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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』
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第11章 影祓われし時
「みんな、信じてたぜ!」
 にゃん丸は仲間達を信じ、この時を待っていた。
 夜魅の後ろ、ぐわりと浮かび上がった、巨大な禍々しい影。
 見据え、口元に浮かべた苦笑。
 不思議と、封印の書に挑んだ時より気負いはなかった。
 ただ、結果が読めない行動をとっている自分自身には苦笑するしかない。
「リリィの石化も治ったし、自分の命は、まぁ……いいか」
 そんな呟きを聞かれたら、リリィにはどんな目に遭わされるか分からないが。
「白花と夜魅のお母さんに頼まれちまったからねぇ。これも運命かな」
 トン、軽く地を蹴る。
 何も考えない、何も考えられない。
 今はただ、斬るべきモノを見据え。
 そして、にゃん丸は光条忍刀を手に、影龍へと斬りかかった。
「皆、再びまた同じような事が起きかねない方法よりも、完全に決着をつけられる方法を選んだ……その思いをムダにはしない」
 これが最後の機会、もう後がない……その決意を持って蒼人は挑む。
「この世界に、てめぇの居場所はねぇ!」
 普段の丁寧さをかなぐり捨てて、蒼人が吠えた。
「お願い、蒼人、にゃん丸くん……夜魅を解放して上げて!」
 その身体に力が満ちる……冬桜のパワーブレスだ。
「君がいるから、ライはあんなに苦しんだんだ」
 ヨツハはずっと見てきた。災厄を防ごうと夜魅を殺す決意をしたライを。
 その苦悩と苦しみ、痛み。
 元々の、諸悪の根源への怒りは、恐怖を上回った。
 故に。
「ライの決心を無駄にはさせないんだからぁぁぁ!!!」
 怒りの雄たけびと共に、爆炎波と出力最大にした光精の指輪での攻撃が、炸裂した。
「授受、ルオシン!」
 コトノハもまた、エターナルディバイダーを掲げた。
 ルオシンの力と自分の想いの力、そして神楽授受の想いの力を同調させる。
 ヒールを纏わせたそれは言わば、『活人剣』。
「夜魅と影龍……その絆を今、ぶった斬ります!」
 振るわれる剣と思いと。

 ギャア■ァァ§★‰¶ァァァ

 影龍の絶叫が、空間を震わしヒビを入れた。


「あのバカ、何をトロトロしてるのよ」
「リリィ、のるか?」
 変熊仮面はイオマンテの手にリリィを乗せた。
「あぁ……やっぱそうだよなぁ」
 夜魅を託したにゃん丸は、咆哮を上げる影龍をぼんやりと見あげた。
 何も考えず飛び込んだ、片道切符の道行き。
 このまま喰われるか、この空間と共に消滅するか。
 けれどその手を誰かが掴んだ。
「まったく! あんた後のこと何も考えてないでしょ?」
 誰か……いや、リリィ以外に誰がいるだろう。
「重いんだから、早く帰ってこぉぉぉぉい!」
 そして翔子が変態仮面が真人が綺人が……共に戦った仲間が、しっかりとリリィの体を支えてくれている。
「あたしは、あんたなんかを待ってる気はないからね!……だからさっさと帰ってきなさいよね!」
 憎まれ口とは対象に笑顔が見える。
「……ああ」
 やはり敵わないな、影龍なんかよりずっと強いんじゃない?、思いつつにゃん丸は口元に笑みを形作った。

「今が、扉を封印する時だね!」
 にゃん丸達の帰還。
 確認した神和綺人は扉を見据え、手の中の雅刀に意識を集中する。
 途端ズン、と肩に圧し掛かる重圧。
 それはそのまま、扉の向こう……切り離された影龍の狂乱のようで。
「戦場では諦めた者から命を失い、最後まで立っている者が勝者」
 ふと思い出す、兄の言葉。
 平和な日本の実家にいるときは正直、実感がなかった。
 だが今、綺人には兄のこの言葉の意味がわかった。
「だから僕は諦めない……最後まで膝は、心は、折らないんだ!」
 ぽうっ、その手に宿る温かな光。
 それは受け継いだ、封印の力。
「皆、扉開放を阻止してくれた……後は僕達の役目だよね」
 それは清泉北都も同じ。
「最後の仕上げは私達に任せて、なのじゃ!」
 そして、駆けつけたセシリアが。
 いや、それだけではない。
「ほら、二人とも手を繋いで」
 詩穂は嬉しそうに、半ば無理やり夜魅と白花の手を繋がせた。
 そんな詩穂を見つめ、セルフィーナは思いだしていた。
 以前……契約の時、自分と詩穂のお姉さんが少し似ている、と聞いた事を。
 だから、なのかもしれない。
「夜魅様と白花様を一緒に手を繋いで暮らせるようにしたいと、詩穂様が拘っているのも……何となくわかるような気がしますわ」
「光の中心には、影はできないわ。今の光は、二人よ。あたしも手伝うわ」
 ちょっとだけ緊張したような困ったような2人の手に、自らの手を重ね、ジュジュは言い聞かせた。
 共に、光の力を注ぐ。
「詩穂も手伝うわ。壮太くんも政敏くんも、ぼ〜っとしてちゃダメよ」
 詩穂が壮太や政敏の手を引っ張り、
「皆で挑んだ方が、個々の負担は減るかもしれませんしね」
「疲れたりケガした人は無理しちゃダメよ。ちなみにルカルカはまだまだ元気だよ」
「騎士として、手を貸すのは当然だ」
 真やルカルカやヴェロニカや。
「ボクはまだ弱いけど、それでもまだ頑張れるよ」
「まぁここまできたら、手伝うわよ、手伝えばいいんでしょ」
「それでこそ理沙さんです」
 レキが理沙がチェルシーが。
「正義の味方としては協力しないわけにはいくまい!」
「これで影使いの野望もおしまいね」
「最後の仕事ね」
 巽がアリシアが沙幸が。
 いつしか皆が手と手を繋ぎ合っていく。
「これは……いける」
 北都が確信した通り。
 人の輪が大きくなるのに伴い、高まる封印の力が、急速に扉を覆い尽くす。
 そして。
 そうして。
 現れた時と同じように唐突に、空間に溶け込むように、消えた。

「後は、空間を、元の状態に、戻す、だけ、だな」
「そうね。リカバーしておかないと危ないわね」
 へろっへろな陸斗に、何故か元気なキアは呑気に……容赦なく言い。
「……そろそろ逝けそうだが」
「りくとにーちゃん、頑張れ……ちゅっ♪」
「ちょっ、エディラ、ボクも……陸斗はんより先に倒れられんからな」
「陸斗殿、我が支える……これが最後の頑張りだ」
 黎達に視線だけで応え、陸斗は剣を構えた。
 そこに重ねられる手。
「陸斗くん、私も手伝います……手伝わせて下さい」
「おっ……おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 剣から伸びた光は空間をキレイに、元通りに修復した。
 そう、あるがままに。


「何で……何でなんだよ!」
 透き通っていく夜魅を、壮太は茫然と見つめた。
 実体があっても、実体がなくても構わないと、ちゃんと迎えて受け止めてやると、決めていた。
 けれど、これは。
 このままでは夜魅が消える……消滅してしまう。
 陸斗の剣は、あるべきものをあるべき姿に戻す。
 だが、夜魅はここでは異物……存在しないモノ、だから。
「悪い、俺が調子に乗り過ぎた、かも」
「いや、誰も陸斗殿を責めたりしてはいない」
「てえぃっ、パニくっとる場合やないやろ」
「……いいの。あたしもう、十分幸せだから」
 諦め、というには穏やかに、夜魅が笑った。
 だが、そんなのここにいる誰もが、到底認められる事ではなかった。
「大丈夫、です」
 そんな中、コトノハは静かに言った。
「ほら、感じるでしょう? 夜魅と私の心、繋がっている事。だから、大丈夫です」
 伸ばした指が、絡み合う。
 消えさせない、と強い意志を込めて。
 繋ぎ止め結びあう、確かな絆。
「それにもし、夜魅が本当に魂だけの存在になってしまったら、私とルオシンの子として転生させます……私たちはもう二度と、夜魅を独りにはさせませんから」
 両手を広げ、身体全部で、魂全部で、夜魅を受け止める。
 それはまるで、我が子に無償の愛を注ぐ母親のように。
「……うん」
 信じられる、心から。
 魂と魂が響き合い、結びつく。
 夜魅という存在が、コトノハを通してこの世界に迎え入れられる。
 やがて。
「わわっ、可愛い!」
 ジュジュは思わずぎゅぅっと抱きしめた。
 白花をコンパクトにした感じの、黒髪の10歳くらいの女の子。
 背中の黒い羽は、守護天使にしては珍しいかもしれない。
「夜魅!」
 壮太はそして、その身体をそっと抱きしめた。