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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』

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『君を待ってる~封印の巫女~(第4回/全4回)』
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第12章 空を抱きしめて
「痺れとか……毒が残ってる人、一列に並んでね」
 後処理となれば、プリーストである遊雲達の出番である。
「大丈夫ある、気をしっかり持つある~」
 チムチムは、解放された人達をもふもふした身体でぎゅぅっと抱きしめたりしつつ、遊雲達の元に運び。
「お互い、いい様だな」
「ははっ、男前が、上がったって、言って下さいよ」
 カガチは地面に座り込みながら、真は地面に突っ伏しながら、である。
「はいはい二人とも、そんな軽口が叩けるなら大丈夫だね」
 敵味方関係なく治療しているエヴァは言って、とりあえずケガの度合いが酷そうな真を診た。
「……でもありませんね。椎名さん、かなり酷いですよ。傷は塞いでおきますが、暫く無理はしないで下さいね」
「……ハイ、ワカリマシタ」
(「って言ってもなぁ。また同じ事があったら、俺はきっと……」)
「おねえちゃんの言う事、ちゃんと聞いてま・す・かぁ~? 大体、椎名くんは……」
「あぁぁぁぁぁぁぁっ~!」
 ついに始まったお説教エンドレスがこの後、襲いかかる事になる。
 共に、内心で安堵とやり遂げた満足感を抱きながら。
「ロザ、あなた敵の生徒に助けられて、傷を治してもらって戻ってくるなんて、恥ずかしくないのかしら~?」
「ああっおねーちゃんごめんなさい、もっとぉぉぉぉぉ」
 女神様みたいなエヴァに半死半生から復活させてもらったロザリアスを待っていたのは、どさくさにまぎれて撤収した怒りのメニエス様だったのでございました。
「ああっ……がくバタンきゅ~」
「まったく、幸せそうな顔して……いい気なものだわ」
 怒りに任せ杖で頭をぶん殴ったら気絶してしまった。
 ロザリアスの頭を靴底でキュキュッと踏みつけながら、「それにしても」とメニエスは呟いた。
「鏖殺寺院も人手不足なのかしら……これはあたしが頑張らないと、かしらね……?」


「そういえば、北都」
「ん~、何?」
 封印の力、意外とキツいなぁ……何て座り込んで回復していた北都。
 顔を上げると直ぐ近くに、ビックリするほど真剣なクナイの顔があった。
「私が倒れている間に試練を受けたそうですね。聞いた話によると『パートナーの方が大事』だとか言っていたそうですが……?」
「……さあね? 記憶にないなぁ」
 咄嗟に北都は誤魔化す。
 けれど、それは本当の所をクナイに悟らせるのに十分だった。
 クナイは知っている。
 北都は嘘をつかない、という事を。
 だからそんな北都が「言ってない」とハッキリ答えないという事は……本当の事なのだ。
(「まったく……本当に世話が焼けます」)
 北都が優しい、誰よりも優しい事、クナイは知っている。
 だからこそ失敗した場合の被害を考えずにいられない。
 故に感情を消して厳しい事を口にすることもあるのだと。
 ただ問題は北都自身がその事に……自分がどんなに優しい人間なのか気付いていない事にある。
 それをクナイ自身、上手く伝えられない事は歯がゆいのだが。
 言葉の代わりに、労わりを込めて黒髪を優しく撫でる。
「……何?」
「ヒールです。随分とお疲れのようですから」
 髪を撫でる、優しい手。
 拒絶するのも億劫で、されるがままになりながら北都はふと思う。
 今まで誰にも頼らずに生きてきた。
 誰かに心を動かされたり揺らぐことはあってはならない。
 期待すれば裏切られるし、それで傷つくのも、弱くなる自分も嫌だから。
 けれど、いつの間にこんな風に他人に触れられる事が平気になったのだろう。
 そういえばあの出会い……キスもビックリしたっけ。
(「まっ、アレは契約だったし、これはヒールだしね」)
 思い、目を閉じる。
 心はいつか、とても穏やかだった。
「あいつら……やったな……」
 見届け、倒れこむクルードにユニは慌てて駆け寄った。
「クルードさん!? あの力……体に負担を掛けるんですか!? どうして教えてくれなかったんですか!?」
 抱き寄せた身体は妙に冷たく、ユニはゾッとする。
「……すまない」
 詫びつつも、クルードは「……それでも」と言葉を続けた。
「……もしまた同じような事があったら……俺はまた同じ選択をするだろう……」
 大切な者を護る為なら、自分の手を汚す事も厭わない。
 それはとても切なくて、同時に少しだけ甘く。
 ユニは不器用で強い強い大切なパートナーを、抱きしめる事しか出来なかった。
「……ごめんなさい」
 治療を受けていたライは、頭上から降ってきた声に咄嗟に反応する事が出来なかった。
 随分と縮んだ背と高くなった声と。
 それでも、その少女は間違いなく夜魅だった。
 学園に災厄をもたらした少女……自分が殺そうとした。
 どんな顔をしたらいいのか迷い。
「約束して下さい」
 ポツリと、ライは呟いた。
「もう二度と、心を闇に染めたりしないと」
 顔は上げなかったけれど。
 夜魅が大きく頷く気配だけは、感じられた。
「本当に、ちゃんと反省してるわけ?」
 そんな夜魅に、両手を腰に当てた美羽が険しい顔を作って、念を押した。
 一連の事件を起こした理由が、影使いに唆されたからというのはわかっているが……それでも夜魅がたくさんの人を傷つけたことは事実だから。
「……うん」
「本当に本当にほんと縲怩ノ、心の底から反省してる?」
「たくさんの人に色々と迷惑をかけちゃって、ごめんなさい」
「……うん、じゃあ許して上げる」
 美羽はパッと顔を輝かせると、手を差し出した。
 謝罪はこれまでのケジメの為、そしてこれは、これからの始まりの為に。
「友達になろ?」
「……うん!」
 握られた手と手と。
 それは新しい絆が紡がれた証だった。
「美羽ちゃん、私も! 夜魅ちゃん、私とも友達になってくれる?」
「……いいの?」
「私が夜魅ちゃんと友達になりたいんだよ」
 にっこりする朱里に、恥ずかしそうに頷く夜魅。
 そこがもう、限界だった。
「夜魅ちゃん、良かったよぉ~」
「本当に……本当に、良かったです」
 二人のアリア……アリア・セレスティは夜魅に抱きつきわんわんと泣き、アリア・ブランシュは感極まったようにやはり涙をこぼした。
 勿論、二人とも嬉し涙というヤツである。
「うん、うん……あのね、アリア達の声、聞こえてたよ。どんどん真っ黒になっていく心に、確かに響いてたよ」
 つられて泣き笑いな顔になりながら、夜魅。
「夜魅殿、お帰りなさいであります!」
 我慢しきれず抱きついたのはロレッカだ。
「あのですね、『あなたは化け物だ。災いだ』なんて言われて深く傷ついたり絶望したりできるのは『人』ぐらいなものなんですよ。それを自分は化け物だなんて簡単に信じ込んじゃって、まったくあなたは可愛らしい人ですよ!」
 大地に言われ、夜魅はビックリしたように目を見開き……ついで、その顔を見る見る内に赤く染めていく。
「ホント、かわいいなぁ~。今度、私といっしょに遊ぼ~? きっと楽しいよ~。あ、お茶飲もうよ! 私のとっておきを淹れちゃうからんだから~」
「ラーメンも食べに行くんだよな。オレ、美味い店知ってるし」
「私も一緒に行っても良いかな? ショッピングとかもいいなぁ。夜魅に色々な服、着せたいし……美海ねーさま喜びそう」
 シーラに誠治に沙幸に、嘘いつわりのない笑顔でお誘いを受けた夜魅は、戸惑いながらも嬉しそうで。
「ありがとうございます、刀真さん」
「礼を言うのはこっちの方、かもな」
 そんな光景を見ていた白花に、刀真は照れたように小さく微笑んだ。
「それと、こちからもよろしく」
「……はい」
 差し出された手を躊躇なく握った白花。
 その笑顔は、とても美しかったから。
「白花ちゃん、こっちこっち……ほらほら夜魅ちゃん、改めて握手握手♪」
「……あ、と……うぅ」
 詩穂はまだぎこちない姉妹の手を、再びさっさと繋いでしまった。
「で、夜魅ちゃん……白花ちゃんに言う事、ない? というか、呼んであげなくちゃ」
 にっこりと、期待に満ちた瞳で見つめられ夜魅が恐る恐る。
「おねえ、ちゃ……あぁぁぁぁ、恥ずかしいっ!」
 呟きは途中で羞恥に染まり、夜魅は目にした政敏の所に行ってしまう。
「う縲怩A先は険しいかもしれないけど、頑張って」
「いえ、十分です。私、こんなに幸せでいいのか、心配になります」
「そっか……そうだよね、姉妹だものね」
「えへへ、詩穂ちゃんにはこのアリーセちゃんがついてるのだ♪」
 嬉しそうに、ホンの少しだけ寂しそうにもらした詩穂に、アリーセがだきっ☆、と抱きついた。
「あっ……政敏、政敏はケガ、大丈夫なの?」
 疲れ切りゴロリと横になっていた政敏は、その声にゆっくりと身を起こした。
「まぁな。って、そんな顔するなって。……俺はこの傷を誇りに思う」
 夜魅の頭を撫でてやり、再び昼寝態勢に入る。
 ビバ、倦怠ライフ!
 だがその首根っこを押さえる者あり……リーンだ。
「政敏、昼寝は後ね。取り合えず、今は手伝いなさい」
 ズルズルズル、引きずられる政敏。
 一瞬唖然としていた夜魅も、ロレッカもアリア達も、そして、白花達も。
 みんなの笑い声が響き、政敏は満足そうに目を閉じた。
 その、夢見た幸せな風景。

 パシャ

 思わずカメラのシャッターを切ってしまってから、
「ごめん、皆があんまり良い顔してたから、つい」
 勇はてへ、と謝り。
「ねぇボク達のお茶会の招待を受けてくれない? 美味しいお茶に甘いお菓子で皆と楽しく過ごす時間を、ボクは夜魅ちゃんにあげたいんだ」
 封をされたお茶会の招待状。
「うっうん、いいの?」
 嬉しくてドキドキしながら問う夜魅に、勇は勿論と笑顔で大きく頷き。
「うん! 来てくれたらボクも皆も嬉しいな♪」
「はぁ縲怩「、オレもクッキー焼くから、食べてね♪」
 エディラントも俄然やる気で手を上げ。
「改めてよろしく、でありますよ!」
 そうしてにっこりと笑うロレッカに、夜魅はとびっきりの笑顔で大きく頷いた。


「リーズ!」
「リーズ様」
「……」
 全部終わって、もうスピードで保健室まですっ飛んできた陣達はそこで見た。
「みんな、お帰りなさい……帰ってきてくれて、ありがとう」
 とてもとても嬉しそうなホッとしたような、リーズの満面の笑顔を。
「……という事で、災厄は無事退けられました」
「そう……御苦労さま」
 いつものように御神楽 環菜に報告した陽太は、その表情がいつになく優れない事に気付いた。
「環菜会長?」
「え……? ああ、ごめんなさいね、ちょっと考え事」
 環菜は珍しく躊躇うように、言葉を吐きだした。
「平和を維持する為に力を求める……それは矛盾かしらね?」
「そんな事はないと思いますけど」
 陽太とて争いは好きではない。
 だが、大切なものを守る為には、立ち向かわねばならない時が、どうしても力が必要な時があると、そう知っているから。
 そんな陽太を見やり、環菜は小さく「そうね」と笑み。
「とりあえず、みこ……白花は消滅せずに済んだし、封印も成された、井上陸斗の魔剣の有用性も確かめられたし、今はこれ以上望んだらダメね」
 どこか言い聞かせるように呟いた。


「さて、花壇を直すのは明日以降かな? 流石に皆疲れてるし、それに……折角のハッピーエンドに水を差す訳にはいかないしね」
 仮面ツァンダーの言葉に、雛子はしっかりと頷いた。
 その膝には陸斗。
 さすがにぶっ倒れた陸斗は勿論、雛子に膝枕されているなんて事に多分、気付いてはいないだろう。
「私……園芸部を作ろうと思います。ここを……花壇を守りたいから」
「ああ、頑張れ。ヒーローはいつも、頑張る者達を応援しているぞ」
 仮面ツァンダーの激励を受けた雛子は、ヒーローを見あげてニコと微笑んだ。
「あんたも散々花壇踏み荒らしたんだから、花植え手伝いなさいよ!」
「パ、パラミタ人参でもいいですか……?」
 リリィに命令されたにゃん丸に上目づかいに問われ、雛子と陸斗は顔を見合わせてから、楽しそうに笑った。
「こうして世界は守られました。めでたしめでたし。……続く、ってなりそうで怖いですが」
「随分と弱気じゃのう」
 何とはなしに不吉な事を呟く大地を、阿国はふっと笑い飛ばした。
「命は続き、命が続く限り物語は紡がれる。また危機が訪れれば、また皆で力を合わせ打ち払えばよかろうて」
 舞いで幾多の物語を語り、また幾多の物語に出会ってきた女性はそうして、とても魅惑的に笑んだ。
「物語の締めくくりはやはり、めでたしめでたしじゃよ」
「こんなに大事だとは思わなかったわ……。おねーちゃん、早く帰ろ」
「お疲れ様、はいどうぞ」
 疲労困憊なミリィは真人からお菓子を受け取り、
「これでこのお話はカーテンコール。……次に幕が開く時はきっと、幸せな物語じゃな」
 セシリアは夜魅とそのパートナー達を見つめ、顔をほころばせた。

「そういえば、夜魅」
 あちこちトテトテと行ったり来たりパタパタしていた夜魅を呼びとめ。
 コトノハはふと、イタズラっぽく微笑んだ。
「約束を果たしますね」
「……約束?」
 小首を傾げた夜魅。
 コトノハは人差し指を真っすぐ頭上へと向けた。
 つられた夜魅の目に映ったのは、鮮やかな青。
 どこまでも続く、果てしない青い空だった。
 灰色でも黒でもない。
「これが……空?」
「そうです。これが夜魅が見たいと望んでいた、白花さんが見せたいと願っていた、空です」
 コトノハの声を聞きながら、夜魅は空に向けて精一杯両手を伸ばした。
 空へ……未来へと。

担当マスターより

▼担当マスター

藤崎ゆう

▼マスターコメント

 お待たせいたしました藤崎です、最終回です。
 今回もまた力の入ったアクションばかり、皆さんそれぞれ一生懸命考えてくれたのだなぁ、と思うと感無量でした。
 おかげさまで物語はハッピーエンドを迎えました。
 当初、誰が死んでもおかしくないなぁ、と思っていたNPCも敵役以外はみんな生き残りましたし、この結末を導き出したのは、この物語を作り出したのは皆さんです、お付き合いいただき、本当にありがとうございました。
 皆さまに出会えて藤崎は幸せです!
 とりあえず、年明けにまたシナリオをやらせていただける事になりました。
 もしよろしければまた、顔を見せていただけたら、嬉しいです。
 ではではまた、お会いできる事を願って。