リアクション
卍卍卍 ミツエ軍。 城壁を攻めていた魏、呉、蜀の三軍は城壁上からの攻撃が届かない距離まで下がり、休息をとっていた。 曹操、孫権、劉備は隊の被害状況を調べたが思ったよりも少ないことがわかった。 皆の奮戦もあるだろうが、戦闘中にも地道に防護柵を作り続けた宇都宮祥子の功績も大きいことに気づく。感謝しなければならないと彼らは思った。 すると、そこに次々とミツエ本軍からバイク便がやって来た。 「毎度ー、弁天屋デース。弁当の配達に来やしたー」 かったるそうに言ってバイクを止めたのは弁天屋 菊(べんてんや・きく)の隊員だ。彼女の隊はその一割が調理技術を持っている。休憩になったため食事を運ばせたのだろう。 できたての弁当に兵達から歓声が上がる。 また、魏軍ではシーリル・ハーマンが傷ついた者達の治療も行っていた。途中からはネヴィル・ブレイロックも加わり、シーリルの要望で敵兵の手当ても始めたため投降兵が増えた。 「少し休もうぜ。弁当屋ができたてを持ってきてくれた」 武尊に言われてようやくシーリルは手を休ませた。 この一言がきっかけだったかは謎だが、弁天屋はいつの間にか弁当屋に変化し、彼女の名前も弁当屋 菊と覚えられてしまったとか。 そんなことなど露とも知らない菊は、ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)にテキパキと指示を出して作っても作っても足りない弁当の調理をさせていた。 食堂のような調理設備はないので、野外で作れる程度の内容だが用意された兵糧の中身が良かったことにより、菊は工夫を凝らしてできるだけ多くのメニューを作っていった。 ガガは「ガガにさせるのは、やめたほうがいいと思う」と渋ったが、ハンバーグの下ごしらえや火術による火力調節ならできるだろう、と押し切られてしまった。 「大雑把な連中だ。多少いびつでも許してくれるさ」 菊の笑顔に負けたとも言う。 そして出来上がった料理を支倉遥が弁当箱につめていく。器用なのかなかなか見栄え良く詰められている。蓋を開けた時にきっと喜ばれるだろう。 そろそろ、最初に配達に行った者達が帰ってくると思われた頃、それは起こった。 「おう、姐さん。もうできてるのはねぇのかい?」 配達係の一言に菊、ガガ、遥がハッとして盛り付け済みの弁当の置いてある筈の台を見ると。 「董卓!!」 数十人分の弁当はすべて食い荒らされていた。 「うまいなぁ〜、もうないのかぁ?」 三人の殺意のこもったような視線も何のその、追加を要求してくる図々しさだった。 血の雨が降る、と危機を感じた親魏倭王 卑弥呼(しんぎわおう・ひみこ)は、董卓をここから引き離さねばととある人物の降霊を試みる。 ふわりと何かが卑弥呼を包み込んだ。 「董卓様、お久しゅうございます」 鈴を転がしたような声で綺麗な微笑みを見せたのは、貂蝉だった。 董卓は初めて箸を止めた。 「相変わらずご健康そうでございますね。もしよかったら現世でのお話など、お聞かせ願えませんでしょうか?」 「いいぞぉ、いろいろある。ここは騒がしいから、向こうで話そう〜」 騒がしくしたのはお前だ、と菊達は思ったが、ややこしくしたくないので黙っておいた。 厄介者が消えたところで菊達はスピードを上げて調理に取り掛かったのだった。 董卓隔離に成功した卑弥呼は、クルト・ルーナ・リュング(くると・るーなりゅんぐ)やシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)も交えて歓談していた。 まさか董卓から兵糧を守ることになろうとは、と内心苦笑を禁じえないクルト。同時に自分をここに配置したパートナーの白菊 珂慧(しらぎく・かけい)の勘の良さに関心する。 「そういえば、俺まだ飯食ってないんだよな。どんな弁当だった?」 シルバの問いに董卓はうっとりして答えた。 「鶏の唐揚げだろぉ〜、卯の花だろぉ〜、シュウマイに、煮物に〜ザーサイもあったなぁ〜」 「ザ……!」 何でそんなものが! と、顔色を悪くしていくシルバ。彼は辛いものが苦手だった。 「どうしたのですか?」 と、尋ねるクルトにシルバは小さく「何でもない」と返事をした。 そうこうしているうちに、卑弥呼が降ろしていた貂蝉の霊がかえっていった。 見えるわけではないけれど、董卓は天を見上げていた。何を思っているのか、その表情からは伺えない。 我に返った卑弥呼は、日本の戦国武将山内一豊の妻の例を持ち出し、パートナーの火口敦に赤兎馬の代わりに真っ赤なハーレーを贈ったらどうかと勧めた。 「真っ赤なハーレー……赤兎馬……」 懐かしい名前だったのか、空を見上げたままぼんやりする董卓。 そこに、雨宮 夏希(あまみや・なつき)がデザートを運んできた。 「芋羊羹はいかがですか?」 思い出に浸っている様子だった董卓は、あっという間にもとの食欲魔人に戻った。 菊達の頑張りにより、兵達の腹は無事に満たされた。これで、今後の戦いにも力を出せるだろう。 ところが。 「食中りですって!?」 真っ青になって報告に駆けつけた菊に、ミツエが目を見開く。 弁当を食べた兵の一部がひどい腹痛に襲われているというのだ。 口には出せない大惨事の模様がそれぞれの脳裏に浮かぶ。 ミツエは慌ててそのイメージを頭から追い出す。 「これからとどめを刺しに行くっていうのに……」 兵力が落ちてしまった。 「工作員が紛れ込んでましたか……」 悔しそうに顔を歪める風祭優斗。 と、そこに辺りに放っていた見張りから報告が入った。 「敵兵が攻めてきます! およそ五千!」 |
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