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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』
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第4章 枯れない花、折れない心
「学園を守るため、みんなの笑顔を守るため、夜魅さんと白花さんを救うため、そして、物語をハッピーエンドで終わらせるため……己の全力を尽くす!」
 開かれた道、神和綺人は花壇へと駆けた。
「アヤ、一人で突っ走らないで下さい!」
 慌てて後を追いながら、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)は剣を構えた。
 道が開けたとはいえ、未だ障害たる生徒達は居る。
 けれど、今の綺人の目にはただ、花壇が……守るべきものだけが映っているのだろう。
「まったく、アヤらしいです」
 それはいつもクリスをハラハラさせたりやきもきさせたり……それ以上に、誇らしく愛しい気持ちにさせる。
「だから、私は……アヤを守るため、剣となり、盾となります」
 クリスにとっての世界とは、綺人が幸せな世界だから。
 綺人のしようとしていることがどのような結果になろうとも、信じてついてゆく。
「なので……アヤを阻むものは、全力で打ち砕かしていただきます」
 綺人に襲いかかろうとした生徒を、クリスは強かに打ちつけた。
「ありがと、クリス」
 横合いにぶっ飛んだ男子生徒を「うわっ痛そう」と目で追いつつ、綺人は歯噛みしていた。
「……綺人」
 そこに飛来する、モノ。
「これ……!」
 もう一人のパートナー、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が投げたそれを反射的に受け取り、言葉を失う綺人。
 手になじむ感触……それは本来の獲物である刀、雅刀だった。
 驚きと共に見ると、ユーリはただ一つ、静かに頷いた。
「……うん!」
 受け止め、受け取り、そうして、綺人は雅刀を抜いた。
 今はもう迷いはなく、ただ守る為に。
「……やはり、一番困難な道を選ぶか」
 見届け、ユーリはポツリともらした。
 戦う術のないユーリには見守ることしかできない。
 だが、信じている。綺人を、彼と共に戦う者たちを。
 だから、刀を託したのだ。
「……覚悟なきものは、大望を果たす資格なし……、今の綺人なら資格はあるだろう。大望……とはいささか大げさだと、彼なら言うだろうがな」
 口元にホンの少し笑みを刻み。
 ユーリもまた自分の役目を果たすべく、意識を集中した。
 彼は守護天使……綺人を皆を、護る為に。
「本の試練を乗り越えて、封印の光を受け取った。でも、僕の心には闇がある。それは自覚している」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はそっと、胸を押さえた。
 だから、夜魅の心を光で満たして切り離すのは他の人に任せよう、と。
「僕は花を守る。皆が扉開放を阻止してくれると信じて」
 パートナーであるクナイ・アヤシ(くない・あやし)と共に、花壇防衛につきながら、北都の目に映るのは、夜魅の姿だった。
「『独りは寂しい』と皆は言うけれど、夜魅は独り以外を知らないのなら、それを寂しいとは感じないんじゃないかな」
 おそらく、夜魅が独り以外を知って誰かと共に居ることを楽しいと感じ、それを求め欲する気持ちを抱いた事が、逆に負の気持ちを強くさせたのだ。
 鏖殺寺院の影使いは、それを見越して正にあの時に、出てきたのだろう。
「それでも、これだけ沢山の人に見てもらえて心配して貰える彼女は……僕は幸せだと思うよ」
「北都……」
「ううん、勘違いしないでよ。だからね、出来るならハッピーエンドにしてあげたいって思うんだ。……それを実行するのは僕の役目ではないけれどね」
 淡々と告げる北都に、クナイはどこか寂しさを感じ取ってしまう。
 けれど、言葉を発する前に、操られた生徒が襲いかかってくる。
 鉄甲で当て身をくらわせ、気絶させる北都。
 出来るだけダメージを与えないよう、威力を落として。
 それでも、当てる瞬間自分の顔に走る『痛み』に、おそらく北都は気付いていない。
「北都は優しい……他人に優しくて自分に厳しすぎるんですよ」
 クナイは小さく呟いた。
「封印したいのに花壇が壊れてしまっては元も子もないですからね、守らせてもらいます」
 雅刀を手にした志位 大地(しい・だいち)は、パートナーシーラ・カンス(しーら・かんす)出雲 阿国(いずもの・おくに)とを振り返った。
「二人とも」
「みなまで言わずとも、分かっとる」
「うんうん、自分の身は自分で守るから大丈夫だよ〜」
 言ってシーラは大地と阿国の身体能力をパワーブレスで上げた。
「では……いきます!」
 大地は操られた生徒を、みね打ちで手際良く気絶させる。
「刀の扱いには自信がある。刀レベル30は伊達じゃないっ!」
「さすがはウチがパートナーと見込んだ男じゃのぅ」
 その様子に満足げに笑みつつ、阿国もまたブロードソードを繰る。
 こちらはあくまで優雅に……舞うように。
「二人とも、気は抜いちゃダメだからねぇ」
 そして、シーラはケガや不測の事態に備えるのだった。
「他人を助けるのが騎士の役目、武勲をたててこそ騎士でございます!」
 騎士ヴェロニカ・ヴィリオーネ(べろにか・びりおーね)はディフェンスシフトで皆の防御力を上げつつ、前線に出た。
「ですから……申し訳ありません」
 これも助ける為。
 言い聞かせつつ、操られた生徒達の鳩尾を槍の石突で強打する……謝罪と共に。
 更に、盾型をしている自らの光条兵器で殴打し意識を失わせる。
 ヴェロニカは自ら仕掛ける事はなく、守る為の戦いを続けた。

「雛子さんを殺すか、夜魅さんを倒さないと扉を封印できないなんて……そんな事、認める訳にはいきません!」
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)と共に、小型飛空挺を駆っていた。
 視界をふさぐ蝶を、ハルバードで薙ぎ払いつつ、必死で夜魅に近づこうとしていた。
「上手く夜魅さんの元に行ければ良いのですが……」
「焦るな、最悪声が届けば良い」
 すぐ後ろから聞こえる声はこんな時でさえ落ち着き払っていて、優希の焦りを沈めてくれる。
「夜魅さん! 夜魅さんどうか、『幸せ』を諦めないで下さい!」
「災いに飲み込まれるな!」
 声が届いたかどうか。
「ううん、きっと声は……私達の気持ちは届くはずです」
「ああ、絶対だ」
「おやおやおや、皆さん諦めが悪いですねぇ」
 降る、嘲りの声。
 其は、空に佇む黒い影。
 蝶の群れの中、悠然と佇む、影法師。
「ムダですよ。どんな事をしてももう、止められません」
「そんな事、ないです!」
 即座に否定する優希。
「何もかも黒ずくめ野郎の思い通りというのは面白くねぇな」
 くそっ、小さく毒づいたアレクセイは、直ぐにニヤリと口の端を釣り上げ。
「せめて一撃、くらわせたいよな」
 小型飛空挺で突撃を仕掛けた。
「邪魔するなっ!」
 殺到する蝶の群れにバニッシュをくらわせた背後、同時に動いた優希が攻撃を仕掛けた。
 だがしかし!
 確かに黒マントを捉えた一撃は、何の手ごたえも感じさせなかった。
「成程……では行きましょうか蒿里。あれを蝕みなさい」
「傲濫、出番だよ〜。あれを噛み砕いちゃおう♪」
 見てとった大地とシーラがそれぞれ光条兵器で影使いを捉える。
 影使いだけを切り裂くべく。
「正直、あなたのような輩だけは許せないんですよね」
 蒿里と傲濫は果たして、黒いマントを真っ二つに引き裂いた……マントだけを。
 そう……そこに中身は無かったのだ。
「「「ノンノンノン、ざんね〜ん、外れですよ♪」」」
 と、黒いシルエットが増えた。
 黒いマントに黒いシルクハット、同じ形をした影法師達。
 同じ仕草で、からかう様に肩をすくめるポーズを取っている。
「……本体はどこだ?」
 大地は眼鏡の奥の瞳を剣呑に光らせた。