ローレンス、ジィーン、サフィの体には、それぞれポニテアフロ、短髪アフロ、ボブアフロ、シャワーキャップアフロが乗っかっていた。

○    ○    ○    ○


 イー ツー(いー・つー)は、パートナーのテクノ・マギナ(てくの・まぎな)と、相棒を探して、空より訪れた。
 そして崩れた別荘の中に、垂直に刺さっている相棒、エー テン(えー・てん)の姿に唖然とした。頭から瓦礫に突っ込み、華麗に尻を空へ向けている。その存在を知らしめるかのように、まるで瓦礫の中のシンボルのようだ。
「あ、アイボウ、何があッタ!?」
 いそぎ急降下し、相棒のエンジンという名のツインテールの髪に頑丈なロープを括りつけて、引き抜きにかかる。
「う、うううう……」
 苦しげな声を上げているエーテンを完全に引き抜くと、大地の上に寝かせヒールをかける。
「テクノのダンナはどうシタ?」
「主の居場所でござるか?」
 ようやく動けるようになったエーテンは文字通り羽を思い切り伸ばした」
「知らぬでござる。拙者はここに刺さったまま動けなくなっていたのでござるからな」
「……そういえば、何でこんなところに刺さっていたんダ? しかも垂直に」
「垂ちょ……? ……忘れて欲しいでござる」
「お、おおすまなカッタ」
 再会の感動的な会話の最中。激しい爆音と揺れを感じ、2人は爆発地点に目を向けた。――大きな穴が空いている。
「ダンナ、まさかあそこにいるってことはナイヨネ?」
「おーい!」
 飛び立とうとしたイーツーの耳に、聞き慣れた声た届く。
「テクノのダンナ!」
「主! 無事でござったか」
 テクノがエーテンとイーツーの元に走り寄る。
「背に腹は変えられねぇ、命あってのモノダネだ、宝は諦めて俺は帰るぜ!」
「宝? そもそも拙者達は何しきたのでござるか?」
「……気にするな。もう何も気にすることはない」
 テクノはぽんとエーテンの肩を叩くと、その体に乗り込んだ。
「大変なようだから、ゴミは運んでおこうかネ」
 イーツーは瓦礫を幾分載せて、飛び立つ。
 エーテンも、主であるテクノと瓦礫を載せて飛び立った。
 私欲の為に命懸けの突撃をして別荘に乱入したパラ実テクノだけど、一切の利益を得ず、最後に良いことをして帰るのだった。
「何しきたのでござろうか……」
 エーテンの声が静かに木霊した。