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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

リアクション



元波羅蜜多タイタンズOB


 正面突破をはかるミツエ本軍に混じって一万人を従えていた切縞 怜史(きりしま・れいし)は、周囲で囁かれる不健全動画コピーだのおっぱい揉ませるだのという声に辟易していた。
「ミツエって女、馬鹿じゃねぇの? ただ一言、ぶっ潰してこいって言えばいいんだよ。そうすりゃ、この馬鹿騒ぎにももう少し……」

「おっぱいを揉みたいかーっ!」
「不健全動画を見たいかーっ!」

 ミユ・シュネルフォイヤー(みゆ・しゅねるふぉいやー)が後ろの兵達に叫ぶたびに、怒号のような応の返事が返ってくる。
 おい、という怜史の感情を押し殺したような呼びかけも掻き消える。

「そんなけしからん動画を配るくらいなら、ワタシのサクラを配るべきであろう!

 何かに火がついたのかディック・エイジス(でぃっく・えいじす)も自分の自転車サクラを叩きながら声を大にしている。
 ミユがディックをせせら笑って言った。
「自転車に興奮して士気が上がる人なんていませんよ」
「おっぱいだの不健全動画だのでは、世界に貢献はできないのだよ、ミユ・シュネルフォイヤー」
「オレを挟んで喧嘩するな! だいたい、人がイイコト言ってた時に脇でおっぱいだの自転車だの、頭がおかしくなりそうだ」
 とうとう声を荒げた怜史にミユとディックはきょとんとしたが、ラヴィン・エイジス(らうぃん・えいじす)が代わりにクスクスと笑った。
「楽しくお祭り、いいじゃねぇか。昔、ある客が言っていた。戦う者には二種類ある。戦って斬り殺される者と、戦って撃たれて死ぬ者と……」
「死ぬ結末だけか、コラ」
 やる前から不吉極まりない、と怜史はチョップでラヴィンを黙らせた。
「とにかく、ティターン一族をぶっ倒す! 以上!」
 無理矢理話をまとめた時、ティターン一族へ突撃の合図があがった。

 銀色の仮面に赤いマフラーを付け、仮面ツァンダーソーク1に変身した風森 巽(かぜもり・たつみ)は、背後の一万人の仮面ツァンダーに叫んだ。
「子供の頃を思い出せ! 憧れたヒーローの一人や二人いるだろう! 貴公らは不良だ、ヒーローとは縁遠い者だ! だが、それでも! それでも、胸の奥に燻るヒーローに憧れた想いがあるのなら、この一時なれども、我が叶えてやる! 導いてやる! 悪の巨人を打ち倒すヒーローに!」
 悪い奴をやっつけるために戦う。本来ならそれが世間で通用する戦う理由の一つだろうが、パラ実生に囲まれたここでは異次元のように浮いていた。
 しかし、巽の空気に呑まれたのか一万人の不良達は目をキラキラさせて彼についていった。もっとも輝く瞳は巽が夜なべして作った仮面によって隠されていたが。
 そして、そのヒーロー軍団は一直線にティターン一族を目指す。
 用意しておいた太い荒縄で巨体の足を掬ってやるぜ、と思った時、不良の一人が驚愕の声を発した。
「あっ、あれは、あのユニフォームは! 波羅蜜多タイタンズ!?」
「そうだ。俺達は波羅蜜多タイタンズOB、ティターン一族よ!」
 恐ろしさに足が止まる者が現れる。
 十メートルを超える巨体の彼らは、パラ実改造科で強化された者達だ。
「ここから先、一歩でも進めると思うなよ? 食らえ! 人間千本ノック!」
 丸太のようなバットが一振りされただけで、数百人の不良がなぎ倒された。
 その破壊力に一万もいるというのに敗北の雰囲気が漂いかけた時、
「尻尾まくってんじゃねぇぞ!」
「お先に失礼しますね」
 後続の羽高魅世瑠とレロシャン・カプティアティが仮面ツァンダー軍団を追い抜いていった。
 おっぱいだ! 聖水だ! と叫びながら突進していく彼女達──正確には彼女達の兵──の姿に、仮面ツァンダー軍団に再び火がついた。
「女の子に負けてられるか! 風聞、行けるか!」
「行けます!」
 巽は隊を千人ごとに分けて部隊長を選び、より緊密な作戦をとれるようにしていたのだ。
 立ち直った仮面ツァンダー軍団は魅世瑠達の相手で集中力が散漫になっているタイタンズOBを見抜き、数人がかりで荒縄を引っ張って足を絡めとり、見事に転ばせた。
 そして、ガリバーのように縄を地面に打ち込んで巨体を雁字搦めにしていく。
 何回かそれを繰り返したが、さすがにそろそろきつくなってきていた。
 ピッチャーの強烈な牽制球、強肩外野手のバックホーム、俊足OBによるスライディング、ダブルプレー、ホームラン……。
 呉軍からカリン・シェフィールドも応援に来ていたが、それでも勝てるか勝てないかといった状況に思われた。
「呆れた奴らだ」
 いったん距離をとった怜史がぼやく。彼の隊もだいぶやられてしまったし、怜史自身も軽い怪我を負った。
 怜史が見ているのはOB達の後ろの正門なのだが。
 ふと、風を感じた時。
 その正門が揺れた。
 計ったように風祭優斗の伝令兵が駆けつけてくる。
「秋月葵、八月十五日ななこ、ラルク・クローディス、国頭武尊、ガートルード・ハーレック、城内侵入に成功!」
 聞き終わる頃には、怜史はスパイクバイクを発進させていた。
 ラヴィン、ミユ、ディックもすぐに追いかける。
「正門をぶっ壊す!」
 怜史の宣言に、ラヴィン達はいっせいに門の向こうの味方達に退避を叫んだ。
 戦場の声に紛れて聞こえたかどうかわからないが、怜史は躊躇わず爆弾を投げた。


 詳細はミツエのもとにも届けられていた。
 巨人の脛を集中的に狙って攻撃するレロシャンとカリンに、魅世瑠、フローレンス、ラズが加わり、彼女達に気をとられている間に巽の隊にロープで転ばされた。
 一方、城壁を攻めていた葵とエレンディラとななこは不良達の組み体操で、ラルクと武尊、又吉は城壁に対する破壊工作がうまくいき、ガートルードは不良達の人間梯子により、
それぞれ城壁内へ入り込んだのだ。
 そして、内側から正門を開けようとしていたところへ怜史が残った兵を率いて正門破壊を試みた。
 正門が開いたとたん、OB達は戦闘意欲を失った。観念したといってもいい。
 うつむき、膝をつく彼らは悔し涙をこぼすこともなく、ただ過去への無念を吐いた。
「……野球が、やりたかった」
 だから彼らの攻撃は野球関係ばかりだったのか、とその場にいた者達は納得した。
「とにかく、正門は開いたわ。みんなをいったん集めて休ませるわよ。それから、権造に降伏勧告を出すわ」
 ミツエが優斗を見れば、彼は「任せてください」と頷いた。