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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション

「救助活動も大詰めかな?」
 ミルミがお茶を飲みながら、遠くに見える瓦礫の山に目を向ける。
 今度のテントは屋根しかないタイプな為、周囲を見回すことが出来た。
「事態は悪化しているように思えますけれどね……」
 側に控えているラザンが肩をすくめる。あまりよろしくない連絡が度々入ってくる。教導団を中心としたメンバーの頭脳的役割のゲルデラーがなにやら携帯電話に向かって喚く回数も多くなっていた。
「……バイクの、音」
「まさか……っ」
 察知した、エレンディラ、葵、アイリスが武器を取る。
「な、なになになにっ」
 ミルミはラザンにぎゅっと抱きついた。
「よくもやりやがったな!」
「報復だ!」
「ダチの仇討ちだ!」
「ぶっ殺せー!」
「メス豚を焼いて食うぞ!」
 口々に汚い言葉を吐きながら、バイクに乗って川の方から現れたのは10人の不良少年だった。
 アイリスが瀬蓮の前へ、葵とエレンディラがその隣、ミルミは更にラザンにも庇われ、後方に下がる。
「バイク調達に行ってたか、少しは頭働くじゃねぇか。おっと、弾幕を張らせてもらうぜ?」
 残党狩りに回っていたラルクが駆けつけ、弾幕を張る。
 不良達は怯まずバイクを走らせる。
「説明している余裕はなさそうだな! 行くぞ」
「仕方ないわね。皆救助活動をしているというのに……っ」
 イルミンスールの高月 芳樹(たかつき・よしき)と、アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が駆け込み、向かってくるバイクの方へと走り出る。
「丸焼きだー!」
 不良が銃を撃つ。芳樹が盾で受けた。
 同時にラルクがアーミーショットガンを撃っており、弾き飛ばされるように不良は転倒し、他の不良をも巻き込んで倒れた。
「ここで止まってもらおうか」
 芳樹は木を盾に、バイクの直撃を避けカルスノウトで不良をバイクから落とす。落ちた不良を避けようと、続く2人も転倒する。
「当たり所が悪いと、爆発するわよ!」
 アメリアは火術を打ち放つ。銃を構えていた不良がバランスを崩して転倒する。そこに雷術を打ちこんで倒す。
「降参しろ! これ以上戦いたくはない」
 迫る不良を説得しようとするも、不良達もまた死に物狂いだった。せめて、どうしても一矢報いたいらしい。特攻の如く、つっこんでくる。
 横に跳んで、バイクを裂けながら芳樹は剣を繰り出す。
 不良の体を裂くも、芳樹自身も反動で飛ばされてしまう。
 傷つきながらも、このままにはしておけない。救助をしている人々に被害が及べば、状況は更に悪化し、死者が出るだろう。
「大人しくしてろ! こちらに戦う意思はないんだ。誤解もあったし、悪いようにはしない!」
 しかし、不良達に芳樹の声は届いていないようだ。
 バイクから落ちた不良は、武器を持って、芳樹とアメリアに襲い掛かってくる。
「見て分からないの? 皆、救助活動をしているのに」
 アメリアは火術で牽制しながら、ロッドを構え後退りする。そろそろ精神力が尽きそうだった。
「おりゃああああああっ!」
 バットを振り上げて襲い掛かる不良の前に、アメリアを制しラルクが飛び出す。
「接近戦が苦手だと思ってたら大間違いなんだよ!」
 ドラゴンアーツで不良を思い切り弾き飛ばす。
「くそっ!」
「はい! 避けた!!」
 ガツッ
 続く不良の攻撃は、体を捻って避けた。……いや思い切り肩を殴打されたが、避けたことにしておく。
「そんでもって会心のカウンター!!」
「ごふ……っ」
 ラルクは拳を不良の鳩尾に叩き込む。
 不良はその場に倒れ意識を失った。
「君で最後だ!」
 芳樹が最後の1人の足に、剣を繰り出した。
「皆、捕縛を!」
 アメリアがロープを手に、倒れた不良達を縛っていく。
「大丈夫だよ、ミルミちゃん」
 ミルミはぺたんと座り込む。葵はミルミについていることにした。
 エレンディラとアイリスはロープで不良を縛り上げ……救護用のテントに連れていくことにした。
「なんかまだまだ足りないぜー」
 ラルクは腕をぶんぶん回しているが、多分これで最後だろう。たぶん。

 その数分後。
「ミクルちゃん、ミクルちゃんだー!」
 恐怖に振るえていたミルミだが、少年と共に白馬に乗って現れた友達の姿に、半泣き顔の笑みを浮かべた。
 駆け寄るミルミの前に、少年――変熊 仮面(へんくま・かめん)が立ちふさがり、ミルミを睨みつける。
「彼女はお前の秘宝のため命がけで地下に戻ったのだぞ! お前は親友が捕らわれている時に一度でも別荘を見に来たか? 生き埋めになってる彼女を助けようとしたか?」
「えっ、だってミルミ、そんなことできない、もん」
「俺にとって地下にいた彼女こそが『麗しき乙女』、そして私の最も大切にしている物こそ『友情』だ!」
「なっ!!」
 後方でその言葉を耳にした巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)は、激しい憤りを覚えた。
「ごめんね、ミクルちゃーん」
「ううん……悪いのは、私だから」
 ちらりと変熊を見上げた後、ミクルはミルミの元に駆け寄って、抱きしめ合った。
 そんな2人の姿を見届けて、変熊は白馬に騎乗し無言でその場から走りさろ――うとした途端。
「これが兄者が最も大切にしてる物じゃ! 全てお見せするわ!」
 どたどたと近付いたイオマンテが本を数冊ミルミの前に投げた。
『柔道部先輩喰い』
『股間の甘い相撲取り』
『褌熊の性態』
 表紙にそう書かれた数々の本に、ミルミは唖然と立ち尽くす。
 それらすべてに『怪盗舞士』とマジックで記されている。
「……目の毒です」
 ラザンが両手でミルミの目を覆った。
「ああっ、俺様のプライベートな宝物が! レア物もあるのに……」
 1人、嘆きながら去っていく変熊。
「兄者、ミクルに感化され平易な生き方に戻ってしまうんかいっ! 全裸で歩む修羅の道こそが、漢の道じゃないんか?」
 イオマンテは変熊を追い、変態魂を呼び起こすために、熱烈に語りかけるのだった。

○    ○    ○    ○


「物運ぶ時はあんまり無理しないでねー! 周りの人にぶつかっちゃったらお互い痛いし」
 は、倒壊した別荘の側で、瓦礫を片付ける人々に、指示を出しゴミ置き場の整理に努めていた。
 彼女の指揮により、あまり整理されていなかったゴミ置き場が片付いていく。
「家具類で壊れていないものがあったら、こっちにお願いね。あ、壊れていても木材として使えそうなものは、こっちにお願いね」
 彼女のお陰で、救助の他、このように瓦礫の整理も随分と進んでいた。彼女はまるで、ゴミ置き場に咲く一輪の可愛らしい花だ!
「でも、完全に片付くまであと数日かかりそうね」
 爽やかな汗をかきながら、自分自身もハウスキーパーを使い細かいゴミを袋に詰めていく。
 その近くで……。
「まあ君らにも事情があるとは思うんですけどね、誤解もあるかもしれませんしお互いいい年なんですから話し合ってみましょうよ」
 看板に危険ゴミと記されている場所にて、包帯ぐるぐるミイラ姿の刀真が、軽傷で回収待ちの人型のゴミに語りかけていた。
「うるせぇ!」
 不良が唾棄する。
「…………」
「ふごっ、ぐふっ」
 刀真は同じ危険ゴミとかかれた場所においてあるゴキブリが入った袋に、無言で不良をぶち込んだ。同じ種類のゴミのようなので無問題だ。
「っと、おお、数多の戦友達よゴメン君達と共には行けないんだ」
 不良を入れた方ではなく、満タンになっており口が結ばれている袋に刀真は目を向けた。青色のゴミ袋だが、ひしめき合っているゴキブリの存在が確認できる。
「……流石にこの数がひしめき合ってると気持ち悪いね」
 そしてそのまま戦友にとお別れをしようとした刀真だったが――振り返った途端、見えた物体になんだか怒りが込み上げてきた。ふつふつと、ふつふつふつと……。