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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

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横山ミツエの演義(第2回/全4回)

リアクション




相手はどちらさま?


 兵糧隊周辺も落ち着き、いよいよ突入である。
 予想通り権造は投降はしなかった。
 決戦を前に、ミツエは誰かとメール交換をしていた。
 その表情は真剣そのもので、かといって殺気立っているわけではなく。瞳には憧憬の色が浮かんでいる。
「相手は誰だろうね?」
「んん〜? 伊達恭之郎、やきもち焼きたいお年頃?」
 恭之郎のごく普通の疑問はナガン ウェルロッドに拾われて茶化された。
 直後、パタンと携帯が閉じられる音がする。
「行くわよ。雲が濃くなってきたから、落ちるような間抜けはしないでちょうだいね」
 宇都宮祥子の作った防護柵があるから、そう落ちはしないだろうが注意しておくに越したことはない。
 ミツエ本軍はゆっくりと進み始めた。


 それが起こるわずか前にフェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)が警告の声を発した。
「敵が来たよぉ!」
 すぐに、本軍後方で再び騒ぎが起こった。その影響でいったん進軍が止まる。
 フェリックスの禁猟区にひっかかったのは。
「横山ミツエーッ!」
 誰よりも大きな声でミツエ目掛けて突っ込んでくる駿河 北斗(するが・ほくと)。孫権について行きたそうにしながらも、別の方法で彼を助けると言ってミツエ本軍にいた。
 呼ばれたミツエはハッと振り返り、護衛についていたイリーナ・セルベリアがミツエを隠すように位置を変え、トゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)がアサルトカービンを構える。
 勢いのまま突進してくるかと思えたが、北斗はバイクを止めてイリーナの向こうのミツエに呼びかけた。他の者は目に入っていない。
「横山ミツエ。俺は駿河、駿河北斗! あんたに言ってやりたいことがある!」
 エロ動画なんかにつられて本当にそれでいいのか、という北斗の訴えに応じた不良は約半数。彼らが北斗の後方で大暴れしている。
「人を駒にしか見れねぇ人間に未来なんざねぇ! てめぇの覇道はどんな未来を築く。皆のために何がやれる。てめぇはわがまま吼えるだけの小娘じゃねぇか!」
 同時に破裂した火術で十数人がふっ飛んだ。
 高笑いしているのはちょっと暴走気味のクリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)だが、北斗はかまわず続けた。
「覇道は他人の為に非ず、されど万衆の平穏のため。乱世なんだ、騙すくらいはいいさ。でもな、てめぇのやり方は小せぇ! 物でつる、都合が悪けりゃ一喝する。それが王器ってか、ふざけんな!」
「ふざけてんのは君のほうじゃん。私のこと無視しちゃってさぁ。パラ実のキャバクラ科、なめてもらっちゃ困るよ」
 川村 まりあ(かわむら・ )が北斗の後ろで混戦中の兵達の間から現れる。その横にはパートナーのアリスがいた。
 一時は騒然としていた背後がだいぶ静かになっている。
 本当はまりあは後ろからの奇襲に備えていたのだが、意外な形で出番が来てしまったのだった。
 不意にアリスが口を開く。
「あたしはふざけてなんかいないわよ」
 顔を上げたのは、北斗が対峙したかったミツエ本人だった。
 北斗は舌打ちした。
「変装かよ」
「そうよ。この戦いに勝つために、みんなが考えてくれた作戦よ」
 ふんぞり返って言うミツエに、イリーナと恭之郎は頭を抱え、ナガンは笑っていた。やっぱり黙っていられなかったか、と。
「あたしはたくさんの味方がほしいわ。その味方を得るには褒美が必要よ。見返りなしに動く人間なんてほんの一部よ。言っておくけど、あたしはお友達と仲良く天下とご相談したいわけじゃないの。中原を支配するのよ。邪魔する者は怒鳴って引くなら良し、刃向かうなら踏み潰すまでよ!」
「てめぇはいったい何を守りてぇんだよ、部下が不安になってんのに気づかねぇのかよ」
「あんたも不安ならついて来ればいいのよ。”あの男”より優れた国をつくるあたしに!」
 孫権を思うが故に北斗がきつく拳を握り締めた時、クリムリッテの悲鳴が聞こえた。
 振り返った北斗の目に、まりあの兵に捕まえられたクリムリッテとベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)の姿が目に映る。
「ごめん馬鹿北斗。撤退する暇も道も開けなかったわ。がっちり囲まれちゃって」
 ベルフェンティータの態度はしおらしいが、口はそれほどでもなかった。
 クリムリッテは不貞腐れた顔でそっぽを向いている。
 へこんでいないことと、特に怪我もしていない二人の様子に北斗は安堵する。
 まりあは北斗に向かって得意気に微笑んでみせた。
「まりあ、ご苦労様。この三人に縄をかけて敦に預けておいてちょうだい」
 捕らえた敵将はすべて火口敦に預けられていた。
 まりあは頷いた後、ふとむくれたように頬をふくらませてミツエに言い聞かせた。
「突出しちゃダメって言ったのに。そんなにほいほい挑発に乗ってると、メールの彼氏に軽い女の子だと思われちゃうよ」
「かっ、彼氏じゃないわよっ」
 とたんに顔を真っ赤にしたミツエは、それをごまかすように前のほうへ行ってしまった。