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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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第3章 地下へ

「では、このあたりで散水を始める」
 内陣にて、重々しくそう言った後、はくるりと振り返り、を見た。
「良い子のみんなは真似をせず、すぐ消防に連絡するのじゃよ。青との約束じゃよ」
 白い歯を見せて、にかっと笑う。
「どこに向かって言ってるんですかぁ〜。早くお願いしますぅ」
 同じく内陣にて、伽羅はつっこみを入れつつ、ティータイムで用意した冷水で仲間の火傷の応急手当てを行なう。
「水が足りなくなったら、使ってね」
 アカリは、至れり尽くせりで、大量の水を用意しておく。
「生存者だ! まだ息があるぞ」
「よかったですわ。治療お願いしますわ!」
 外周でチェインスマイトを用い、精力的に救出活動に当っていたミラが、生存者を伽耶へと預ける。
「傷は浅いのに意識がないわ。毒ガスを吸っていそうね」
 伽耶は、キュアポイゾンとヒールを生存者の少年にかけた。
「しっかりしなさい! 傷は浅いですわ!」
 アルラミナが声を掛けると、少年はううっと小さな声を上げて目を開けた。
「……悪い」
 アフロなメンバーを見て、仲間だと思ったのだろう、少年は、そしてパラ実の女性達も、密集隊形の作戦にあたる皆には抵抗はせず、身を任せていた。
「こちらにも生存者がいたでござる」
 外周で、周囲を警戒しながら、救助に勤しんでいたうんちょうが、モヒカン少年を1人連れてきて、内陣のに預ける。
「しかし、学生とチンピラばかりのように見えますな」
 黒は不審に思いながらも、魔法で少年を癒していく。
「襲ってくる者は今のところいないようですね。時々小競り合いはあるようですが」
「お陰で捗りますな」
 シラノは、外周で瓦礫を持ち運び順調に除去作業を進めていく。
「鏖殺寺院の奴等、もう逃走したのかな」
「追うより、救助が優先ですよねぇ〜」
 アクィラは、瓦礫を整理していき、クリスティーナはいつでも防御スキルを発動できるよう、周囲を見回している。
「うむ。順調なようで何よりだ」
 内陣にて、ロドリーゴは皆の働きっぷりに満足げに頷き、本部で待機し白百合団との連携を担当しているゲルデラー博士アマーリエに携帯電話で報告を入れるのだった。
 彼等の体を伝う水は、放水した水か、汗か、それとも犠牲になった人々への哀悼の涙なのか。
 教導団を中心したアフロなメンバー達は、誠心誠意円陣を組んで固まって、一心不乱に救助活動に尽くすのだった。
 整理された瓦礫もどんどん積み上がっていく。

「この辺り、だと思う」
 蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、合流したパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)と共に作業用のテントに集まっていた仲間達を連れて、地下への入り口があったと思われる辺りを訪れていた。
 ルカルカ達により、概ねその辺りの瓦礫は取り払われている。
「地下が一番被害が大きいそうですからね。ガートナ、ここはとりあえず地下の被害者の救出に向かいましょう!」
 蒼空学園の島村 幸(しまむら・さち)は、大型スコップを手に、どこかしら怪しげな笑みを浮かべている。
 何を隠そう、彼……いや彼女の真の目的は地下の合成獣――というか、鏖殺寺院の研究施設だ。
「さすが幸ですぞ、重篤者を一番に考えるとは!」
 そんな内心は知らず、パートナーのガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)は、幸の行動に本心から感動を覚えていた。
「救助を一番に考えてね? ガスの被害に遭ってる人が本当にいたら、危ない状態だと思うし」
 美羽は幸の笑顔にひっかかりを覚え、そう言う。
「ははははっ。当たり前じゃないかー」
 なんだか棒読みのような返事が返ってくる。幸のことはあまり当てにしない方がよさそうだ。
「確かに異臭がしますわ……、おそらく毒ガスを吸って大変なことになっているに違いありませんわ。すぐにでも地下から助け出さねばなりませんわね」
 イルミンスールの佐倉 留美(さくら・るみ)もまた、獲物を狙う獣のように目を輝かせながら周囲を見回す。
「うーん、何やら不純な動機があるような気がするが、まあ人助けだしのう」
 パートナーのラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)は、留美が必要以上に張り切っている姿が気になるも、一緒に地下への入口を探すのだった。
「それじゃ、ちょっと離れて下さい。邪魔なもの撤去しちゃいましょう」
 イルミンスールのナナ・ノルデン(なな・のるでん)の言葉に、集まった者達は後に下がった。
「誰かいませんかー?」
 その言葉後、ナナはきっかり1秒だけ待った。
「誰もいませんねー? では、ズィーベン、ぱぱっと後片付けしちゃいましょう♪」
「よーし、地下室で埋もれてしまった人達を助け出す為に瓦礫除去作業だぁ」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は、張り切って魔法を唱える。
「雷の精霊よ、不浄の大地を浄化したまえー。さんだーぶらすとー!」

ちゅどどーーーーーん

「きゃああっ」
「うわっ」
「ぎゃっ」
 突如起こった大爆発に、集まっていた人々も軽く吹き飛んだ。
「……あ、あれ? サンダーブラストってこんなに威力あったけ!?」
 サンダーブラストは雷の魔法だ。通常雷には物理的威力はほぼないのだが、水とか霧とかが撒かれてい為、水蒸気爆発を起こしたようだ。
 みれば瓦礫の撤去作業を行なっていた人々の大半も巻き込まれて痺れている。
「何か瓦礫と一緒に、なにか飛んでいった気もしますが気のせいでしょう」
 ナナは全て気のせいだと思うことにした。
「知り合いの姿も見えたような気もしましたが、こんなことでやられるようなタマじゃないので気にすることはありません」
 幸もきっぱりと言った。
「くくっ……ふふふふふ」
「幸……?」
 にやにやと笑みを浮かべて立ち上がる幸に、ガートナは疑惑の目を向けた。
「あそこが地下への入り口ですわね! 早速、扉を開きましょう」
 留美は起き上がると同時に、地下爆発で半開きになっている扉へダッシュし、体重をかけて外へと引っ張った。
 ギギギギ……と、耳障りな音と共に、扉が開かれる。
「大丈夫ですか?! ああ、意識を失ってらっしゃる! 今治療しますからね(だから早く情報教えてくださいね)」
 我先にと駆け込んだ幸の言葉にガートナはぴくりと眉を揺らした。なんだろう、心の声が聞こえた気がした。
 だけれど、怪我人は放ってはおけない。ガートナは幸が引っ張り上げた人物に、ヒールをかける。
「……う……」
「今までよく頑張りました。ご無事でなによりです」
 目を開けた人物に、ガートナは微笑みかけた。
「ちょっとそこのあなた、そこの女性は私が人工呼吸しますので手を出さないで下さいまし」
「うごっ」
 留美は突如ホーリーメイスでガスッと、ガートナの頭を殴る。
 ガートナは思わず地下で気絶していた男性――テクノ・マギナ(てくの・まぎな)の額に自分の額を打ちつけた。テクノは再び意識を失う。
「って、男でしたのね。それでしたらバケツの水でもぶっ掛けて差し上げればきっと起きますわ。私はその先で倒れている女性にくちづ……人工呼吸するのに忙しいのですから、適当に何とかしてくださいませっ」
 殴ったことの謝罪もせずに、留美は安全確認もせず地下へと飛び込んでいく。
「あんなところに女性が倒れて気を失っておりますわ。きっと毒ガスの影響で呼吸困難に陥っているに違いありません、すぐにでも人工呼吸をしなければなりませんわ。ラムールさん! 心臓マッサージの準備はよろしいですか?」
 留美が目を輝かせながら近付いた先には、完全に意識を失っているカレンジュレールが横たわっていた。
「んー、確かに必要じゃしのう。わしは心臓マッサージを担当するかのう」
 留美とラムールは屈みこんで、カレンとジュレールに手を伸ばす――。
「許せませんね! 鏖殺寺院!」
「全くだ」
 倒れている人々の姿に、ナナは怒りを露に、ズィーベンと共に地下へ下りる。
「しっかりしてください」
 ナナは倒れている人々を、ナーシングやヒールで分け隔てなく手当てをしていく。
 ここに来るまでの間に、敵味方問わず、沢山の犠牲者を出してきた2人だったが、これも鏖殺寺院の非道な研究を潰すため、全てやむを得ずやったことなのだ。そうなのだ。きっと。
「クライス! 生きているか! 生きているなら返事をしてくれ!!」
 地下への入り口の発見を知り、もパートナー達と共に、急ぎ駆け込んだ。
「長いは無用や、黎!」
 フィルラントは、禁猟区への反応を感じ黎にそう忠告をしながら、倒れている人物にキュアポイゾンをかけていく。
「……くらい」
 ヴァルフレードが、光精の指輪を使い、光を呼ぶ。
「……いた」
 2部屋分ほどの広さの部屋の中に、多くの人々が倒れていた。
 ヴァルフレードが指した先に、黎の好敵手であるクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)の姿があった。
「互いに並び立とうと誓い合ったというのに、何ということだ、クライス……!」
 意識のないクライスに駆け寄って、黎が彼を揺り動かすも、クライスが目を開けることはなかった。
「毒、消すで」
 フィルラントはクライスにキュアポイゾンをかけた。
 地下には彼以外にも彼のパートナー達や友人が倒れている。
「……っ、精神力が」
 フィルラントが顔を顰めたその時、頭――つむじ辺りに、生温かく柔らかいものが触れた。
 体に力がみなぎっていくも、フィルラントは飛びのいて振りほどく。
「なにするんや、このデカうざワンコ!」
「なにって、アリスキッスだよっ」
 エディラントが、にこおっと笑みを浮かべた。
「早く運ばないとねっ。がんばって! 助けに来たんだよっ」
「……多分下のほうにガスはたまっとるやろうさかい、とにかく起こして運び出すんや」
 つむじ付近を拭いながら、フィルラントはエディラントにそう指示を出し、自分自身は再び毒消しを行なって回る。
「可燃性のガスではなさそうだな。気をつけろよ」
「うん」
 ダリルは、突入をするルカルカ達に注意を促した後、地下への階段から地下の天井に向かって、酸の濃度を上げたアシッドミストを繰り返し放っていく。
 精神力が尽きた後、地上に戻る。
「この辺りに頼む。ここから毒ガスを抜こう」
「よっしゃあ! 行くぜ!」
 ダリルの言葉を受けて、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が雷術、火術を叩き込み、更にドラゴアーツで、大地に足を叩き付ける。
「姿は小さくとも、我が疾風の攻めを見よ!」
 そこに十分に助走をつけた夏侯 淵(かこう・えん)が駆け込み、ヒロイックアサルトを発動し、蹴りを大地に叩き込んだ。
 水と泥が吹き飛び、鈍い音と共に大地に穴が開く。
「っと」
 落ちそうになるも、淵はなんとか踏みとどまる。
「準備できたぜ! 後は頼む」
「了解!」
 淵の言葉を受け、カルキノスが穴に近付く。
「入り口付近にいる人だけでもちゃちゃっと助けておかないとね」
「地下の皆待ってろ、すぐ行くぞ」
 一方ルカルカとエースは入り口から階段を下りていく。
 エースの頭につけられたライトが、奥の方を照らす。奥にはさほど人はいないようだ。
「ぐえっ」
「ルカルカ、エース。お前らの足元に」
「ん? なにゴキブリでも出た?」
 蒼空学園のエルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)の言葉に、ルカルカは真剣な表情で振り向く。
「違う、踏んでる踏んでる。誰か踏んでるって」
「え……っ!?」
 見下ろせば、ルカルカの足の下に誰かのうつ伏せの頭があった。
「お?」
 エースの足の下には、その人物の尻が。
「わっ、ごめーん。でも、気付いてないよね。ぐえっとか声がした気もしたけど」
「さすがは【女帝】。容赦ないな」
 エースは後ろに飛びのいて平然と言った。自分も踏んでいたけど。
「ええっと、あー! ウォーレン、ウォーレンじゃない。しっかりしてー! 今ヒールを、ヒールをかけるからね。ああっ、鏖殺寺院に顔を押しつぶされたのね。可哀想にっ」
 フィルラントの魔法を受け、意識を取り戻しかけていた教導団のウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)に止めを刺した女帝ルカルカは、抱き起こしてウォーレンの汚れを払うのだった。
「しっかりしろ、気付けだぞ」
 エースは持参したスルメをウォーレンの口につっこんだ。彼はスルメが大好物らしい。これも友の愛なのだ。なのだ。
 ぱっと明りが広がる。
 ウォーレンのパートナーであるジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)が光精の指輪で、精霊を呼び出した。
 呆れた様に溜息をつきながら近付いて。
「こんなところでくたばってたか……」
 ジュノはウォーレンに息があることを確認し、安堵の嘆息をもらした。そしてヒールで回復をする。
「次、勝手にこんな所に来たら許さねぇからウォーレン」
「それじゃ、ガス出しちまおうぜ」
「上昇気流を発生させて、飛ばすよー」
 カルキノスとクマラが穴から顔を出す。
「ついでにカニも美味しく焼けてくれないかなー」
 クマラが屈託無い笑顔でそう言った途端、カルキノスに後からくいっと服をつかまれ、ぽいっと穴から中へと落とされてしまう。
 ちなみにカニとはカルキノスの事だ。
「状態確認頼むぜ」
「いったーっ! オイラ可愛い子供なのにーっ。児童虐待だーっ、訴訟するぞーっっ」
「クマラ!」
 慌てて駆けつけたのは、エルシュのパートナーディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)だ。
「クマラ、無事ですか」
 そっと抱き上げて、周囲を確認する。
 この辺りに倒れている人はいない。
「ありがと、これお礼!」
 クマラはディオロスの口に棒付きキャンディーを突っ込んだ。
「この辺りに魔法をお願いします。もぐ」
 言ってディオロスはクマラを抱えて、入り口の方へと向かった。
「行くぜ、ダリル」
「ああ」
 構わずカルキノスはダリルと同時に、氷術を人のいない場所へと放つ。
「虐待許すまじー」
 続いて、クマラは不満を言いながら、エルシュは苦笑しながら火術を放つのだった。