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リアクション
「優子さんの分校の方々も力になって下さいますよ」
ロザリンドが優子を見て、それから皆に微笑んだ。
「分校か。俺もその話、ちょっと耳にしたんだが」
冷静に意見に聞き入っていた蒼空学園の緋山 政敏(ひやま・まさとし)が、声を上げた。
「白百合団の人達を、可能な限り交代で通わせるといいかもな。訓練にもなるだろうし、色々な学校の生徒が顔を出すようだから、他校生の思考や理念の理解にも役立つ。信を置ける人間を見つける事もできるかもな。簡単に言うと訓練を通じて、理解し合いましょうってところか」
政敏としては、百合園生の事を余り知らないので、政敏自身も知りたいと思っていることもあり、また分校の人間を傭兵として白百合団が使えるようになれば情報収集の面でも幅が広がる可能性もある。危険もあるだろうが。
……などとも思っていたが、百合園の生徒会メンバーが何れも非常に真面目そうな人物であるため、内心の発言は控えておくことにした。
「そうだな。特に設立時は、人が集まっていた方がいいだろう。ただ、あまり団員というか百合園生だけが向かうのは好ましくはない。キミも自校の方々に声をかけてもらえると助かる」
「ん。学校に戻ったら話してみるよ」
優子の言葉に、政敏は頷いて百合園に友人のいるパートナーや友人達を思い浮かべていく。
「分校の役員を決められるそうですけれど、役員と一般生徒の権力差以外は所属校などによる差異は作らず、平等であるといいですね。それから……あの組織の情報を始めとする、様々な情報交換の場にできたらいいと思います」
ロザリンドの提案に優子は頷きつつも、周囲を軽く見回し複雑そうな表情を見せる。
「ただ、誤解している者もいるかもしれないんで、一応説明しておくが、分校はあくまでパラ実の……四天王である私が設ける、私個人のパラ実の分校という扱いだ。百合園女学院が積極的に支援することはない。このあたりは情勢次第ではあるが、百合園がパラ実の配下にあるだとか、百合園がパラ実に必要以上に介入していると他校に思われるのは百合園とヴァイシャリー家にとってマイナスになる。万が一その分校で何か大きな問題が起きた際には、四天王の位を捨てて分校を切り捨てるか、百合園が私をパラ実送りにして、縁を切るという手段をとることになる……はずだ」
ちらりと優子がラズィーヤを見ると、ラズィーヤは微笑みを浮かべながらこう言う。
「わたくしは優子さんを信じていますわ」
「では、この場の発言としては相応しくはないのかも知れませんが、皆様にも聞いていただきたいので、ついでということで発言させていただきます」
ロザリンドが断りを入れてから、言葉を続ける。
「私は分校長に白百合団員の崩城亜璃珠さんを、生徒会長に波羅蜜多実業高等学校の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)さんを推薦いたします」
「私も崩城亜璃珠を推薦する……彼女の今までの実績と、実績を築いてきた実力……分校長に相応しい人物だと思う」
アルフレートも分校長に同じ人物、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の名前をあげた。
「生徒会長は発案者の魅世瑠がやってくれるのなら、任せたい。その魅世瑠も亜璃珠を推していたこともあり、分校長を亜璃珠に任せるということについても、適任だとは思う、が」
言葉を切った優子に、ロザリンドは不思議そうな目を向ける。
「最近の戦いにおいて、彼女は作戦の立案や指揮の手助けをしながら、作戦決行時に常に私の傍らにいた。分校長に就任した場合は、彼女は分校生の軍師として采配を振るうことになるだろう。私は白百合団や他校生の部隊の責任者としてヴァイシャリーで指揮をとることになる。つまり多くの場面において、別の隊で行動をすることになる。果たしてそれを望むかどうかは、本人の口から直接聞いてみないことには判断できない。……本人が納得の上、受けるというのなら私に異論はないよ」
キマクとヴァイシャリーはかなりの距離がある。移動方法にもよるが、少なくても日帰りでちょっと様子を見てくるなどということはできはしない。分校予定地とは現在携帯電話も通じない。
分校長に就任した際には分校で過ごすことが増え、優子を傍でサポートすることも難しくなるだろう。
「話を戻させていただきまして、離宮に向かう部隊の指揮を執られるのは、神楽崎優子副団長と考えてよろしいのですね?」
発言者は教導団の制服を来た女性、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
「うん、優子さんにお願いすると思うよ」
親しみを感じている静香の言葉に、ルカルカは淡い笑みを浮かべて頷いた後、真剣な瞳を百合園の生徒会メンバーに向ける。
「今日、自分は教導団の金 鋭峰(じん・るいふぉん)団長に話を通し、許可を得てこの会議に出席させていただいております。皆様と連携して事態を打開したく思います。宜しくお願いします」
「……金団長は何と仰っていました?」
春佳の問いに頷いて、ルカルカは言葉を続ける。
「個人単位ですが、教導団として百合園の力を貸したいという申し出に対し、賛意を示されました。また、そちらから正式な要請があれば、本来なら教導団員の派兵も行いたいところではありますが、戦況的に難しいのはご存知のとおりです。その他、教導団に援助が出来ることがあるようでしたら、協力は可能だと仰っていました」
「ありがと。教導団が助けてくれると聞くと、少し安心するね」
静香がふわりと笑みを見せた。
「まずは、選抜され組織だったチームで調査できたらと思います。随時投入は愚策だから、一旦封印が始まったら迅速さが要求される為、最初の調査で封印に必要な情報を得たい所です。まあ、当り前の話ですけれど」
「そうですね……。これまでの話によると、敵の勢力が未知数であり、地図もアテにはならない。となると、いきなり主力を向かわせるのは愚の骨頂。まず少数の精鋭部隊である程度の脅威を廃除しておくのが望ましいのではないでしょうか」
そう提案をするイルミンスールの出雲 竜牙(いずも・りょうが)の隣に、パートナーのモニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)が警戒しながら腰掛ける。
「異常はないわ」
小さくそれだけ伝える。
独自に警戒をしていたモニカだが、他校生であり教導団員でもない自分達もまた多少警戒をされる側でもあるため、あまり動きすぎると他校生同士の探りあいになってしまいそうだ。
とりあえず、今のところ怪しい動きをする者はいないようであり、武装集団の百合園への接近などの報告もなかった。
「俺は日本古来の諜報、偵察術の訓練を受けていたことがあるんで、偵察員として立候補させてもらう。知りませんか? 『ジャパニーズ・ニンジャ』。裏方仕事なら右に出る者はいませんよ」
にこりと竜牙は笑みを見せる。
「そうですね。魔術的な罠が多く存在するようですし、イルミンスール生の方に動いていただけるととても有難いです」
鈴子の言葉に頷いて、竜牙は提案を続ける。
「偵察員は契約者とそのパートナーで一組とするのが望ましいと思います。片方が内部偵察を行い、もう片方が離宮外で偵察情報の取り纏めを行う。MC−LC間なら電波妨害があったとしても情報のやり取りが出来るので、確実な情報収集が可能になると思います」
「単独行動か。……かなり危険な任務だな」
優子が眉を顰める。
「俺もお2人の意見に賛成です。まず少数精鋭の先行部隊を作りその部隊で安全を確保してから本隊が進むという形を取ったほうが良いと思いますよ、仮に先行部隊が全滅しても人数的被害は最小限に抑えられますし。人的損失としては何とも言えませんけどね」
蒼空学園の樹月 刀真(きづき・とうま)の発言に、静香は困惑の表情を見せ、百合園の生徒会メンバーの表情が厳しくなる。
「そして先行部隊と本隊のメンバーを決めた後にそれぞれの隊で連携等も含めた訓練をしましょう、今回は他校の生徒もいますし白百合団の方達も全員が十分な実力を持っている訳では無いですしね」
そう言葉を続けた刀真に、白百合団団長の鈴子が真直ぐ目を向けた。
「仰るとおり、白百合団は必要に応じて剣を取りますが、武力の部隊ではないため武術訓練の義務もなく、武術的な能力が殆どない者も在籍しています。今回の作戦において、先行部隊の編成には賛成いたします。ですが、百合園は偵察員を犠牲にするような作戦を行なうことはありません。極力先行部隊の安全を考えた作戦の提案をお願いいたします。また、志願者はご自身の命を一番に考え、無理な偵察、調査行為は決して行なわないようご注意下さい。そのような方法をとられると判断した方には偵察をお任せすることはできません」
「随分と甘い考えをお持ちのようですね……。作戦が失敗すれば、より大きな被害を受ける可能性が高いというのに。四天王になられたという副団長の神楽崎優子さん意見も聞いてみたいものです」
刀真が優子に目を向けた。
「……白百合団の活動は志願制だ。同じ任務に携わる者は、同じ志を持った者だと私は判断する。協力を申し出てくれる他校生に対しても同じだ。己が守るべき物を守ろうとするのなら、時に命を賭けることもあるだろう。寧ろ、甘い気持ちで偵察や離宮制圧作戦に名乗り出られては困る。だが、百合園の精神は桜井静香校長の博愛の心の下にある。そして、白百合団の戦いはその尊ぶべき精神を守るための戦いでもある。私の考えは現場での心得であり、白百合団の心得としては、団長の発言が全てだ」
優子の言葉に鋭い眼差しで刀真は軽く息をつく。
「俺は先行部隊に立候補するつもりですが、実力を見てもらう為に、貴女と一対一で剣を競いたいのですが良いですか?」
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