リアクション
卍卍卍 その頃、兵糧隊の火口敦は、支倉 遥(はせくら・はるか)と対面していた。 敦は董卓を探しているところだった。ちょっと目を離した隙にいなくなったのだ。 このまま野放しにしてはみんなの兵糧が危ない。 遥に会ったのはそんな時だったのだ。 手伝ってくれると言うので、敦は喜んでお願いした。 「でも、何で急に? 関が原の時は敵対してたっスよね?」 敦は遥の後に続いている伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)をちらりと見やる。 遥は人懐こく微笑んだ。 「カタギの衆に手を出すっていうのが気に食わなかったのですよね」 「……カタギの衆?」 「同じ契約者同士の争いなら、そこのところの問題はないので、前回のお詫びも兼ねてと思いまして」 「あ、ああ、そう……」 喧嘩とは縁のない生活を送ってきた敦としては、全日本番長連合の皆さんも充分カタギからはみ出しているようにしか見えなかったのだが、確かにパートナー契約を結んでいる自分達とは、戦う力のありようが違うなと思い直した。それでもカタギに括るのには違和感を覚えていたが。 中途半端に納得したところで、遥がひっそり耳打ちする。敦にしか聞こえないくらいの囁きで。 「後ろで釘バット構えた修羅もいますからね」 ギョッとして目だけで背後を伺うと、ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)が綺麗な笑顔で凶悪なバットを抱えてついてきていた。 敦は前に向き直ると、ああこれは騒ぐなという意味なんだな、と思い至り心の中でため息をついたのだった。 卍卍卍 「必ずやあの城を陥としてみせましょうぞ」 凛々しくそう言って臣下の礼をとる夏候惇・元譲(かこうとん・げんじょう)に、 「元譲が二人とはめでたい! 存分に攻めろ」 と、膝を打った。 もう一人は火口敦のことだ。 そして自隊へ戻り武具の点検をしている夏候惇へ水橋 エリス(みずばし・えりす)がそっと声をかける。 「武功を焦りすぎてはいけませんよ」 ハッとして顔を上げた夏候惇は、ほんのりと苦笑を浮かべた。 「わかっている。大丈夫だ」 「私の兵も預けますから、よろしくお願いしますね」 エリスからの信頼に夏候惇はしっかり頷いたのだった。 突撃の合図と共に、魏軍は雪崩のように城壁に攻め込んだ。 まずは邪魔な敵兵から蹴散らしにかかろうと、オウガ・クローディス(おうが・くろーでぃす)が先頭に飛び出す。 「お前ら! しっかり主を守れ! 手抜いた奴は血肉を飛散させるからな! わかったか!」 戦場の空気に血が騒いだオウガの本性があらわれ、自隊の兵にやや過激な鼓舞をする。 オウガ率いる五千の不良達はその迫力に引きずられて、怯えるどころか気を高ぶらせてオウガについていく。 その背を見たラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が、フッと短く笑む。 「どっちがヤンチャなんだか。──うらぁ! 俺達も行くぜ! 頑張った奴には褒美をくれてやる!」 ラルクの一声に、不良達はもっとすごい不健全動画を見られると思い込んだ。 ラルクのように純粋に強い奴と戦ってみたいという思いではなく、どこまでも不純な動機で燃え上がる彼らだが、今はこれしかない。実際ラルクは不健全動画のコピーに興味はなかった。 「ふふふ。全てはあの先生のためか?」 「黙れよアイン。てめえも行くぞ」 茶化すアイン・ディスガイス(あいん・でぃすがいす)を一睨みし、ラルクは前線のオウガのもとへバイクを走らせた。 「やれやれ。オレに指揮ができるかどうかわからんが……頑張るとするか!」 アインの隊はラルクのサポートだ。前に進むことしか知らないパートナーの死角を埋めることである。 城壁を越えるのは魏軍が最初だ、とアインも兵を率いてラルクを追った。 魏軍には城壁を越えるための作戦が二つあった。 一つはラルクと国頭武尊で直接攻撃による城壁の破壊。 もう一つはガートルード達による人力による城壁越え。 ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)のパワーブレスにより、身体能力の上がったシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)は、先頭に立って地上に展開する敵兵達をライトブレードで叩き伏せていった。 「もっと根性入れんかーい!」 手応えのなさに思わず敵に活を入れるような言葉が出てしまうが、迎え撃つ方は完全にシルヴェスターの勢いに飲まれていた。 まれに気合の入った一団が向かってくるが、五合と切り結ぶこともなく打ちのめされていく。 ガートルードの傍にはパトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)がぴったり寄り添っている。敵の攻撃からガートルードを守るためだ。そのため、ネヴィルにもシルヴェスターにも、敵を減らすのも大切だが陣形も守ってくれるよう言っておいた。隊を組んで戦う場合、個々がどんなに強くても隙を見せれば負けるのだ。 「私も加勢しよう、越えるなら早くに」 ガートルードの人間梯子による城壁越えを手伝うために夏候惇とエリスが協力を申し出てきた。 ガートルードはありがたく受け入れる。 「早いとこ上がって、あの魔法部隊を殲滅してくれよ」 「すぐに片付けてみせましょう」 夏候惇とガートルードは目を見交わすと、夏候惇がガートルードの位置に、ガートルードはさらに先へと進んだ。 そんな彼女達の動きを見た猫井 又吉(ねこい・またきち)が、 「少し助けてやるか」 と、城壁の上の兵を狙い撃つ。 あまり戦い慣れていないシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)の隊は、又吉が指した敵一団の相手をしていた。 シーリルは又吉のアドバイスを忠実に守っていた。 『逃げるモヒカンや他校生は敵なので殴れ。逃げないモヒカンや他校生は訓練された敵なので数で囲んで袋叩きにしろ』 今は後者にあたる状況だ。 シーリルの振り回すウォーハンマーで、また一人昏倒した。 だいぶ敵もばらけてきたなと思った時、武尊から合図が来た。 城壁への破壊工作だ。 これはラルクと共同で行う。 「シーリル! 任せたぜ!」 又吉が声を張り上げれば、 「はーい!」 と、不良のかたまりの中からシーリルの声が届く。 ここからが本番だ、と気持ちを集中させ又吉は武尊のもとへ急いだ。 もうじき味方の誰かが城壁を越え、内側から牙攻裏塞島を破壊していくだろう。 ここで無傷の曹操と一万が加われば敵の戦意もそうとう落ちるに違いない。 「よし──」 曹操が指揮鞭を上げようとした時、 「曹操様ぁ〜!」 ハートを散らしながら、どこからともなく邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)が現れた。後ろには清良川 エリス(きよらかわ・えりす)が息切れしながら壹與比売を追いかけてきている。 自転車と徒歩では大変だろう、と曹操は苦笑する。 曹操の前で自転車を止めた壹與比売は、スタンドを立てるのももどかく降りると、ぱんぱんにふくらんだトートバッグを持ち上げ、真剣な眼差しで訴えてきた。 「大変でございます。我らの時代より千余年。皇氣など比べ物にならない氣質が今の世には存在しているらしいのです!」 息を整える暇もなく、アフタヌーンティの用意を整えていく清良川エリス。メイドとは過酷なものである。 壹與比売と曹操は当然のように席に着き、壹與比売は集めてきた漫画を積み上げていく。 壹與比売は一冊の漫画を開き、興奮気味に言った。 「この金色に輝く氣を持つ者は、ただの一撃でこの大地すら全て塵にしてしまうそうです。魔術ではないのです。皇氣よりも凄い力を見つけないと、さらなる脅威に打ち勝つことは不可能ではないでしょうか」 「ふぅむ……」 すっかり二人の世界に入ってしまったことを、ちょっぴり寂しく思ったエリスは、『臨時漫画喫茶そーそー』と立て札を作ってテーブルの傍に突き立ててやった。 「それにしても、何で私達はまた、パラ実はんの騒動に巻き込まれ……」 ぼやきかけたエリスの口は何かに気づいたように止まる。 巻き込まれているのではない、巻き込まれに行っているのではないか、と。 例えば、壹與比売とか。 重大なことに気づきかけた時、ふと周囲が薄暗くなった。 いつの間にか、曹操の一万の不良達に囲まれている。 「大将〜、自分だけ女の子と漫画なんてズルイっスよ」 そうだそうだと上がる声。 その声に、ハッとして曹操は立ち上がった。 「そうであった、朕は行かねば」 「曹操様、もう行ってしまうのでございますか?」 「すまないな。だがその多くの絵巻の氣というもの、また貴公の言った皇氣よりもさらなる力のこと、ミツエ殿にも話しておこう」 新たな知識をくれた壹與比売とおいしいお茶をくれたエリスに礼を言うと、曹操は漫画を読みたそうな不良達を叱咤して戦場へ向かっていってしまった。 |
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