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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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第6章 闇へ踏み出した足

 荒れ果てた荒野の中にある、建物が立ち並んでいる地域。
 廃墟と化している建物も多いその街の、酒場のような建物に少女が2人訪れていた。
 柄の悪い数人の男に囲まれ、武器を突きつけられながら2人――橘 柚子(たちばな・ゆず)と、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は身動きせずに真直ぐ前に立つ男を見据える。
 柚子は一切の表情を表さず。ミルディアは拳を握り締めて決意を固めながら。
「バイトを受けに来た?」
 前に立つ男は、以前会った男とは違う。
「てめぇらのことは、ここのメンバーは良く知っているわけだが。早河綾の仲間じゃないってんなら、まず早河綾を消してもらおうか。話はそれからだな。てめぇらなら綾に近づけるだろ? それが最初の仕事だ」
「……仕事を終えた後の連絡先は?」
 柚子の問いに、男は軽く笑みを浮かべる。
「てめぇらの連絡先は把握している。早河綾の死亡の確認がとれたら、こっちから連絡する。……で、どうせ今日も仲間が着いてきてんだろ? また乗り込まれたら面倒だ。失せろ」
 男がそう言うと、柄の悪い男達が柚子とミルディアをドアの外へと乱暴に押し出した。
 柚子とミルディアは綾に連れられて、この場で組織メンバーと接触をし素顔も見られている。
 百合園を襲った組織のメンバーはツイスダー以外は逃走を果たし、この場所に戻っている。
 故に、2人が組織に信用されることはなかった。
「ミルディア……」
 悲しみの篭った声で、ミルディアを追ってきた和泉 真奈(いずみ・まな)が名を呼び駆け寄った。
「真奈……」
 組織を探るためには、なりふり構っていられないと真正面から接触をしたミルディアだったけれど。
 あの事件で痛手を負ったのは組織側も同様であり、顔の知れている自分が入り込むのは無理そうだった。
 本当に、綾を手にかければ……或いは。
 その他、組織に自分が入り込める手段は、ミルディアには思い浮かばない。
「柚子、さん……」
 気づけば柚子の姿がない。
 一緒に来たわけじゃなかった。
 たまたま一緒になっただけで、声を掛けても、彼女はまともな返事を返してくれなかった。
 彼女もまた、自分と同じような決意を秘めているのだろうか。
「綾、ちゃん」
 ベッドで苦しんでいる友人の姿を思い浮かべ、目を伏せながらミルディアは歩き出す。
(お願い、悪に染まらないで……)
 真奈は後から、祈るような目でミルディアの背を見つめていた。

「ねえ」
 キマクで情報収集に明け暮れていた女が、2人が離れた後、その酒場のような建物に近付いた。
 彼女の後ろには、吸血鬼の従者が1人仕えている。
「裏稼業のバイト募集してたのって、ここのメンバーなんでしょ? あたしは何でもやるわよ。刺激的なことが出来ると聞いて来たの。逆に盗みだとか、運び程度の小さな事はやりたくないわ」
 にっこり、女は微笑んだ。
「舎弟の中潜む侵入者も炙り出してあげられるかもしれないわ。ね?」
 従者に目を向けると、従者の吸血鬼が首を縦に振った。
「ご指示があれば、何でもいたしますわ」
「バイトは締め切った。が、名前と所属、連絡先を聞いておこうか」
 建物の前に立っている男達の言葉に女は少し迷った後こう答えた。
メニエス・レイン(めにえす・れいん)。――鏖殺寺院」
 控えている従者の名は、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)

 裏稼業バイト募集時に応募した者達もパラパラとその酒場風の建物に訪れていた。
 集合場所で配られた名刺状のカードにこの場所の地図が書かれていたのだ。
 帽子を目深に被り、口にマスクをして顔を隠した男が、その建物から出てくる。……集合場所にいた男だ。
 男とすれ違った後、たまたま一緒になった蒼空学園の桐生 ひな(きりゅう・ひな)風祭 隼人(かざまつり・はやと)は、一緒に狭い部屋に通された。
「まずは、名前と所属、連絡先を聞こうか」
「単発の金目当てなんで深入りするつもりはない。名前は適当に呼んでもらって構わない。連絡先は携帯の番号だけで十分だよな」
 隼人は渡された紙に、携帯電話の番号を記した。
「んーと」
 ひなは少し迷った後、こう答える。
「携帯、故障中なんです。連絡用の携帯の支給がないのなら近いうちに自分で用意します」
 携帯電話の番号から、個人情報を探ることは裏ルートなら出来てしまうだろう。自分自身が危険な組織で立ち回る覚悟は出来ているが、地球人であり、家族もいるひなは個人情報を簡単に教えていいものか迷った。
 隼人の方は、仕事用に別の携帯を用意して臨んでいる。
「動機は?」
 組織の男がひなに問う。
「仕事に興味があるからです。汚い仕事もやりますよー。仲間にして下さい」
 だが、ひなは具体的な組織に入り込む手段を考えてはいなかった。
 具体的に組織で何をしたのか、自分の売りの提示も特に考えていなかった。
 組織に入りたいという強い感情はあるのだけれど……。寧ろ組織がどんな組織なのかもよく知らないのだから無理もない。
「見てのとおり、ここにはパラ実の奴等が集まって好きにやってる。あんたも好きに騒いでりゃいいさ。人数が多いんでのし上がらなきゃ中の席は確保できねぇけどな」
 男はそうひなに言い、隼人の携帯電話の番号が書かれた紙を受け取った。
「仕事の指示は携帯で行なう。金目当てなら、殺しが手っ取り早いがリストを見るか?」
「ああ」
 男が隼人に名前や簡単な情報が記されたメモを見せる。
 その紙には要人から賞金首まで色々な人物の名が記されていた。
 名前不明で、人物の特徴だけ記されている人物もいる。
 隼人、そしてひなも横から覗き込み、目を通し幾人か記憶に留める。

ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)(シャンバラ人/ヴァイシャリー/ヴァイシャリー家長女)
神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)(地球人/ヴァイシャリー/百合園女学院寮/生徒会執行部副部長/C級四天王)
アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)(剣の花嫁/ヴァイシャリー/百合園女学院寮/神楽崎のパートナー)
早河 綾(はやかわ あや)(地球人/ヴァイシャリー/病院/監視、警備有)
ルフラ・フルシトス(生死不明/早河のパートナー)
ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)(地球人/パラ実)
クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)(機晶姫/パラ実)

「組織内での賞金首のようなモンだ。死体があがり、殺した証になるようなものを持ってきたら報酬を支払う」
 そう言った後、男はメモを懐にしまった。
「話は以上だ。守銭奴のてめぇのことは、ゴールドと呼ばせてもらう。連絡はこちらからする。当分ここには顔を出すな。女の方は好きに遊んでいく分には構わねぇよ」
 ドアを開けて、出て行くよう男は2人に指示を出した。

 ――数日後。
 隼人の仕事用の携帯電話に組織から連絡が届く。
 密交易の仕事のようだった。任されたのは運びではなく、運びを行なう者と接触し携帯からの指示通りの指示を出すことだ。
 隼人は仕事をそつなくこなし、報酬を電話で指定された場所で当日中に受け取った。

○    ○    ○    ○


「うーん、結構傷跡すごい……おじさん、危ないことしすぎなんじゃない? パートナーの人、心配してるかもよー」
 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)は、療養中の男にヒールをかけた。
「パートナーなんているかよ。邪魔にしかなんねぇ」
 男は皮肉気に言い、椅子にどかっと腰掛けた。
「うーん、あまりキレイじゃないね。今度掃除しよっか?」
 レティシアはきょろきょろと回りを見回す。置物も飾りもない埃っぽい部屋だった。
「動き回るな。ったく悠司。連れてくるんならこんなガキじゃなく、年頃の女を連れて来い」
「すんません。治療のためっすよ。怪我もう大丈夫っすか? 仲間が皆待ってますぜ」
 パラ実の高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、レティシアを連れて、闇稼業バイト募集にてリーダーを務めていた男の見舞いに来ていた。
 組織の拠点から近い廃墟ともいえる家の中の一室で、彼は療養生活を送っていた。
 あの件は、結構な失態なのではないかと悠司は思っていたが、組織での彼の立場は下がるどころか上がったように見えた。
「組織に必要とされてるんすね、リーダー」
「ま、今までは幹部の舎弟にもなれない下っ端だったが、今回体を張った件で少しは認められたってことさ。忠誠を示したってことだ」
 男は体の調子はあまりよくないようだったが、機嫌が良かった。
「襲撃されることも想定の範囲内で、リーダー自身が囮のようなモンだったってことっすかねー」
「あれは、体を張った面接試験のようなもんだな。裏の仕事の募集をあんな風に行なえば、警察気取りの連中がでしゃばってくるもんだ」
「自警団とかウザイっすよねー」
 悠司は相鎚を打っていく。
「広告にはツイスダーさんの名を記してある。ツイスダーさんの舎弟が集まる場所はキマクで聞き込みをすりゃあ誰でも分かる。ツイスダーさんがキマクにいねぇこともな。集まった奴等の情報収集能力、見識力、適正、どんだけ使えそうかを俺のような下っ端を使ってテストしてんのよ。怪しい仕事受けんのに、個人情報オープンでさらけ出すような危機感の無いヤツや、やたらこっちの情報を知りたがるヤツ、力が全てで細けぇこと気にしねぇパラ実生は裏稼業バイトには不要だ。仲間にゃもっといらねぇ。有能な潜入者もだが、無能な味方ほど邪魔なヤツはいねぇ。で、集まった奴等に地図を渡し、奴等のテスト結果を上に報告することが俺の仕事で、俺は完璧に成し遂げたってわけよ」
「なるほど。さすがっすね! んで、幹部の舎弟になられるわけだし、リーダー、俺を雇ってみないっすか? 前にも話したように女連れてくることにかけては自信あるっすよ。ま、以前のような尾行による襲撃を警戒するってんなら、組織の方から相手を指定してくれてもいいっすよ」
 言って、悠司は男の背に回り肩を揉みだす。
「まあ、とりあえず一回チャンスもらえませんかねぇ。適材適所に置いてくれなきゃいくら優秀でも活躍しようがないっすよ」
「適所つーか、あの拠点はもう殆ど機能してねぇんだ。いつでも捨てられるようになってる。3年目にして俺も上からようやくお呼びがかかり、怪我が治ったら別の拠点に異動することになってる。悠司、てめぇも来るか? 結構使えそうだがら、俺のパシリとして使ってやるぜ〜」
 男が豪快な笑い声を上げた。
「喜んでお供しますぜー。リーダー!」
 悠司はへらへら笑いながら、肩揉みを続けるのだった。